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「人々のための科学」の創出を -- 吉川 弘之

P14-15

「人々のための科学」の

創出を―『ネイチャーインタフェイス』誌に期待する―

                   日本学術会議会長 吉川弘之

 現代の科学が直面する大きな課題に「地球環境問題」と南北問題がある。人類が文明を持続させるために、速やかに多様な形で行動を起こさなければならないという認識は、地球規模でコンセンサスを得つつある。政府、企業、大学等はすでに、それぞれの方法で対処を始めているが、地球環境問題は伝統的手法で対処し、解決を図れる問題とは本質が異なっている。

 これまでの科学的知識は、物事を単純化し、純粋化し、条件を整えて仮説の検証を行うことによって進められてきた。

 実験による真偽の検証には、この純化が必要であり、このことは客観化を可能にし、多くの法則、知識を生み出したが、一方で特定の視点をつくり、学問の領域化をも生み出した。この科学の「領域化」が領域を超えた地球環境問題などへの科学的知識の適用を困難にしている。つまり、細分化され専門分野を深く追求する従来型の科学方法では、対処できない広範な問題として現れている。

 地球環境の破壊は、科学的知識をよりどころとして、人間が安全で快適な生活を追及するところに、根本問題が存在する。人類が、自ら生み出した巨大な文明システム、つまりエネルギー・情報・輸送システムと、それらを生み出す製造システムを含めた人工物の複雑なシステムが、地球全体を覆い尽くしており、人類は代償として様々な「地球環境問題」を招いてきた。化学物質の体内蓄積、二酸化炭素の過剰排出による地球温暖化、抗生物質の多用と耐性菌の発生による新しい感染症などである。それらは人間の意識の変革だけでは対応できず、人類の生存基盤をも脅かす問題となっている。

 人類は今、現代の問題の解決に有用な知識を開発する、新たな科学領域を打ち立てる必要に迫られている。その科学領域が既存の分野のどれにも該当しなければ、新分野を創造し実際的な手法を考え、新しい知識体系を確立しなければならないだろう。そのためには有限な世界を有効に活用し、既知の素材で何ができるかを探求する好奇心が重要である。人間も地球の一部であると考え、将来を予測し、分析の方法を確立して理解し、人々に広く伝え、自らの行動を決定していく行動原理を、人類規模で生み出すことが強く求められている。

 第二次世界大戦以前の「科学」は、国家の所有の基に、軍事的な力としての役割が大きかった。第二次世界大戦以降は、「科学のための科学」の時代を経て、現代は利用価値の高まりと共に「人々のための科学」の時代であるといえよう。このことは科学そのものの変化というよりは、社会の変化による結果である。人々は日常生活の豊かさ、安全、健康、生活の質、教育等が科学と深い関係にあることに理解の度合いを深めつつある。さらに科学研究に影響を与える政治的影響をも考慮すべきものとして認識しつつある。その中で、地球環境問題等に対処するには、旧来のように権力としての国家や大資本が恣意的に科学を操り、基本コンセプトをつくって君臨することは許されないし、期待もされてはいない。多くの人々の間での合意こそが、様々な課題を実行する行動を導き出していく。

 「人々のための科学」は、現代文明システムが多機能で複雑な編成であるがために、その運用と維持も複雑化し、多分野にまたがる膨大な知識が要求され、科学的知識の社会的総合を求める。つまり、新しい知識を創出し、課題に対する実現方法を考え、他方でその知識が社会にもたらす影響を分析しながら進む姿勢が求められている。

 今、時代精神は「有限性」「循環」「領域否定」「俯瞰性」である。その意味で、『ネイチャーインタフェイス』誌がITをベースに広範な人々や自然、人工物とのコミュニケーションを実現することは大変意味深い。人間を含めた地球生命体=自然系が、人類がつくり出した巨大化した人工物と対立し始めた現代社会の中で、自然に対するやさしい柔らかなシステムを構築していくための様々な提案、考え方、実践を広く紹介していくメディアとして、従来の「科学のための科学」から「人々のための科学」への流れに貢献する。そして、多くの人々の合意を形成するメディアとなることを期待する。

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