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ネイチャーインタフェイスの世界 -- 板生 清










p19-23

ネイチャーインタフェスの世界

板生 清(東京大学教授・本誌監修)

宇宙、地球も一種の生命体と考えるとすれば、もはや人間は自然に対立する存在ではなく、自然と一体となった「自然系」を構成し、人間が作り出す「人工物系」に対立する構図として描かれる時代を迎えたというべきであろう。

そして、いま巨大化・広域化しつつある人工物を生態系に組み込み、自然系と人工物系の対立する構造を、人間を緩衡体とした調和の構造に変革していくことが求められている。

人工と生命

 西洋の合理主義は、「自然」に対立する「人間」という概念によって、科学技術を飛躍させてきた。すなわち、ビット技術・アトム技術を駆使した高度な技術開発によって、人間に資するヒューマンインタフェイス技術を獲得してきた(図1)。

 ところが、人間が原子爆弾を手に入れ、焼畑農法で緑地を砂漠に変え、森林資源を浪費し、さらにはフロンガスでオゾン層を破壊し、石油を燃やし、炭酸ガスを大量に発生させるという影響力を及ぼすようになると、人間が創る人工物が、無視できない大きな力をもつに至り、自然および人間も含むいわゆる生態系に割り込んできたのである。図2のように人工物が爆発してきて、生命を脅かす存在になってきた。

 人間の叡智が創り出す無数の人工物には、その大きさに着目するだけでも宇宙ステーション、海洋都市、超高層ビル群、大深度地下都市などの巨大建造物から、バイオテクノロジーによる生物分子装置まで、広い帯域に分布している。さらに、目に見えない人工物としてフロンガス、炭酸ガス、亜硫酸ガスなどや、騒音、異臭、有機水銀など産業革命以来公害の源泉物が多数生成されてきた。このような人工物の中で、後者のように目に見えないものが、今、環境破壊の犯人としてヤリ玉に上がっている。人工物が巨大化・広域化するにつれ、人間、あるいは地球を含めた生命体は、自然環境を守ることの大切さに気が付き、拒絶反応を本格化し始めたと見ることもできる。

 宇宙、地球も一種の生命体と考えるとすれば、もはや人間は自然に対立する存在ではなく、自然と一体となった「自然系」を構成し、人間が創り出す「人工物系」に対立する構図として描かれる時代を迎えたと言うべきであろう。人間という生命体を中心にして宇宙・地球・生物・人間そして人工物などの関係を規定する概念をネイチャーインタフェイスと呼ぶ。

自然・人間・人工物の関係

 20世紀後半になって急速に製造されてきた人工物は、人間と自然につぐ第三の極として成長してきた。図3はこれを示す構図であり、三極間の相互作用をインタフェイスとして表現した。これを特に人工物の側から見れば、人工物は人間と自然という環境に囲まれた存在ということもできる。

 20世紀以前では、人工物は相対的に小さい存在であったため、図に示す自然のサークルだけで閉じるのみで、他の二極への影響は極めて小さかった。しかし、これが大きく成長した今世紀においては、外部へ及ぼす影響も無視できなくなり、図に示すようなインタフェイスが大きな意味をもつようになった。つまり人工物がもつマシンインタフェイス、自然がもつネイチャーインタフェイス、人間のヒューマンインタフェイスが研究すべき対象として浮かび上がってきた。

 このような学問分野を、人間・人工環境学と称するなら、今、三つのインタフェイスの科学・技術が、情報通信技術をもって進められるべき状況になってきた。すなわち、自然系と人工物系の対峙する構造から、人間を緩衝体とした調和の構造に変革していくことが必要となってきた。ここに、人間にのみ資する、従来のヒューマンインタフェイス技術から、自然環境保全に資する技術、すなわちネイチャーインタフェイス技術へのパラダイム変換が強く求められている。

センサ情報通信による調和をめざして

 自然の情報をセンサでとらえて、光ファイバで大量高速伝送し、分子メモリなどの巨大記憶システムに貯え、自然の反応によっては必要に応じて、人工物の挙動を制御するという図4のようなシステムができれば、人工物もまた自然界の中に組み入れられて、宇宙、地球、生物、人間、人工物がひとつの調和のとれた生態系を構成することになるであろう。

 ここにマイクロマシンの役割が見えてくる。温度、湿度、匂い、イオン、炭酸ガス等々の濃度分布を動きながら検知する自走マイクロマシン、大量情報を記憶するマイクロデバイス、フィードバック制御系によって強調動作を行う無数のマイクロマシン群などが活躍する場が想定される。我々は、現在の科学技術レベルが、このような理想を実現するには、未熟すぎることを十分承知している。

 しかし、あえて考えたい。

 科学技術抜きには存在し得ない、今の人間の目指すベクトルは、巨大化・広域化しつつある人工物を生態系に組み込むこと、すなわち、人工物と自然が対立する状況を協調の方向へ導くことではなかろうか。未来の自然科学、技術は、そのためにこそ総動員されるべきである。

 マイクロマシンは人工物でありながら、生命体に限りなく近い特性をもち、協調して柔らかいシステム、すなわち「自然」に優しいシステムを構築する上で必要不可欠な役者となろう。

 現在のネットワークシステムは、自然系・人工物系とは全く別の世界に、図5のような形で、人間中心の情報通信システムが構築されている。このシステムでは、膨大な自然の情報はセンシング技術の貧困さといった理由から、わずかな情報しか取り入れることができない。

 これに対して私が提唱しているのは、動物・植物を含めた自然の膨大な情報、人工物からの情報を取り込むことが可能な新しい情報通信システム「センサ通信システム」の構築である(図6)。多様なセンサ群による太い情報入力パイプをもつ情報システムで、自然・人工物の状態を深く、かつ広くモニターできるシステムでもある。このような技術がやがて従来の領域別の科学から俯瞰型の科学へと進展する上での礎となるであろう。

ネイチャーインタフェイスへ向かうウェアラブル

 カラスが都会に出現してゴミを漁る風景は、多くの人が目にするところである。カラスの生息地域が山間部や田園から市街地に移りつつあるといわれている。都会にカラスが多くなった一番の原因は人が出す大量の生ゴミである。それは都会に人間が多く、そのぜいたくな食生活のゆえであり、かつ田園が荒れているからであろう。この事態は、自然環境に対する人間の営みが大きな問題を有していることを、カラスが身をもって警告してくれていると解釈できないであろうか。

 私はこの警告を人間が素直に聞き、その対策を積極的に打つ時がきたと考える。その対策とは現代の情報技術を使い、まずその現象を把握することである。近未来のインターネットの技術と、マイクロマシン技術が融合すれば、非常に小さいセンサの情報発信システムが構築できる。現に私たち東京大学環境情報研究グループは、農学部の野生動物研究グループと共同で、都会のカラスを対象に、小さくしたPHSを装着して、その行動調査の研究に着手した。

 情報通信機器の体積・重量は本質的にはゼロであるべきで、この究極の目的値に向けたマイクロシステム技術が電気、機械、物理、化学の各方面から開発されており、今後もその努力が続いてゆく。一方、コンピュータを人間が操るという従来の路線が続くとともに、これを無人で働かせるといういわばパーベイシブコンピュータ(Pervasive Computer)の世界が拓かれつつある。さらにインターネットはバージョン6(IP.Ver6)に進化して地球上のあらゆるデバイスをネットワークに接続して識別できる時代を迎えた。また近距離無線通信のためのデバイスは1チップにまでマイクロ化する勢いである。このような二つの潮流、すなわちマイクロ化とパーベイシブ化の技術により構成される情報マイクロシステム技術によって、自然・人間・人工物間のインタフェイスを高度化する技術が実現できる。これは要約すると近年のマイクロマシン技術、マイクロセンサ技術、ウェアラブルコンピュータ技術、無線技術、インターネット技術の融合によって可能となってきた。このような新しい端末の概念を「ネイチャーインタフェイサ」と称する。この微小デバイスを野生動物、人間、動く人工物体に装着し、刻々の状態検出情報を認識処理し、ワイヤレスによる制御、および診断を行うことが現実味を帯びてきた。

 コンピュータ端末の形態を分類すると表7に示すように考えられる。従来のコンピュータの端末は人間が操作することが基本であり、キーボードなどによるディジタル入力の指令によってコンピュータを動作させるものであった。このような端末が、LSIやマイクロマシン技術の進歩によって重量・体積ともにマイクロ化し、携帯型が出現するとともに装着可能なウェアラブルへと進化してきた。さらに、コンピュータを操作することを無人化する技術、つまり置かれた環境の中でアナログ的な情報を感知し、これをディジタル量に変換し、さらには自分の持つ知識(データベース)に基づいてこの情報を判読し、判読した結果をコンピュータまたは通信回線と結ばれた別の端末に送信するという技術が進展してきた。

ネイチャーコミュニケーションへ

 先に説明した技術を採り入れるとセンサ通信に適した端末が実現できる。これは人間だけでなく動物や人工物に対しても装着可能で、健康モニタ情報、動物の位置情報、あるいは人工物の劣化情報、地球環境情報などを検知するうえでのキーデバイスとなる。これが「ネイチャーインタフェイサ」(図8)として筆者が提案しているマイクロ情報端末である。そこで、東京大学の中に、ネイチャーインタフェイス・ラボラトリを組織し、多くの自然科学者、医者、教育者、工学者とともに、このような小さなセンサ情報端末、すなわちネイチャーインタフェイサを用いた自然環境情報のきめ細かい把握に乗り出した。

 これは各種の情報をセンサでとらえて、腕時計サイズのコンピュータで認識処理し、無線で発信するデバイスである。このときのキーとなる技術は、センサでとらえた入力情報を意味のある情報か否かを判断して、その採取を続けるかスリープモードに入るかというようなソフト的技術とハード構成技術の両輪によって消費エネルギーを最小にする技術である。このような技術の先達は腕時計にある。これらの技術によって地球上を動き廻る動物の位置と化学物質の同時検出による地球環境情報の検知による環境保全への応用や、歯車や回転軸など、運動する人工物の劣化状態の検知による大事故未然防止などへの応用が可能である。このようにネイチャーインタフェイサという情報端末が微小化すればするほど、応用範囲は飛行機から小鳥までと広がってゆくことが期待される(図9)。三次元位置情報と時刻を合わせた四次元情報および各種の化学物質情報と、温度・湿度などの環境情報を同時にとり込み、理解し、アラームを出す情報端末が実現されれば、コンピュータは人知れず、無人操作で我々の生活を護り、また潤いのあるものにしてくれるはずである。

 今後、ますますコンピュータ通信社会は高度化するが、これを人間の快適さ、便利さのみへの道具とするのではなく、生活環境にも応用することが21世紀の高齢化、環境破壊への対策として焦眉の急となってきた。インターネットとケイタイの融合から近未来にこのようなネイチャーインタフェイスの世界が実現するであろう。図10はその概念図である。

 一九九九年二月に出た米国大統領向け最終報告「二一世紀に向けた情報技術:アメリカの将来の大胆な投資」(大統領直属諮問委員会PITACまとめ)によると、インターネットの第二段階では数十億台あるいは数兆台のデバイスを接続するようになり、コンピュータはセンサや無線モデム、GPS位置情報端末などで「現実世界」とやりとりできるようになり、さらにこれらが単一チップのサイズに縮小され日常使われる物の中に埋め込まれるため、ユーザーはその存在に気が付かないとしている。私が一九九一年から主張してきたネイチャーインタフェイスという概念がついに現実のものとなるべく、米国においても真剣な対応がはじまった。また米国は研究開発に「二一世紀情報技術戦略」として二〇〇〇年一〇月からの会計年度で前年の三六%増の二二六八億ドルを計上した。

 また、日本でも二〇〇〇年三月に電気通信技術審議会が郵政大臣に答申した「情報通信研究開発基本計画」において「ネイチャーインタフェイス」を今後国として取り組むべき重点研究開発プロジェクトとして提示している。その中で今後一〇年に一〇〇億円の資金を投入する必要性があり政府が七〇億円を負担するべきであると述べている。当面は、スーパーインターネットプロジェクトのもとで二〇〇〇年度からわずかながらネイチャーインタフェイス研究のサポートが始まった。

 今後、本誌においてネイチャーインターフェイサの具体的な取り組みについてご紹介していく。

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