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分散型エネルギー社会を実現する -- 赤池 学




p70-74

分散型エネルギー社会を実現する  燃料電池の開発と展望

燃料電池がもたらす最大の成果とは、「エネルギー・デモクラシー社会」の実現。

ユニバーサルデザイン総合研究所所長 赤池学

「燃料電池ハイブリッド」が拓くエネルギーの未来

「復元可能で、持続可能なエネルギーは、自然のバランスを崩すことなく、積極的に活用される。そして、復元不可能なエネルギーは、できるだけその使用が削減され、最も必要とされるところから段階的に利用され、リパワリングを含めて効率的に活用され、持続可能エネルギーへの置き換えが積極的に図られる」

 今、多くの識者たちを交えて、次世代のエネルギー問題が議論されている。しかし、その解答は、実は上述した二文でその求めるべき王道がすべて語り尽くされているのである。

 持続可能なエネルギーとは、言うまでもなく「自然エネルギー」の活用である。化石燃料に代わる代替エネルギーは、風力発電や太陽光発電をはじめ、地熱や波力の利用などすでに数多く登場している。地域の気候特性を活かして分散型の自然エネルギーを活用すれば、化石燃料に頼らない電力供給がかなり実現できるだろう。しかし、自然エネルギーの利用にはまだ課題が多いことも確かだ。最大の難点は、大規模発電には向かないこと、そして現状ではコストの問題もその利用の前に立ちはだかっている。

 一方、日本政府が打ち出した「原子力発電所の約20基の増設」に象徴されるように、持続不可能エネルギーへの依存は、さらなる課題を抱えている。原子力発電には、依然として安全性の問題が見え隠れしており、また発電によって発生する熱の3分の2が廃熱として捨てられるため、周辺環境の生態系に悪影響をもたらす。電熱併送という観点からも、その非効率性は明らかである。

 このように見てみると、自然エネルギーで代替させてしまうという第一のシナリオ、原発増設の推進という第二のシナリオが議論されているが、そのどちらを採用しても現在のエネルギー問題をすべてクリアするものにはならない。つまり今求められているのは、この両者の特性と長所を理解しながら、インテリジェントに組み合わせたエネルギーデザインを行うこと、そしてこのふたつのシナリオに代わる「第三のシナリオ」を模索し、確立することに他ならない。

 そこに登場したのが「燃料電池をベースにした持続可能な分散型エネルギーシステム」である。電解膜を介し、酸素と水素から起電力を得ようという、この発電システムは、CO2などの廃棄物を出さず、バイオマスを含めた多くの材料からフレキシブルに燃料を調達することができ、電解ユニットの数をコントロールすることで、家電用電源、自家発電、そしてインテリジェントビルから地域の分散型発電まで、と幅広い用途活用が可能である。

 そして、最も重要なことは、燃料電池をいわばブリッジとしながら、太陽光発電や風力発電、ゴミ発電やバイオガス発電、ヒートポンプやマイクロコージェネレーションをリンクさせた、様々な組み合わせの「燃料電池ハイブリッド」が、地域の風土、環境に応じた分散型エネルギー社会を呼び寄せるということであろう。

「PEM型燃料電池研究」が未来を拓く

 現在、自動車業界がこぞって開発競争を繰り広げているのが、「プロトン交換膜型(PEM)」と一般に呼ばれる燃料電池である。これは、プラチナ触媒をコーティングした固体の電解質膜と気体透過性をもつ電極から構成され、両側がバイ・ポーラ板で密閉されているといもの。中央の膜は厚さは10分の2〜3ミリのポリマー薄膜で、陽子(水素イオン)だけを透過させる性質がある。陰極では、水素がイオン化して水素イオンが発生し、電子を放出する。一方空気中の酸素は陽極で還元され、陰極からの水素イオンと結合して水となる。この両電極間の電位差によって電流を発生させるのが、燃料電池の基本的なメカニズムである。

 水素と酸素を反応させて発電するこの燃料電池システムは、発電中の排出物は水だけで、同時に高温の排熱も発生させる。現在、ドイツのダイムラー・クライスラー、BMW、日本のトヨタ、ホンダ、マツダなど各陣営が代替エネルギー車の開発を進めている背景には、同システムが持つ低いエミッション性、効率的なコージェレネーション、すなわち電熱併用利用の可能性が潜んでいる。また、従来の電源技術にはタービンなどのメカトロ技術が介在していたが、燃料電池の仕組みは上述したように、バイオケミカルな発電メカニズムである。そのため、環境性が高く、低騒音、低公害の発電システムとしての導入が期待されているのである。

 言うまでもなく、発酵技術、触媒技術の進歩で、水素は様々な原料から製造できるようになった。そして、燃料電池が本格的に自動車に実用化されれば、量産が始まり、精密プレス加工技術の応用などで、急激なコストダウンの可能性が見えてくる。燃料電池が小型化、軽量化し、かつ安価なものになれば、それはビルpの分散電源、家電製品などにも広範な応用が見込まれ、一挙に量産効果を前提とした「規模の利益」を狙える可能性を秘めている。すなわち、このシステムを自動車のみならず、各家庭、地域ごとに設置しようというのが、燃料電池を利用する、究極のコージェネレーションシステムなのである。

事業系燃料電池が家庭用電源に進化する

 燃料電池が日本の温暖化防止エネルギー戦略にとって有利なのは、上述したクリーンさのほかに、日本に必要な、エネルギーの安全保障に適しているという事情がある。エネルギー資源の輸入依存度が高い日本にとって、燃料電池の燃料となる水素やメタノールは、近隣のロシアに無尽蔵にあるといわれる天然ガスから改質製造できること、そして植物をはじめとする多種多様な原料から作り出せることが大きな意味を持つ。

 さらに、燃料電池システムは、基幹エネルギーに成長する可能性も持っている。発電規模を大小柔軟に設定できるため、電力会社が行ってきた地域や企業向けといった大規模発電から、ホテル、病院、家庭電源への利用が見込まれるなど、広い用途に対応できるからだ。

 関西新技術研究所の試算によると、一戸建て住宅へ都市ガス燃料を利用したPEM型燃料電池を導入した場合、設備容量0・3kW、設備単価30万円/kW、ガス単価130円/モ想定すると、年間電力費は約7万3千円安くなる。この節減分で燃料電池導入コストはおよそ3・7年で償却できる計算になる。その際の電力自給率は、59・6%、熱自給率は22・9%にもなる。

 さらに、ホテルや病院など夜間の電力需要があり、給湯の需要が多い施設においてもメリットがある。例えば、床面積2000~のホテルに設備容量15kWのPEM型燃料電池を導入した場合、都市ガス単価が80円/モフ時の導入コスト回収年はおよそ、7・8年である。システム価格が20万円/kW程度になれば、経済性はさらに高まるといえる。

 日本での燃料電池の導入は、現在合計60件、約2万6000kWにすぎない。しかし、すでにその本格導入の気配が各地から聞こえ始めてきた。

 アサヒビールは、愛媛県の四国工場に、200kWのリン酸型の燃料電池発電を導入した。サッポロビールも昨年、同社の千葉工場に同規模の燃料電池を設置している。一昨年導入した嫌気性排水処理設備から発生するメタンガスを利用し、工場使用電力の6%をカバーする計画。投資額は、2億3000万円。しかし、年間3000万円のコスト減効果がある。これは、高い温度を排熱する「リン酸型」と呼ばれる燃料電池で、燃料となる水素は、高温状態で都市ガスに水蒸気を加え、取り出すことができる。

 三洋電機も、同種のPEM型燃料電池を利用した、店舗向け、一般家庭向けのコージェネレーションシステムを実用化した。家庭に供給される天然ガスを利用して自家発電する一方、発生した熱を空調機器や給湯器に二次利用するというものである。民生部門での電力削減を意図し、エアコンなどと組み合わせた小型装置として開発したのだ。

 まず、災害時や工事現場に使う非常用電源として、持ち運びができる小型燃料電池を発売し、同市場に参入した。この技術を、店舗用、家庭用の熱電併給に応用する考えだ。まず、空気中の酸素と天然ガスから取り出した水素により電力を生み出す。発電時に発生する水蒸気による排熱は、空調機器や給湯器の熱源に利用する。エアコンと組み合わせた場合、自家発電した電力でコンプレッサーを回して冷房し、排熱はそのまま暖房に利用することができる。想定する電力出力は、最大で50kWクラスまでで、電気と熱を合わせたエネルギー効率は約70%。一般家庭に供給される電力のエネルギー効率は35%程度である。そのため、こうしたシステムが普及すれば、大幅な省エネルギーが図れることになる。

産官学が推進する燃料電池の開発研究

 分散型発電において燃料電池が家庭への普及や車載可能になるためには、さらなる小型化の開発を避けて通ることはできない。そのためには、燃料電池がその特徴とともに抱える、いくつかの課題を解決しなければならない。

 燃料電池の最大の特徴は、小型で高効率発電が実現できるところにある。一般に、電池の電圧損失は、電流増大とともに大きくなるため、小さな電流で運転したほうが高い効率が得られる。すなわち、大型発電設備をターゲツトにするのではなく、小型・分散型で用いてこそその特徴を活かすことができる。しかし、低温での理論発電効率は高いが、低温では化学反応である電池反応の反応速度は小さく、電解質の電気抵抗も大きい。それゆえ、良好な電極触媒・高い電気伝導性を有する電解質の開発が必要なのだ。

 また、前段で廃熱利用が期待でき、総合エネルギー効率の向上が可能であることに触れたが、PEM型燃料電池の場合、その廃熱は50度程度である。住宅用に実用化するには90度程度の温熱が欲しいところだが、この部分にもハードルがある。

 さらに燃料電池の燃料サイドにも課題がある。水素を用いるためには、当然、燃料供給インフラとエネルギー搭載の難しさが課題となる。また、メタノールから改質する場合も、高い純度が要求され、CO被毒防止を含めた優れた改質技術、小型の改質器開発が不可欠となる。

 一方で燃料電池技術の開発は今、大きな進歩を遂げている。燃料電池の基幹技術である膜技術のみならず、ダイレクト・ドライブモーター、回生ブレーキ、コントローラー、光ファイバー導線など、中小のベンチャーや自動車産業以外のメーカーが蓄えてきた技術が様々な形で必要になる。さらに、一般家庭への普及で採算性がとれるようになれば、量産効果も手伝いコストがますます低減するだろう。

 すでに、PEM型燃料電池のベンチャー企業であるカナダのバラード社は、超小型の燃料電池を使用したポータブル・ラジカセや携帯電話を開発した。災害時のバックアップ電源、ノートパソコン用電源などへの応用も見えている。あるいは将来、超小型の燃料電池が開発された時、その廃棄物が水だけであるという点を利用した心臓のペースメーカーの駆動電源としての応用さえも考えられているのである。

 また、燃料技術についても、圧縮水素を用いた水素貯蔵や、カーボンナノチューブを用いた水素の炭素吸着、水素貯蔵合金などの技術も実用化の兆しを見せ始めた。また、天然ガスからの改質についても、日本のガス事業者は長い実績を持つ天然ガスからの水素製造技術を有している。近い将来、燃料ステーションの天然ガスから、水素製造装置を経て純水素を自動車等へ供給するといった仕組みが、確実に台頭してくるはずである。

 先頃、北海道大学の研究チームが、シクロヘキサンから、水素とベンゼンを低コストで生産する触媒技術を発表した。シクロヘキサンは、水素とベンゼンから作られる常温液体の安定度の高い物質で、こうした扱いやすい水素源を利用する可能性も拓けてきた。今後は、こうしたケミカルハイドライドの利用研究や、触媒技術と合わせた使いやすい燃料電池燃料の開発が業界の大きな課題となるにちがいない。

 さらに将来においては、燃料電池の燃料としてメタノールを積極利用する意味は大きいと言える。現在、メタノールは主として天然ガスから生産されているが、農作物や草類、樹木、海藻といった再生可能なバイオマスから作ることができ、また古紙や廃材といった廃棄物からの回収も可能であるからだ。バイオマスからメタノールを作り出した場合、CO2はその植物が吸収した量がメタノール改質の時に大気中に放出されるだけであるため、完全に循環型エネルギーシステムが実現することになる。

 このようにメタノールを用いるPEM型燃料電池のエネルギーシステムは、もともと資源を持たない国における分散型発電のシステムとして有望であり、バイオマス利用は、同時に持続可能な森林経営がもたらす国土の保全と、そのバイオマスプラントは地域雇用の創出といった社会貢献をすることもできる。

望まれるコミュニティシステムとしての導入研究

 こうしたシナリオを実現するためには、いくつかのステップが必要になると考えられる。

 第一は「燃料電池を核とした分散型発電戦略」である。このエネルギー革命を実現化するためには現在の大量集中型、送電型の発電システムから小型分散型で自立した発電システムに大きく転換しなければならない。まさにマイクロコージェネレーションの可能性、そしてそれをベースとした分散型発電社会を普及させる方策について議論すべき時代を迎えているのだ。

 この問題を建設設備の観点から考えると、燃料電池に先立つマイクロコジェネレーションの住宅への導入研究を積極的に行うことが大きな意味を持つ。小型のガスエンジン、ガスタービンなどの効率性は向上し、「エンジンの回る住宅」も次世代建築のひとつの選択肢であるにちがいない。燃料電池と併せて、こうしたシステムの導入を総合的に検討することが、これからの業界には望まれるということであろう。

 また前段で、PEM型燃料電池の低い廃熱というハードルについて触れたが、燃料電池には個体高分子膜を用いるPEM型以外にも、異なる電解質を用いる別のタイプが存在する。個体酸化物型燃料電池は、作動温度が約1000度と高温であるため、これまで住宅用電源としては注目されてこなかったが、複数戸の住宅に供給するコミュニティ電源として考えるなら、そこには大きな可能性がある。

 建設設備業界が課題とする次世代住宅には、合併型浄化槽、中水道利用システムなど、コミュニティレベルでのシステム技術の導入が多分不可欠となろう。こうした可能性研究の一端に、燃料電池を加えることがこれからの建設政策には必要となるにちがいない。

 第二は「エネルギー・インテリジェント戦略」である。今「ITS(高度道路情報システム)」と呼ばれる、交通のロジスティックスの最適化によって渋滞を緩和するシステムが議論されているが、同様の意味でエネルギーシステムのインテリジェント化、つまり需要と供給の最適化制御が、次世代の地域経営、企業経営、そして建築政策には求められている。必要とされるところに、的確な量のエネルギーを的確に送り込むためのテクノロジーは、効率経営、家計経営の観点からも不可欠である。 分散型発電によって余剰エネルギーが発生した場合、今度はそれをエネルギー供給会社に売ることができる。そのためのエネルギーの最適化ロジスティックスのシステムの確立も必要になるだろう。

 建設設備業界でも、次世代の「情報対応型住宅」が熱く議論されてきた。そこに、既存電源、太陽光発電、そして将来の燃料電池からのエネルギーを効率的に利用し、制御し得る「家庭内エネルギーの情報制御システム」の導入を今から検討していく姿勢が確実に望まれている。

 言うまでもなく次世代は、エネルギーデザインを、こうした情報化の進展と共に形にせざるを得ない時代である。NTTの分析によれば、今のまま情報化が進展すれば、2010年には1990年の約3倍のエネルギー消費を余儀なくされるだろうと予測されている。燃料電池と太陽光発電などをインテリジェントにミックスした事業系の電源開発、電力低消費化をもたらすネットワークの構造改変、そして先進技術を用いた様々な低消費エネルギータイプの電力装置への切り替えを含め、マルチメディア時代を見越したトータルなパワーデザインが、これからの建設設備業界の命運を左右するように思う。

燃料電池がもたらす

「エネルギー・デモクラシー」

 こうしたプロセスを経て導入される、燃料電池を利用したコージェネレーションの充実は、確実に生活者側の利便性にかなった、より多くの選択肢を提供するだろう。店舗やオフィスだけでなく、マンションや一般家庭にまでこうしたシステムが普及すれば、地域や家庭のエネルギー供給は、まさに一変してしまうことになる。現在のエネルギーシステムが変われば、次に住宅が変わる。しかし、店舗などへの普及が始まっているのと逆行して、コージェネレーションの枠を広げ、地域全体に広げた事例は今までのところ極めて少ない。政府の各省庁の法令や規制が複雑に入り組み、その浸透を阻害している面も否めない。

 その一方で、燃料電池社会を進展させる開発投資努力や規制緩和は、温暖化防止に欠かせない国民の省エネ努力に水をさすのではという反論を持たれる方がおられるかもしれない。確かに、エネルギーの供給に安価に、そして利便になれば、利用者の省エネ意欲はそがれ、温暖化防止に逆効果になりかねない。そのことを防ぐためには、市場メカニズムを利用して省エネを促す、「環境税」などの導入を併せて検討することも必要となろう。

 ただ確実に言えることは、燃料電池を利用する分散型の発電社会は、これまでその実像が伝えられてこなかつた、エネルギーそのものの実態を生活者に気づかせることになるということだ。どのくらいの燃料を使っているか。それが一目瞭然となることは、確実にエネルギー自給の意識を高め、自己責任でその利用をコントロールするようになろう。すなわち、燃料電池がもたらす最大の成果とは、「エネルギー・デモクラシー社会」の実現なのである。

 これまでは、コンセントにプラグを刺せば電気が、コンロのスイッチを入れればガスが当たり前のように出てくる。そのことに何ら疑問を持つことなく私たち生活者は暮らしてきた。

 その欺瞞とそれがもたらした罪に気づくことこそ、来たるべき自家発電をベースとした分散型発電社会の最大の成果であると考える。

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