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p109 Cooking 竹内和子 今年の夏、プロのフランス料理シェフと過ごす好機に恵まれた。 日本でトップ3人のお一人、シェ・イノの井上旭氏であった。一人の主婦として思いもかけない出来事であった。友人のご好意とはいえ、何がどう展開していくのやら、検討もつかず、まるで見知らぬ国への旅立ちのようなものとなった。 一週間我が家の台所は、彼の華麗な凄腕にただならぬ空気を察知し、慌てふためく中にも緊張の糸が張り詰めた。 くったくのないその人なつっこい笑顔が厳しい目に突然変貌するのは、材料選びが始まった頃。頭に時々手をやりながら、アシスタントの阿部さんにあべちゃん、これで、ラタトーユにしよう。あとはさー、??わたしの聴力の行き届かないところで、プロの会話が弾む。彼の、頭の中を覗くと、ごまんとあるレシピが目の前の材料ひとつずつと合体して調理されていく。買い物は瞬く間に終了した。その速さ! 買った量は半端ではない。十二人前とはいえ、幼児が六人座れそうな大きな買い物カートがあふれて、押すのが重い。 ポテト、玉ねぎが麻袋いっぱい、トマトが箱いっぱい、なす、レタス類も同様、サーモン半身、鶏肉4羽、牛肉の塊?? ダイナミックな買いっぷりが私をうならせた。さすが、プロ! 正直、こんなに買い込んで本当に一週間で使い切れるかなと不安な私。 驚きはこれから。なんと、その後、ほとんど毎日また買い足しに出ることとなった。台所には、しまいきれない材料が所狭しと、ころがる。まさに、足の踏み場もないほど。 ジャージャーとフライパンで半端でない量の鶏肉がいためられた。私の目が輝いた。いよいよプロの腕前を生で見られる。香ばしいいためた香りが台所のファンをものともせずに部屋中に充満し、更にご近所の方々をもうらやましがらせる結果となっていった。 主婦の私ならとっくにもうやめるのに、と思ってもシェフはまだフライパンを前後に揺り動かしながら、炒める。そして、炒める。いやがおうにも、生唾が出る。どんなソースがかかるのかな? 想像力は果てしなく広がる。 ところが、大鍋が登場し、鶏肉は中へと消えた。あ、そうか、煮込みだ! 水が注がれ、私の期待が高まった。すると、ラタトーユの残りの野菜、切れ端もお鍋に消える。ちょっとおかしい。 鶏肉は以来一度も食卓にのぼらなかった。あんなに時間をかけていためたものは、なんと、スープのだしだった。 見えないところに時間と愛情と技をかけるプロの姿を見た。主婦はここを省くからやはり、しょせん主婦なのだと実感した。 毎日、毎日が天にも昇る幸せな気分であった。野菜、スープ、メインに温野菜。そして、なんと、1週間後すべての材料は台所から消えた! これは魔法! 何処へ、消えたかと振り返ると?? 語るまでもない。多少、冷凍保存もしたが。 材料を知り尽くし、且つ、最も映える姿に変身させ、いただく人の年齢や健康状態までも考慮に入れ、メニューは出来あがっていく。その証拠に、参加したメンバーで恐る恐る計りに乗った。怖がって乗らなかった方々が大半で、勇気ある4人が乗って、全員が体重減少であった。フランス料理漬けで増えないのは信じがたいことであった。ここにもプロの技を見た。 多少、勘、感性、などはあるだろうが、プロの大半は勉強と努力の賜物、プラス人間性と愛情と痛感した。 どの世界でも一流と呼ばれる人々に共通しているものである。 昨今、複雑化した社会で多くの問題が提起されている。どこの場面でも、もし各人がプロになる意識を持っていれば、問題の半分くらいは解決するかもしれない。その最も小さい単位が家庭である。祖父が、祖母が、父が、母が、そして子供たちも。それぞれに与えられた役目において、プロとなりうる。最近、自分が強すぎて自分の立場を忘れている人々が多すぎるように思う。 一人のプロを前に多くのことが学べるのは、この人の働いている背中のせいだろうと思った。なにはともあれ、一流の人との出会いは何歳になっても感動と喜びをもたらしてくれる。
材料 スープストック……200 赤ピーマン……………3個 ゼライス………大さじ3杯 生クリーム…………200 塩、こしょう…………少々
作り方 1スープストックを用意する。 2赤ピーマンは千切りにし、スープの中で柔らかくなるまで煮る。 3ミキサーにかける。 4塩、こしょうをし、味をととのえる。 5ふやかしたゼライスを入れる。 6氷水にあて、とろみを出す。 7生クリームを入れる。 8冷やしていただく。
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