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人類の文明と地球環境は共存しうるのか -- 石 弘之+板生 清

人間の文明と地球環境は共存しうるのか

〜人、企業、国、地域によって要求水準の異なる環境問題のさまざまな様相〜

環境問題は人にとって、企業にとって、国にとって、地域にとって多様な様相を見せている。

人類を含むさまざまな生態を育んできた地球はたった一つ。

しかもその地球が深刻な病苦に悩まされている。それが環境問題だが、『地球環境報告T・U』を著し、世界各国の環境プログラムやプロジェクトに参加してきた石弘之先生に、いま、地球のどこが病んでいるのかを語ってもらった。

東京大学大学院教授・JICA参与

石 弘之氏

聞き手 本誌監修

板生 清

板生 

石先生の書かれた『地球環境報告書U』(岩波新書)を読むと,その中に「自然条件の思い『辺境』までも開発しないと、地球は人類を収容しきれなくなっていたことを物語るものだ。私たちは、これを『環境問題』としてしか理解せず、これら辺境の地に生きてきた先住民が目に付かなかった」という一文が載せられているのですが、人類は辺境すら開発してしまい、20世紀の地球環境は非常に閉塞的な状況になってしまっていることに驚かされます。

そこで、今、先生がなさっている研究テーマから、お話いただけますか。

大きく三つのテーマを研究しています。一つは、東南アジアの森林破壊が、地域社会にどのような影響を及ぼすかという生物多様性喪失の問題です。今、ボルネオ島を中心に、急激にアブラヤシ農園の開発が進んでいて、東南アジア中がアブラヤシの林だらけになっています。このアブラヤシからとった油脂は,植物油でありながら動物油に近いので、日常の食品から石けんなどの工業原料まで使われています。とくに、合成洗剤は「肌や環境に悪い」として追放され、代わりにこの油脂を使った「植物油石けん」が人気を集めています。植物油と違って身体に良いということで、食品には広く使われ、コーヒーに入れるクリームの原料までヤシ油というありさまです。そのプランテーションのすさまじい開発のために熱帯林が急減し、森林に住む少数民族がどんどん追われている状況があるんです。

二つめは、深刻な飢餓に見舞われているアフリカの乾燥地帯での環境破壊の影響についての研究です。これは、10年ほど中断していたのですが、この4月からまたアフリカにわたって研究を再開します。

三つめが、旧東ヨーロッパ諸国が市場経済に移行した事によって、環境がどう変わったかという研究。社会主義時代には、環境破壊はないと豪語していたのですが、鉄のカーテンが上がってみたら、世界でも最も深刻な環境の汚染や破壊が進んでいた事が露呈しました。それをどのように回復させるかという国際的なプロジェクトに関わっています。

それに加え、もうひとつ最近始めた研究が廃棄物の問題ですね。とくに、アジアなどの途上国では、経済が急成長を遂げ、それにつれてゴミが非常に増えてきました。なにしろ、アジアの一人あたりのゴミの量は、毎日ほぼ1.1キロで、日本と変わらなくなってきました。大体、日本などからプラスチックの梱包や容器に入った製品が輸入されているのですが、これらの国にはゴミの収集・処理のシステムがありません。勝手に燃やすので公害が発生し、ダイオキシン汚染が深刻いなってきました。途上国の収蔵するゴミに対して、どのようにシステムを構築していく必要があるかは、非常に大きなテーマになっています。

板生

こうした途上国の廃棄物の問題は、日本から出されるゴミも影響しているわけですか。

そうですね。実は中国や台湾などアジアの産廃は、最近の経済成長で一段と排出量が増えた事がありますが、日本からの輸出もありますね。

日本では、公害防止や産廃の処分費が高くつくために、国外に出しちゃうわけです。自動車のバッテリーも、国内で再生すると鉛汚染を起こしかねない。だから中国などにリサイクルの名目で輸出してしまう。まさに公害輸出ですよ。

板生

どうして、そんな事が起こるのでしょうか。

医療廃棄物を詰めたコンテナ122個が一昨年、フィリピンで発見される事件があったでしょう。この医療廃棄物を国内で処理するとなると1トンあたり20〜30万円はかかるでしょう。しかし、途上国に売ってしまえば,1万円で済んでしまう。

この産廃輸出は、先進国では、例えばヨーロッパはアフリカに,アメリカは中南米に出しているなど、どこでもやっているんですね。その結果,先進国が環境悪化を輸出しているわけです。

板生

70年代初めに石油がなくなるのではないかと心配していた時期がありました。しかし、あれから、30年も経っていますが、現実にはまだなくなっていません。しかし、今地球環境は、もっと病的でひどいものになっているという印象を持つのですが。

もちろん、石油もいつかはなくなるわけですけれど、それよりも、当時問題にもされなかった水、土壌,森林といった再生可能な資源のほうが危なくなっている、というのが、私の持論なんです。そこで、当面は、非再生資源よりも、再生可能資源をどのように保全していくかといった問題に真剣に取り組んでいかなければならないわけです。

結局、こうした地球規模の収奪の被害は,弱い部分にしわ寄せされます。いちばん弱いのは政治的発言がゼロに近いような先住民や少数民族なんですね。アフリカなどでは、そうした場所に先進国が廃棄物を持って押しつける事件がいろいろ発覚しています。

あるいは、米国やロシアやフランスが核実験場にしたのも、文句をあまりいわない先住民の土地だったんです。

板生

かつて“南北問題”などとよくいわれてきましたけど、最近は南の国々の中でも新たな南北問題、つまり“南南問題”が起きるといったように、より複雑になってきていますね。

ええ、確かに途上国の中でも、経済的に落ちこぼれた国々が、特に環境破壊の影響を深刻に破っています。アジアでいうと、カンボジアやラオス、バングラデシュ。アフリカでは、サハラ砂漠以南の国々、それからカリブ海の国などです。

なぜなら、彼らは燃料が買えないので、エネルギー源のほとんどを薪炭に頼るため、森林は丸坊主になる。その結果、水資源が枯渇したり土壌が侵食したりの二次的な影響が発生するんです。

結局、地球は強者と弱者の論理、市場経済の原則が、そのまま環境面でも強者と弱者を作り出し、ます、ます弱者は過酷な状況になっているのです。さらに、国際間だけでなく同じ国内においても、コンピュータを使えるかどうかで、大きく貧富の差を生んでいると思いますね。コンピュータの普及率は所得に比例して高くなる。だから、低所得者ほど不利益を受けるという事も当然、起きているのです。

板生

確かに、資本主義の世界では、もともと強者と弱者が常に存在してきました。そこにコンピュータなどの情報技術が導入されることによって、弱者、強者の関係は、状況としてさらに大きな格差を作り出しているといえるでしょう。もう一つ、見方を変えると情報化によってその現実が曝け出されたともいえます。どちらなのでしょう。

なるほど、それはおもしろいご指摘です。多分、両方の面があるでしょう。コンピュータ技術は、所得格差を広げる状況を作り出したものの、一方で地球環境破壊の現状が見えるようになったわけですから。

つまり、地上で集めたデータをいくらつなぎ合わせても、森林破壊の全体像は見えてこなかった。いかし、70年代末から、人工衛星の情報によって、世界の森林や砂漠化の進行状況、土壌の荒廃ぶりなどが一気に分かるようになり、地球環境の問題を深刻に受け止める事ができるようになったのですから。

板生

ただ、現在ITが発達したことで、例えば魚群探知機や位置情報センサ、無線技術などによって、魚を根こそぎ獲ることだって可能になります。おれはITによる環境破壊にほかなりません。

おっしゃる通りです。昔は、たまたま漁船が、魚の多い瀬を探り当てなければ、たくさんの魚を釣り当てることはできませんでした。ところが、今はGPS(Global Positioning System)を使えば、何度でも小さな瀬にピンポイントで直行できるわけですから、日本近海の瀬では魚がいなくなってきたといわれています。

たとえば、伊豆沖のキンメダイは高性能の魚群探知機の普及でほとんどきえてしまったといわれていますね。

板生

Itの発達は、人間を幸せにしている一方で、環境破壊のスピードを速めているという現実にも目を向けなければならない。弱者をますます弱くしているという点は、研究者個人の環境倫理的な問題にもつながるというわけですね。

無尽蔵に沸いてくるといわれた北海道のタラでさえ、激減してあちこちの海域で漁獲制限がかけられています。その原因も、GSPなどによる探知技術の進歩でしょう。

こうして情報化が環境を悪くするという面は当然あり得るわけです。

板生

まさに、地球環境に対するITの光と陰という感じですね。

遊牧民の家畜の牧草も、これまでは現地の放牧民が、長年の勘だけを頼りに探してきましたが、魚と同じで根こそぎ食べ尽くしてしまうなんてことも起こりえるかもしれません。

板生

狩猟民族も、コンピュータがない時代には、勘が優れていて、狩猟の優れた人がそれなりに力を持つことができたわけですけれど、今はコンピュータとGPSがあれば、誰でも狩猟ができてしまうというわけですね。

板生先生は、渡り鳥に発信機をつけてその移動経路を追跡する研究に関わっておられますが、渡り鳥ですらいともたやすく場所がわかり、狩猟する気になれば簡単に捕ることができる時代に入ったわけです。

今回、情報技術の進歩によって、環境問題が、新たな社会状況を生んでいる点を話していただいた。お忙しい中ありがとうございました。

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