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NI Topics 3) 人間ネイチャーインタフェイス 〜 フィールドの生理学 -- 山本 義春

人間ネイチャーインタフェイス

〜フィールドの生理学〜

東京大学大学院教授 山本 義春 インタヴュー

ヒトは日常的生体を知らない?

我々は、日常生活における自分自身の生理(生体)について、どれだけ認識しているのだろう。

 おそらく、「最近、寝付きが悪い」「どうも疲れやすい」「なんかイライラする」など、なんとなく抽象的なイメージは持っているかもしれない。

 が、これに客観的に解答するのは難しい。つまり、一日のカロリー消費量や睡眠・覚醒の状況など、ほとんどの人間(ヒト)は、自分自身の日常的生体について具体的には把握できていないのが現状であろう。

 ヘルスケアという観点から言えば、我々は職場・学校などでの定期的な健康診断、または人間ドックなどで身体の異常をチェックすることはある。が、これはあくまで院内における、つまり限定された生体モニタリングであって、日常生活という観点から見た生体情報というわけではない。

 しかも、年に一回の検査において数値等に変化があらわれてから、はじめて対策を施すことになるのだ。

客観的な生体情報を把握するために

 日常における、さまざまな生体の客観情報を知ること。つまり、人間を生体システムとして捉え、それが発信する情報を可能な限りセンシングすることにより、生体情報を把握し、それを分析・理解できれば、年一回の診断とは違った、予防対策を施せる可能性がある。

 そんな人間の生体システムのセンシング技術の研究=人間インタフェイスの開発が二十一世紀に入り、急速に進められている。その重要なキーマンと言えるのが、『心拍数の情報論〜フィールドの生理学へ向けて〜』(1998年)を発表した東京大学・教育学博士の山本義春先生である。

 「もともと(運動)生理学の研究をしていたこともありますが、教育学部のスタッフとして子供たちのさまざまな問題を考えるときに、生理学を応用できないかと。ただ、現実には「生理学」を現場に持ち込むのは難しいんですね。生体をモニタリングするためには、どうしても日常ではなく実験室のレベルになってしまう。

唯一可能性があるのは脈拍を計ることくらいかなと。それが研究の出発点、動機なんです。いたってシンプルなんです。

実際に、児童の不登校や学級崩壊と関係する「注意力欠如」の背景の一部には、心理的な問題と言うよりも生理学的な問題があると主張している学者もいますし、ある大学の小児科教授は、不登校の原因の無視できない要因として、睡眠覚醒リズムを考えているようです。

こうなると、よく言われている「心」の問題だけだとは言えない。それでは本当にカラダ=生理学的に問題があるのか?

これも現実には客観的データがない。そのデータをまず集めて分析をしなくてはならないわけです。しかし、そのデータを測定する測定器がなかったわけですね。

 つまり、子供たちの行動と生体の関係を客観的に把握しようとするとき、生体センシングできるウェラブルを作ることからスタートするしかないわけです。

 教育学的問題の把握に応用する前に、ウェラブルセンシング手法の研究から始めようということです。」

人間ネイチャーインタフェイサの活用

 山も教授がここ数年、研究を進めているのは、まさに実験室ではない日常生活における生体信号のモニタリングと、その解析についてだ。例えば、ウェアラブル心拍変動モニタの原型である、生体情報モニタリング装置(LAMD)を使用した心拍変動の研究。

 小型・軽量のモニタで、心拍と活動量を記録し、それを解析する。このことから、つまり心拍変動モニタリングのパーヴェイシヴ化によっても、生体リズム傷害・睡眠障害(ある種の鬱病、睡眠相後退症候群、慢性疲労症候群でしばしば観察される)、心臓突然死に関わる自律神経活動(心拍変動の以上、情動頻脈など)、運動不足による生活習慣病の危険性など、院内検査では知りうることがない生体信号=情報が所得できる可能性があるという。

 「誰でも装着する事が可能。そして、所得できる生体信号は、脈拍数=心拍数、と、体動(アクティグラフ)です。本来なら、呼吸数も情報として所得したいのですがセンサ技術の問題で現実には安定した測定をするのが難しい。 ですから、まずはこの二つから始めようと。また、九十年代頃からアメリカの心理学者のグループが始めているのが、PDAのようなものを利用したアンケート調査です。

 これは、一ヶ月に一回といったアンケートではなく、実際にPDAを装着して一日に数回、ビープ(信号)が鳴ったら、『今の気分はどうですか?』といったアンケートに答えられるというものです。

 つまり、我々が日常環境の中でどんな行動や気分でいるのかを計っていこうと。

 まさに実験室を離れてごく日常の環境=フィールドでモニタリングしようということなのです。

 この手法はエコロジカル・アセスメント(EMA)と呼ばれてます。このEMRも現在少しずつ行っています」。

 心拍数とともに生体信号のセンシングで研究されているのが体の動きである。

 これは、アクティグラフという小型の腕時計タイプのウェアラブルが利用されている。日常の腕運動のモニタから身体活動量を推定することができそれによって多動性の徴候があるとか、朝は起きられず夜は眠れない、といった生活リズムの変調を客観的に判断できる。

 最近では、医療分野で医師が鬱病や慢性疲労症候群の患者に応用したり、また、宇宙探査の分野で火星ミッションのための閉鎖環境実験(閉鎖されたドームの中で長期間生活する)など、体の動きの時系列情報=リズムまたはパターンの分析となる。

 つまり何かしらの症状を持つ患者のその原因の一つは、行動のパターンが異常であって、行動量の異常ではないと言う分析が可能になるのだ。

フィールドの生理学へ向かって

このように、実験的研究が主であった生理学が、人間ネイチャーインタフェイサ=生体情報のモニタリング技術の進化とともに「フィールド・ワーク」としての生理学へと姿を変えようとしている。

 山本教授が言うように「実験室とフィールドでのデータの違いは大きい」という原則が見えてくる。

 そのために、ウェアラブルが必要になってくる。板生教授の主催する東京大学ネイチャーインタフェイス・ラボラトリーに所属して、連携をとった研究を進めている。もちろん、実験室での計測技術と比較すれば、いまだ不十分かもしれないが、大きな一歩を踏み出したことは間違いない。

 山本教授は、今後どのようなプランを描いているのだろうか。

 「今年の夏くらいからトライアルを始めるのが、まずは、さきほど言ったEMAですね。日常生活の中の気分や疲労度などを一度に六回くらいビープが鳴る度にアンケートに答えてもらう。

 これは実際に精神科、心身医学などの臨床現場でやってみる。対象は軽症鬱病や慢性疲労症候群やパニック症候群の患者さんですね。

 そして、そのEMAの機器のスペックにさらにアクティグラフを一緒に積むことも考えています。

 組み合わせれば、かなり興味深いデータがモニタリングできると思っています。で、さらに最終的には、心拍数のモニタを組み入れたい。ここ一、二年で完成させるのが目標です。そしてさまざまなフィールドでモニタした一〇〇〇〜二〇〇〇件ぐらいのデータが、はたして何を語ってくれるのかが一番の関心です。

 もちろん、その膨大な情報をどう解析していくのかもその後の大きな研究課題ではあります。

 教育学という分野では、現在言われている不登校の問題や学級破壊の問題などについて、どうしても心理学的に「心」の問題として捉えているイメージがある。

 が、山本教授は、生理学という観点からアプローチ・研究を進めている。

 そういう意味では、子供たちの行動科学の分野に新しい視点を導入したと言えるかもしれない。

 「教育学部では、実際、物理的=生理学的な問題が背後にあると考えている教育学者は少ないと思います。「心」の問題と考える傾向が強いと思います。

 それでも、極端な言い方をすると、心の問題と思われていた事が、もしかして何かの病原菌のような実体のせいだったということもないとは言えない。

 もし、(物理的)実体が原因だとしたら、カウンセリングなどの対症療法ではなく、根治療法ができるわけです。実際、精神医学の歴史も、そのような道筋をたどりつつあります。ですから、我々としては、教育学を大きな観点から捉えて[心]と[からだ]の[両面を見据えて、両方の側面から研究する必要があると考えています。

 病原菌一個の可能性もあるという前提で、研究を進める。生理学の立場でいうと、そういう方向性も重要な事だと思います」。

Profile

山本義春 Yoshiharu Yamamoto ●教育学博士

1960年東京生まれ。1984年東京大学教育学部卒業、

1990年東京大学大学院教育学研究科博士課程終了

(学位論文:「換気性作業閾値の生理学的意義」)。

2000年8月から東京大学大学院教育学研究科

身体教育学講座教授(教育生理学分野担当)。

ホームページ http://www.p.utokyo.ac.jp/~yamamoto

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