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「美しく安全でいきいきした海岸」を考える -- 磯部 雅彦

美しく安全でいきいきとした海岸を考える

―東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻―

磯部雅彦教授

海岸は実にさまざまな顔を持つ、海と陸と空【大気】の接点だ。言い換えれば気圏、水圏、地圏の三圏が接する境界線で、海岸線は海域と陸域を区分する。また、海水から淡水へ移り変わる場所であり、波、流れ、風などのさまざまな現象が変化する場所でもある。それゆえ海岸は、陸域や海域とは異なる独特の環境を持っている。

日本は島国であるとともに複雑に入り組んだ地形であり、非常に長い海岸線を有している。

総延長は35000キロメートルにもおよび、そのうち約3分のTが自然海岸で、残りは何らかの構造物が設置された海岸である。そして砂浜、クヌギ浜、泥浜は10000キロメートルに満たない。

 また、海岸線を持つ市町村は日本全体の35%だが、約6000万人が住み、工業出荷額が47%、商業販売額は77%(両方とも全国での割合)にのぼる。人口および経済活動が集中する重要な空間である。

以上のことを踏まえて、編集部では東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学研究系長の磯部雅彦教授に「海岸環境」の大切さについてお聞きし、レポートする。

海岸環境の三要素

 海岸には、〈自然・生態〉、〈安全・防災〉、〈開発・利用〉といった三つに区分できる自然的環境、社会的環境がある。以下にこの三区分を整理してみる。

〈自然・生態〉

海岸および周辺の浅海域では、潮の干満や波の働きにより海中に酸素が溶け込み、日光も差しこむことから海洋生物にとって良質な生育環境である。地球規模で見れば面積は少ないが、海洋生物の過半数が生息、繁殖する場でもあるなど生命活動にとってきわめて重要な空間だ。それゆえ魚介類、微生物、底正生物、プランクトン、鳥、海藻、海浜生物、海岸林など、多様な植物群の宝庫でもある。

 海岸域は、岩礁域、砂泥域、干潟、藻場等、それぞれの域に分かれ、このうち岩礁域では藻場が形成され、水産生物の幼稚子の生育場である。干潟は、海に囲まれた日本ではウェットランド(湿地)の代表であり、その働きは気候調整、大気浄化、水域浄化など生物生産にとって重要な位置を占め、自然環境の保全にとってのキーエリアとなっている。また干潟は潮干狩りや釣り場、バードウォッチングなどレクリエーションの場としても有用性をもっている。藻場はその名の通り多種多様な海藻の繁殖の場であり、海の森林として位置付けられている。また、魚介類の生息、産卵場でもあり、海水中の窒素やリンは海藻に取り込まれたり、光合成による酸素供給の機能をもつ重要な空間である。

〈安全・防災〉

海岸域の安全と防災の対策は、そこに多くの人々が居住し、商工業の現場として大きな位置を占めているだけに極めて重要である。その海岸域は高波、高潮、雨風、洪水、地震による津波などの危険につねにさらされ、また海岸侵食、地盤沈下といった問題も抱えている。

 そうした海岸域でのさまざまな災害を背景に、昭和32年に海岸法が制定され、防護・防災の観点でも海岸は見られるようになった。戦前にもさまざまな被災があったが、戦後、昭和28年の伊勢湾台風、昭和35年のチリ地震による津波などが後押しする形で海岸域における防災への取り組みが構築され、港湾を始めとする開発への動機とともに、護岸、堤防の工事にも拍車をかけることとなり、結果として日本の海岸を人工海岸へと変えていくこととなった。

 だが自然と開発への社会的認識が大きく変化する中で、自然海岸増加への声が高まり、1999年の海岸法改正へといたる。現在は防護・環境保全・利用の三つの目的を達する方向で見直されている。

 さらに、もうひとつの問題として、砂浜の問題がある。それは海岸侵食の問題であり、現在、全国平均ではあるが、日本の砂浜は毎年6ぶんの1ずつ後退している。その原因は上流にあるダムの建設などにより、砂の供給量が減ってきているからだ。すなわち波エネルギー吸収体としての砂浜の弱体化であり、高潮からの防御の点では由々しき事態である

〈利用・開発〉

 海岸域を開発・利用の観点から見ると、交通、エネルギー(発電等)、資源、水産業、農業、工業、商業や海洋性のレクリエーションなどさまざまな開発・利用の場として促えられる。なかでも海運交通は浮力利用の商業的交通として古くから利用開発され、船舶の停泊、荷の積み下ろしの場としての港湾開発が水産業の基地としての漁港とともに常時おこなわれてきた。商工業は出荷現場としての利便性から港湾の開発をおこない、また拠点の立地条件としても優れているせいで海岸域で発達した。それとともに発電所が海岸域に立地されることが多いのは、冷却水が容易に確保できるからである。現在は、海洋温度差エネルギー、波エネルギー、潮汐エネルギーなど臨海性のさまざまなエネルギー利用が考えられている。

海岸環境管理の展望

こうして海岸に望まれる姿とは、自然の砂浜がある海岸、災害に対して機能する海岸、商工業やさまざまなレクリエーションの利用がなされる海岸という基本的要求を満たす環境が維持されるものとなる。それぞれの機能は一見、相容れないものと考えられるが、生態、防災、利用の三要素を支える基本的な構造としての環境基盤というべきものを位置付けて考える必要があるだろう。

 だが海岸はさまざまな要因でその地形要素が変わらざるを得ない面をも有している。したがって砂浜は安定的に創造・維持されなければならない。自然・生態面では、砂浜特有の生態系が形成されている。二枚貝を始めとする底生生物が生育し魚類生育の場となり、ウミガメなどの産卵・孵化の場でもあるのだ。防災面では、砂浜が維持される事で波のエネルギーを吸収し高波高潮の破壊力を軽減し、沿岸構造物、居住地を保護する事につながり、また、海浜レクリエーションも活性化するだろう。

 ほかに自然崩壊が進行している基盤にたいし、人工基盤を設置することで藻場の造成をおこない、自然干潟に匹敵するバクテリアの量を確保しながら生物の生息をささえていくことなどが試みられている。いずれにしても、海岸の環境においてはその地形が基本的環境要素であり、海岸の土砂管理をつうじての保全が要となる。つぎに日本の海岸の地形変化に重要な要素である海岸侵食を見てみよう。

日本においての海岸侵食とその対応

旧来、海岸保全の内容は高潮、高波といった災害に対する防護が中心だったが、近年は〈1980年前後から〉護岸堤、人工リーフ、養浜などの対策が盛んになってきている。海岸の侵食が深刻化しつつあることの反映だが、海岸の浸食により年間160ヘクタールもの国土を消失している。このまま進行すれば10年後には新島の面積と同様の2400ヘクタール、25年後には三宅島と同等の4800ヘクタールの海岸が失われる事を意味する。(図T)

 海岸の浸食が加速されている理由には、河川におけるダムの建設、土砂採取、海崖の防護等による海岸への土砂供給量の絶対的不足があげられる。したがって、日本全体の海岸侵食を食い止めるためには、土砂の絶対供給料をふやさなくてはならず、そのために養浜等の対策を講じながら、河川・海岸をつうじた総合的な土砂管理が必要である。山国であり島国でもある日本の地形的特徴は、自然の循環性と人工的手法のバランスを必要とし、生態、防災、利用、三要素の調和を私たちに考えさせているのだ。

考えなくてはならない地球温暖化による海面上昇

最後に、地球温暖化による海面上昇が海岸環境に与える影響も考えなければならない。砂浜の絶対的減少、海面下水没等が大きな災害要因となりえ、その対策と同時に、発生を阻止する地球規模の対応を同時に実行しなければならないだろう。

 こうした沿岸域の環境問題に適正な管理をおこなうためには、沿岸域のモニタリングを推進する必要がある。現在は、沿岸域の外力である波や流れに対してのセンサとして、水圧変動、超音波のドップラー効果、電磁誘導などを利用したものがデータの記憶装置となり同時に高波計、流速計形として使われている。また水質の問題に対しては水温、塩分濃度、溶存酸素濃度、クロロフィルa(植物プランクトン量の指標)等のセンサがある。将来的には、赤潮や青潮を予測するためのセンサの開発が望まれる。基本的に陸地の追跡とは異なる技術開発が必要だが、例えば人間や模型潜水艇などが沿岸域のリアルタイムな環境データを取得できるウェアラブルな情報端末の開発が期待される。

 今回は海岸域の環境基盤の基本的な部分をとりあげたが、次号以降それぞれの問題に対し、外国の取り組みなども紹介しながら深く掘り下げていきたい。

イラストおよび図は「豊かな海辺の創造」(第一法発行 海岸長期ビジョン研究会編集)より

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