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センサによる鯨の生態調査 -- 林 友直

センサによるクジラの生態調査

千葉工業大学教授 林友直

クジラ類の生息数についてはさまざまな議論があるが行動範囲の広いクジラの生態そのものはまだほとんど分かっていないと言ってよい。そんななかで今、小型衛星を用いたクジラの生態調査の計画が研究者たちの注目を集めている。この計画が実現すればクジラの地球規模の回遊ルートや海の中での生態のほか海洋についてのさまざまなデータが得られることになるのだ.H−Uロケットに搭載しての打ち上げが決定されているこのプロジェクトの発案者・中心人物である、林友直教授に聞いた

1977年に、先生たちの制作した鯨生態観測衛星(ADEOS)が、H-UロケットのWDEOS-Uに搭載して打ち上げられる小型衛星の一つに選定されたことで、地球規模の鯨の生態観測が現実味を帯びてきました。どうして鯨の調査をしようと思われたのですか?

大気や電離層を調べるために、毎年何機かずつ観測ロケットを飛ばしていたのですが、装備がだんだん高級になってきて、もったいないから回収しようということになりました。その方法として、当時はまだGPSがなかったので、米軍が開発していたロランCという遠距離航法システムを使ったのですが、船で回収に立ち会う中で、これを人命救助に応用できないかと思ったのです。

遭難地点のブイら、GPSやロランCで緯度・経度を「ひまわり」に伝え、そこから埼玉県鳩山の気象庁気象衛星通信所に送ります。そして遭難地点の最寄の港に救命艇の出航を要請すれば、最短距離で救いに行けるはずだと考えました。このアイデアをいろいろなところで提案したのですが、まだ実現できていません。

そこでほかの用途を考えたのがクジラだったわけです。クジラについては、捕獲・半捕獲の立場がありますが、私たちの調査はまず科学的なデータを得ようという主旨です。

どのような仕組みでクジラを観測するのですか?

観測の仕組みはGPS(衛星利用測位システム)を利用してクジラの位置を調べるもので、図1にあるように、WEOS (Whale Ecology Observation Satellite: 図2) を極軌道に周回させます。一方、クジラにはプローブ(図3)という発信機を取り付けて、クジラの位置や水深その他のデータをメモリに蓄えます

クジラは呼吸のために数分ごとに海面に浮上しますので、その都度データが衛星に送られ、クジラの位置と、水深や温度などのデータが記録されるわけです。衛星に送られたデータは、WEOSが 日本上空を通過するごとに千葉工業大学に設けられた官制局が受信し、そのデータを分析してクジラの生態を知るという仕組みです。

制作に携わった学生さんたちの反応はどうでしたか?

テーマが広い範囲にまたがるものですから、電子、電気、機械、建築、精密機械、工業デザインなどの学生が毎年七〜十人ほどが卒業研究で手伝ってくれます。目的がはっきりしているので張り合いもあり、みんな興味を持ってと取り組んでくれます。

もちろん衛星の組み立ては専門のメーカーの方に頼むのですが、それに至る基礎実験の部分ではいろいろと手を貸してくれます。

今回の制作では、大学が主体となって行うわけですから費用を安くしなければ実現できません。宇宙開発では衛星の部分に高度の信頼性が要求されるので、従来は「信頼性部品」と言って、部品一つでも、どこで誰がどうやってつくったかを追える仕組みになっており,膨大な費用がかかります。ところが家電製品の分野では、どんどん小型、軽量、省電力、廉価化が進んでいるので、その技術を使うことにしたのです

その時,気をつけなければいけないのは、家電部品の品質が保証されているのは地上の1気圧の環境においてだけだということです。

打ち上げの衝撃や振動、宇宙の放射線に耐えられるかはテストをしなければいけませんので、高崎の電子力研究所などによく出掛けて、放射線実験などをしています。

またプローブのテストをするために、水槽をもっている機関に行って水中実験もしました。そのなかにはまだ誰も研究していない多くの事柄があります。

新しい発見もあったのですか?

クジラの生態を日本鯨類研究所の大隈庄清治さんに教えていただいたり、多くの方に協力していただいています。プローブをピンでクジラに留めますが、クジラを傷つけずしかも外れないように、ちょうど脂肪層の厚さだけ入ってとまるようにピンを撃つガス圧の調整が必要です。

そのためにクジラの種類ごとの皮の厚さや性質を調べて、エアガンの圧やピンの目方をどれくらいにすればいいかの基礎データをつくっています。

クジラの皮を手に入れるのはたいへんなのですが、クジラはときどき座礁します。

去年静岡でマッコウクジラが座礁したときも、夜のテレビのニュースを聞き、明日の朝、解体するというのであわてて東京駅に向かい、翌朝の始発の新幹線で行って、皮をもらってきました。

当初、軽いピンを高速で打ち込むのがいいと聞いていたのですが、ピンが跳ね返されたり曲がったりしてさんざんでした。

ある程度重さがなければいけないということが分かってきて、鉄のシャフトをピンの後ろに付けて、刺さると抜け落ちる工夫をしました。

ツチクジラは1000Mくらいは潜るので水圧に耐えるためでしょうか、皮膚が硬いのでピンを刺しにくいと思っていたのですが、少し重くするとわりとスッと入りました。

反対に、ミンククジラの皮膚はフニャフニャしているので簡単かなと思うと、なかなか刺さりません。ミンククジラは100Mくらいしか潜りませんので、水圧に耐えるよりも、敵に襲われたとき食いちぎられないことが大事なのかもしれません。

これはものすごく面白い勉強になりました。昔はクジラを捕ることしか考えていなかったので、皮の質なんて誰も知らないんですね。

そんなことが機械専攻の学生の落下試験で分かってきたのです。ピンは、鴨川シーワールドの鳥羽山昭夫さんのご協力で、バンドウイルカに2ヶ月ほど止めさせてもらい様子を見ましたが、その実験ではうまくいっていました。

この調査でどんなデータが期待されているのでしょうか?

プローブに載せることを考えているセンサは、GPS(経緯度)、水温センサ(海水温)、圧力センサ(潜水深度)、地磁気センサ(鯨の方向)、音圧センサ(鳴き声)などです。

最初から全部載せるかはまだ決めていないのですが、鯨の回遊ルート、潜水深度と温度は、ぜひとりたいと思っています。クジラが何メートル潜るかということについては、あまりデータがないんですよ

また、いずれは鳴き声のデータを得たいと思っています。人間に聞こえない16Hz以下の低周波の音で出している可能性もあり、その信号を調べられたらいいと思うのです。

まだ何もやっていないのに大きなことは言えないのですが、できることならば北半球のいろいろな種類のクジラ、南半球のいろいろな種類のクジラを調べることが夢です。

多くの研究者の方が、シロナガスクジラを調査して欲しいと言うのですが、とりあえず日本の近くにいて数の多いミンククジラあたりから始めるのがよいと思っています。

海自体に関しても、深さに対する温度の関係や塩分濃度など、あまりわかていないことが多いのだそうです。

こうした海の中の様子も垣間みられるかもしれないと期待しています。

とりあえずはどれくらいの個体数の装着しようと考えているのですか?

鯨の研究者の方たちは、一つの郡が他の郡とどう交流しているかなども知りたいので、郡の複数の固体の取り付けたいと言われます。

なるべくたくさんの鯨に発信機がつけられればいいでしょうね。

装着方法について調べているのですが、エンジン音を立てずに手漕ぎボートなどで静かにしていると、向こうから寄って来ることもあるようです。この方法については、元キャッチャーボートの砲手で今は室戸でホエールウォッチングの船を運航している長岡さんという方や、鯨を撮影している写真家の水口博也などにも協力していただく予定です

得られたデータはどのように活用されるのですか?

データが出始めると、いろいろなところから提供の要望が出てくると思うのですが、今は何もあい段階ですので、データが出始めてから皆さんの知恵をお借りして決めていきたいと思っています。

今後はどのようなタイムスケジュールで進むのですか?

今年の11月にロケットが上がる予定だったのですが、ご存知のように不都合が重なって今の予定では来年の冬、2〜3月の予定です

今年の夏、1号機を上げるのですが、その成功いかんでわれわれの衛星の載るロケット(3号機)も上げられることになっています。

とても楽しみな計画で、期待しています。どうもありがとうございました。

(協力=千葉工業大学)

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