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提言 鯨論争は海洋資源問題とどう関わるか -- 松田 裕之

提言

クジラ論争は海洋資源問題とどう関わるか

東京大学 海洋研究所助教授

松田祐之

国際的な反捕鯨の高まりのなか、国際捕鯨委員会(IWC)は82年、調査捕鯨を除いた商業捕鯨の一時凍結(モラトリアム)を決議した。以来、資源量のデータをもとに商業捕鯨再開を主張する捕鯨国(日本など)と、反鯨各国の間で論争が繰り広げられている。2002年、下関でのIWC総会を控えて、クジラをめぐる論議が活発化することが予測されるが、ここでは、クジラ論争をとおして、環境に関する科学的議論についての課題を検討してみよう。

 ミンククジラなどは十分個体数が多く、持続的に利用できることを、捕鯨に反対している大半の欧米人は知らない。

 N・ムロスキー著『タイマイの持続的利用』(英文)によると、米国で八割の回答者が現代になってから絶滅したクジラがあると答えた

 事実は、十七世紀に大西洋コククジラを絶滅させた事はあるが、最近二世紀のうちに絶滅した鯨類はないという。

 また、ミンククジラの個体数が一万頭以下と答えた者が六割もいた。

 別のアンケートで、ミンククジラが世界に百万頭いると説明した後で、改めて米国がミンククジラを食糧として利用することの賛否を問うたところ、約7割が利用する事に賛成したという。彼らは、クジラが減って絶滅の恐れがあると誤解していたから、捕鯨に反対していたことになる。

持続可能な利用に必要なフィードバック

 国際捕鯨委員会(IWC)の科学委員会では、南半球のミンククジラが、1980年代に51万頭から114万頭(点推定値76万等)いたと推定している。

 これは、反捕鯨者の科学者も合意した推定値である。グラフに示したように、捕鯨全体としては商業捕鯨時代の前より減っているが、ミンククジラは捕獲全面禁止以降、増えているとも言われる。

 乱獲を招かないように、さまざまな不確実性を考慮してIWC科学委員会が合意した控えめな捕獲量は、毎年2000頭である。

 この値は、今後の個体数推定値をもとに継続的に見直す事になっている。これを改定管理方式という。このような監視と捕獲域のフィードバックを行えば、不確実な生態系を持続的に利用することができる。

 フィードバック制御は、不確実で非定常な陸と海の生態系を管理するときの基本的な考え方となっている。

 クジラが長寿で自然増加率が低い事を考慮しても、数十万等に対して2000頭というのは、他の漁業なら考えられないほど控えめである。

 すべての漁業をこれほど控えめに行っていたら、人類の食糧は賄えないだろう。

 商業捕鯨に反対する環境団体などのおもな主張は、生息頭数の推定値が不確実だから、予防措置をとるべきであるというものである。

 おそらくこれは反対するための口実で、本音は別のところにあるのかもしれない。いずれにしても、未だに絶対安全か否かが争点となっているが、環境科学物質でも、危険性をゼロにすることはできないということが、なかなか理解されない。

 政府も危険性が残っている事を曖昧にし、原発などで安全性ばかりを強調する。21世紀の合意形成に欠かせないことは、どの程度の危険性が存在するかを羞恥したうえで合意を図るリスクコミュニケーションである。

 危険性が残されていることではなく、過小評価されているかが問題。

 いま、北海道などではニホンジカが増えている。このシカを放置すると生態を破壊する恐れが高く、すでに数十億円の農林業被害を引き起こしている。これは緊急事態である。

 しかし、エゾシカの個体数はミンククジラに劣らず不確かである。数が半減するまで緊急減少措置をとるとしているが、シカが残っている限り被害はゼロにはできない。

 ある環境団体は、被害をゼロにできなければ何のために管理をするのかと批判している。

 エゾシカの個体数管理も、フィードバック管理に基づき、個体数を継続的に監視し、半減したら捕獲数を制限することになっている。

 ミナマグロなどでは、資源量の不確実性を考慮しているが、毎年同じ量ずつ獲り続けると仮定して、1世紀後に資源が枯渇する危険性を評価している。実際の資源がかなり多ければ資源が雪ダルマ式に増える半面、資源がかなり少なければ枯渇する危険性はかなり高い。

 これは管理の仕方がおかしいのである。個体数を監視し続け、資源の増減に応じて漁獲量を調節すれば、枯渇する危険性はずっと少なくなる。

 本当に資源が減ったときにどう調節するかをあらかじめ決めておくことが肝心である。

クジラ論争をめぐる裏側

捕獲をめぐる対立の背後には、先に述べたクジラの現状への認識不足と、価値観と習慣の違いがある。それだけではなく、経済的利害と外交戦略が絡んでいる。

 米本昌平著『地球問題とは何か』(岩波新書、1994年)によれば、地球環境問題はあたかも東西対立の驚異を埋めるかのように、世界の外交問題の道具になった

 国境を越えた酸性雨問題に悩んでいた欧州とは異なり、米ソが冷戦終しと機を一にして地球温暖化防止条約などに注目し始めたのは、肥大した軍産複合体を支える財政的口実と無縁ではなかったという。

 この本では、地球温暖化問題を取り上げた科学者たちが、新聞記事などでの発言に比べて原著論文ではずっと控えめに主張している事をなまなましく紹介している。

 地球温暖化問題がいかに科学的証拠が不十分なままに外交の駆け引きの肴にされたかを、余すところ泣く明らかにしている

 捕獲問題の背後にも、政治や利権が絡んでいるという。梅崎義人著『動物保護運動の虚像−その源流と真の狙い』(成山堂書店、2000年)によれば、もともと、マッコウクジラの脳油は一級品の潤滑油として、他に代えがたいものであった。

 石油資本が石油を原料にしたそれに劣る代替品を開発すると、クジラは邪魔者になった。

 その機に乗じて、石油資本が反捕鯨の米国世論を一気に巻き起こしたという。

 最近の捕鯨をめぐる科学的研究は、笠松不二男著『クジラの生態』(恒星社厚生閣

2000年)にていねいに説明されている。

 捕鯨をめぐる議論はしばしば不信感をあらわにした、非難めいた議論になってしまうが、この本はそのような論争を忘れさせ、IWCをめぐる地道で国際的なクジラ研究の実態を実感させてくれる。ぜひご一読されることを勧める。

 この本にも説明されている通り、近年、クジラの摂食量が世界の漁獲量よりはるかに多いことがわかってきた。

その大半はオキアミと、マイワシやカタクチイワシなどの浮魚類、中深層に住むイカ類である。私見によれば、現在北太平洋ミンククジラが大量に食べる日本近海のカタクチイワシは、ほとんど漁獲されていない。

 したがって、ミンククジラと人類が、カタクチイワシをめぐって争っているわけではない。

 これは、まだまだ人間が利用していない海の水産資源が豊富にあることを逆説的に物語る。

 過半数の魚種が乱獲されていると言われるが、問題は種数ではなく、海から持続的に利用できる再生産量である。

 国際食糧農業機構の見解とは異なるが、私は、まだまだ世界の漁獲量は増産できると思う。

 ただし、人間がクジラと同じくらい海の資源を獲れば、生態系に与える影響はより大きくなるだろう。海鳥と競合すれば、島や陸上の生態系にも波及するだろう。

クジラをとおして資源管理のモデルづくりを

現代に絶滅した鯨がいないとはいえ、たしかに捕鯨は乱獲の歴史であった。

 列強の植民地作りと同じで、日本は捕鯨の新参者であり、最後まで捕鯨にこだわる国となった。ただし、欧米人が最高360万バレルの鯨油を取っていたのに対し、日本人はおもに鯨肉を貴重な蛋白源として利用していた

 クジラは管理すれば持続的に獲り続けることができる。

 政府が勧める理不尽な開発に反対しても、数の多いミナミマグロやミンククジラを絶滅危惧種に指定する保護団体に反対しないのでは、科学的に公正とはいえない

 私が捕鯨にこだわる最大の理由はそこにある。

 第二の理由は、鯨の管理を実行すれば、他の魚種の管理も実行できるという期待である。率直に言って、私たちがサバを守れと唱えても、なかなか実現しない。

 科学者の提言を管理政策に反映するうえで、業界と保護団体の両者が注目するクジラは絶好の研究課題である。

 クジラの管理の成功に期待している。

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