NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.02 の目次 > P056-059 [English]

カリフォルニア電力危機と地球環境問題 -- 久保 幸夫

カリフォルニア電力危機と地球環境問題

久保 幸夫

カリフォルニアの電力危機は、とりあえず、州政府の介入によって危機状況を脱することはできた。しかし、依然として電力供給不足は続いており、3月に入ってからもロサンゼルス、サンディエゴなど南部でも計画停電が実施されている。これは、産業に影響を与えているだけでなく、交通信号が消えたり、エレベータに閉じ込められたりするなど、市民生活にも影響を与えている。

 これを契機として、電力小売価格は上昇することになり、カリフォルニア州民はもはや安価な電力の恩恵には肖れなくなった。短期的にも問題を残している。カリフォルニアの停電を防ぐため、コロンビア川水力発電所では、ダムの貯水量を下げて発電を行った。

 ところが、今年はラニーニャ(反エルニーニョ)現象により、カスケード、ロッキー両山脈における積雪が少ないため、雪解けによる貯水量増加が期待できず、夏の電力消費ピーク時に危機が再来する可能性もあるという説も出ている。

電力再編成

カリフォルニアの電力危機の直接的な原因は、「異性緩和」の割る例であると報道されている。しかし、これは規制緩和ではなかったという意見が強い。

 エネルギー・コンサルタントのメタ・グループのジェームズ・スパイアーは「規制緩和よりは業界の再編成と呼ぶほうが適切であろう。規制緩和は、電力やガスの製造、輸送、配給に関して政府によるいかなる規制をも撤廃することだが、再編成は、部分的に規制の一部を取り除くことだ」と説明する。

 リーゾン財団のジョージ・パサンチーオ氏は、「市場原理での価格形成、料金自由化、新規市場参入などと言った観点からみた場合、カリフォルニアでは新しい規制を作ったのであって規制緩和ではない」という見解を述べている。

 カリフォルニアでは、1996年の電力再編成以前は、発電、送電、配電は電力会社によって一貫して行われてきた。電力小売価格は州政府によって規制されてきた。

 96年の再編成では、従来の雌雄の電力会社は解体され、電力会社が所有していた発電所は発電業者に、送電システムは送電会社(ISO)に売却されることになった。電力の卸売市場である「カリフォルニア電力取引所(PX)」が創設され、電力小売業者は入札で電力を買うシステムとなった。従来の電力会社は配電会社となったが、配電会社は電気の小売で利潤を得るのではなく、配電手数料が収入であるとされた。この一方、公営電量にはこれが適用されず、発電所を所有する事は許された。公営電力は余剰電力を取引所で売り、また不足分をかうことが許された。

 再編成により、従来、雌雄の電力会社と契約していた消費者は、配電会社経由で電力を購入する以外に、他の電力小売会社と契約して電力を買う事も可能になった。

 この場合、消費者は電気代を電気小売業者に、配電手数料を配電会社に払うことになる。

この電力の小売価格に関しては、上限値が設けられたが、卸売価格には上限が設けられなかった。なお、ロサアンゼルスやサンディエゴなど大都市では、公営電力が市場を握っているが、この場合、契約者は他の小売電力会社からの購入はできない。この意味では再編成は不完全なものであった。

 卸売電力の取引所での購入は長期契約に基づくものと、株などと同様、リアルタイムでの取引がある。

 今回の電力危機の原因となったパシフィック・ガス電力社(PGE)と南カリフォルニア・エジソン社(SCE)では、長期契約分は3〜4%と低かった。

 この市場原理の導入は、電力の卸売価格を引き下げるはずであった。

カリフォルニアの電力需要

 アメリカの電力小売価格は日本の半分以下であるが、この安い理由の一つには原料コストがある。アメリカ西海岸においては、コロンビア川、コロラド川などの水力発電による安価な電力が、政府によって生産され販売されている。これは、カリフォルニア電力消費の四分の一をまかなっている。さらに1960年代においては、ユタ、ワイオミング、ニュー・メキシコなどにおいて、新規露天掘り炭田が開発され、ユニット・トレインとよばれる高能率の鉄道輸送システムと相まって安価な電力生産コストを可能とした。

 この石炭火力に関しては、公害の発生と言う批判があり、1980年代以降、新設火力の多くは天然ガスを原料とするようになった。現在では、カリフォルニア州内の火力発電所のほとんどは天然ガスを原料としている。州外に立地している石炭火力からの買電は行われている。

 カリフォルニア州における厳しい環境規制と、住民運動などの影響で、新規発電所を州内に立地することは困難となった。この結果、州内ではこの10年間

新規発電所は建設されなかったため、1996年から1999年の間の供給可能量は

2%しか増加していない。この一方、ハイテク産業の立地に伴い、電力消費は伸びてきた。1996年から1999年の間の消費増は14%に達する。ある推計によれば、インターネットが消費する電力は全需要の8%に達するという。この一方、安く抑えられた小売価格は、需要家の節電意識を妨げることになった。

 さらに、配電会社は、将来的に発電所を売却することを義務付けられたため、所有する発電所のメンテナンスの手を抜いた。このことは、発電所の稼働率を下げる結果となった。需要が伸び、生産が増えないという事態により、カリフォルニアは消費電力の25%を州外から購入するということになった。現在、州内に発電所4ヶ所が建設中であり、また、計画中のものが一つあるがこれは当面の需給アンバランス解消には役立たない。

 さらにこれに追い打ちをかけたのは、ラニーニャの影響で西海岸の降水が減少したことである。2月から1月までの3ヶ月、シェラネヴァダ、カスケードの両山脈では著しく降水量が減少した。これに伴い、コロンビア川、コロラド川にある政府灌漑局の発電所は通常年の80%まで発電量が減少した。

電力卸売価格の高騰

 電力業界の再編成を行い、発電業者の新規参入が行われれば、電力コストは下がるはずであった。しかし、実際には電力の卸売価格は上昇した。この原因はいくつかある。

 一つは、生産コストの上昇である。OPECの石油減産などによる昨年以降の石油価格の高騰は、エネルギーコスト全体を押し上げる形となった。発電に用いられる天然ガスは、排気ガスがクリーンであるという理由から自動車にも利用されている。

 最近では、地球温暖化対策として、二酸化炭素発生量が少ないエネルギー源として天然ガスへの転換が進みつつある。天然ガスの市場価格はこのような背景で、急速に上昇した。

 もう一つが、リアルタイムの入札である。市場原理の導入によって、発電コストの上昇と需給の緊迫にしたがって、電力卸売価格は上昇した

 電力需要がピークとなる正午には、1Kwhあたり27セントまで上昇し、規制されている小売価格をはるかに上回ることになった。なお、この図では、一段料金は6・5セント、二段料金は13セントとなっているが、小売会社によって差がある。実際には、これに配線コストが加算されるので、利用者が支払う料金はもっと高くなる。SCEを利用していた我が家の例では、302Kwhまでの一段料金は12009セント、それを超えた分の二段料金は14157セントだった。

 このプロセスを通じて、高騰で儲けた企業があることも問題となっている。公営電力では価格が安い国有発電所の電力を買い取り、それを引取所で数倍の価格で転売すると言った事が行われた。また、市営、国営の発電所も電力を取引所で売り大きな利益を得た。この利益は、ロサンゼルス市水道電気局だけで2000万ドル(約24億円)にものぼるという。

危機の到来と緊急対応

 このような需給のアンバランスと、卸売価格と小売価格の逆ザヤにより、配電会社は大きな損失をこうむることになった。配電会社は24〜30%の値上げを望んだが、州が認めたのは90日間に限り、7〜15%の値上げを認めるというものだった。この結果、発電会社に対する債務が履行できなくなることが確実になった時点で、買電が困難になり供給できないという事態に陥った。

 1月19日に、送電が一部地域に対して停止され、ブラックアウトが発生した。この後も計画停電が現在まで行われている。最初のブラックアウトの直後、カリフォルニア州は緊急財務支援を配電会社に行い、これに伴い発電会社に対して電力の配電会社への販売を要請した。さらに、州は再編成計画が失敗であることを認め、州自体が電力事業に参入して電力売買を行うことにした。

 さらに、3月27日には、40%の値上げを民間2社に認めた。この目的は、倒産を防ぐことのほか、利用者の節税意識を高めることにあるという。しかし、4月に入ってSCEは会社更生法の申請を行い、実質的な破産状態にあった。

将来

 現時点での危機を救うために、政府所管の発電所はカリフォルニアに送電を行っている。先述したように、シェラネヴァダ、カスケード、ロッキーの各山脈に降雪が少ないために、このオペレーションは、夏の電力需要期に発電できないと言う問題を引き起こしかねない。さらに、本来は雨季である冬に放水してしまうことは、夏の渇水を意味し、カリフォルニア中部の農業地帯で灌漑水が不足する可能性があるレタス、オレンジ、ワインなどの生産に影響を与える心配がある。

 長期的にはどうなるであろうか?

 確実なことは、再編成のプランが変更となることだ。配電会社が発電所を持つことは認められるであろうし、送電事業や取引所の見直しがおこなわれるであろう。また、価格に関しても見直されるだろう。さらに長期的には、いくつかのシナリオがある。住民の意識が変わり、発電所の新設、増設に対する抵抗が減り、また、発電専業者が進出して需給バランスが改善されるという見方がある。

 次のシナリオとしては、景気後退で需要が減り、バランスされるという見方もある。電力料金が安いワシントン州や、規制緩和が成功して電力料金値下げが著しいペンシルベニア州にくらべると、1・5倍〜2倍の料金を利用者は支払う事になる。この結果、企業離れが起きる可能性もある。また、他のシナリオとしては、価格は将来的に大きな低下がないので、代替エネルギーの競争力が強まり、供給が増えるというものもある。たしかに、クリーンエネルギーとして風力発電は飛躍的な増大をみせている。非化石燃料発電への政策的な支援(電力事業者の買殿義務)などに伴い、すでにロッキー麓においては、農業生産よりもウインド・ファームによる発電のほうが収益が上がる地域も出現しており、農地からの転換すら起きている。化石地下水であるオララガ帯水層に依存してきた乾燥地農業は、地下水量の減少とともに耕作が困難となっており、このような転換は促進されるかもしれない。

節電とDSM

カリフォルニアの電力危機の背景には、安い電気コストが節電意識を引き起こさなかったことがある。安定した電力提供のためには、電力消費を抑えることと、平準化が急務になっている。とくに、ピーク消費を抑えることは、新規施設への資本投下を抑えるだけでなく、既存施設の有効利用が図れ、発電コスト削減の決め手となる。すでに、電力業界では、電力消費を減らすための方策を採りつつあり、家庭内での電力消費を減らすためのガイダンスなどに乗り出している。具体的には、リアルタイムで電力消費状態を金額として消費者に知らせること。建物の断熱強化、待機電力削減、無駄な照明のカット、エアコン温度設定などで電力消費を減少させることがあげられている。また、ピーク電力の押さえ込みにおいては、ディマンド。サイド・マネージメント(DSM)手法の導入(ピーク時料金/夜間料金など)のほか、ヒートアイランドの緩和などがあげられている。

電力のつぎには?

 カリフォルニアの電力危機は政策的な失敗が原因だったと言う意見が支配的ではあるが、一方、エネルギーや水資源の大量消費で支えられえてきたカリフォルニアの体質そのものが問題であるという考えも強い。

 多くのアナリストやダム管理者は今年の夏の問題を気にしている。もし、今年の夏に大規模なブラックアウトと水不足が生じた場合、どうなるのであろうか。もちろん、日本のわれわれにとっても、この問題は対岸の火事ではない。この数年、夏の需要期には需給量がぎりぎりにまで達しているし水資源に対しても地球温暖化の影響などもあり事態は深刻になりつつあるのだから。

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/06/25