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[NI巻頭インタビュー] 自然界と情報技術のはざまで -- 石井 威望+板生 清





自然界と情報技術のはざまで

急速な技術革新とグローバリズムの浸透のなか、日本の産業・社会構造、暮らしは大きく変  

 わろうとしている。

とりわけ携帯電話の爆発的な普及と、iモードをはじめとする端末利用の多様化は、通信機器の可能性を広げ、ウェアラブル・コンピュータなど、さらなる技術展開のイメージも示し 

 てくれた。

情報通信にはどのような可能性があり、私たちの暮らし、人間の在り方にどのような影響を

 与えるのだろうか?

先端技術と社会のかかわりに詳しい石井威望氏に、情報技術の現状と、石井流$謦[技術と

 のポジティヴなかかわり方を聞いた。

いしい・たけもち

一九三〇年、大阪市生まれ。東京大学医学部、同工学部機械工学科卒業。同大学院博士課程修了。通産省勤務を経て、六四年東京大学工学部助教授、七三年教授。現在、東京大学名誉教授、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。ロボット社会論、未来社会論などに独創的な主張を展開。国土審議会会長、郵政審議会会長、臨時教育審議会、産業構造審議会、IT戦略会議等の委員を歴任。

東京大学名誉教授

石井威望氏

板生 先生は最近ファッションのこともなさっておられるんですね。

石井 ええ。先日も青山で、私も関わるウェアラブル・コンピュータのファッション・ショーがありました。最近はこの分野でプロのデザイナーが育ってきまして、その人達の作品を集めて開いたのです。

  特に今、繊維の素材をナノグラムのレベルで物質をコントロールして作れるようになって来ています。薄膜技術の白鳥世明さん(慶應義塾大学助教授)などが産業界と協力して研究していますが、有機ELの薄膜を縫い込んだ服などもありました。今までは薄膜層が波打ってしまったのですが、ナノグラムで自分自身でくっついて行く重さを利用してコントロールすると、非常に薄くてきれいなレイヤーができる。

  時代は、こうしたナノテクノロジーを使ったウェアラブルの方向へ来ていると思います。

板生 いろいろな素材にまで踏み込んできていますね。

石井 こうした先端分野は、日本の産業の新しい可能性の一つです。ユニクロの例のように、従来の繊維産業ではアジアに対抗できない。

人と通信技術の融合が自然に近いセンサーを可能にする

板生 iモードが広がって情報通信が新たな局面に入っていますが、先生はこれからのIT技術にどのような可能性を見ていらっしゃいますか?

石井 今、毎週丸の内で「丸の内シティキャンパス(MCC)」という、企業人対象の講座を開いています。僕が担当しているのは先端技術の講座ですが、一回目は先ほどのナノテクの白鳥さん、昨日あった二回目はバーチャルリアリティの廣田光一さん(東京大学先端科学技術研究センター助教授)と、毎回講師が変わり、私は司会役で出ています。

  そこでiモードを使って講師と受講者のインタラクティヴな試みをおこなっています。

  十数名の講座の参加者は大体一流企業の三〇代の人たちです。かなりハイレベルで意欲もあるのですが、テーマが毎回変わり、しかも第一線の人が話しますので、全部理解できる人はまずいない。そこで、今話されていることを何パーセントが理解しているか、iモードを使って尋ねるのです。講義中に「どうですか」と聞くと、「理解してます」とか「全然だめです」とか3〜4種類くらいの答えを、簡単にクリックするだけで答えられるようにしました。内部ではこの方式をi|feelと呼んでいるのですが、理解度によって、もう少し説明するといったことができます。また答えの中には「眠い」というのもあるのですが(笑)、「疲れてきたのでコーヒーブレイクにしましょうか」と聞いてみて、例えば六〇パーセントを超えたらお茶にするなどしています。

  この間は、エアコンの調子が悪かったので、温度について聞いたんです。そうすると、十三人中何人が、今の温度環境に対して暑いと感じているかといったデータが採れる。今までのセンサーは、例えば二三度が平均的に皆にいいはずだと設定していましたけど、特定の集団に二三度がいいかわからないのです。

  薬がこれと同じで、今までの薬は一般的に、何パーセントの人には効くけど、あなたに効くかどうかはやってみないとわからないのです。

  何℃の室温設定という従来の方法は、ある意味でネイチャーインタフェイスではなかったんですね。MCCでは、室内環境や講義の理解度など、総合的な状況を知るためのセンサーとして、人間をまるごと使ったわけです。こうしたことがiモードという通信系が出来て可能になってきました。

板生 個々のものを数量に分解して考えるのではなく、最終的、結論的なものをセンサーにするわけですね。

石井 それと、iモードなどを使うことで、講義をする側も状況に合わせて内容のプログラムを変えるようになります。講義の前に「このテーマについてあなたは知っていますか」と尋ねるのですが、専門家が多ければ非常に専門的なことを、あまり専門家がいなければわかりやすくします。講師の方とは事前に相談して複数のシラバスをつくってもらうのです。

  今までですと人間の品質管理をしまして、この学年、学歴ならこれを教えればいいと考えてきたのですが、ここでは社会人教育のバラツキがあり、マルチシナリオでプログラムがどんどん変わるようになっていくのです。

  この手法は、子供たちが参加する「子どもマルチメディア・探検」で実験済みでした。お台場などに行って活動しているときに、iモードで「今、面白い?」と聞き、帰ってきた答えを野外活動のプログラムに即時反映させていくのです。小学校三年生に、終わってから紙を渡してアンケートをしても、もう忘れていますよね。ところがリアルタイムだと、イエスかノーか押すだけですから、三〇人の子供の、誰と誰と誰が楽しんでいるかがわかる。

  お台場の例のように、モバイルはフットワークとネットワークが一体の、私の造語で「ネフットワーク」になるとさらに威力を発揮します。フィールドでの行動は、自然のなかで生きる動物と同じで、複雑ですが、今まではその複雑な要素を分解してセンサーを作って行くやり方でしたけど、それをひっくるめてとってしまい、フィードバックするのが本来のネイチャーインタフェイスなんです。ここに来て、人と機械と両方を使う、新しいフェーズに入ったのかなと思います。

人間は本来マルチタスク

板生 授業で紙を配って感想を書いてもらったりしますが、それをリアルタイムでできるわけですね。

石井 以前はチャットを使ったこともあるのです。例えばナノテクノロジーというキーワードを言うと、「ナノテクってなに?」なんてやり取りをしていたのですが、その作業に集中してしまって講義が中断するので長続きしませんでした。これは一つのことに専念する「シングルタスク」の状態ですが、メールで入ってきますと中断しないで「マルチタスク」に物事を進行させることができます。

板生 「ながら族」ではないですけど、いろいろなことをマルチでどんどんやっていく。

石井 私は人間って本来マルチだったと思うのです。それがチャップリンの「モダンタイムス」のように、産業社会で分業システムが必要になり、無理に一つだけ使うようになった。学校教育でもこの時間はこれと決めてやるので、みんなシングルタスクを信じ込んでいる。

  私がマルチタスクをやっている理由は簡単で、やると出来てしまうからです。今の子供たちは、最初からそこに入るので、何とも思っていません。これは異分野統合の問題も同じで、私は医学部を出てから工学部に入りましたので、必ずどちらですかと聞かれる。でも今ならゲノムとITを一緒にやるのは当たり前ですよね。

  最近、国会中に議員が携帯電話でメールを打っています。これを使えば、例えば投票の直前までネゴシエーションできる。ネットワークにより、全体の状況を見ながら直前にパッと変えることも可能です。ここで起こっているのは、人間と通信の相互依存関係なのです。

板生 リアルな行動とヴァーチャルなネットワークが補完関係になる。

石井 そうです。ですから、今は携帯で右手がふさがっていますが、これがウェアラブルに進むとさらに常時両手を使い、状況が分かりながら行動することが可能になっていくでしょう。

  現実とヴァーチャルを非常に峻別する議論がありますが、両者は補完的なものだと思います。例えばカーナビゲーションは、道路状況や周辺地図などのようなバーチャルな情報ですが、必ず現実の運転を必要とするし、情報がリアルなドライブに還ってきます。

利用者がつくりあげる技術

板生 情報技術がより物事の本性を伝達できるようになる可能性があることも踏まえて、これからの、国民生活でどういうサービスがありうると考えられますか?

石井 私が自分で新しい技術を使うのは、次のサービスを探るためでもあります。

  今、毎日ネットバンキングをしているんです。秘書が買ってくれた昼飯の何百円かを、秘書の口座に振りこむだけなのですが、厳重な暗号などがあって、実に面倒なんですよ。毎日やっているとできるのですが、先日ゴールデンウィークの間休んだら分からなくなっていた(笑)。使っていると、制作者は本当に自分たちがやってるんだろうかと思いますね。でもその不便だという感情の蓄積が、必要なものを考えつく。その悩みが飯の種です(笑)。悩まないで、多分こうだろうという推測や、自分が外側にいて開発する人は、非常に甘い素人的傾向になると思います。

板生 動物などの調査でも、現実にやってみるとうまくいかないことがたくさんありますね。

石井 反対に、技術が完成するまでは使わないという人や、マイナス面を強調する人たちもいます。しかし、今みたいに技術がドラスティックに変わる複雑系の時代には、予測ができません。シミュレーションしても、たくさんの可能性のなかのどれが起こるかわからない。そういうとき、とりあえずやってみようかというのは、実は効率のよいやり方なのです。逆に言うと、効率よく失敗するということです。完成品になってから、ハッピーに使おうという考え方自体が非常にバーチャルな世界にいる発想だと私には思えます。

  もちろん企業は、これさえあればと言うセールストークで市場に出すのですが、そこは消費者が淘汰しないといけない。

板生 メニューがたくさん出てくれば、それなりに応じたサービスが選択できる。

石井 選択というより、自分で使い方を考え出すんです。

  モバイルができて紙の手帳を持たなくなるかというと、全然そんなことはありません。ただ、モバイルがなかったときとできてからと使い方が変わるのです。それはテレビができてもラジオはなくならないのと同じで、よりマルチになっていきます。

do somethingを産み出す

板生 ウェアラブルの応用として、例えば人間そのものにセンサーをつけて、人間のからだの状態と、外から受ける刺激を両方合わせ、人間に快適な空間を作るなどといったことを構想しているのですが、人間がそうした技術をどう使うかという問題があると思います。

石井 その場合、人間が何もしなくて済むdo nothingになってしまうのは、まずいと思うのです。

板生 何もしないくらい自動化していいのかという問題ですね。

石井 やはりdo somethingでないといけない。かつて工学の目的はdo nothingだったのです。ところが、その問題点が出てきた。

  somethingを作り出すというのは難しいんです。もっとポジティブに何をするのかを考えることですから。じゃあどういうsomethingがいいのかと言われると、状況に応じるのですが、ただ動機が重要なカギになると思います。若い人に比べて、高齢者の場合新しい技術を覚える動機付けが少ない。しかし、インターネットで孫の写真が見たいとか、そういうのはやるんです。

技術革新に必要なフロンティア

板生 技術の大きな変革期にいるわけですが、先端技術に携わる人たちにどのようなことを期待していらっしゃいますか?

石井 今起こっていることは、ネイチャーインタフェイスにしろ、荒っぽい世界だと思うんです。これからいろいろ不都合や犯罪などいっぱい起こりますよ(笑)。汽車ができた頃など、ブレーキを作らないで走らせているんですからね。事故が起こらないはずがない(笑)。ブレーキが付いた後も、信号がなくて衝突が起こる。信号を作っても事故が起こる。それは色弱がわからなかったのです。そんなのがいっぱいあります。そういうふうに、人間の智恵というのは完璧じゃないんですね。その辺は謙虚であるべきです。

  ただ、にもかかわらずチャレンジしたい。失敗から学んで行くというのが大事だと思います。

  そういう中で、大事なのはWho、人だと思います。本田宗一郎さんは「石井さん、乗り物を作るときは、絶対ブレーキから発想しないとダメだよ」と言われたのですが、本田さんは暴走族の”元祖?“みたいに体中傷だらけなのです。試作したオートバイで死にかけてる。そういう人が言うと値打ちありますよね。井深大(ソニー創業者)さんからも失敗談はずいぶん聞かせてもらいました。

  2人に共通なのは、少年のような好奇心。場合によっては、物理法則を無視したようなこともやる(笑)。Whoだけではだめだけど、それで制度に魂を入れるいい人材がカギになると思いますね。

板生 今日はどうもありがとうございました。

聞き手 本誌監修

板生 清

昨年夏におこなわれた「子どもマルチメディア探検」の3日目のプログラム「こちらモバイル編集局」。子どもたちのグループは、iモードの端末やデジタルカメラを手にお台場周辺をめぐり、編集局からの指令に応えたり、webで情報を検索したり、他のグループと通信をしたりする。

「子どもマルチメディア探検」で開かれたウェアラブル・コンピュータのファッションショーのために、ミシンなどを使って携帯端末を身につける衣服をつくった。(写真提供=2点とも、国立オリンピック記念青少年総合センター)

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