NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.03 の目次 > P45-49 [English]

[特別企画] 人類初のウエアラブル機器として腕時計進化の究極を見つめる技術者達のDNA -- セイコーインスツルメンツ










セイコーインスツルメンツ株式会社(SII)

人類初のウェアラブル機器として

腕時計進化の究極を見つめる技術者たちのDNA

SEIKO パーペチュアルカレンダー&サーミックに見る2つのテクノロジー

 どんな時代、どんな技術レベルを背景としていたとしても、時計(腕時計)は最先端の科学技術を融合させた計測機器でした。そこに、精密機械工学、金属工学からはじまり、計測と制御、電子&電気工学、エネルギー工学、そして情報技術など、さまざまな先端技術を取り入れて、常に時代の最先端をカタチにしてきました。またそこには技術者たちの「進化の追求」ともいうべき夢も込められています。このことは「日進月歩」と形容される現代の科学技術環境の変化においても確実に受け継がれ、腕時計というウェアラブル機器のR&Dを担当する技術者たちの宿命のようなものになっているといっても言い過ぎではないでしょう。

 セイコーインスツルメンツ(SII)は、

Wearable:腕時計に代表される、身につけるさまざまなエレクトロニクス機器を扱う分野。

Industrial Systems:半導体を中心とする製造業の開発、生産、検査などキープロセスをサポートする分野。

Network Compornents:携帯電話をはじめ、携帯情報端末やネットワーク機器に使われる電子部品のビジネス分野。

e-Solutions:eビジネスで必要とされるコンテンツ、端末、ネットワークサービスのトタールソリューション分野。

 以上、その頭文字をとって「WINS」と名付けられるさまざまな分野で新しい価値観を提案し、創造し続けている企業です。そして、その技術進化のルーツともいえるのは、ウェアラブル機器としての「腕時計製造(R&Dを含む)」によって培われた確かなノウハウなのです。

 今回は、そんなSIIのマザー・テクノロジーというべき「腕時計」に焦点を当てるとともに、二つの最先端技術を紹介したいと思います。

サーミック(500台限定生産で現在は販売完了)

マイクロ超音波モータを用いた

セイコー・パーペチュアルカレンダー

二一〇〇年までのフルオートカレンダー機能搭載

 現代の腕時計、そこには発電機構を含む電源部と、発振回路、制御回路、駆動回路、マイクロモータ、微小伝達機構、マイクロセンサ、表示素子など、マイクロメカニズムの構成要素が高密度に集積されています。セイコー・パーペチュアルカレンダーは、二一〇〇年まで修正不要のオートカレンダー、年間誤差が二〇秒以下、一〇年間の電池寿命(女性用は五年)という、まさに二一世紀のスタンダードを目指した腕時計です。このカレンダーの駆動源として、SIIが研究・開発したマイクロ超音波モータが搭載されています。超音波モータの腕時計に対する応用例として先駆的役割を果たしている機種といえるでしょう。

 超音波モータとは圧電素子の弾性振動を駆動源とするモータのことで、20KHz(一秒間に二万回)以上振動する超音波領域の共振現象を利用して駆動を行います。これは一九八一年に発表された純国産の技術です。一般的に使用されている磁気回路を用いた電磁モータとは駆動原理がまったく異なり、磁気の影響を受けない、小型で高トルク、応答性が高い、微小送りが可能、静止トルクが大きいなど、数々の特長を持ちます。そのため各種産業領域で多彩な研究と、実用化のための具体的な開発が進められています。著名なところでは、カメラのオートフォーカス駆動源としての利用がありますが、ロールカーテンの駆動や強力な磁気を取り扱う医療用のMRI(磁気共鳴画像診断装置)など、多方面で利用されています。

 時計に代表されるマイクロメカニズムの駆動源としても超音波モータは大きな可能性を持っています。しかし、その小型化にはモータ自体の小型化に加えて駆動回路の小型化という大きな課題がありました。超音波モータには、一方向に動いていく波の運動を駆動源とする「進行波方式」と、同じところで上下運動する波を駆動源とする「定在波方式」の二つがあります。進行波方式は正逆回転の切替が容易ですが、二相駆動(二つの信号を重ね合わせて駆動すること)が不可欠で電圧も高く駆動回路も複雑です。一方、定在波方式は単相による駆動が可能ですが、従来は一方向にしか駆動できませんでした。その他にも、駆動に用いる共振周波数が電圧や温度、加工のバラツキなどによって微妙に変動するため、それらを補正する複雑な制御回路が必要であったりと、超音波モータを小型で精密な腕時計に搭載するにはクリアすべき数々の課題を抱えていました。

独自技術で実現した世界最小の超音波モータ

 SIIの技術開発部門では一九九〇年より超音波モータの可能性に着目し、自社技術とするために数々の具体的アクションを起こしました。そして、そのなかで出現した数々の問題点を一つ一つクリア。一九九四年には、従来は困難とされていた定在波方式(単相駆動)の正逆回転を可能とする(図2)とともに、構造が簡単な自励式の発振回路(図3)を用い、量産性に富んだ超小型のモータ(図1)を実現することに成功しました。特に腕時計での使用を前提とする場合、コイン型電池を使用できるよう1.5V〜3Vという低い電圧で駆動させなければなりません。そのためには駆動源となる圧電素子を薄くすることが必要で、従来500μほどの厚さがあったものを80μにまで薄くすることに成功し、低電圧駆動を実現しました。一九九六年、まず直径8mmのマイクロ超音波モータを搭載したアラーム付腕時計が量産化されました。さらに一九九八年には量産レベルでは世界最小の直径4.5mm 、厚さ2.5mmのモータ(写真1)が開発されました。このマイクロ超音波モータは一秒間に六三万回の振動を用い、2.5V印加時に、無負荷回転数1500rpm 、起動トルク0.2gf・cm、駆動電流12mAという特性を正逆回転の双方で実現しています。このモータは二一〇〇年までのフルオートカレンダー機能を持つ「パーペチュアルカレンダー」に搭載されました。そしてこれらのマイクロ超音波モータの開発に対して、一九九七年度精密工学会技術賞、一九九八年度機械振興協会賞が授与されました。かねてより腕時計をはじめとするウェラブル機器の新たな可能性を開拓する超小型モータの実用化に取り組んできたSIIの技術のひとつの集大成といえるでしょう。

 以上レポートしてきた通り、実用的なマイクロ超音波モータが開発され、腕時計への搭載および商品化が実現しました。従来の電磁型モータでは難しいとされてきた小型・薄型構造と高出力化が可能なマイクロ超音波モータは、今後、医療用、ウェアラブル機器、光通信デバイスなどへの応用が期待されています。腕時計にかかわる開発からスタートしたマイクロ超音波モータはいま、より小型で高性能なマイクロメカニズムやウェアラブル機器の実現に大きく寄与するものとして熱い視線が寄せられています。

写真 1 φ4.5mmのマイクロ超音波モータ外観

図 1 マイクロ超音波モータの基本構造(断面)

図 2  振動体の変位とロータの移動方向。

駆動信号を加える電極パターンを選択するだけで、正逆転の切替ができる。

図 3 自励式の駆動回路。

コルピッツ発振回路の水晶の代わりにモータの圧電素子を利用したシンプルな構成。

写真 2 φ4.5mmのマイクロ超音波モータを用いて光量を調整する、小型で高分解能(0.1db単位で可変)な光通信用可変アッテネータ。2001年3月アメリカで開催されたOFC(Optical Fiber Communication Conference)に参考出品された。

体温で動く セイコー・サーミック

実用化レベルでは世界最小の熱電変換素子を搭載

 光、運動、熱などの外部からのエネルギーをきわめて効率よく取り込むことはウェアラブル機器としての腕時計(機械時計もクォーツも)開発の、いわば伝統的技術となっています。かつては機械式の自動巻き腕時計として、それ以後は太陽電池や腕の動きの運動エネルギーでローターを回転させる電磁誘導式などで、確実に実用化、商品化が進んでいます。これらの開発&商品化の流れの中で取り残されてしまったものに「ゼーベック効果による熱発電(図4)」という外部エネルギー利用のジャンルがあります。熱電変換素子の小型化というクリアすべき大きなハードルがあったことがその主な要因でした。SIIでも一九七〇年代から基礎研究を進めていましたが、九〇年代中ほどから本格研究に着手し、一九九四年にはビスマス|テルル系熱電材料を用いた超小型熱電変換素子の開発に成功。一九九八年には腕からの熱(体温)を利用した発電で腕時計を駆動する「熱発電時計」セイコー・サーミックの開発と商品化を行いました。

 この熱発電腕時計は「光を当てる」「腕を動かす」といった外からの必要条件にかかわりなく、単純に「腕に付ける」という腕時計としての基本的条件を前提としている、究極の腕時計といえるものです。

実用レベルでは世界最小の熱電変換素子の開発に成功

 図Bに示しているのは熱発電腕時計の構造です。熱電変換素子に温度差を効果的につける手段として、腕からの熱を効率的に受ける裏蓋を高温端として、ここからの熱を効率的に放出するために時計ケースを低温端としています。これによって、高温端と低温端に常時一〜三度の温度差を取ることができています。開発に当たって留意したことは、クォーツ式の腕時計が平均1.5V-1 程度の消費電力で駆動するので、熱電時計には、温度差一〜三度で 1.5 以上の出力で腕時計の中に納まる大きさの熱電変換素子を開発する必要があるということです。一般的に熱電変換素子はエレメントあたり一度の温度差で200 の電圧を発生します。単純に考えれば温度差1度で1.5Vを得るためには七五〇〇本ものエレメントを直列につなぐ必要があります。そのための加工や信頼性の確保には非常な困難が伴うことが推測されました。

 これに対してSIIのチームはICによる昇圧という方法を採用し、素子内のエレメント本数を極力少なくすることにより、熱電変換素子開発の負担を軽くしました。とはいっても小さいスペースのなかで約一〇〇〇本ものエレメントをつなぐことが必要です。熱電素材は非常にもろい材料で加工がしにくく、従来は一本1mmの太さはありました。腕時計に内蔵するにはそのエレメントを、太さ80 、長さ600 にする必要があります。そして、2mm ×2mmの二枚の基板の間で熱電エレメントが直列に一〇四本つながれている超小型熱電変換素子(写真3)を開発し、さらに一〇個直列に接続する熱電変換素子の仕様が決定され、これに耐衝撃性を持たせてユニット化(写真4)して腕時計に搭載しました。もちろんこの大きさは実用化レベルでの熱電エレメントを有するπ型熱電変換素子としては世界最小のものになっています。

高度技術の集大成として他領域開拓にも大きな可能性

  図6に示しているのは、世界初の体温で動く熱発電ウォッチ「サーミック」のシステム概要です。システムは、熱電変換素子、昇圧充電および制御用IC、チタン系リチウムイオン二次電池(電圧1.5V)、さらに時計ムーブ回路と四個のモーターから構成されています。もちろん、ここには、今回開発された超小型熱電変換素子だけでなく、数々の最先端技術の要素が搭載されています。そして、超小型熱電変換素子を用いたサーミックの関連技術は、その独創性、新規性が高く評価され一九九九年に日本金属学会より技術開発賞を受賞するとともに、米国スミソニアン博物館に保管されるなど、国内外で高い評価を得ました。

 今後は、熱発電腕時計を他の腕時計と同様に普及させるための製造コストの軽減が大きな課題となることはいうまでもありません。これには、LSIなどの電子部品と同様、熱電変換素子のさらなる小型化、高密度化、高機能化が大きなポイントとなります。また、時計以外の応用分野の開拓、例えば冷却素子としての優れた機能を生かした半導体レーザー等のチップ状電子部品への適応などにも大きな可能性をはらんでいます。

●  ●  ●

 人間にとって初めてのウェアラブル機器である腕時計は機械式からクオーツへと発展し、アナログ式だけでも毎年九億を超える数が生産されています。その約七五%が日本のメーカーで作られ世界中の人々の腕で時を刻んでいます。完成の域に達していると思われている腕時計ですが、エンジニアたちの夢の実現により進化はなおも続いています。時計が起点になった技術は、その小型性、省エネルギー性、ユニーク性により、時計だけに留まることなく二一世紀のウェアラブルやマイクロメカニズムの分野へと多方面で活躍していくでしょう。

図 4 ゼーベック効果概念図

2種類の金属や半導体の接合部に温度差をつけると電位差を生じる。

図 5 熱発電腕時計の概念図。腕からの熱を効果的に受ける裏蓋(高温端)と、熱を効率的に逃がす時計ケース(低温端)の仕組みがよくわかる。

写真3 サーミックに使用した熱電素子の走査型電子顕微鏡写真(この素子の中に80×80×600μmのエレメントが一〇四本入っている)

写真4 腕時計用熱電ユニット(この上に金属のふたが取りつけられ腕時計の中に納められる)

図 6 熱発電腕時計 セイコー・サーミックのシステム概要

岸 松雄

SIIアールディーセンター応用開発部

応用開発一グループ課長

SIIの基盤技術を研究するセクションで金属や熱電材料を担当。「スミソニアンで館長さん直々に館内を案内してもらいました。」という経歴の持ち主。

山中崇史

W機器事業部 WD部

腕時計の応用技術を担当。「マイクロ超音波モータはアクチュエータとしての利用も期待されてます。」と将来の製品利用に夢を描く。

春日政雄

開発総括部 開発戦略部長

腕時計を源泉とした要素技術開発に長くたずさわる。「精密工学会の山登りコンテストでは、超音波モータを使ったロボットで3連勝しました。」とにこやかに笑う。今春からWINの会の理事も務める。

45 Nature Interface July 2001

Nature Interface July 2001 46

47 Nature Interface July 2001

Nature Interface July 2001 48

49 Nature Interface July 2001

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/06/24