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巨大空間「船」が求めるウエアラブルシステム -- 大和 裕幸






写真は上下とも三菱重工業株式会社長崎造船所、上は香焼(こやぎ)工場、下は本工場

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巨大空間「船」が求める

ウェアラブルシステム

現在の巨大船舶は、東京タワー(333m)を横倒しにした長さ、高さは40m、幅も大きなものは60m超。居住の構造物で言えば団地の大きさだから、驚くべき巨大空間だ。この巨大空間としての「船」はウェアラブルコンピュータによる制御が必要とされ、造船から航行までの在り方を変革させつつある。巨大空間「船」が求めるウェアラブルシステムを東京大学の大和裕幸教授にお聞きし、レポートする。

船という空間

 現在、コンピュータや表示器の高性能化、小型・軽量化が著しいが、それにより身に着けて使うコンピュータ=Aつまりウェアラブルコンピュータの実用化が期待されている。眼鏡やベルトのように、人間が違和感なく装着できるウェアラブルコンピュータ。その主な用途は、装着者に情報を示すことであるが、これを産業の現場に導入することで、作業や管理が効率よくできるようになると考えられている。

 工場などにおいて、作業員はそれぞれの持ち場で仕事をする。彼らが通信情報つきのウェアラブルコンピュータを身に着けると、作業員1人1人がオンライン化されることになる。管理する側にとっても効率がよければ、作業員にとっても、作業現場にいたままで、つまり、そのたびごとに事務所に戻ることなく、複雑な書類を閲覧したり、点検項目をチェックしたり、作業指示を受けたりすることができるようになるわけだ。

 今回は、海運造船および操船の現場での、ウェアラブルコンピュータの利用について考えてみたい。それにはまず、船という空間、それから、造船場という空間がどういうものであるかを説明しておく必要があるだろう。

 ここでいう船とは、タンカーや豪華客船など、遠洋航海のための大型船のことである。巨大な船というと、まず、タイタニック号を思い浮かべる方も多いだろう。何ヶ月もの航海に耐え得る、生活の場としてのスケールをもった船という点では、その連想は正解だ。しかしタイタニックの時代から1世紀がすぎた現在、船はさらに巨大になっている。具体的な数字を挙げれば、20万トンのタンカーなら全長300mを超え、幅にして60m、船底から最上層のデッキまでは45m程のものもあり、東京タワーを横倒しにした団地並の巨大構造物に匹敵する。これが14ノット、時速約26キロメートルの速度で大洋を進む。

 地球上でもっとも離れた地点まででも、およそ20時間で到着する飛行機と異なり、船での移動は、船内での数ヶ月間におよぶ生活を余儀なくされる。船は、移動手段、運送手段であると同時に、乗員たちにとっては生活空間≠ナもあるわけだ。面積的には、各人の自宅の居住空間よりもはるかに広い、移動する、しかし閉ざされた生活の場である。ちょうど、「宇宙戦艦ヤマト」や、「銀河鉄道999」に乗っているようなものだ。もっとも、ヤマトや999が運航しているのは宇宙であるから、船よりもさらに長く果てしのない時間を、閉ざされた空間内で過ごすことになるのだが。

 また船は、短時間での移動を目的とする飛行機に対し、大量の物質を運搬することを目的とし、運ぶものは多くの場合、ガスや石油などの危険物である。

 したがって、船の構造は実に複雑かつ繊細である。そのデリケートさは、飛行機を上回る。船は移動する、巨大な1個の精密機械なのだ。また通信衛星で常に移動しながら情報を受信し、発信するということを考え合わせれば、巨大な携帯電話のようなものだと思うとわかりやすいかもしれない。

 何ヶ月も人が生活する街≠ナあると同時に家≠ナあり、危険物を搭載するタンクであり、情報を受発信するモバイルでもある大型船。それらの機能をすべてもっているその内部は、迷宮のような構造とならざるを得ない。下手をすると、そこで生活する乗組員も迷ってしまうほどなのである。

特別なもの作りの「場」造船所

 その巨大な構築物は造船所で造られるわけだが、造船所のスケールが、一般に「工場」といって想像する規模でないことは簡単に予想がつくだろう。何しろ製品≠ヘ300mを超える大きさなのだ。

 造船所では、鉄鋼所から鉄を買ってきて、ストックして、切って、部品を作り、それを組み立てて船にするという、一連の作業をすべて行っている。だから、造船所というところは非常に広大だ。三菱長崎造船所の場合、従業員約7000人、敷地面積は250万uを超えている。そういったところでの、部品の管理、人の管理、場所の管理、機材の管理、それらが造船所の仕事でありコストの中身である。

 しかも造船というのは、飛行機や自動車のように、同じ仕様の製品をラインに乗せて大量生産するのではなく、用途などに応じて1隻ずつ異なったものを造る。だから、1隻ごとに新たに計画を立て直さねばならないし、作業自体も屋外ですることがが多いため、雨などの天候によって左右されることが非常に多い。人と物を管理することが、一連の作業を効率よく行うためには非常に重要なことである。 

ウェアラブル

コンピュータと

造船

 さて、操船、および造船の空間を感じていただいたところで、いよいよウェアラブルコンピュータの話である。

 海運造船におけるウェアラブルコンピュータの利用には、操船の現場、工場作業の現場といった2つの場が考えられる。まず工場作業において考えられるのは、@作業指示、A作業計測における作業量把握、B作業環境安全システムの3点。運航支援においては、@ワンマンオペレーション、Aエンジン無人運転支援の2点である。

 最初に、ウェアラブルシステムを使った作業指示について説明しよう。

 造船所の作業現場は、前述したように広大なので、作業員としては、あまり行き来をしたくない。事務所を出たら、図面などを取りにもう1度戻って来るようなことは避けたい。しかし、現場で図面を見ていると、たまには間違いもあるし、図面同士の整合がとれていないこともある。作業手順の指示も書いていなかったりする。かつては、手順を書きこまなくても図面があれば物ができるというのが日本の現場の特徴だったが、最近はそれも難しく、細かい指示が必要といわれている。そうなると、現場で、テキスト、音声、絵、図面などを全部示すものがあると便利なのではないか。溶接の方法や、誤差の指定なども、すべて表示できるものがあったらよいのではないか。二次元の図面ではなく、三次元のアニメーションで作業指示をすることもできよう。

 一方で、作業現場からも、返答したり、問合せしたりしたい。ウェアラブルコンピュータがあれば、図面と現場が違う場合、たとえば、ネットワーク上に載っている図面のデータベースを訂正して、指示者に返すことができる。それを設計者が確認して、再び現場に下ろす。逆に、作業が終わればその場で中央のデータベースに伝えることで漏れなく正確な管理が行なえる。

 それ以外でも、音声や画像を通信で送って指示を受けることが可能になるため、作業員がいちいち移動する必要がなくなってくるはずである。

 たとえばアイグラスならアイグラスに、図面情報や作業情報が全部表示される。複雑な部分なら、それを拡大して見ることもできるし、別の図面と付けあわせて確認することもできる。造船所のように広い場所、しかもいつも作業する場所が違うとなると、誰がどこにいるかを把握するという意味も含めて、このシステムは非常に役立つものだろう。

  次に作業量の把握であるが、ここはもっともウェアラブルシステムを導入しやすいところなので、最初に試みようかと考えている。現場の効率を上げるといっても、実はまだ、工事量の正確な見積もりができていないのが実情だ。作業はかなり経験的に行っていて、作業量を見積もる根拠となるデータは、意外に少ない。結果として、非常にひまな日と忙しい日ができてしまっている。

 仕事量を計測する方法はどういうものかというと、比較的簡単なことで、図面に入力されている作業の流れと、そこにかかる時間および人数を、ウェアラブルコンピュータを通して把握する。さらに作業員の位置や移動量がわかれば、作業量がほぼ見積もれることになる。

 より具体的には、アイマスクなどに位置を計測するためのGPSやPHSを装着すれば、作業員の動線が計測できるようになる。自動溶接機などの部品にもつけておけば、部品の位置がわかる。あるいは精度さえ十分ならば、部品がどのような姿勢で、どの程度の精度で搭載できるか、そのようなことまでわかるかもしれない。それらが自動的に通信にのってデータベース化されてゆく。

 また、安全管理の面では、たとえば環境を計るためのCO2センサーを装着し、CO2の数値が高いなら作業を中止する、というような利用が考えられるだろう。

船の運行と

ウェアラブル

システム

 次に、運航の際のワンマンオペレーションについてである。

 船というのは、大変精密な機械であると先述した。仕組みが複雑になればなるほど、故障というのは多くなるものだ。危険物を搭載した、迷宮のような構造を持つ船が洋上を運航しているわけであるから、小さなトラブルでも、即、大事故につながりかねない。何かことが起きたら、すみやかに解決できなくてはならないし、つねに確実に操船ができなくてはならない。

 したがって、操船をワンマンで行うときに重要なことは、オペレータが操船場所に固定されるシステムではだめだということだ。トラブルの起きた場所に行く人は、その人1人しかいないのだから。船を止めてから現場に行くのも、決して安全ではない。

 必要なことは、操船装置への入力がどこからでもできること、レーダ画面やメータ類、船外監視モニタがどこにいても見えること、それらの操作をすべて1人でできなくてはならないことである。

 今の船はすでにかなりコンピュータ制御されており、操舵輪を持たないものもある。操船は、マイクを通して、「右へ15度」「左へ15度」などと音声でオーダーをする。今は固定マイクであるが、このマイクと船の機器や周囲の状況をモニターするウェアラブルコンピュータをもって歩ければ、船の中で動きながら操船ができるということになる。船の側は、ウェアラブルシステムを導入したワンマンオペレーションを受け入れる準備が、もう整っているといってよい。

 しかも実際は、操船さえ、人間がしなくてもよいのである。あらかじめWaypointを全部指定しておけば、あとは船は自動的に運航されるのだから。

 ただし、ワンマンオペレーションとはいっても、操作する本人に何かが起きた場合のことを考えると、もう1人乗船することは必要だろう。現在は小さな船でも3人は乗船しているので、この1人を減らすことは十分可能だと思われる。

 最後に、エンジンの無人運転支援であるが、これは、操作員がエンジン場に常駐する必要をなくすシステムである。人間は、ときどきエンジンの状態を見に行き、エンジンのチェック項目と計器の表示、結果を、音声でコンピュータに入力し、ベースのコンピュータに送ればよい。その他の技術連絡や状況の連絡、音声、画像なども、衛星を通じて送る。すると、エンジンが不調の場合、船内だけでトラブルを解決する必要はなく、衛星を通じてエンジンメーカーに直接問い合わせるようなこともできるのだ。このようなことができると、乗組員のオンライン化は非常に意味がある。専門知識や技術を持った人間が乗船する必要がなくなり、確実に、安全性の向上と人員の削減につながるのである。

プロフィール

大和 裕幸

'77年 東京大学工学部船舶工学科を卒業。'82年 東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程博士課程を修了し、工学博士。同年 航空宇宙技術研究所に入所、新型航空機研究グループ、飛行実験部STOL飛行実験研究室研究員。低騒音短距離離着陸実験機「飛鳥」の開発と飛行実験に従事。'88年から'89年までアメリカ航空宇宙局NASAエームズ研究センターに在勤。'89年東京大学工学部船舶工学科助教授、'97年同環境海洋工学専攻教授、現在、東京大学大学院新領域創成科学研究科 環境学専攻 人工環境学大講座(工学部システム創成学科 知能社会コース 兼担)。日本造船学会、日本航空宇宙学会、日本機械学会、計測自動制御学会、AIAA、AAAI、IEEE等の会員。

記事構成協力・写真提供:三菱重工業株式会社長崎造船所

LPG船“オーバル ノーバ”

タンク容量 78,470m3

総 ト ン 44,549 tons

全   長 221.65 m

  幅   36.6m

深   さ 20.4m

クルーズ客船“飛鳥”

総 ト ン 27,717 tons

全   長 192.5 m

  幅   24.7m

吃   水 6.2m

乗 客 数 584(max.trial)

高機能特殊タンカー“CHARLES B. RENFREW”

載貨重量 68,748 tons

全   長 239.2 m

  幅   37.18m

深   さ 17.8m

Nature Interface July 2001 60

61 Nature Interface July 2001

Nature Interface July 2001 62

63 Nature Interface July 2001

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