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[特集] タンジブル・ビット -- 石井 裕











special feature...02

Tangible Bits――情報の感触・情報の気配

石井裕

境界線をデザインすることから出発する。すると情報の新たなインタフェイスが見えてくる。

実体化され触ることのできる情報がある。風、光、影、自然界の多様なあらわれがそのまま情報を表現することも可能だ。

われわれは新しい「眼鏡」を手に入れようとしている。

私の研究テーマは、境界線のデザインです。

デジタルとフィジカルの世界の間に横たわる境界線が、その研究対象です。この二つの世界の間には大きな隔たりがあり、現在のグラフィカル・インタフェイスの持つ身体性の欠如、空間の不連続性などの問題から、人々が情報を自然な形で操作・活用することを妨げています。スクリーン上のピクセルとしての情報表現を越えた、新しいインタフェイスの形を探るのが、この研究のゴールです。

[クリアボード]

相手の視線を読みコミュニケーションする

私はMITに移る前に、NTTの研究所で、距離を越えて情報の協同編集を可能にするグループウェアというテーマを研究していました。設計会議などにおいて、ホワイトボードの前で速いスピードで並行して行われる、「話をする」、「指し示す」、「読む」、「書く・描く」などの行為をいかにスムースにサポートできるかが大きな課題で、その解決のためにリアルタイムビデオ通信を使い、元同僚の小林稔氏と協同で作り上げたのが、クリアボードというシステムです。

 クリアボードを使うと、遠隔地にいる二人が、ガラス板を通して、相手の顔を見ながら、また同時にその表面に絵を描きながら話をすることができます。すなわち、協同でホワイトボードに描きながら、なおかつビデオコンファレンスができる。ここで大事なのは、相手の視線が、協同描画面のどこに向けられているかを、容易に読めること。相手の視線を読んで、それをコミュニケーションの中で活用できるということは、非常に重要だと考えています。すなわち相手がどこに興味をもっているか、集中しているかがわかるからです。

[タンジブル・ビット]

身体、とくに手を使うインタフェイス

MITに移ってからは、より直接的に、手で操作可能な、よりタンジブルな(実体がある、直接触れることができる)情報表現に興味を持ち、タンジブル・ビットという新しい研究を始めました。

 たとえばそろばんがおもしろいのは、そろばんの珠は数字の情報を、シンプルな木の枠の中で、物理的な実体で表現していること。だから情報を、直接指で操作して計算することができる。当たり前の話ですが、現代のコンピュータを見ていただくと、情報の表現は基本的にスクリーン上のピクセルで、マウスやキーボードを使って、間接的にしか操作できない。情報に物理的実体を与えて直接操作を可能にすることが、私の研究のゴールです。そこで、特に大事なのがアフォーダンス。単純にそのものを見て掴むだけで、どのような物理的な操作が可能かということが、簡単にわかる。そういったわかりやすさをディジタルの世界に持ち込むということも、大切な目標です。

 現在は、ディジタル礼賛一色です。ディジタルなら距離を越えて自由に情報の交流ができて、しかも劣化せず、場所も取らない。たかしに現在のディジタル情報の表現の主流であるピクセルは、受動的な情報の摂取には極めて有効です。しかし、積極的に情報を加工・編集し、それを発信するときは、自分の身体、特に手を使うことが必要であり、それに適した情報と手の間の距離を縮めるインタフェイスが求められます。

[かざぐるま]

情報がかすかな空気の流れ、温度、匂い、

光の加減で表現される

直接操作するインタフェイスに加え、アンビエントな情報をどのように伝達するのかにも強い興味を持っています。水の流れ、風、光、影とか、自然界には多様な表現形式があり、われわれの神経を快く刺激してくれます。しかしながら、これらの表現は、かすかに認知の周辺に存在するだけで、ものを考えるとか、誰かと話をすることの邪魔にはならない。このアイデアに基づき、「風」をメタファとして使って、サイバースペースにおける情報の流れ、たとえばEコマースのトランザクションやEメール・トラフィックといったものを、建築空間の中に実体化しようとしたのが「かざぐるま」です。これは、昨年夏ICCで行った展覧会で出展した作品の一つです。

もともとは、太陽風を自分の研究室内の空間で表現するために、このかざぐるまをデザインしたのですが、結局現在は、証券取引所のデータベースにつないで、株の売買の情報で風車をまわしています。これがスポンサーには非常に好評です。大事なのは、かざぐるまは常に、その建築空間の一部として、認知のバックグラウンドでまわり続けている。特別の注意を払わなくても、ちらっと見れば、あるいは音を聞くだけで、その気配が感じられる。

現在のコンピュータの情報はすべて、スクリーンやスピーカから流れ出てくる。すべてがフォアグラウンドの注意を喚起する情報で、意識して解読しながら理解する必要がある。ところが人間の視覚情報に対する注意の帯域は非常に限られていて、多くの視覚情報の流れを同時に追跡し切れない。建築空間の中でのかすかな空気の流れ、温度、匂い、光の加減、そうしたメディアで情報が表現されれば、それはフォアグラウンドの仕事を妨げずに、認知のバックグラウンドで処理可能な、情報の表現形式になりうると考えます。

[I/O バルブ]

多様な情報表現メディアをコラボレーションする

今回のシンポジウムのテーマは、「空間情報」ということですので、今日は少し建築設計に、タンジブル・ビットがどのように貢献できるかというところをお話したいと思います。

「I/O バルブ」は、エジソンが発明した電球の概念を、大きく発展させたものです。I/O バルブは、電球の光の解像度を高め、光の流れを双方向にする。すなわち、建築空間の中にある光を集め、光の配列を認識し、その結果をもとにコンピューテーションを行い、ディジタルの光と影を計算して、建築空間に投射する。それによって、建築空間の表面に、あらたなディジタルな意味を付与することが可能になる。すなわち建築空間のあらゆる表面を通して、ディジタル世界とのインタラクションが可能になる。

I/O バルブを用いた都市計画のためのアプリケーション、「Urp」 では、建築の物理モデルをテーブルの上に置くと、コンピュータの計算したディジタルの影が投影される。つぎは風のシミュレーション。風の方向を指定すると、建築モデルの位置と方向をコンピュータが読みとり、流体力学の方程式をコンピュータが解き、その結果の風の流れをテーブルに投影する。「風速計」で風の速さを計ることもできる。I/O バルブを用いることで、物理的モデルをディジタル・シミュレーションのインタフェイスに利用することが可能になるという例です。

 ここで強調したいのは、I/O バルブは、空間的に広がった分散環境で使うことを前提にした概念だということです。すなわち、ビルの中に使われている何千、何万個の電球を、すべてI/O バルブに変えることによって、広範囲な建築の表面をインタラクティブなインタフェイスに変革することが可能になります。と同時に、たとえば、ロンドンとボストン、ふたつの町にある建築事務所間をつなぎ、コラボレーションをしながら、都市計画の議論をするとか、環境のアセスメントとかもできるのではないかと考えています。

 幸い、この Urp システムは建築あるいは都市計画をやっている人々に大きなインパクトを与えました。結果的にこのプロジェクトが証明したのは、多様な情報表現メディアをひとつに統合する、しかもそれを大きなテーブルの上に重ねることで、複数のデザイナーが、ごく自然にコラボレーションできるということです。そういう意味で、例えば建築事務所の人が最終的な提案をクライアントにするときに使えますし、住民との間でコンセンサスを作るための助けにもなります。大事なのは、各人が受動的に見るだけではなく、実際に自分の手と身体を使って、「ここを変えるとどういう影響が生じるのか」という What-If 実験を自由に行えることです。 

[トライアングル]

積み木によるアプリケーション

タンジブル・ビットのバリエーションとして、少し違ったシステムをご紹介します。

 ひとつはトライアングルで、これは三角形をしたコンピュータなのですが、個々のトライアングルがマイクロプロセスを内蔵していて、さらに三辺の磁石を使ったコネクタが独自のアイデンティティをもち、くっつけるとお互いにコミュニケーションをはじめる。それによって二次元のタイリングとか三次元のピラミッドなどの構造を、自由につくることができ、かつコンピュータがそのトポロジーを完全に把握できる。ですからこれをディジタルの積み木として利用できる。積み木がどう相互接続されているか、コンピュータが全部わかる。したがって、ここのトライアングルに自由にディジタルの意味を与えることにより、多様なアプリケーションが可能になる。

 特にトライアングルのおもしろい点は、抽象的なかたちをしていること。そういう意味で、Urpで使った建築のモデルと違って――建築のモデルは建物を表現しているわけで、それ以外の表現には使えない――トライアングルは抽象度が高いので、自由に新しい意味を付与することができる。それによって、たとえばストーリーテリングとか、アート的な表現とか、新しい表現言語として使うことも可能になります。

 

[ハンドスケープ]

空間利用効率化が考古学に大きな手段をあたえた

物の長さを計るのがテープ・メジャーですけれど、ハンドスケープは三次元空間でのベクトルを測り、無線でその測定結果を随時コンピュータに送ります。従って、縦と横の長さを計ると、コンピュータ内に即座に四角形が描かれ、高さを計ると三次元的な箱が表現されます。ものの長さを計るテープ・メジャーという使いなれたツールではありながら、スカラー量からベクター情報へ発展させている。長さを計ってからそれを紙に書きとり、あとでコンピュータに入力するのではなくて、計る先からどんどんコンピュータ上で視覚化することができる。当初は、運送会社がトラックに荷物を積み込む際の空間利用効率化などのアプリケーションを考えていましたが、結果的に、考古学が最も有望な応用領域であることがわかりました。発掘の際に、新しいモノが見つかったときに、その三次元空間での位置や大きさを測定するのは大変手間がかかる。それを一回の測定で自動的にコンピュータに入れることができるという効率化と同時に、各データをその場で視覚化・吟味することによって、今後どの場所を掘り続ければより多くの石器とか土器が見つかるかという判断が、その現場でできるわけです。

[ミュージックボトル]

ガラス瓶の蓋を開ければ、ジャズトリオや

天気予報が聞こえてきた

ミュージックボトルは、我々人類が何千年と使いこんできたガラスボトルを、ディジタル世界とのインタフェイスに変えるプロジェクトです。ガラス瓶の中にディジタル情報――たとえばジャズのトリオが入っている。ふたをあけると、音楽が流れ出てくる。

 ほかの例として天気予報の小瓶があります。ビンの蓋を開けると、翌日の天気が聞こえてくる。私の出身地、札幌の天気が入っています。鳥の声がすると明日は晴れ、雨の音なら雨と、非常にシンプルなのですが、自分の母親にプレゼントしたいと思って作ったものです。

デザインとは新しい見方・考え方の

提案ではないか

ということで、今日はタンジブル・ビットというものをご紹介しましたが、タンジブル・ビットとは手を使った直接的な操作、あるいは周辺的な感覚を使って情報を感じ取る、そういうインタフェイスを目指しています。特にタンジブル・ビットは、複数の人々がいっしょに情報を直接操作しながら議論する、そういうコラボレーションに向いています。

デザインの目的とは何か。我々はよく議論するのですが、単純にものをつくって、美しくして、たくさん売って、ということではなくて、新しい見方・考え方を提案することではないか。その意味では「眼鏡」という表現を使っていますが、たとえばボトルの例を申しあげますと、我々の作ったボトルを多くの方が開けてくださいましたが、一度開けると、自分の周りにあるボトルが、二度と同じただのボトルには思えなくなる。そこに入っているかも知れないディジタルコンテンツを想像することが、止められなくなる。例えば、ワインボトルにシャンソンが入っている、ウイスキーボトルにスコットランドの民謡が入っている、たとえばそれを誰かの誕生日にプレゼントする……。イマジネーションがどんどん広がる。そういう人間のもっとも貴重な想像する力、クリエイションする力、そういうものに火をつける。それがある意味でデザインの大きな力なのかもしれません。

石井裕[いしい・ひろし]

1956年北海道生まれ。北海道大学大学院情報工学専攻修士課程修了。1980年日本電信電話に入社。西ドイツGMD研究所客員研究員、

NTTヒューマンインターフェイス研究所員、トロント大学助教授を経て、マサチューセッツ工科大学メディアラボ教授。情報工学専攻。工学博士。

コンピュータと人間の間をつなぐインタフェイスの先駆的な研究に独学で取り組み、遠隔地にいる相手と共同作業ができるシステムを開発、

現在はタンジブル・ビットを提唱するなど海外で高い評価を得る。著書に『グループウェアのデザイン』がある。

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