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[開発最前線] 携帯端末を支える液晶技術の進化 -- セイコーエプソン















携帯端末を支える液晶技術の進化

MD-TFD型開発に見る

液晶ディスプレイの省エネルギー、高精細化

セイコーエプソン株式会社

MD-TFD型液晶ディスプレイの画面

 ここ数年のPDA、携帯電話など、携帯端末の発展と変化はめざましい。とりわけ携帯電話は、iモードの登場で電話の枠を超えて、携帯する情報端末に変身した。これら携帯情報機器の発展を支えている技術は多いが、なかでも液晶ディスプレイの技術は重要である。携帯端末は、軽量で消費電力の少ない液晶ディスプレイの存在によって初めて可能になったと言ってよいからだ。

一昨年MD‐TFD型液晶ディスプレイで、携帯電話の低消費電力化、高精細化を進展させているセイコーエプソンに、液晶技術の進化を取材した。

液晶の歩み

 液晶(Liquid Crystal)は、その名が示すとおり、液体の流動性と固体(結晶)の規則性を併せ持った物質の状態である。 液晶ディスプレイによく用いられるネマティック(Nematic)と呼ばれるタイプの液晶分子は、図1のように棒状の形状をしており、固体と違って分子の位置は不規則だが、その向きは長軸方向に平行に並んでいる。液晶には誘電率異方性と呼ばれる性質があり、電場のなかにおかれると電場と平行に回転して並ぶ特徴がある。液晶ディスプレイは、この性質を利用して光を遮断したり透過させたりすることによって表示をおこなうのである。

 ここで液晶ディスプレイのごく大まかな仕組みを、一般的なTNという方式を例に説明してみよう(図2)。

 通常二つの偏光板を偏光軸に直交に重ねると、光が遮断されるので暗くなる。TN(Twisted Nematic)型では、配向軸を九〇度ねじった二枚の基板の間に液晶が挟まれている。基板内の配向膜にはラビング(rubbing)といって、一定の向きにこする処理がなされていて、液晶物質はその影響を受けてラビングの方向に平行に並ぶようになっている。そのため上下の基板をねじると、液晶もそれに影響されてねじれるようになっている。

 さて、一方の偏光板を通った光は、直交する光の振動波の片方を吸収され、一方向だけの振動をもつ光となる。通常だと二枚目の偏光板に阻まれて光は遮断されるが、光には、螺旋のピッチが光の波長より長い場合は螺旋に沿って進む旋光性という性質があるため、光は液晶の長軸分子に沿ってねじれ、二枚目の偏光板を透過していく(図2の左側)。これが通常の何も写っていない液晶画面である。そこに電圧を加えると液晶分子が立ち上がり、直進した光は偏光板に遮断されて暗くなる(右側)。このようにして、液晶ディスプレイはドットにかかる電圧のオン・オフで文字や絵柄が表示される。この方式で九〇度ねじったものをTN(Twisted Nematic)、さらに効率を上げるために二七〇度ねじったものをSTN(Super Twisted Nematic)と呼んでいる。

 このような固体・液体・気体のいずれでもない「第四の状態」の液晶物質が存在することは、十九世紀のヨーロッパですでに発見されていた。それがディスプレイに応用されるようになったのは、一九六八年アメリカで、室温で液晶状態となる物質の開発に成功してからだ。

 七〇年代になると液晶ディスプレイの実用化が始まり、舞台は日本へと移る。七三年、セイコーエプソンが液晶ディスプレイを使った腕時計を世界で初めて発売し、実用化の口火を切った。以後、八〇年にモノクロのテレビウォッチ、八四年にはカラー液晶を用いた世界最初の液晶ポケットテレビ、九〇年にはラップトップ・パソコンにカラー液晶、九五年には携帯電話にカラーの液晶ディスプレイと、その技術は発展してきた。

 携帯電話の機種は九五年頃から多彩になってくるが、消費者の要求も、より薄く、軽く、文字数を多く、画面を大きく、そしてカラーや動画をと高くなっていき、表示内容も漢字、メールが加わった。と同時にバッテリーはより長時間もつことが要求される。つまり、性能を上げつつパワーを下げることが要求されてきたのだ。

 携帯電話の通話時間は、出始めた頃はせいぜい数時間だったが、バッテリー性能の向上や液晶ディスプレイの低消費電力化で、現在では、連続通話時間一二〇分、連続待ち受け時間は四〇〇〜五〇〇時間になり、バッテリーの心配をほとんどしなくてすむようになっている。しかし九九年にはiモードが始まり、二〇〇〇年にはカラー動画も加わって、画像の高精細化や機器全体の低消費電力化が求められるなか、特に待ち受け時間のディスプレイの消費電力の大きさが重要視されていた。

省電力、軽量、高画質を求めて

 近年の液晶技術について、セイコーエプソン株式会社のディスプレイ開発部長、飯野聖一氏に聞いた。同社では昨年、大幅な省電力化と高画質を両立させたMD―TFDカラー液晶ディスプレイを発売している。

 前述の長時間使用、軽量化、カラー・動画化といった要求を、飯野氏らは九四年頃より予測していたという。そうしたニーズに応えて取り組んだ開発によって生み出された成果が、(1)半透過反射型ディスプレイ、(2)低消費電力化、(3)「EPSON Color Modulation」だったという。

液晶ディスプレイの光の取り入れ方は、バックライトを付ける透過型と、外光を取り入れて基板に反射させる反射型がある。透過型の場合、暗い部屋で見やすく画質もきれいなのだが、太陽光のある場所に出ると打ち消し合って見えなくなる。エプソンでは携帯機器のオールラウンド性を考えて、反射型を選択したという。

 図5のように、反射型では、外から入った光を基板に反射させる。この時取り入れた光が散乱してディスプレイが白く見えるように、基板には拡散反射板というたくさんの凹凸が加工されたアルミの鏡を開発した。また暗いところで見るために、バックライトを設置し、基板に光を通すための穴を開けてバックライトの光が通るようにした。こうして開発されたのが「半透過反射型」のディスプレイである。

 低消費電力のための努力も進められた。図7は、九五年以降の液晶ディスプレイの低消費電力化の進展を示している。当初一般的だった二五ミリワットからSTN1で八ミリワットに下げるために駆動方式の改良を行った。それをさらに下げるためになされた工夫の一つが「パーシャル表示」である。

 待ち受け時間には、液晶全体を表示する必要はなく、電波の強さの表示や電池残量が表示されていればよいので、他の部分の表示は消えるようにしたのである(図8)。

 また、駆動のためのドライバーICに表示用のRAMが入っている。ふだんここへのデータはCPUから来るが、CPUのデータは数十メガヘルツという高速で送られているので電力がかかる。それに対して画面書き換えのデータは三〇ヘルツ程度なので、画面が変わらないときにはデータを受ける必要がない。そこで画面が変わったときだけデータを送るように工夫して、無駄を省いた。

 そしてもう一つ実現したのは、画質の向上だ。たとえば、四〇九六色の能力しかもたないディスプレイに二六万色の画像が送られてきた場合、従来だと表示できない階調が失われ、ムラのある画像となる(図9の左側)。その収まらないデータを近い階調に振り分けることでなめらかな画面を実現したのだ(右側)。このEPSON Color Modulationは、プリンターの階調の出し方を応用したもので、プリンターメーカーのセイコーエプソンならではの技術だ。また同時に、色調のトーン補正を行うようにしてより鮮やかな色を追求した。これらの技術のうえに、さらにカラー、動画対応のアクティブ・ディスプレイとして世界一低消費を実現したのが、MD|TFD(Mobile Digital-Thin Film Diode)である。D―TFDはディスプレイの駆動方式を表す名称で、MD―TFDはそれをモバイル用に改良したものだ。

 ノートパソコンのディスプレイなど、大型で画素数の多い液晶ディスプレイには、すべてのドットに電圧をかけるスイッチングの役割をするアクティブ素子が付いている。従来多くのディスプレイでは薄膜トランジスタを使用するTFT(Thin Film Transistor)が一般的だったが、ここにダイオードを用いたのがD|TFDである。そのメリットは、トランジスタには三つの電極があるのに対して、ダイオードは二端子であるため、画素の有効面積(開口部と呼ばれる)が高く、明るいディスプレイができることにある(図10・11)。

 また、パルス幅変調(PWM)というデジタル駆動を採用していることから、低消費電力化が可能となり、テレビを写す能力を備えながら静止画で三・八ミリワット、動画で九・三ミリワットの消費電力となった。ディスプレイに付けるドライバを一辺にまとめたことによっても、低消費、コンパクトなディスプレイが実現されている(七〇ページ写真)。

 続いて二〇〇一年に発表されたMD|TFD2「Crystal Fine」では静止画で三・五ミリワット、動画で五・〇ミリワットに改善されるとともに、透過時の画質を改善し、室内とともに、夏の海辺のような明るい屋外での見やすさを両立した視認性の高い半透過反射ディスプレイを実現した。

これからの液晶ディスプレイ

 さて、飯野氏に、今後の液晶ディスプレイの方向を聞いてみた。

 答えは「紙に近づけること」と返ってきた。

 反射型のディスプレイはまだ暗い。パワーはさらに下げつつも、紙の印刷媒体の高精細、明るさに近づけていきたいと言う。今後、携帯端末は、ますますウェアラブルの方向に行き、液晶技術は、家庭や車、戸外でワイヤレス・インターネットの主役になっていくと予想されている。

 人間と情報技術の接点になる液晶技術は、さらに遠くまで進化を遂げていきそうだ。

図1|ネマティック液晶の構造と異方性

図2|TN液晶の表示のしくみ

図3|携帯電話のサービス内容とLCDの変遷

図4|モバイルディスプレイのニーズ(携帯電話)

図5|「半透過反射型」液晶ディスプレイ

図6|携帯電話待受け・通話時間の推移

図7|LCD低消費電力化の経過(当社)

図8|パーシャル表示機能の消費電力

図9|EPSON Color Modulation

図10|TFDとTFTの画素構造比較

図11|TFDは開口率が高い

次世代ディスプレイの開発を行うセイコーエプソン富士見事業所

セイコーエプソンの

ディスプレイ開発部長、飯野聖一氏

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