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NIブックレヴュー





NI Book review...

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『科学は今どうなっているの?』

池内了=著

晶文社/2001年5月30日/2,200円+税 

 原子力潜水艦、チェルノブイリ、JOCの事故から、エイズ問題、オゾンホール、太陽電池の採算性、日本のロケットの技術水準、あるいは地球外生命、クローン羊、ヒトゲノム、寺田寅彦、中谷宇吉郎、はては大学の講座制、縦横無尽ともいうべき豊富な話題を取り上げているが、いわゆる科学ジャーナリスティックな興味半分の記事ではない。

 本書を読みながらつくづく思ったのだが、人間それ自体は生来的、動物的な衝動で、目前の問題を前後も考えず遮二無二解決しようとする。しかもその手段は文明によって、通常の自然からかけ離れた巨大な力を使っている。そのため、今まで運動してきた自然のサイクルでは処理しきれない事態が起きている。

 本書にもあるが、地球上で通常の高温といえば、化学反応による発熱、たとえば燃焼などであるが、これはせいぜい一〇〇〇度の桁までだが、人間が手に入れた高温、核分裂、さらには核融合の場合は一〇〇〇万度と一万倍も違う。人間が次々と作り出していく新しい化学物質は、地球上の生物が今まで経験したことも無い新物質で、それに対処する手段を持っていないものが少なくない。生物ばかりでなく地球それ自体の浄化能力、分解能力、あるいは循環能力を超えているものもある。

 しかも、それを使っている人間は千年前、一万年前、基本的には百万年前と変わりない。いま、目の前にある欲求に向かって猛進する習癖がある。夜が暗ければ明るくするのが文明だ。電球を作り出す。寄生虫で体調が悪くなる。寄生虫のいない環境を作る。ところが人体は百万年前と同じ仕組みだ。睡眠リズムが狂い、アレルギーになる。最近は遺伝子を操作できる技術を手に入れつつある。目前のことしか考えられない性向の人間が人間の未来、地球生物の未来に大きな影響を及ぼす技術を使いこなせるか、はなはだ心もとない。

 筆者は自ら悲観論者だといっているが、周辺を見回し、真剣に思考しようとすれば悲観論者にならざるを得ない。かねがね人間はどこまで文明に耐えられるかと危惧していたが、本書を読んで、どうやら人間は重大なポイントに到達してしまったような気がする。筆者はパラダイムの変革、といっているが、人間社会、人間文明、いや人間の存在そのものが量的な変化を越えて質的変化、相転移的状況にあるのではないか。

2

『工学は何をめざすのか』

東京大学工学部は考える

中島尚正=編

東京大学出版会/2000年6月25日/2,400円+税

 科学という言葉が、日本で使われるようになったのは明治以降のことだといわれている。また日本で古から使われていた自然(じねん)という言葉がNatureの訳語として使われたのも明治時代からだ。

 本書は、明治初期に設立された東京大学工学部(当時は工部大学校)が、21世紀の社会と環境に対して、また技術革新についてどのようなビジョンを持ち、将来どのような発展型をめざすのかを解説している。特に工学の研究面だけに焦点を当てず、教育や評価といった側面にも触れている点で単なる科学・技術書の域を越えている。

 ところで読者諸氏はノーベル賞のメダルを見たことがあるだろうか。表面はご存知のごとくダイナマイトの発明者で、ノーベル賞の創設者であるノーベルの肖像だが、裏面に刻印されているのは、ナトゥーラ(Nutura)=自然の女神とスキエンチア(Scientia)=科学の女神。自然と科学の融合を象徴的に表している。

 本書に流れる大きなテーマも、最終章で江崎玲於奈・茨城県科学技術振興財団理事長が「現在の状況を考えると地球環境と共生しながら、文明を進化させる工学が求められています」と語っているように、科学・技術と自然との融合であり、それらが地球環境との共生、21世紀における「安全保障」、知能・情報技術、知と技の統合化といったキーワードから紐解かれている。工学部内でのフィールドワーク集成といえる。

3

『剥きだしの野の花』

吉増剛造=著

岩波書店/2001年7月23日/3,200円+税

 本誌に「光の扉」を連載している詩人の、ここ数年のエッセイを集めた1冊。イェイツ、道元、宮沢賢治といった思想家や文学者をモチーフにしたもの、奄美大島、韓国、フランスなど旅先の地でつづられたものなどが収められているが、一般に「エッセイ集」と称されるような気軽な読物を想像して手に取ると、ある種めまいのようなものを感じることになりかねない。「詩から世界へ」という副題のとおり、本書には、言語で感覚をゆさぶり、世界を内奥から再創造してゆくための仕掛けが張り巡らされている。

 たとえば、多用されている「割注」。通常、割注というのはあくまで本文の「注」であるが、ここでは本文を侵蝕し、ほとんど食い尽くそうとするかの勢いで“増殖”している。紙面には活字の密度による濃淡ができ、音声的なリズムはもちろん視覚的なリズムが生まれて、活字によって織られたタペストリーのような効果を上げている。その中で言葉は、次々と最初の文脈を離れて“遠く”へ運ばれていく。読者もその言葉の波に乗って、ともに遠くへ運ばれることになる。目の前の扉の向こうに、無限に別の世界へ続く扉が開かれるのを待っているような状態といおうか。新しい世界へ踏み出す楽しみと、行き先のわからないゆえの不安と孤独。あらゆる感覚を研ぎ澄まして世界を感じとらねば、身の安全はないかのような緊張感。表現=世界を再創造することがいかに孤独な営為であるか――詩人自身の感じている万分の一ほどではあろうが、感じることができる。

 さらに割注は通常の活字より極端に小さいため、読むためには、必死で目を凝らさねばならない。読めるか読めないかの境界にある、小さな文字を連ねた文章は、読者に対しての挑発ととらえることもできるだろう。本当に遠くまで行く扉を開ける覚悟ができているのか、問いかけているかのようなようだ。読者に直接語りかけるような親密さをもった著者の文体に、つい夢見ごこちにさせられることも多いのだが、その柔らかさの背後には、読者と馴れ合うつもりなど一切ないストイックな姿勢がある。

 著者の活動は、近年ますます広範囲にひろがり、1960年代から行ってきた朗読パフォーマンスや他分野の表現者とのコラボレーションに加えて、写真作品や銅板オブジェの制作なども行っている。本書はそれらすべての活動を詩としてとらえ、詩に収斂させてゆく著者ならではの、多層的で奥深い言語実験の成果となっている。

4

『迷路のなかのテクノロジー』

H,コリンズ・T,ピンチ=著

村上陽一郎・平川秀幸=訳

化学同人/2001年5月10日/2,200円+税

 遺伝子組換え食品、医療事故、原子力発電……、私たちの時代は、私たちの安全を脅かす問題に満ちていて、市民も科学・技術を判断するための科学リテラシーをもつことが必要だといわれる。しかし果たして、どの分野についてどれくらいリテラシーをもてば正しい判断ができるようになるのだろうか……?

 本書は、さまざまな専門分野で実際に起こった7つの出来事を分析しながら、専門分野にまつわる論争の問題点、専門家と私たちのかかわりを論じた著作である(本書の姉妹編として同じ著者たちによる『七つの科学事件ファイル』〈化学同人〉が刊行されている)。

 一九八六年のチャレンジャー号爆発事故は、固体ロケットブースターの燃焼ガス漏れを防ぐOリングが機能しなかったために起こった。Oリングは低温では機能しないことがあり、現場のエンジニアが警告を発していたことも明らかになって、打ち上げを強行した経営陣は大きな非難に晒された。しかし打ち上げの決定に至るまでの経過を分析すると、とたんに事態はわかりにくくなる。検証の詳細は本文に譲るほかないが、筆者は、「打ち上げスケジュールに圧迫された不届き者の経営陣が、誠実なエンジニアをねじ伏せたという広く流布した物語は、あまりにも単純だ」という。

 本書の目的の一つは、このように「論争の途上に留まって一つ一つの実験や論証の瞬間を切り出してみれば、それらの証拠能力は弱々しく、論争の道行きは錯綜していることを示す点にあ」り(訳者後書き)、そうした科学・技術の側面を、本書では、力持ちだが不確実で危なっかしいユダヤ神話の巨人「ゴーレム」に喩えるのである(本書の原題はThe Golem at Large.)。

 またアメリカでのエイズ治療薬の開発にまつわる出来事では、時間のかかる新薬の承認制度に異議を唱えた患者や支援活動家たちが、やがて医師や研究者を驚かせる専門的知識も身につけ、試験方法や制度を変更させるとともに、治療計画にとってなくてはならない存在となっていった経過が描かれている。

 筆者はもちろん、専門家が不要だと言っているのではない。専門家頼みになるのではなく、専門家に何を期待するべきか知ることが大事なのだという。本書は、現代において、専門性と関わらざるをえない市民、マスコミ、そしてそれぞれの分野の専門家に手にとってほしい本であり、また本書のさらに詳しい展開については、本誌連載「科学技術社会論のすすめ」にご期待いただきたい。

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