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[巻頭対談] 独創力・起創力で社会に貢献する技術を -- 軽部 征夫+板生 清





[巻頭対談]

独創力・起創力で

社会に貢献する技術を

バイオ技術が拓く未来と産学協同

軽部征夫+板生清

軽部征夫[かるべ・いさお]

一九四二年、東京生まれ。船乗りを夢見て東京水産大学を卒業するが、船酔いがひどく断念する。

東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了後、イリノイ大学食品科学科研究員、

東京工業大学資源化学研究所教授等を経て、八八年、東京大学先端科学技術研究センター教授に。

九九年より東京大学国際・産学共同研究センター長を務める。

世界初のバイオセンサーを開発し、「バイオの軽部」として知られる。lと違うオリジナルなもの≠ェモットー。

日本化学学術賞、市村学術貢献賞、ルント大学(スウェーデン)名誉博士号、フランス政府政官功労章ほかを受賞。

著書に『独創力をつける』(日本経済新聞社)、『バイオエレクトロニクスの未来』(NTT出版)、

『知的生産 考える技術 私の方法』(三笠書房)など多数がある。

板生清[いたお・きよし]本誌監修

板生||先生は、バイオセンサーの発明と実用化など、以前から産学連携に取り組んで来られていますが、そうした姿勢をもたれたのはいつ頃からなのですか。

軽部||僕は学生時代からやらせられたんです。僕の学んだ東京工業大学はもともと職工学校ですから実学主義です。私の先生も、大学の工学部は実学をやるべきだという主義で、さらにその先生は加藤与五郎先生というフェライトの発見者です。世の中で役に立つものを作らなくてはという考え方です。

 それで研究室に入ったとき最初にやらせられたのが、ウィンナーソーセージの皮をつくる研究だったんです。ソーセージの皮をつくる方法はいろいろありましたが、それを電気的につくろうとしたんです。タンパク質を電気的に泳動させて集めて電極からビューッと引き抜くと、不思議なことに、皮が一分間に一〇メートルくらいできるんです。それを最初にやって特許を申請しましたが、当時は私の先生の名前で出したので、私の名前は入らなかった。でもそのときの経験で、特許というのは貴重なもので、インセンティブを産むものであるということを知りました。修士課程の頃です。

板生||その若さですごいですね。

軽部||その論文がアメリカの「インダストリー・アンド・エンジニアリング・ケミストリー」という化学雑誌に一発で通った。僕はうれしくて一晩眠れませんでした。ただ「英語がどうしようもなくプアだけど、アイディアは最高にいいからわれわれが全部直してやった」と言われましたけどね(笑)。

板生||オリジナリティがあったんですね。

軽部||ただ、その技術をある会社が買ったんですが、その後、その会社が医薬品でものすごく儲かって、そちらに事業を特化させたものですから、ウィンナーの皮の技術が死蔵されて日の目を見なかった。いい発明でも、企業で実用化されないことがあるというのも、今にいたる教訓になっていますね。

板生||その後の研究はどういう方向に行かれたんですか。

軽部||その研究はむだではなくて、タンパク質はどうして電極で膜になるのか。その辺のメカニズムを解明して博士号を取りました。その論文の最後の章で、ものすごく強靭な薄い膜ですから、その中に電気的に酵素を閉じ込めたらどうかと提案し、博士課程の三年のときに国際会議で発表したのです。そうしたらこれがまた不思議なもので、ワイズマン研究所を作ったイスラエルの第四代大統領カジールという人が――この人はイスラエル建国の父・ワイズマンの右腕といわれた人で、日本国際賞の第一回受賞者ですが――、この人が面白いと絶賛してくれたんです。それで、それをセンサに使おうと思い立ちました。

板生||なるほど。そこでバイオセンサの研究が登場するわけですね。

軽部||卒業後、そのタンパク質の研究が、動脈硬化の研究に必要だと言われて、二年間イリノイ大学に行きました。僕以外はみんな医者という環境で、血管にどうやって脂肪が付くかという基礎医学の研究をすることになったのですが、そこから帰国した後、本格的にセンサの研究をしました。そこで取り組んだのが環境問題で、現在いろいろなところで使われているBODセンサというものを開発しました。これは膜の中に微生物を電気的に閉じこめて、いわば微生物がチップのように並んでいる膜にエレクトロニクスのデバイス(装置)をつけて水に接触させると、それに反応した微生物から信号が出て水の汚れ具合が測定できる仕組みです。これが世界で初めての微生物センサだったので、一気に世界中で認められて、『ニューサイエンティスト』というイギリスの雑誌が、僕のことを「ファーザー・オブ・ザ・バイオセンサ」と言ってくれました。アメリカにクラークさんという、バイオセンサの概念を出したマザー≠ェいるので、おまえはその概念を拡大実用化したからというわけです。

板生||その後、さまざまなセンサの開発を手がけられた。

軽部||バイオセンサを実用化して、その後、魚の生きのよさをはかる鮮度センサ、乳酸センサ、アルコールセンサなど、いろいろなものを実用化しましたが、身近なのはたぶん医療分野でしょう。健康診断で血液検査をするときなどに使われているものです。血液は四分間で体を一周しますので、血液中の化学物質や酵素を調べると、各臓器のどこが悪いか、だいたい分かります。人間の体内には二〇〇〇種類以上の酵素があって、それぞれが特定の分子を識別する機能をもっているので、この酵素を使ったセンサで血液を調べると、そこで出た信号で体の中で起こっていることが分かるのです。

 いま必要とされているDNAやエイズウィルスを調べる機械なども、あと二〜三年で市場に出てきそうです。こうした研究でよかったのは、いろいろな産学連携ができたことですね。そのネットワークはこれからの技術開発にとってとても重要になっています。

板生||現在取り組んでいるのは、どのようなところなのですか。

軽部||一つは環境問題ですね。

 例えば、藻類というのは空気中のCO2をよく吸収しますが、その能力をバイオテクノロジーで増大させて、CO2を固定する研究をしています。微生物には、空気中のCO2濃度が三〇〜四〇パーセントと高い環境にも適応してしまうものがあって、彼らはCO2を取り込んで炭水化物やタンパク質に変えてしまうのです。CO2からタンパク質が採れるなんて一石二鳥です。

 

産学協同の課題

板生||先生のそうしたお仕事がトップランナーとなって、日本でも九八年に「TLO法(大学等技術移転促進法)」が施行されて以来、大学の研究を産業に橋渡しするTLO(Technology Licensing Organization 技術移転機関)の設立が盛んになってきました。軽部先生が中心になって設立されたCASTI(キャスティ/先端科学技術研究インキュベーションセンター。東京大学先端科学技術センター内に設置され、研究者に代わって特許の出願、新技術の企業への橋渡しなどを行っている)もたいへん好調ですが、日本の大学の研究を社会で役立てていくためにどのような課題があると考えていらっしゃいますか。

軽部||TLOの存在によって、今まで企業側も大学での研究や情報の価値が分からなかったものを、専門のスタッフが研究の内容を説明して企業の求めるものと結びつけてくれたり、研究者の側にとっても、負担になる特許料の設定や出願の手続きをやってくれて、自分たちの研究成果が応用に結びつけられるようになりつつあります。アメリカで産学協同が本格化したのは八〇年以降ですが、その後の九六年までに、大学に一九〇〇のベンチャー企業が生まれ、三兆四〇〇〇億円の収入と二二万人の雇用が産み出されました。

 ただ日本で大きな研究の蓄積をもっている国立大学で、他の事業、団体に関わろうとすると、国家公務員のため制約が多い。

板生||もし先生がアメリカにいらっしゃったら、大学教授をやりながら社長もできて、きっとすごく可能性のある会社になるでしょうね。

軽部||私が別の都市にある研究所の所長をしようとしたことがあるのですが、許可が下りませんでした。所長だと管理責任があるので、私が向こうで何か問題を起こしたときは国が補償をしなくてはいけないとか、健康が心配だとかいろいろな理由がありました。

板生||別の機関の仕事や人材との連携がメリットを生むのですけどね。

軽部||そうなんです。公務員の倫理の問題が言われて、そうした事情は分かるのですが、情報公開法ができて会食もできなくなるのでは、ネットワークづくりもままなりません。

板生||日本の研究者は本当に素晴らしいのに、経済が低迷し、アメリカに負けている。それは結局、個人にビジネスを起こしていく材料や気持ちがあっても、アメリカのようなバックアップシステムがないからではないでしょうか。

軽部||アメリカは、弁護士や会計士やベンチャー企業がワーッと大学に集まってくるといった、後ろ側のネットワークがありますが、日本にはそれがない。

板生||アメリカとの競争力ということで言いますと、日本がアメリカの技術へのただ乗りと批判されて基礎研究に国が力を入れるようになると、今度はアメリカが一生懸命応用をやり始めた。

軽部||どうもアメリカに翻弄されているようなところがありますね。

板生||政府はいま、アメリカのように産学連携を頑張らなくちゃと言っていますが、本当にそれで突っ走って結果がよくなるかはクエスチョンですね。私も実学に近い分野をやっているので産学連携はやりたいほうなのですが、あまり皆を駆り立てると、結局また失敗するのではないかと思います。

軽部||おっしゃるとおりだと思います。大学というのは、知を蓄積して継承していくのが本来で、もちろんその利用も考えていかなくてはいけませんが、全員がビジネスに走るのは危険だと思います。ですから、まったく研究だけやって知的蓄積をはかり、それを次世代に継承してその中で教育していくような先生は、社会還元を考える必要はないのではないか。東京大学のようにパイの大きな大学では、その両方が共存できるのではないかと思います。

板生||いろんなものが共存できるシステムがあって、ある人はビジネスをやりたい、ある人は本当に研究に専念したいと、いろんな選択肢が平等に存在できればいいですね。アメリカなどのように、一週間のうち二日は自分の自由な仕事をしてよいとか、いろいろな選択肢がほしいですね。

軽部||ですから、公務員の身分をもったままの独立行政法人化ではだめなんです。と同時に、非公務員型の独立行政法人化をしつつ、研究費の九〇パーセントは国がきちっと面倒見てくれるかたちが必要です。MIT、ハーバード、さらには私立の大学など、世界的な競争力のある大学は、九〇パーセントは国のお金を使っています。その中で、今言ったように基礎的な研究をやる人もいれば実学をやる人もいるのが大学だと思うのです。

「ゲノム創食」が暮らしと人生を変える

板生||軽部先生は、クローン技術、遺伝子治療、遺伝子組換え食品などの分野にも携わられていますが、そうした技術の可能性をどう思われていますか。

軽部||クローン人間には、生命倫理の問題があるので実現することはないと思いますが、臓器再生などの研究は進んでいくでしょう。少し前に胚性幹細胞(ES細胞)がヒトでつくられるようになりましたが、ES細胞は幹細胞ですので、分化させれば神経細胞、心筋細胞、血液細胞などになります。将来は、臓器や血液がガラス容器のなかでつくられるようになるかもしれません。

 遺伝子治療には、遺伝子が原因で起こる遺伝病やガンの治療が期待されています。ただ、その効果について疑問視する動きもありますし、実際の治療ではインフォームドコンセントや社会的な基準づくりが重要だと思います。

 遺伝子組換え食品については最近、日本でも関心が高まっています。アメリカなどでは、除草剤に強い遺伝子を導入して雑草だけが枯れて作物は影響を受けないようにできるとか、害虫に強い品種や日持ちのするトマトなどがつくられています。

 大豆の場合、アメリカでは遺伝子組換え大豆の作付け面積は五〇パーセントを超えていますから、二つに一つは遺伝子組換えと思ったほうがよいでしょう。一科学者としての私の立場は、現在認可されている遺伝子組換え食品は、事前に充分な安全確認がなされているので大丈夫だと主張しています。もちろん今後遺伝子組換え食品は増えてくるので、その安全確認はとても重要になると思いますが。

板生||私は、産業廃棄物などをエネルギーにしてコストを下げ、天候などに左右されないコントロールされた環境で工業製品のように農作物をつくることができないか考えています。そういう話は昔からあったわけですが、今の技術の進歩はすごくて、コンピュータも小型化し、センサ技術もデータ技術もあるし、コストも下がったので可能なのではないかと。東大大学院農学生命科学研究科の森敏教授は、そうした施設で遺伝子組換えを用いた作物をつくれば、ガンを抑制する野菜、活性酸素を抑制する作用をもつ作物ができるというお話しをされています。今度そのような産学連携プロジェクトを興すために、東京大学FSフォーラムのコーディネイターをやっています。そこでは高機能食品をつくることまで視野に入れています。

軽部||私は「フード・ジェノミクス(ゲノム創食)」というものがあっていいのではと思っているのです。つまり体の中でジェネティカル(遺伝学的)に役に立つ食を設計する。薬の方ではファーマ・ジェノティクス(ゲノム創薬)という、その人の遺伝子に合ったその人個人用の薬をつくるというのがありますが、それをもじった私の造語なんです。

 食品には、一次機能から三次機能まであって、一次機能はうま味とか見てくれ、二次機能はビタミンが豊富とかいった体にいい栄養素。三次機能は、さらに代謝の過程で変化して働く機能で、その人の遺伝子タイプ、体質に合ったものに変化して役立つものを指します。私は、同じものを皆で食べるという時代は過ぎたと思うんです。板生先生と私がいれば、二人はジェノタイプ、つまり遺伝子の型が違うから、それぞれの遺伝子にあったものを食べる。

板生||それは面白い。そのような個食の時代が来そうですね。

軽部||DNAのゲノムにはその人がかかる病気の遺伝情報が入っていますから、その人のなりやすい病気にかからないような食事を摂ることで病気の発生を防ぐことができます。人間は一二〇歳までは生きることができるというのが私の持論ですが、それが可能になると思います。

 そうした研究のために、いま私たちは遺伝子のタイプを分類したり、遺伝子によって体の中のタンパク質がどうつくられているかを調べるチップをつくっています。そのチップを使ってその人の体質を調べられないと、ゲノム創食品はできないんですが、あと三年くらいでマーケットに入ってくるでしょう。

板生||ではバイオセンサをつくるのを先生たちがなさって、高機能野菜をつくる環境は私たちが(笑)。一番最初に成り立つのは病院食でしょうね。

軽部||今、病院ではカロリー計算をしていますが、将来はやはりゲノム創食品になると思いますよ。それと高齢者ですね。

板生||宅配で。

軽部||ゲノム情報さえ与えておけば、宅配で毎日の食事が送られてくる。一人暮らしの人には楽でしょうね。長生きしても病気ではつまりません。やはり元気で長生きしたいですからね。

板生||今日は夢のある、ネイチャーインタフェイス最前線のお話をありがとうございました。

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