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風と香りのインタフェイス -- 松下 温






special feature...03

風と香りのインタフェイス

MATSUSHITA Yutaka

松下温

インターネットで香りを送る

―――この度、インターネット経由で香りを伝えるという画期的な技術を開発されたということで注目を集めていますが、どのような仕組みになっているのでしょうか?

松下|まず、香りを送る側のパソコンに「香り分析器」を取り付け、受け取る側に「香り合成装置」を取り付けます。香り分析器で、送りたい香りがどのような成分で構成されているかを割り出し、分析結果をインターネット経由で相手のパソコンに送信します。すると届いたデータをもとに、合成装置が香りのもととなる成分を合成し、香りを作り出すという仕組みです。たとえば、りんごの画像とともに、香りの情報をインターネット経由で送ると、受けて側はあたかも目の前にりんごがあるかのように感じられるというわけです。

―――なるほど、それは面白いですね。香り分析器、香り合成装置というのは、具体的にどのようなものなのですか?

松下|香り分析器の方は、三菱プレシジョン社製の市販のものを使用しています。従来のガスクロマトグラフを用いた手法では分析に一〜二時間を要していましたが、この匂いセンサの場合、数分で解析することが可能です。匂いの検出器には三二個のセンサが配列されているのですが、このセンサは人間の嗅覚細胞を直接モデルにしていて、匂いを構成する香気成分が付着すると電気抵抗が変化する仕組みになっています。その変化率をグラフ化したものが測定データとなるわけですが、複数の香気成分からなる匂いを、一つの匂いとしてグラフで認識できるのが大きな特徴といえます。

一方、香り合成装置は、一二の香り成分を注入した注射器と、香り成分を注射器からミリグラム単位でろ紙に染み込ませる駆動装置、受信した分析データを駆動装置に伝えるための変換器からなっています。将来的には、注射針方式ではなく、香気成分を霧状に散布する噴霧式にし、より効果的に匂いを発生させたいと思っています。

―――香り分析器で解析されたデータを受けて、合成器の注射針から一二種類の香気成分がろ紙に噴出されて、香りが立ちのぼるというわけですね。この装置によって、あらゆる匂いを再現することが可能なのですか?

松下|いえいえ。この装置はあくまでもりんごの香りを再現するためのものです。そもそも、匂いに含まれる香気成分というのは、一般には四○〜五○万種類もあるといわれています。また、自然界に存在する一つの匂いに含まれる香気成分は、基本的には数十〜数百種類にのぼります。たとえば、りんごの場合、約二五○もの香気成分が同定されています。要するに、匂いを構成する香気成分一つひとつを合成し再現するということは、非常に難しいのです。

 しかし実際には、匂いの専門家であっても識別できる匂いは五千種程度です。一般人だと、せいぜい百〜二百種。りんごについていえば、新鮮な果肉感や青臭さ、しっかりしたボディ感など、一二の香気成分を合成することで、熟成度や品種、個体間の匂いの差を表現することが可能です。

―――実際に、合成された匂いは本物のりんごの匂いに近いものなのでしょうか?

松下|かなり近いですし、品種の違いも再現できます。本物と違う点は、合成装置の注射針には香気成分をエタノールで一○○倍希釈したものが入っていて、そのため多少、エタノールのアルコール臭がすることですね。生のりんごというのは、九九パーセント近くが水なので、エタノールと水の匂いの違いというのはどうしてもあります。ただ、香り分析器で梅干やねぎ、味噌、バナナ、レモンなど、他の食べ物と比較すると、明らかに再現された匂いはりんごの匂いとして認知される結果が出ています。よく、波の音を再現するには、実際の波の音を収録するよりも、ざるで小石を振った方がより近い音が出るといいますけれど、それと同じで、匂いというのもすべての香気成分を取り揃えなくても、十分に再現することが可能だといえるでしょう。

 もちろん、現実世界に存在する匂いは約一万種もあり、それぞれの匂いについて、構成する香気成分は数十から数百あることから、現段階ですべての匂いについて再現することは無理です。しかし、再現する匂いを絞り込めば、匂いを遠隔地に送ることは充分に可能です。まずは日本のフルーツの匂いすべてを再現できるように研究を進めているところです。

仮想空間に匂いがやってくる

―――インターネットで香りを送ることが可能になると、通信販売などさまざまな場面で使用されることが考えられますね。

松下|これまで、人間の五感のうち、視覚、聴覚、触覚に関する情報の伝達は積極的に行われてきましたが、嗅覚、味覚の感覚の伝達はほとんど行われてきませんでした。今後、匂いの伝達が可能になると、仮想空間の実感をより高めることができるようになるでしょうね。たとえば、香気成分をカセットカートリッジに入れて、テレビにとりつければ、匂いつきのCMや匂いつきのドラマなんていうものも可能になります。匂いのカートリッジは交換式になっていて、プリンターの黒インクみたいに、よく使う匂いは大きめなものにするとか。イメージは広がりますね。実際に、エアコンメーカーや自動車メーカー、建材メーカー、プリンターの部品メーカーなどが関心を寄せて見学に訪れています。

―――合成する匂いが少なければ、すぐにでも実現可能な気がしますね。

松下|ええ。私の研究室では、その他に、3DCGで構成した仮想空間に、あらかじめ用意した匂いを提供するシステムを開発しているのですが、これは、パソコンの画面に向かってマウスを操作すれば、仮想空間の中を自由に歩き回ることができるというもので、たとえば森林の中を歩くと木のすがすがしい香りが、バーを歩けばお酒の香りが、仏壇の前で線香をあげれば線香の香りが、女性とすれ違えば香水の香りがするといった具合で、すぐにでもゲーム機などに応用できると思います。匂いの発生には、五つの香りを同時に使用できるエアコンプレッサ方式の芳香発生装置を使っており、芳香発生装置の入力はコンピュータのプリンタポートに接続し、コンピュータにより香りの発生を制御しています。

 さらに、仮想空間への自然なインタラクションの一つとして、パソコンの画面に息を吹きかけると画面上のロウソクの火が揺れたり、消えたりするシステムを開発しています。これは、ユーザーが吹きかけた息が画面で跳ね返り、その風を受風部が受け取り回転することで制御するというもの。先の芳香発生装置を組み合わせれば、ロウソクの炎が消えると同時にロウの香りを発生させることができます。バーチャル誕生日、バーチャル法事なども可能だというわけです。

―――なるほど。仮想空間に嗅覚の情報が取り入れられるのは、もう間近といえそうですね。とても楽しみです。本日はお忙しいところどうもありがとうございました。

松下温[まつした・ゆたか]

1935年東京生まれ。

沖電気工業コンピュータシステム開発本部

ソフトウェア開発第三部長を経て、慶應義塾大学理工学部教授。

マルチメディア通信、コンピュータネットワーク、グループウェア等の研究に従事。

著書に『やさしいLANの知識』(オーム社)、『200X年の世界』(共立出版)など多数。

■リンゴの匂いの再現:実験結果1

■リンゴの匂いの再現:実験結果2

■リンゴの匂いの再現:実験結果3

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