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[NIヒューマンインタビュー] -- 安川 英昭



[NIヒューマン・インタヴュー]

セイコーエプソン株式会社

安川英昭氏

セイコーエプソン株式会社会長

[聞き手]

板生清

本誌監修

安川英昭[やすかわ・ひであき]

一九三一年、北海道小樽市生まれ。

東京大学工学部精密機械工学科卒業。

五五年、諏訪精工舎(現・セイコーエプソン株式会社)入社。

八七年副社長、九一年社長を経て二〇〇一年四月より現職。

九五年、科学技術庁長官賞科学技術功労者表彰。

九六年、藍綬褒章。

趣味はクラシック音楽、オーディオ。

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Human

Interview

板生===安川さんが勉強された頃の東京大学精密機械工学科は、私の頃と違って最優秀の学生が集まったそうですね。しかし私が学科長だった一九九八年から議論を重ねて、二〇〇〇年には「システム創成学科」に改組しました。社会において必要なニーズを汲みとり、一つの専門技術を持つTの字型の人材を育成することをめざしています。

安川===私の頃は、よその学科の科目をとるように奨励されまして、私も、建築学科の丹下建三先生の授業や、金属材料の授業までずいぶんとりましたよ。あの頃は指導教官から半分強制的にやらされたのです。でもそれが会社に大いに役立ちました。

板生===入社してからはずっと諏訪におられるのですか。

安川===入社当時、ちょうど誰か一人二人諏訪に行ってもらえないかと言われまして、私は、北海道の田舎で育ちましたので、それではと言ってそのまま四五年、諏訪にいます。それは結果としてはよかったと思っています。東京じゃないと情報が得られないなんてあれは嘘で、ちょっと離れているほうが本当の情報はたくさん来るんです。東京にいると情報過多ですね。

板生===きちんとした上質な人脈を持っていれば、どこにいても情報は入ってくる。

安川===今は世界が相手で、東京はそのうちのひとつですから。登記上東京に本店をおいてありますが、あまり東京に対しては未練がありません(笑)。

時計の精密加工技術からインクジェットが誕生

板生===私はNTTの研究所で一〇年間ほど、データ通信時代の黎明期に主要情報機器としてのプリンタの研究・開発に携わっていました。当時一秒間に一〇〜二〇字の印字能力で、キーボードプリンタを開発しました。それからワイヤードットプリンタ、インクジェットプリンタへと進みました。その途中で多くの優秀な日本のメカトロメーカーが参画して、一台一〇〇万円もしたプリンタが今では数万円になり、学生でも持てるように技術開発が進んできました。

安川===おかげさまでそうなりました。

 うちの一番初めのプリンタは、タイプライターのようにプラスチックの表面に数字を並べて、そこにデータを入れてハンマで叩いて印字するミニプリンタのようなものでした。次にワイヤードットができ、その次にインクジェットができたのです。

 当初、モノクロのインクジェットを商品化したのは私たちが一番早かったのですが、第二号機を出すまでにもたついて、その間に他社さんに先を越されてしまいました。それで当時の社長から担当を仰せつかったのです。そこで現場を見に行きますと、インク・ノズルをレーザーで開けているのです。しかしレーザーでは正確な穴は開かず、インクが周辺に飛び散ってきれいな絵にならない。また穴の周辺の変質も起こり、例えば時計のルビーベアリングに使っても穴周辺の変質のために、磨耗が大きくなってしまうのです。したがってレーザーでは下穴の加工のみで、さらに仕上げ加工が必要でした。

 私自身は、レーザー加工の限界を知っていたので、そこで時計の技術者を連れてきました。実は、ルビーを使わない安価な時計では、精密加工技術で穴を開けていたのです。今はもっと細い穴になっていますが、当時の二〇〇ミクロンくらいの穴だと、時計の技術者がやったらすぐできた。それでインクジェットを形成する高印字品質のピエゾ技術が確立できたのです。

板生===インクジェットも時計の技術だったのですね。

安川===時計の技術です。それが今、最先端になっているのです。

板生===日本は、そういうマイクロメカトロニクス技術はひじょうに強いので、これこそが日本の戦略技術ですね。

安川===もうひとつ、プリンタでは紙送りが非常に精密でなくてはならない。ギアで送って紙をかませるわけですが、ギアのピッチにムラがありますと送りムラが出ます。しかもそれがひとつだけじゃなくて、連続しますから。そこで役立ったのは、時計で培った一ミクロンの高精度のギア製造法です。

情報機器のルーツは時計にあり

板生===そのようなメカトロニクス技術だけでなく、現在の情報機器の多くの基本技術が時計から出ていますね。

安川===そうです。さらに時計の技術が関わるものに、低電力化があります。こちらは水晶時計の技術ですが、時計は小さくしなくてはいけませんでしたから、ICで超低電力・低電圧にしたことが携帯電話やPDAに生かされてきました。もともと顕微鏡で仕事をしていましたから小さいものは得意で、時計屋さんは半導体の開発にすっと入れたのです。

 それと意外に知られていませんが、最近携帯電話の字が小さくなり、ディスプレイが光って見にくいので無反射にしてほしいという声がありまして、ここに時計の無反射コーティングのカバーガラスを応用しています。時計では仕様条件が過酷ですので一部にしか使われなかったのですが、同じ技術を私どもがつくっているプラスチックメガネレンズの無反射コーティングには使っていました。

板生===お話を伺っていると、時計の技術が、現在の携帯電話やPDAなど情報端末機器のベースにあると言えますね。

安川===ええ。私どもはそう自負しています。したがって時計技術をベースにした将来のマイクロ情報機器、センサー機器などのネイチャーインタフェイス機器が延長線上にあります。

諏訪から世界に発信するもの

板生===もう一つ、御社は環境保全に関して先進的な取り組みを行っていらっしゃいますが、環境についてどのようなお考えをお持ちですか。

安川===環境問題に本気で取り組むようになったのは、やはり長野県の諏訪湖のほとりに会社があったということが、大きな理由だったと思います。諏訪で大きな工場はうちくらいですから、何かあるとすぐにうちが騒がれました。そのようなことがありまして、排水基準が厳しく改正されたときに、それ以上のものをつくろうと、日本でもかなり早い時期にメッキの廃液処理の施設をつくりました。もともと時計は、きれいな環境でなくてはつくれないということもありましたし。

板生===きれいなところだと、人間は汚したくないと思うのでしょうね。

安川===ええ、誰が音頭をとったというわけでもなく、自然とそういうふうになりましたね。

板生===やはり人はきれいなところに住まないとだめですね。ところで環境対策に取り組むことは、経済的にはどうなのでしょうか。いわゆる環境会計については。

安川===一時的には出費になりますけれど、数年後には必ずプラスになります。八八年にフロンレスに取り組んだときにも、結果として数十億に上る費用効果をあげることになりました。決して損ではないのです。

 その時のことで覚えているのは、フロンレスを始めるときにテレビ局が取材に来られて「どういうふうにしてフロンの使用をなくすんですか」と質問されました。その時「それが分かっていればこんなプロジェクトはつくりません。分からないから皆の知恵を集めてやるんです。優秀な人間が大勢いますから、必ずいい知恵を出して問題を解決してもらえると信じています」と答えたのです。それを放送してもらいたかったのですが、答えがないのはダメということらしくて、そこはカットされてしまいました。でも答えがあればやらないんですよね。

板生===本日は時計とマイクロメカトロニクス技術、携帯情報機器や環境問題など、セイコーエプソン社の取り組みと安川さんのお考えを伺い、ネイチャーインタフェイスの世界との関わりが大変深いことがよくわかりました。

 ありがとうございました。

セイコーエプソン社で開発された、

世界最小パッケージサイズの音叉型水晶振動子

FC-135(左)と FC-145(右)

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