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繋ぐものとして ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 -- 中下 裕子


Interview

NIreport

[インタヴュー]

繋ぐものとして

「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」事務局長中下裕子氏に聞く

環境汚染の危機が叫ばれて久しい今日。

しかし、状況はにわかに好転する様相ではない。

何がどのようにして、人体、あるいは生態系、ひいては地球環境に悪影響を及ぼしているのか、

依然として現在も各分野の専門家たちが事細かに調査している段階にある。

市民レベルに対する行政サイドの指針もけっして明確ではなく、

刻々と募る不安を前にして、果たして一般市民はどのように自らの生活を守っていけるのか。

「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」は、

まさにこうした環境に対する危機管理の暗中模索の中で生まれた。

有志女性弁護士の勉強会に始まったこのNGOは、

現在にいたるまで、環境問題に危機感を募らせる市民有志や各分野の専門家を交え、

着々と国政と市民を繋ぐかけ橋となりつつある。

NGO「国民会議」誕生の経緯とこれまでの活動、そして今後の行方について、

事務局長、中下裕子さんにお話を伺った。

『奪われし未来』の衝撃から

「有志女性弁護士の勉強会で、ある時、環境汚染を告発した『奪われし未来』(シーア・コルボーン、ダイアン・ダマノスキ他著)を読んだのが、そもそもきっかけでした。みんな背筋の凍る思いでこの本を読み終えたんです」。一九九八年九月一七日に発足した「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」の機動力はこうして生まれた。『奪われし未来』とは、科学が飛躍的に発達した今世紀、地球環境の激変に伴い、ダイオキシンやPCBなどの合成化学物質が過去半世紀の間に、食品添加物や肥料、薬品や廃棄物、時に化学兵器として大量にばらまかれ、それが人間のみならず地球の生態系システムにいかに有害に作用したかを描いている名著である。その中では、結果として子供を産み育てなくなった動物、激減する人間の精子などが報告され、現在のみならず子孫が生きる未来への警告が、科学的データや観察記録に基づいて発せられている。

こうした実際の報告を目の前に、何もせず手をこまねいていられるのか。思えば最近周りでは、アトピーやアレルギーに苦しむ子どもや、乳ガン、子宮ガン、前立腺ガン、子宮内膜症など、生殖機能を脅かす病に苦しむ女性が増えている。これらはおしなべて環境ホルモンが原因のひとつではないかと思われる疾患である。因果関係が科学的に解明されるのを待ってはいられない。過去にも化学物質が環境を破壊し、人体、生態系に甚大な悪影響を及ぼした問題は、水俣病、薬害エイズ問題等々枚挙に暇がない。そしてその時も対応は遅れたのだ。結局悲劇的結果を目の前に、過ちをただ嘆かざるを得なかったことは事実である。早期に察知し、声をあげ、解決策が迅速に打ち出されていたならば、被害は間違いなく減少したに違いない。いま何かをしなければ、手遅れになってしまう。――おのずと共有された危機感から、まずは有志一五八名の女性弁護士が集った。

学際的メンバーと市民の参加

彼女たちが次にとった行動は、各分野の専門家に協力を求めることであった。法律家だけでは何もできないと判断したからだ。汚染の原因とみなされる化学物質については、まず、科学者の専門的知識が必要となる。また環境の問題は、社会システムの問題、人々の価値観に関わる問題をも含んでくる。おのずと経済学者、哲学者、作家、医者と、一つのジャンルではなく学際的な専門家の協力が必要となる。各分野の専門家に声をかけ、結果、五〇人が趣旨に賛成し発起人を引き受けてくれた。さらにこれまで個々でダイオキシン・環境ホルモン問題に取り組んできた一般市民の参加をもって、「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」は一四〇〇人という参加者を持つにいたる。

犠牲者が生まれてから規制するという、つねに対策が後追いの形でしかなされてこなかった経緯を踏まえ、国民が主権者として早期に政策を考えていく。この役割において今や学際的メンバーと市民の叡智による「国民会議」は成果を出しつづけている。化学物質については、市場に出す段階で一応のチェックはされているものの、被害がわかってから規制をかけるという構造は以前のままだ。そこでまずは予防原則にたって政策を考える重要性を政府に呼びかけ、世界的に見ても相当に遅れている日本のダイオキシン汚染対策に対して、市民の意見、専門家の見解を総合し、データを踏まえた上で、反対を唱えるだけではない具体的な対案を提示してきた。

四回に渡る具体的政策の提案

[ダイオキシン類緊急対策第一次提言]

設立の翌年一九九九年二月。政府に対する最初の提言。日本のダイオキシン汚染の現状を訴えるとともに、日本政府のダイオキシン対策に対して、緊急措置としての特別立法を要求。また、その立案を可能にするための組織体制の整備に関する提案では、内閣総理大臣直属の緊急対策本部の設置と、縦割り行政ではない、住民の参加を交えた総合的な調査・研究が可能となる体制作りを要求。同時に、ダイオキシン類の耐容一日摂取量の一〇ピコを一ピコに下げるべきとする提案や、土壌地下水汚染の防止・浄化に関する法案等、対策の骨組みとなる包括的なダイオキシン法の設置を提言。

[第二次提言]

これまでに集積されたデータをもとに、実際に人体にどのような影響があるのか報告するとともに、影響が最も危ぶまれる母体、母乳汚染についての対策提言と食品汚染に対する対策を提言。母乳に関しては本人が希望すれば安価な費用で検査が受けられるシステムや検査結果後のカウンセリング体制整備なども提案。また、食事制限により母乳のダイオキシン類汚染濃度が減ったというドイツでの報告なども踏まえ、食事指導体制の必要性を提言。

[第三次提言]

素材対策、農薬対策に関する提言。焼却炉、排水の出口における汚染物質濃度の規制だけでなく、生産活動において汚染物質の使用・製造を規制する必要性を提案。消費者運動により塩ビを使ってないものが出回るようになり、すでに代替品があるものは徐々に取って代わられているが、最終的に法律化するよう提案。

[第四次提言]

循環型社会基本法の制定に関する立法提案。一部限定の家電リサイクル法の不完全性を指摘。生産者にリサイクル費用を内部化させる拡大生産者責任の徹底化を提言。

NGO「国民会議」の可能性

以上の三回にわたるダイオキシン緊急対策提言のうち第一次提言に関しては、まずまずの成果をあげることができたという。関係閣僚会議が設置され、ダイオキシン対策の強化という方向に政府を導いたのだ。耐容一日摂取量も一ピコとはいかないまでも、一応四ピコまでは下げられ、多くの問題点は残るものの、総合的包括的なダイオキシン対策法も制定されるにいたっている。汚染調査の精度管理も徐々になされつつあり、土壌地下水汚染に関する法律も検討されつつある。また「生態系保全に係る化学物質審査規制検討会」に、NGO代表として「国民会議」が参加することになった。

「専門家と市民が協力しあって政府に政策の提言をした結果、これまで市民の意見が取り入れられなかった行政レベルに、少しずつその声が届きつつあります。政府だけ、市民だけではできない社会的な合意形成を担う役割を果たしてゆきたい」と言う中下氏。繋ぐ役割としてのNGO「国民会議」の可能性はますます広がるだろう。また今後はNGOでの活躍が求められている自然保護の人々とも連携を組み、「生態系の保全」という枠組みの中で、目に見える美しい自然が、目に見えない化学物質の汚染に脅かされている現実を浮き彫りにしていきたいと言う。汚染と破壊の進む自然を前に、科学が先導してきた社会のあり方自体を考え直す、その役割を、NGOだからこそできる透明で公正な視点から展開してゆくことが期待される。

中下裕子[なかした・ゆうこ]

1953年大阪府大阪市生まれ。弁護士。

従軍慰安婦、女性の賃金差別、環境ホルモン問題などを手掛ける。

ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議事務局長。

『“奪われし”未来を取り戻せ――有害化学物質対策――NGOの提案』(リム出版新社)、

『セクシュアル・ハラスメント』(有斐閣)、『賃金の男女是正をめざして』(岩波ブックレット)などの共著書がある。

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