NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.05 の目次 > P72-75 [English]

人こそ無限の資源! ゼロエミッション変える社会・組織・人 -- 鵜浦 真紗子



Interview

[インタヴュー]

人こそ無限の資源!ゼロエミッションが変える社会・組織・人

国連大学高等研究所鵜浦真紗子氏

企業、自治体などで取り組みの増えているゼロエミッション事業(本誌創刊四号六〇ページにて紹介)。

循環型社会を築く方途としてのゼロエミッション構想は、どのようにして生まれ、何をめざすのだろうか? 

構想の立案者の一人で、日本における活動の中心を担う鵜浦真紗子氏に聞いた。

鵜浦真紗子[うのうら・まさこ]

1955年東京生まれ。高校在学中にアメリカ、国際基督教大学在学中にフィリピン留学。

青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程修了。

20代でローマ・クラブの創設者アウレリオ・ペッチェー氏と出会い、その生き方と世界観に影響を受ける。

外資系民間企業、労働省外郭研究団体、財団法人今日庵等を経て、94年より国際連合大学に所属し、

国連大学「ゼロエミッション」研究構想の立ち上げから参加。産業界・中央官庁・自治体を結ぶパイプ役として日本での推進役を務め、

プロジェクト運営並びに研修、講演活動等を行っている。

ゼロエミッション関連の様々な委員会メンバーを歴任、99年より同構想プロジェクトマネージャー。

http://www.ias.unu.edu

―――鵜浦さんは、どのようなきっかけでゼロエミッション構想[*]に携わるようになったのですか?

鵜浦|今ふりかえってみると学生時代のフィリピン留学です。帰国して日本に進出してきたマクドナルド一号店に行ったとき、食べてすぐに捨てられる紙袋とハンバーガーケースのゴミの量にあ然。それからアジア地域では水がとても貴重ですが、生水はお腹を壊すのでほとんど飲みませんでした。ところが、日本では安全なお冷やがどこでも出てきます。帰国直後の最大のカルチャーショックは、まさに安全な水のありがたさでした。

 それから学生時代にローマ・クラブが警鐘した『成長の限界』を読んで、この地球の「資源が有限だ」ということに衝撃を受けたことがさらに大きく影響しています。実はその後、八〇年代前半に創立者アウレリオ・ペッチェーさん(オリベッティ社副社長)、大来佐武郎さん、茅陽一先生など日本のローマクラブのメンバーの方たちが、二十一世紀のローマ・クラブを担うジュニア版を養成しようと、ペッチェー氏のもとに世界中から若手を集めたのですが、その中に、九四年からゼロエミッションを一緒に立ち上げたベルギーの起業家、グンター・パウリと私は参加していたのです。

 そしてもう一つ、今日の活動に携わるきっかけを与えたのが京都です。私は日本の伝統文化の真髄といわれる裏千家で七年間ほど仕事をしておりました。そこでの暮らしの中に、自然と共生する環境というものを沸々と感じさせる原点を垣間見ました。京都では、季節感すなわち四季を肌で感じる。緑が鮮やかで、食べ物、住まい、着るもの、ふだんの生活そのものが自然体です。決して華美ではないけれど扱う素材が天然であり、食材そのものがおいしい。やはり日本文化はここにありきと感動いたしました。しかも職場で毎日接していた茶道や茶会席の懐石の作法の中に、日本人の「もったいない」という精神、ものを慈しんで材料をきちっと使い切る所作や心意気、美しい姿が現れています。実に粋な文化でした。そこで、九四年三月にパウリが国連大学で、鵜浦も参加してゼロエミッションを一緒にやろうと誘われたとき、ピーンと稲妻のような直感が走りました。

ゼロエミッションが変える組織とコミュニケーション

―――ゼロエミッション構想は、最初から産業界を巻き込んだ環境への取り組みを構想されていたところがユニークだと思いますが、どういった経過を経てこのヴィジョンが生まれたのですか?

鵜浦|構想の中心的存在、グンター・パウリは起業家精神が旺盛で、故国のベルギーでも植物性石鹸の会社を経営したり、ビール製造で出る廃棄物を新しい雇用に結び付けるなど、発想がつねに斬新でした。それらの経験を生かして、国連大学に基本構想を提案してきたのです。一企業人としてビジネスチャンスを狙うことも充分可能でしたでしょう。しかし、そこにはむしろペッチェーさんから薫陶を受けた「人類に貢献する」という奉仕精神がオーラのように感じられましたね。

 当時、国連大学では九二年のリオの環境サミットで出された「アジェンダ21」の行動計画を実施すべくさまざまな議論がなされていました。当時の学長グルグリーノ教授は物理学者でありながらビジネス感覚があり、彼のセンスとパウリとの出会いが運命的であったようです。それからパウリの類まれな先見性を見出した、当時の副学長代行のデラセンタ教授がプロジェクト開始にこぎつけて、多国籍四人でこのプロジェクトを立ち上げたのです(私もパウリも学界ではなく民間畑出身で、当時は物議をかもすほどの起用だったのですが)。

―――従来の環境保全や研究対象とは根本的に発想が違っていたわけですね。

鵜浦|そう。環境問題で加害者になりがちなのはやはり産業界ですよね。でも、だからこそ企業にリーダーシップを発揮してもらおうと心から期待しました。スタートさせて三カ月間、五〇社くらいの企業を対象に、電話調査や実際に各社を回って歩き、もちろん門前払いのところや、ビール業界のように「どうぞどうぞ」とお会いくださった企業もたくさんありました。さらに、日本の場合、産業界は政府の政策面の後押しがなくては事業が振興しにくいのではないかという仮説のもとに、旧通産省の基礎産業局に挑戦したのです。そのこころは、廃棄物としての資源ではなくて、再生資源やマテリアルとしての廃棄物に関心があったのです。したがって廃棄物対策課ではなく、基礎産業局でした。当時の局長は頭脳明晰な方で、即断即決でいろいろな産業界とのパイプをつないでくださった。さらに省内では米州課に担当を決めていただき、その結果、当時のクリントン政権が環境政策に熱心でしたから、日米の環境政策議論のなかに日本政府として見解が盛り込まれました。そうしたなかで、後に環境立地政策課を窓口として正式に通産省のエコ・タウン構想[**]が生まれ、さらに九七年COP3京都会議が開かれるなど時流の後押しもあって、予想を越えて、日本でのゼロエミッションの輪が急速に広がりを見せました。

―――海外でのゼロエミッションの展開は?

鵜浦|当初、環境先進国としての欧州ではすでに法的な措置やいろいろな取り組みがあり、賛同するけれど実際に取り入れようというところは一部でした。国連大学としてはむしろ、発展途上国の環境にも貢献、寄与するというミッションのもとに、アフリカやフィジーでは、ビールの醸造のゼロエミッションモデルの実験を積極的に進め、参加したり、国営会社を稼動させました。途上国では雇用創出のためのコンセプトとして受け入れられたというのが私の印象です。

 先日、天津市からゼロエミッション型街づくりをしたいという要請があり、ゼロエミッションフォーラムの産業界のメンバーの使節団が意見交換に行く予定です。天津市などが取り組んでくれると、これからのアジアの発展に大きく影響するのではないでしょうか。大いに期待してます。

―――ゼロエミッションを進められていて、産業や行政にどのような課題があると思われますか。

鵜浦|日本では当初、廃棄物対策という発想が強かったのですが、ゼロエミッションはある産業の排出物が他の産業の資源になる仕組みですから、産業どうしの情報公開やネットワークが必須です。同時に、私は、自治体とか中央官庁がゼロエミッション的な発想になってくれると嬉しいなと思っています。現在の行政組織は局や課といった組織、すなわち縦割りで、末端のセクションの連携がありません。ゼロエミッションの発想でいくと、各省庁もデセントラライズされて、ピラミッド的な構造からネットワーク的な機構に変わっていく。そうなると、組織全体の仕組みがずっと円滑になるのではないでしょうか。

 その際役に立つ技術が、実はITだと思うのです。各セクションで持っている情報を皆で共有し、いろいろな専門家がネットワークしていく。例えば、六つのエコタウンを実施しようとしている岩手県では、ゼロエミッション推進委員会という名の下に、各セクションの代表が任意で参加して、クロスセクショナリズムな情報公開・情報交換を定期的に始めているんです。同時に、この県とNTTと国連大学高等研究所が共同で環境教育の一環としての環境情報をわかりやすく県民に発信する実験を行っています。

地域発、マニュアルのないゼロエミッション

―――政府から補助金が出されることもあって、多くの自治体でエコタウン構想などが進んでいますが、各地の取り組みをどう思われますか。

鵜浦|必要なのは地域のオリジナリティではないかと思います。地域が違えば、当然環境も、扱っている資源も廃棄物も違ってくるわけですから、ゼロエミッションというのはマニュアルがありながらないようなものなんです。基本概念や定義にこだわる必要はないのでは。廃棄物を循環させて、雇用創出と新産業を作って行く過程で、結果的には廃棄物もなくなるシステムとしてガイドラインはありますが、在り方をどう創造するかは、個々の主体が発揮されるところではないでしょうか。不要資源はこの企業で回収応用できるね、といった循環を繰り返していくこと自体、常に変化していくものだから、こうあるべきという発想を越えなければならないでしょう。

―――今創られつつあるエコタウンなども、一つの 容 であって、さらに進歩し変わっていくと。

鵜浦|変わっていくでしょう。現在のゼロエミッションは、ややもするとリサイクルの延長に終わっているようです。リサイクルの重要性は決して否定しませんが、後追いで、常に廃棄物に支配されているような気がします。ゼロエミッションでは新産業の創出としてのエコビジネス・雇用があって完成といえるでしょうか。コミュニティ興しですよね。それと、廃棄物ゼロを目指す企業が相次いでございますが、素晴らしいことです。そこで、企業のゼロエミッション達成後は、住民参加や自治体が連携しあってなにかができる、きっとゼロエミッション型コミュニティ事例になると考えています。現在のところ、青写真の段階が多いと思います、地域性を挙げれば、沖縄の琉球ガラスの廃材を使って建材を作ろうとしている女性のグループや会社があるのですが、地方のそうした特徴のあるゼロエミッションに私は注目しています。

―――地方では人材も限られていて、他でやっているのを真似するしかないという自治体もありますが。

鵜浦|最近は環境に関してユニークな発想を持つ知事さんが大勢いらっしゃいます。

 ただ一つ、地方自治体のネックは税金を守るというスタンスで仕事をしているでしょう。この税金でビジネスを興して住民に還元するというスタンスに変わったら、インセンティブが高まるんじゃないかしら。役所的な効率とか経費節減もいいのですが、自治体はもっと経営感覚が必要ではないでしょうか。もちろんリスクもあるので住民のコンセンサス、合意形成が鍵ですが。

―――日本のゼロエミッションが成功するためには、ほかに何が必要でしょう。

鵜浦|やはり情報開示だと思います。常に風通しをよくしておくことと、コミュニケーションをすることが必要です。日本人はプレゼンテーション能力開発やスキルがますます必要ですね。沈黙は美徳の世界は終わりました。話してみると「なんだそんなことか」という例は多いのです。だからインターネットだけでなく、企業対企業、自治体対企業、住民対自治体というように、フェイス・トゥ・フェイスな双方向のコミュニケーションができる環境に変えていかないと、解決に相当の時間を費やします。

―――皆で話して始めたことなら、皆で責任もとれる。

鵜浦|そうです。少々時間はかかっても、お互いの意志疎通に日本人は時間をかけた方がいいのではないでしょうか。残念ながらそういう訓練は少ないんです。お互いに立場をわきまえながらも、意見交換を当たり前のようにやってもらいたいのです。民主主義の国で、これから環の国を目指しているのですから!

文化の顔のある技術へ

―――産業界以外にも市民レベルでのゼロエミッションの活動が行われていますが、国連大学のなかでの位置づけは。

鵜浦|すばらしいと思います。現在のゼロエミッションフォーラムは産業界を中心とする、学界、自治体ですので、今後、NGOや個々の住民活動に接する機会をこれから大いに期待いたします。

 個人的なレベルでは、古都の暮らしのような日本的なもの造り、エコデザインにかなった衣・食・住の世界を発信したい。これは女性のセンスも発揮できるでしょう。今はまだ産業界と始めたばかりなので、そこまでいかないのですが。

―――京都に代表される日本の暮らしは、巧みに人手が入った自然の上手な使い方だと思いますが、暮らしや芸術文化を含んだゼロエミッションにしたい……。

鵜浦|企業人も主婦も子どもも、生活者という視点で共有できるゼロエミッションが夢です。日本人は器用だし、文化に対する造詣も深く、芸術的な蓄積もあるわけですから。そうした思想・文化的側面は、教育や思想家に任せて、技術立国としての日本をもっと証明するのが優先であるべきだという議論もありますが、さまざまな角度からきっとゼロエミッションも洗練されていくのでしょう。

―――日本のゼロエミッションが海外貢献にとって重要だと言われていますが。

鵜浦|私は近隣国のアジアなど途上国にゼロエミッションモデル提案していくことが、ODAの新しいスタイルになると考えています。日本企業はどんどん海外に出て、今後アジアが経済発展をしながら日本のような間違いをしないですむ方法――ゼロエミッションの工業団地やゼロエミッション型のコミュニティを、現地の人と一緒に作っていくことが可能だと思います。

 その意味で今やっている工業団地は、非常に重要なんです。たとえば沖縄のゼロエミッションは、東南アジアと条件が近い。中国などの寒冷地には北海道や東北でやるゼロエミッションが使えるんじゃないか。また川崎の場合は重工業の最先端型工業団地がゼロエミッション型になる事例として活用できる。私は川崎をはじめ一つ一つの事例から目が離せません。日本での取り組みを始めるとき、海外の事例というのをあまり意識しなかったのですが、それは公害問題から得た教訓が日本にはある。だからこそ、日本発にしようと。

 ここ数年、海外に出かけて訪問企業や地域の環境事例を学びながら、日本の企業自治体の取り組みを紹介する、双方向の形での環境先進事例交流会を展開しています。参加業界も多く、通信、鉄鋼、セメント、家電、食品なと一企業ではなかなか入手できないほどの情報量を得て、しかも個々の企業の得意技を発揮しながらの交流です。国連大学が仲人役になって企業のベストプラクティスをぶつけ合い、学び、そこから別の解決法を見出して行くのです。

人の資源は無限

―――ゼロエミッションで全国をまわられて、どんな発見がありましたか?

鵜浦|私はあらゆる活動の原点にコミュニケーションの重要性を意識しており、有効かつ必要であると信じています。さらに、人の個性や奇抜なアイデアに関心があります。それはゼロエミッションでも同様で、アイディアの広がりがすごいんです。いろんな議論やテーマが沸々と沸いてきてしまうのですが、やはり人という資源ほど偉大なものはない、というのが私の結論めいたものです。今日も、神奈川県の内陸工業団地をゼロエミッションにしたいという団体の皆様方が来られました。ゼロエミッションの関係者に共通して言えることは、研究熱心であり、ものすごく情熱に溢れた人材であることと、果てしない夢を追いかけて地球的男のロマンを描く人たちです(それでは女性はどのような反応かというと、客観的に見てより現実派です)。

―――資源は有限だけれども、人という資源は無限である。

鵜浦|その通りです。つまり大学教授だからまともな理論で、スーパーのおばさんだから違うのではありません。人間が持つアイデアの無限性に触れるたびに、私は環境問題も本当に心から楽しんで関わることができる。例えば、一面的に先端技術だけで環境問題を解決しようとするならば、それは大きな間違いだと思います。

 それから自治体、学界や産業界でゼロエミッションを実現するために合意形成というものをどう作っていくかが、今後の大きな課題と思います。ときどき立場が違うと喋っている言語が全然違うんですよ。その間をつなぐコミュニケーターというものを日本はどんどん養成していかなくてはいけない。そういう機能は残念ながらあまり得意ではないですね、日本人は。最近、IT技術のお陰で、直接的な交渉の苦手な人たちも突如、間接的に会話を交わすようになったけれども、直接会って意思疎通を円滑にすることも非常に重要な側面です。ゼロエミッションの課題でもあるのですが、人と人とが大いに出逢って、議論を重ね情熱と情熱がぶつかり合って、結果として融合するのです。

 廃棄物が再生資源として活かされて産業になることをゼロエミッションでは、インダストリアルクラスター(産業の集団化)といいますが、まさにこれらが二十一世紀の持続可能な社会や人々の姿の一部となれば幸いです。

[二〇〇一年八月一八日 東京青山にて]

*――国連大学「ゼロエミッション」研究構想

(UNU/ZERI: Zero Emission Research Initiative)

九四年、国連大学で立ち上げられた構想で、食物連鎖などの自然生態系をモデルに、産業などによって生まれた廃棄物を他の産業の資源、エネルギーとして利用し、最終的に廃棄物(エミッション)ゼロを目指すもの。同時に新たな地域の産業、雇用の創出も目指されている。

** ――エコ・タウン事業

九七年、旧通産省が旧厚生省と連携して設立したゼロエミッションへの支援制度(現在は経済産業省と環境省の共同承認)。工業団地などで産業同士や地域の連携により廃棄物のリサイクル、廃棄物による発電などを行う事業が対象となる。都道府県または制令指定都市がエコタウンプランを作成し、承認を受けるとその中核施設について二分の一の支援を受けることができる。二〇〇一年九月現在で、全国十三地域が指定を受けた。

左:94年7月、ゼロエミッション構想の立ち上げとなった第1回構想発表会にて。

左からグンター・パウリ氏、下河辺淳氏(東京海上研究所理事長)、グルグリーノ国連大学学長、デラセンタ同副学長代理。

NIreport

Interview

natureinterface

#...

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/08/21