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NI科学技術メディア時評


NI report

【NI科学技術メディア時評】

やっぱり教育は大切だ

――突きつけられた課題の焦点

「二〇〇二年文部科学省新学習指導要領」「国立大学の統合・再編による削減」「トップ三〇への重点投資」といった、

トップダウンの教育改革が進められている。

こんなときこそ求められるのが、現実と理想をともに忘れない、地に足のついた議論であり、それに基づく政策だ。

では、現実はどこまで明らかにされ共有されているのだろうか、

生き残りのための数あわせや内部調整のために理想が置き去りにされていないだろうか。

この視点からみると、初等中等教育では、理念としては有効なはずの改革が現実にはとくに科学教育に危機をもたらしていることが、

この間の議論から明らかなことがわかる。

また、高等教育改革でも、理念の確立とその実現が制度の変更に追いついていない。

だからこそ、地に足のついた議論が不可欠だ。

 一室に集められた全国の国立大学学長を前に、文部科学省官僚が発破をかけるために使われているつぎのようなデータをご存じだろうか。

 スイスの民間研究機関IMD(International Institute for Management Development;国際経営開発研究所)による「世界競争力ランキング」の大学教育の評価結果によれば、世界四九カ国の企業人などが自国の大学教育を六段階評価した平均をみると、日本は、1イスラエル、2フィンランド、3アイルランド、4シンガポール、5アメリカ、6アイスランド、7ベルギー、……45イタリア、46タイ、47韓国、48ルクセンブルグ、ときて最下位の四九位なのだという。日本の大学教育が世界で最も自国の企業人に評価されていないことを(主観的にだが)示すデータだ。

深刻な

「二〇〇二年新学習指導要領」問題

 批判は期待の裏返しだともいわれる。国政選挙では、各政党が教育の充実を(具体的でないことが多いものの)政策に掲げ、全会一致で一九九五年に成立した科学技術基本法でも、『科学技術創造立国』に向け、科学教育の重要性がうたわれている。では、小学校から大学・大学院にいたる日本の教育は、そういった期待に応える変化をしているのだろうか。とくに科学教育についてみてみよう。

 二〇〇二年文部科学省学習指導要領では、全員が一〇〇点をとれるように内容が三割削減され、新たに総合的学習の時間が導入される。その有力な根拠のひとつとされるのは、愛知県東浦町立緒川小学校などで実施された、総合性を取り入れた学習成果について、卒業生が大学進学にいたるまでの長期的な追跡調査だ(例えば、奈須正裕による調査結果が、文献(3)(4)に収録)。

 緒川小学校のこどもたちには、従来までの体系的な知識積み上げの学習を徹底するとともに、それに結びついた総合的な学習で個別の知識の意味を考え、その使い方を身につける。それによって体系的な知識の積み上げへの意欲も増し、応用力も高まるというよい循環がおこったのだ。ここから、体系的な学習を深めた上で、総合的な学習に上手に連結させることの大切さがみえてくる。反対に、体系的な積み上げが不十分なまま、教科とのつながりの薄い総合学習が進められると、最悪の事態となる。

 二〇〇二年新学習指導要領は、そのやり方をトップダウンで全国展開しようというものだ。では、現場では何がおこっているのか。関東のある中学校では、新学習指導要領への移行措置のため、午後の授業は、専門科目の異なる各担任が指導して学年全体で同一テーマの総合的学習の時間に取り組むことになった。そのために、誰もが指導できるという条件によって、理科は遠ざけられることになるという。イオンや進化といった基本的な内容が中学校の理科から高校の選択理科に移り、総合学習でも理科的視点は少ないとなると、科学教育では、ほんとうに最悪の事態を招くことになる。

 教育課程審議会で決められた、二〇〇二年新学習指導要領の流れは、すでにその前に中央教育審議会によって定められていた。ところが、中央教育審議会の会長(一九九五〜九八年)を経て、文部大臣を務め(九八年七月〜九九年一〇月)、こうした路線を押し進めてき有馬朗人参議院議員は、総合誌『論座』九月号において、ついに、このままでは理数力の崩壊は避けがたいので、総合的学習の時間は教科学習、できれば理数で使うべきだと、提言するにいたった。本格的な実施を前にして、これほどまでに問題点が明らかになった学習指導要領は初めてだ。

高学歴を生かす社会のための

大学教育改革を

 大学進学率が五〇%に近づき、大学院進学者が増え続け、「ユニバーサル時代」を迎えた高等教育は、期待に応えられるだろうか。

 この一〇年間の大きな変化は、教養部解体による専門教育の重視と大学院重点化による大学院への高等教育の比重のシフトだ。文部科学省がおこなってきた「民間企業の研究活動に関する調査」によれば、博士取得者が最も評価されているのは「専門分野における知識や経験が研究現場を活性化させた」であり、博士取得者採用のマイナス要因のトップが「専門分野でない分野への対応」だという(『科学技術白書』二〇〇一から)。専門家養成に偏っているといわれる日本の状況が、ここに現われているといえる。

 こうしたことから、専門の能力を高めることに成功しているが、専門を離れた分野や一般的な分野での力量不足の克服が課題であることがみえてくる。

 しかし、思い出してみたい。理工系教育を受けたことによる到達点―問題をみいだし、自らのデータや理論構築で解決し、日本語や英語などでそれを伝えるコミュニケーション能力を身につける―は、じつは一般的でつぶしの利くものなのではないだろうか。

 最近の国際比較の結果をみても、日本の研究者のレベルは確実に高まっていることがわかる。理工系の高等教育の改革は、まず、その到達点がもつ社会的な有効性を「再発見」することから始まるのではないだろうか。

林 衛(ユニバーサルデザイン総合研究所主席研究員、兼本誌副編集長)

関連の本・雑誌 ※価格はいずれも本体価格です

【学力低下とその克服のために】

(1)左巻建男編著:「理数力」崩壊―日本人の学力はどこまで落ちるのか 日本実業出版社(2001)1400円

教育現場の実状に最も近い、教師や研究者による迫真の問題提起であり、現実的な解決策の提言も興味深い。

(2)文藝春秋編:教育の論点 文藝春秋(2001)1381円

著名人による核心をついた持論が並ぶ。多くは、2002年新学習指導要領に批判的。

(3)左巻建男・苅谷剛彦編:理科・数学教育の危機と再生 岩波書店(2001)3000円

なぜ、科学を学ぶのか。原点から学力低下の問題点を明らかにする。

(4)加藤幸次・高浦勝義編著:学力低下論批判―子どもが“生きる”学力とは何か 黎明書房(2001)本体2600円

総合的学習の時間導入の根拠が示される。タイトルどおり「学力低下論批判」がねらいだが、理念は正しくとも実際の改革が悪い結果に終わることを危惧する意見もみられる。

【教育・大学改革はどうあるべきか】

(5)西村和雄編著:教育が危ない

1学力低下が国を滅ぼす、同2ゆとりを奪った「ゆとり教育」、同3本当に生きる力を与える教育とは いずれも日本経済新聞社(2001)1は1500円、2、3は1600円

大学生の学力低下をデータで実証するとともに、成功する改革の道筋を提言。

(6)日本経済新聞社編:教育を問う 日本経済新聞社(2001)1400円

総勢22人の記者が内外の状況を丹念に取材していて、深刻な状況がよくわかる。

(7)天野郁夫:大学に教育改革を 

有信堂(1997)2000円

刊行後しばらくたっているが、大学教育に突きつけられた課題はいまも変わらない。

(8)科学技術白書(2001)

今年のテーマは「我が国の科学技術の想像力」。

(9)青木昌彦・澤昭裕・大東道郎・『通産研究レビュー』編集委員会編:大学改革―課題と争点 東洋経済新報社(2001)3800円

産業政策において大学に課せられた期待がみえる。海外の識者による、権威に対して批判的な大学院生の存在や不満を自由に表現できる環境の重要性の指摘も興味深い。

(10)科学10月号、特集「大学改革はどこへ向かうのか?」岩波書店(2001)

大学人自らが改革の方向性を語る。

【いま話題の、楽しい実験で

科学の本質に迫る本】

(11)江沢洋・東京物理サークル編:物理なぜなぜ事典1―力学から相対論まで 日本評論社(2000)2500円

(12)江沢洋・東京物理サークル編:物理なぜなぜ事典2―場の理論から宇宙まで 日本評論社(2000)2500円

(13)滝川洋二編著・押田J・O絵:ガリレオ工房の科学あそび―家族そろって楽しめる新ワザ70選 実教出版(2000)950円

(14)愛知・岐阜・三重物理サークル編著:いきいき物理わくわく実験2 新生出版(1999)2000円、現在入手困難。

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