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NI科学教育刷新計画 -- 滝川 洋二



NI report

【NI科学教育刷新計画】

科学教育の暑い夏から秋の陣へ

滝川洋二氏インタビュー

「理科離れ」という言葉が叫ばれるようになってから久しい。

日本人科学者の独創性をいかに高めるか、大学生の学力低下にどう対処するか、市民の力によって本当に必要な科学をどう表現するのかなど、

将来を見据えていくために日本は今、大きな課題を突きつけられている。

しかし、戦後日本は、科学技術立国という目標を掲げ、「科学」を源泉としてモノをつくることにより、

世界有数の工業経済国にまで成長・発展してきたのも事実である。

こうした状況において、科学教育の現場で行われているさまざまな試みや科学の将来について、

国際基督教大学高校で教鞭を執りながら、日本中を回って科学の楽しさを子供たちに伝えている、中学・高校教師を中心とする科学教育サークル

「ガリレオ工房」の代表を務める滝川洋二氏に聞いた。

科学の楽しさを伝えるために

‥‥‥今年の夏休みも、各地で数多くの科学イベントが行われたそうですが、滝川先生はどのような活動に参加されたのですか。

滝川|国内だけでなく韓国での実験イベントや物理教育国際会議にも参加したのですが、応用物理学会の福岡支部で開かれた「リフレッシュ理科教室」が始まりでした。一日目は先生を対象に、二日目はその先生が子どもを対象に実験を紹介する試みでした。子どもたち約二百人が参加しました。

 それから、今年で十回目を迎えた科学技術館(東京)の「青少年のための科学の祭典全国大会」に、実行委員長としてほぼつきっきりでした。科学技術館には五日間で六万人の来場者があり、今年も、かなりの盛況だったように思います。前半と後半で出展内容を変えたので毎日来ても見飽きないほどの豊富な内容でした。計約二百あるそれぞれのブースで先生や学生が実験を紹介するので、小さな子どもにも大人にも関心に応じた説明がされました。

‥‥‥出展された二百のブースの中で、社会的アピールで工夫が見られたものをあえて選ぶと何になるでしょうか。

滝川|たくさんあるのですが、その一つは、ボストン科学館講師の土佐幸子氏が出展していた「パタパタ磁石」ですね。ゴム磁石には縦縞のように順番にN極とS極が着磁されているので、もう一つのゴム磁石をそばで左右にずらすと、反発したり引かれたりで振動します。この原理を使って色々な振動するオモチャを作るのですが、子どもたちからたくさんの面白いアイデアを引き出し工夫を実現させていました。先生の楽しいアイデアをみせるだけでなく、子どもの工夫を導き出していくというのは、これからの重要な視点だと思います。

‥‥‥これからの「科学の祭典」で目指すべき方向性について教えてください。

滝川|科学の祭典は、九二年にスタートし、このときは全国わずか三カ所で行われただけでした。今年は全国で八十カ所、そのうちの七十カ所以上は各地の実行委員会がお金を集めて自主開催する草の根の運動でした。これだけ急激に草の根の運動が伸びるのは世界でも例がないだろうと思います。

 スタートから十年目を迎えた今年は、さらに祭典の新しい方向を打ち出そうと考えました。一つは祭典が各地の都市で行われてきたのをもっときめ細かく、町ぐるみの企画にしていくこと、つまり点から面に広げていくことです。

 また、年一回の祭典に集まった子どもが、日常的に参加できる新しい工夫の導入です。開発された実験を紹介するだけでなく、子どもに工夫をさせる企画の奨励も不可欠です。そのためにも、先生たちの研究の交流を大きくしていくことも課題です。

 そして、さらに大きなことが、学校教育との連携です。祭典をベースに、子どもにとって一番長く理科の授業を受ける学校教育が大きく変わっていく時代にしていきたいと思っています。

‥‥‥滝川先生は、親しみやすい実験の感動を通して科学の大切さを学んでもらうことを目的とする研究会「ガリレオ工房」の代表でもありますが、その活動について教えてください。

滝川|ガリレオ工房は、一九八六年に中学や高校の教師を中心に発足しました。もともとは、授業用の実験の工夫について研究していました。当時から私たちは、小学校時代に理科が好きな子どもが中学・高校に進むにつれてだんだん嫌いになっていくことを実感していました。サークルメンバーの後藤道夫氏を中心に、まず私たち教師が学校の中から出て、積極的に科学の楽しさを伝えようと動き始めました。

 九一年、日本物理教育学会が「中高生のための科学の祭典」を開き、先生が子供の目の前で実験を紹介して説明する「実験屋台村」の原形ができあがりました。その翌年から科学技術振興財団の主催で「青少年のための科学の祭典」がスタートを切ったのです。今年も東京での全国大会に五日間で六万人が集まったことでも分かるように、楽しい実験の社会的な広まりが加速されつつあります。

 所沢青年会議所からは、産業廃棄物やダイオキシンの問題でネガティブなイメージの付いてしまった所沢市を、「科学と環境のまち」として生まれ変わらせたいとして相談を受け、西武ドームを借り切っての実験イベントを八月二四日に開きました。

日本でも多様なカリキュラムを実現したい

‥‥‥話は変わりますが、滝川先生たちが呼びかけて開かれた「理科カリキュラムを考える会」の議論では、どのような方向性が見えてきているのでしょうか。

滝川|いままで学力低下問題をデータで示してきたり、内容の削減に反対して社会的に問題提起をしてきた面々が一同に会し、議論が行われました。今後の活動について基本的な合意が得られ、その後いくつかの地域で新しい動きが始まっています。各地で独自の理科カリキュラムを作り始めているのです。世界の先進国では教育の地方分権が当たり前です。日本でも教育の地方分権を科学から始めていきたいと思っています。

 地域と科学という視点からみると、例えば、イギリスの実践が参考になります。ナショナルカリキュラムをつくったイングランドにスコットランドは批判的で、両地域で義務教育の年限すらも異なり、教育は完全に独立しています。イギリスでは、各地域内や地域間での競争が、教育をよりよい方向に変えていっているのです。

 個人的には、日本でも地方分権でカリキュラムの競争が実現してほしいと思っています。教科書や教材を含めたカリキュラムを、地域の文化のもと、地域の人たち、地域社会で作っていくというような教育のあり方を提起したいですね。

 また、意欲的な人たちが作ったカリキュラムが日の目を見ることも大切です。今回の理科カリキュラムを考える会には、現場の先生だけでなく、大学や企業の研究者や技術者が参加して活発に議論が行われました。優れたカリキュラムを作れる実力のある現場の先生たちと、教育の理論的な視点をもった大学関係者が協力し、科学者や市民がそれを援助することで、いい研究が社会的にも評価され、文部科学省の政策にも反映できるようにしていくことが大切です。こういうことを通じて、理科カリキュラムを作り広めていくだけでなく、日本の市民社会がより成熟して行くことも期待しています。

‥‥‥では、実際の学習の現場である学校教育はどうなのでしょうか。

滝川|イギリスと日本の学校教育の最大の違いからお話ししたいと思います。それは、イギリスでは中学校の各教科から必ず、コースワークと呼ばれる探求学習が位置づけられるようになることです。探求とは、基本的な知識を体系的に積み重ねて学びながら、それを何に生かしていくかを工夫し考えていくために行われ、そのレポートそのものが入試の一科目として評価されます。探求のレポートはその学校の教師によって評価され、さらにその評価でよいかどうか地域の教師たちによるより客観的な評価を受け、その結果が入試の三〇%程度に評価されます。

 日本でも、これからはこうした工夫が評価される本格的な評価のシステムができれば、中学・高校の勉強だけでなく、大学入試の悪弊の解決につながるでしょう。

生きていくための科学力を養う

滝川|ところで、日本の理数学力が着実に身についている根拠とされる学力国際比較TIMSSの理科の結果で、日本が上位にあるのは中学生が選択問題に慣らされているからで、イギリスの関係者はTIMSSの問題では、正当な学力は計れないと批判しています。そのイギリスも、日本が参加していない実験の成績も入れると、ぐっと上位にきます。

 私は、高校の物理の授業に探求を取り入れています。まず、生徒に五月に探求のスタートを切り、十一月に発表してもらうというものです。九九年からはこれにさらに材料だけを決めたオリジナル実験開発を短期で行うことも始めました。アイデアを生み出す方法論を学ぼうということです。

 すると、生徒たちからいろいろ面白いアイデアが出てきました。例えば、ハンカチでできる実験に挑戦した生徒は、水に濡らして風呂場の浴槽の縁にかけると、六キログラム以上のものをぶら下げることができることをみつけました。新聞紙でできる実験では、油で濡らした新聞紙はその後水につけても水に濡れないので、全体を水につけると油で濡らした部分を手で切り抜くことができることをみつけました。

 もっと長期の実験開発では、小さなブーメランに挑戦していたグループは、紙製三枚はねの一枚がたった長さ三ミリメートルでも戻ってくる方法をみつけました。

 このように、各自が最高の工夫を行い、他の人がやったことのないようなオリジナルを目指すことが重要なのです。自分が工夫したあとで人のものを評価するようになると、評価が上手になり、建設的なコメントをどんどんするようになります。

 私は、高校生の段階で簡単な事例を工夫して自分のものにすることで、将来困難な課題に向かっていくための大きな力を身につけられる、そんな市民となる生徒を育てたいと心がけています。必ずしも科学者を育てたいと思っているわけではありません。

‥‥‥最後になりますが、これからの科学教育で訴えていかなければならないことをお願いします。

滝川|科学でもほかの分野でもそうですが、誰もがある程度のことは知識として知っておいた方がいいということを自覚することでしょう。現代は情報の氾濫する社会です。私たちに最も身近な食べ物のこと、環境のこと、その中に危ないことを知らせる情報はたくさんあります。その情報をいかに取捨選択して、先を見据えるための知識に変えていくかということが重要なのです。

 そして、こうしたあらゆる'情報を受け止めるだけでなく、いつも工夫を怠らないということです。研究やビジネス、生活の場において、頭を絶えず柔軟にして、課題にチャレンジしていく。このようなことを聞くとごく当然のこととお思いになる方もいるでしょうが、これができていないのです。

 この原因は、大学にもあるような気がします。つまり、本当の意味での科学研究を、例えば物理学科の学生であっても学部の一年生からは今の日本の大学ではさせていません。やれば高校生でも世界で初の研究ができる力は十分あるのですが。このような状況では、科学が社会的な価値や力を産んでいないのです。

‥‥‥‥では、なぜ研究させないのでしょうか。

滝川|これも日本の大学の制度にあります。物理では大学院修士課程で論文を読めるようになり、ドクターになって初めて自分の研究を行うことができるというのが日本のこれまでのあり方でした。これでは、意欲的な若者が育つはずがないのです。やはり、体系的学習と並んで、工夫してオリジナリティを発揮させるため、大学一年生時から研究をおこなう必要性があるでしょう。イギリスでは、それを中学校からやっていて、動機付けを与えています。日本でも総合的学習の時間が始まりますが、イギリスとの違いは、各教科で学んだ体系的な知識とのつながりが忘れられがちなことです。

 このように、人々がいろいろな意味で活力あるスタートを切るための学校教育、科学教育が求められています。それが活力のある社会を作り上げていくのです。科学の楽しさが、家庭や職場での科学を通じた人間的交流、親子の交流に加え、新しい科学をベースとする市民社会の形成に役立っていくはずです。

「自分が工夫したあとで人のものを評価するようになると、評価が上手になり、

建設的なコメントをどんどんするようになります。」

滝川洋二 たきがわ・ようじ 

1949年生まれ。1984年国際基督教大学(ICU)大学院博士課程修了。1979年からICU高校物理教員。1999年9月から翌2000年7月まで、イギリス、リーズ大学とケンブリッジ大学に留学、理科カリキュラムを研究。1990年代に大きく進歩したイギリスの科学教育の報告は、日本で衝撃をもって受け止められた(メディア時評欄『理科・数学教育の危機と再生』に収録)。

ガリレオ工房は、1986年の発足以来、新鮮な驚きを誘う物理実験を各地に提供している。

滝川氏の著作のひとつ

『ガリレオ工房の科学あそび』

(実教出版)

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