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NI Book Review



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1

『日本という国をあなたのものにするために』

カレル・ヴァン・ウォルフレン = 著

藤井清美 = 訳

角川書店/一、五〇〇円+税 

 本書は、『日本権力構造の謎』『人間を幸福にしない日本というシステム』など、日本の政治構造・官僚システムの分析で知られるオランダのジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレンによる、日本社会への提言である。

 著者は、今日の日本の問題の原点を、明治の元勲・山県有朋が、権力が選挙で選ばれた政治家たちによって制限されない官僚システムを築き上げたことに起因するとし、その仕組みを「山縣の遺産」と呼ぶ。この「山県の遺産」は、政策を動かす権力が不在であり、同じ政策を続けていく限り大きな力を発揮するが、大きな舵取りが必要な事態には対処できない。戦後も継承されたこの仕組みのなかでは、いかなるリーダーもじつは形式的な「お飾り」に過ぎないのだと分析する。

 著者は、日本の官僚が他国に比較して優秀であり、倫理性もおおむね高いという。しかし全体的な政策をコントロールする権力が不在で、説明責任(アカウンタビリティー)も負わせられていないため、彼らはまちがった政策を長年にわたり続けていくことができ、またそれぞれの省庁の利益が国益とイコールになるのだという。

 こうした状況に対して著者は、政治的エリートが、自分たちのしている政策についてつねに説明責任を求められる必要性とともに、日本社会のなかに「公共の領域」をつくり出すことが不可欠という。ここでいう公共の領域とは、一般の市民が公共の利益にかかわる問題について議論する場であると同時に、公共の利益について考える習慣や姿勢も含んでいる。それが政治家の当落、政策を左右し、政治家自身からフィードバックされていくことで、真の意味での「国民の意見」が政策に反映されていくのである。

 本書にはさまざまな示唆に富む指摘がちりばめられているが、今日の経済問題について、それが国際情勢の変化といった外的要因ではなく、日本の官僚たちの政策の帰結であるとの指摘(本書第八章)は、日本経済について大きな認識の転換を迫るものである。

 また「コンセンサス」について、本来コンセンサスは政治的対立を解決する努力のなかから生まれてくるものであって、真剣な議論に代わる日本の「コンセンサス」は、「まるで巨大なシーツのように、……現状に『ノー』を唱える正直な声を抑えこむ」といった指摘も重要であろう(「日本型民主主義」や「アジア的価値」についても著者はたわごとと断じ、「社会に対立があることを認識する、権力保持者たちに説明責任を負わせるという基本的な特性は、どの民主主義国でも同じでなければならない」と論じる)。

「私のいう愛国心とは、自分と自分の子どもたちが安全に暮らしていける、意味のある社会としての自分の国を愛する気もちである」と定義し、「あなたがそのような意味のある社会を愛するなら、あなたはその建設に手を貸さなければならない」と行動をうながす本書は、日本社会を変えたいと思う人にとって示唆に富む一書となるに違いない。

2

『センセイの鞄』

川上弘美=著

平凡社/定価一、四〇〇円+税

 この本をひらいて三ページも読みすすまないうちに、終ってほしくない、永遠に読みつづけたいと思った。文章もそのリズムも、ぼくは一発でイカれてしまった。こんなことは映画ではたまにあるのだけれど、小説でははじめてのことだった。

 映画ではあるといっても、映像はたえず緊張を強いるものだし、その心地よさというのも、ラストシーンにむけて高まる胸とともにやがて収束されるものだ。つまりつづいてほしいという思いと、ああでも終ってしまう、きっとすぐにラストシーンだという期待をこめた感情が映画の終りと一致したとき、そんなときはすばらしいラストにきまっているのだが、ぼくらはなんともいえない幸福感にみたされる。そして流した涙に気づかれないように、クレジット・タイトルがいつまでもつづくようにと願う。

 この小説はでも、ほんとうに終ってほしくなかった。

「ツキコさん、デートをいたしましょう」と、もう七〇歳をむかえたセンセイがいったように、ぼくは永遠にこの小説とデートをつづけ、泣いたり笑ったりしながら、「この一瞬を永遠にひきのばしたいという思いが、ぼくらを絶望にかりたてる」なんて、カミュみたいに野暮なことはいわないで、いったいぼくはなんに惚れているんだろうと自問自答しながら、そうか、ぼくはツキコさんに惚れているのだし、こんなにゆるやかな生を描ける作者にさらにイカれてるんだ。いややっぱりツキコさんでセンセイなんだ。だって作者をひきあいにだすのは、小説作法上失礼じゃないか。いやそんなことももうどうでもいい。

 ぼくはいつかだれかにセンセイのようにいえるだろうか?

 それはどこのツキコさんだろうか?

 そしてぼくはラストの二ページが読めないほど涙にくれたのだった。

 ぼくに唯一の批評があるとすれば、この小説が終ってしまったことだった。

(小説界ではもっとも栄誉ある

谷崎潤一郎賞を受賞)

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