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[巻頭対談] 研究と事業の両輪で「情報学」研究を推進していく -- 末松 安晴+板生 清





[巻頭対談]

研究と事業の両輪で

「情報学」研究を推進していく

末松安晴氏[文部科学省国立情報学研究所所長]

聞き手

板生清[本誌監修]

末松安晴[すえまつ・やすはる]

1932年、岐阜県生まれ。

東京工業大学大学院理工学研究科電気工学専攻博士課程修了。

東京工業大学工学部電子物理工学科教授、工学部長を経て、1989年から1993年まで同大学学長。

東京工業大学名誉教授。日本学術会議会員。米国工学アカデミー外国人会員。現在は国立情報学研究所所長。

半導体レーザ、量子細線レーザ、集積レーザの実現を達成し、光通信を夢の技術から現実の技術へと育てあげた。

NHK放送文化賞、エドアルト・ライン賞など多数の賞を受賞し、1996年、紫綬褒章を受ける。

板生||二○○○年四月に、学術情報センターを改組・拡充して国立情報学研究所が設立されました。現在、末松先生はその研究所長を務めていらっしゃるわけですが、「情報学」という新しい研究分野を、計算機科学や情報工学といった科学技術からの側面だけでなく、生命科学や人文・社会科学のさまざまな分野をも含めて多面的に研究していこうという当研究所のおとり組みは大変画期的ですね。

末松||これは、急逝された初代研究所長の猪瀬博先生のお考えを引き継いだものですが、情報学は、インターネットや携帯電話、eコマースなど、社会活動のなかから芽生えてきた学問だけに、たんなる計算技術やロボット技術といった科学技術を追求するだけでは不十分であり、人文社会まで含めた広い視点で考えなければならない、というところからスタートしています。情報は、セキュリティや犯罪など倫理にかかわる問題を少なからず内包していますし、社会を変える大きな力を持っていますからね。社会全体が情報を「正しく」求めるには、どうしたらいいか、その点を追求するのが当研究所の役割だと思っています。

こうしたコンセプトのもと、現在、研究所では、情報学基礎、学術研究情報、人間・社会情報、知能システム、情報メディア、ソフトウェア、情報基盤の七つのテーマで研究を進めています。また、情報学研究を総合的に展開するために必要な実証・実用化研究、大規模なコンテンツやそれを取り扱うソフトウェアの開発など、情報資源に関する研究も、大学や民間の研究所などが連携して行っています。さらに、これらの研究成果を社会に還元するという目的で、学術情報ネットワークの構築・運用、大学図書館の所蔵する図書・雑誌の総合目録の作成、学術情報データベースの作成などの開発事業にもとり組んでおります。

板生||研究と事業という両輪で活動し、研究成果を社会に還元しておられるわけですね。

末松||ええ。これからの社会はますます情報化が進んでいくでしょうから、我々が担う役割は非常に大きいものになると感じています。将来的には、板生先生のご専門のウェアラブル・コンピュータをはじめ、体内にコンピュータ・チップを埋め込むなんてこともできるようになるでしょう。まさに、生活そのものが情報空間になる時代が来ています。また事業化の中から研究テーマを発掘したい。

板生||おっしゃる通り、これからは情報が空気や水のような、意識しないでもある当たり前の存在になっていくでしょう。その際に、これらの情報がどのように使われていくのか、あるいは守られていくのか、というのは、まさに今後の社会の最大の課題になってくると思います。

産官学連携は日本の十八番だった

板生||末松先生は、そうした最先端の研究機関の長を務めておられるわけですが、近年の研究開発の状況について、どうお考えになっていらっしゃいますか?

末松||近頃気になっているのは、新しい技術に対する日本の企業の感受性が鈍くなっているように感じることです。「破壊技術」と呼ばれる技術がありますね。つまり、すでにエスタブリッシュされた技術の普及を破壊してしまうような、新しいパラダイムをもった技術のことですが、そうした技術へのとり組みに対して慎重すぎる気がします。たとえばレーザ技術。日本が発明した面発光レーザー技術などは、量産性もきき、消費電力が少なく、光通信システムの低コスト化を実現できる将来性の高い技術なのですが、なかなか企業がとり組もうとしてきませんでした。翻って、欧米や台湾・韓国などのアジア諸国では、光技術に対して積極的にとり組み始めています。これまで、光技術は日本が世界をリードしてきた経緯があったわけですが、このままではそうした図式はひっくり返されてしまうでしょう。

板生||光産業に関しては、これまで、アメリカも日本には一目置いてきましたよね。アメリカはマーケットが巨大なのでソフトウェアの分野は強いけれど、それを支えるハードウェアシステムは日本がずっと強かったですからね。光デバイスの開発を他にもっていかれるようになると、心配ですね。

末松||波長同調レーザや可変波長レーザなども、もとは日本のオリジナルです。それを実用化に向けて熱心に開発したのは、じつはヨーロッパの企業なんですね。せっかく技術開発をしても、しゃにむに突っ込んでいく姿勢がないように見受けられます。

板生||それは、現在の経済の状況とリンクしているのでしょうか?

末松||いや、逆に技術開発へのそうしたとり組みが、結果的に現在の低迷した経済状況を生んだといえるのではないでしょうか。みんな大人になりすぎたのかもしれません。

板生||汗をかきながら、苦労してやるという姿勢がなくなってきたということでしょうか。それは由々しき問題ですね。

そうした背景もあってか、最近では産官学の提携が必要だということが、新聞などでも盛んに議論されていますね。もはや、産官学の連合軍でなければ技術開発戦線を勝ち抜いていくことはできないということでしょうね。

末松||確かにそうですね。ただ、そもそも産官学の連携というのは、日本では昔から自然な形でやってきていたんですよ。学会が無数にあるのも日本独特の現象ですし、学会で研究者が企業の技術者と議論するなんてことは当たり前でした。かつては、大学側に知的所有権を守るという考えがなかったですから、こういう技術を使って、企業にこういうことをやってほしいという提案も随分とされてきたんです。企業内ベンチャーともいうべきものが多数出てきたのも、一九七○年代頃でした。事業部の一画に、暗幕で仕切られた場所があって、事業部内でも承認されていない秘密のプロジェクトを進めていたわけです。そうした中から、今日の技術開発に繋がる画期的な開発がいくつも生まれてきたんですよ。

板生||大らかな時代でしたね。

末松||光ファイバー通信はその代表ですね。また、半導体レーザは通信技術が未発達で使えないし、メモリに使おうとするとノイズが大きくて使い物にならないということで、開発されて一〇年間くらい使われなくて、非常にミゼラブルな状態にあったんです。そこで、研究会と称して箱根に泊り込んで、NEC、日立、三菱、東芝、富士通などの企業と一緒になって議論しました。そういう状況をみて、欧米の技術者たちが随分羨ましがっていましたよ。向こうの企業だったら、入れるのはライバル社のロビーまで。それ以上、内側に入ることなんてありえなかった。ヨーロッパやアメリカで産官学の連携ができるようになったのは、つい最近のことです。

だから、日本で今になって産官学が声高に叫ばれるのには、少し違和感があります。今まできわめて自然にやってきたわけですから。むしろ、産官学の連携があったからこそ、日本の産業の発展があったという認識をもつべきです。

社会を持続させるために必要なこと

末松||それからもう一つ、日本で定着してほしいと思っていることは、長期的・基礎的な研究を目的型の研究と併設させることですね。半分は目的型で構いませんが、もう半分は研究者の興味による自発的な研究をやっていくべきだと思います。こうしたことは、一見、無駄に思えるかもしれませんが、じつは画期的な発想が生まれて世の中に多様性を与え、ひいては社会を持続させるのに必要な手段だと思うのです。すでにアメリカやヨーロッパでは、半分以上が自発型ともいうべき自発的な研究で占められています。そういうことをやっていかないと、日本の開発力の力強さというのは失われてしまうでしょう。

研究は畑と同じなんですね。同じ作物ばかり植え続けると、あっという間に土地が荒廃してしまいます。作物の種類を変えたり、作付けの量を半分に減らすことで、土地の養分が蓄えられて継続して畑として機能できる。遊んでいる半分の畑が自発研究というわけです。あるいは、子育てにたとえてもいいでしょう。子供を育てようとしても、なかなか思い通りにはなりませんよね。かなり我慢を強いられる。なかには病気になったり怪我をしたりする者もいるけど、健全に立派に育つ者もいる。自発研究とは、まさにそういう存在です。短期的に評価を下すことは不可能な諸課題を、長い目で見て、じっくり育てていく姿勢が大切だと思います。

板生||そういった意味では、アメリカは成功していますね。なぜ、うまくいっているのでしょうか?

末松||そもそも自発型研究資金の絶対額が、アメリカは日本より九倍ほど多いですからね。意欲のある若い研究者に対しては、五年はだまって資金提供するという姿勢があります。継続的に評価し続けて、成果があがれば若い研究者にもどんどん資金提供をしていく。だから、日本の優秀な研究者もどんどんアメリカに行ってしまうのです。

その背景には、資金提供する側の科学技術に対する認識の差もあると思います。かつて、アメリカのジェファーソン大統領が、「民主主義を正常に機能させるためには、一般の人がリテラシーとして技術を理解しなければならない。つまり、アメリカ市民全体が、技術リテラシーを身につける必要がある」といったんですね。じつにその通りで、社会を正常に持続させるには、経営者を含めて一般の人が科学技術をリテラシーとして知る必要がある。だから、アメリカでは「TIME」などの一般誌に新しい技術のことがわかりやすく書いてあります。日本では、普通の雑誌が科学技術を取り上げることなんてほとんどないでしょう?

板生||リテラシーとは、科学技術に対する知識を、社会を正常に機能させ、発展させるために必要な「素養」と「基礎的な知識」ですよね。そのためには、技術をわかりやすく説明するための技術というものが必要ですね。

末松||おっしゃる通りです。だからこそ、ネイチャーインタフェイスのような雑誌が必要なんです。

板生||責任重大ですね。日本の研究開発をとり巻く状況を改善していくために、また、社会を正常に機能させるために何をすればいいか、より真剣に考え、とり組まなければならないと、改めて考えさせられました。本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました。

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