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[特集] 植物を通して感じるネイチャーインタフェイスの世界 -- 須磨 佳津江



special feature

生物と情報科学のコミュニケーション

畑の茄子はもうやせ衰えてはいたが

宋の描いた茄子を思いおこした

もう秋は四十女のように匂い始めた

再び神々の世界にはもどれない

人間は人間として歩くほかない

詩集『第三の神話』・西脇順三郎より

special feature...01

植物を通して感じるネイチャーインタフェイスの世界

SUMA Katsue

ITAO Kiyoshi

須磨佳津江┼板生清

須磨佳津江[すま・かつえ]

東京女子大学卒業後、NHKにアナウンサーとして入社。

朝のニュースキャスターなど報道番組を中心に担当。その後、フリーランスとなり、NHKの番組「21世紀への科学」「ニュースの窓」等を歴任。

最近では、スペシャルプログラム「戦後50年特別番組」や「NHKスペシャル」等を担当。

現在は「趣味の園芸」、キャスター、講演、エッセイ、シンポジウムコーディネーター、

「緑の都市賞」等各種の審査委員を務め、幅広い分野で活躍する。

NHKで『趣味の園芸』のキャスターをして八年の須磨佳津江さん。

番組の中で植物を見つめ、ご自身も植物の世界にどっぷりとつかっているという。

そんな須磨さんの植物や自然に対するまなざしは、とてもやさしい。

今回の対談は、今年十月二十日に行われたシンポジウム『野生と技術のコミュニケーション/環境技術とIT』の

総合司会をされたことがきっかけとなり実現した。

板生|NHKの『趣味の園芸』を担当されてどのくらいになりますか。

須磨|番組を担当して八年になります。この仕事をきっかけに植物の世界にどんどん魅せられていきました。知れば知るほど感心することばかりで。植物って知恵がありますね。植物を通して人との出会いがあり、花に飛んでくる昆虫にも興味が広がっていくんです。日々植物に接していて、「命」を実感する毎日です。

 たとえば、先日聞いた話ですが、都会には緑が少なくなり、昆虫も減っているとよくいわれますが、ある専門家にいわせるとそれは嘘だそうです。たとえば、蝶の飛距離は二百メートル。だから二百メートルごとに鉢花がひとつさえあれば、蝶は生息できるそうなのです。ちなみにイトトンボは一キロメートル、バッタは四十メートルだということです。

板生|その飛行距離の中で生息圏が保たれる。

須磨|ええ。ドット型の生息環境でも生きていけるということなんですね。

 玄関先に鉢ひとつぐらい置いていますし、最近はガーデニングがブームでしょう。二百メートル間隔には緑の連なりがあるわけです。ですから最近昆虫は増えているというんです。

「でも、緑の量は少なくなっているのではないですか」と申しあげたら、シジュウカラの話になり、シジュウカラの生息範囲は一ヘクタールあれば十分だそうですし、緑比率が十パーセントだとすると、点在する緑を合わせて一ヘクタール、つまり十ヘクタール分の土地の緑を生息圏の中に確保しているそうです。生き物ってすごい知恵者だなと感じます。

 花にも周囲の環境に適応しようという知恵があるんですよ。

板生|趣味が仕事になっている、豊かさという点ではすばらしいことですね。ところで「園芸の極意」といったものがあるとしたら、それはどんなことなのでしょうか。須磨さんなりの意見を聞かせていただけますか。

須磨|花を育てる達人に「上手に花を咲かせるコツは」と質問すると「毎朝、おはようということですよ」とおっしゃいます。まるで禅問答ですが結局、毎日見続けるということなんでしょうね。

 毎日見ているとその日の状態がわかるようになります。葉は枯れてはいないけれど、いつもより元気がない。水が足りないかなと土を見る。まだ濡れているから「根が弱っているのかな」と考える、等々。見つめ続けることで、植物からさまざまな言葉が聞こえます。対話で育てていくんです。地球環境に関しても同じことがいえるのではないですか。

板生|まさにネイチャーインタフェイスの実践ですね。

須磨|日本人は農耕民族ですので、植物というか作物と共に生活をしてきた。江戸時代は八割が農家だったそうですから、植物とのつきあい方がとっても上手なんです。「命」の循環の中で、知恵をいっぱい蓄えている。

 たとえば畑をつくるときに、周囲に土手をつくり、雨で土砂が流れないようマメ科の植物を植える。マメ科の植物はあっという間に根を張って、護岸工事をするよりもしっかりと、根が土を守ってしまう。そして植物の根に空気を送るために水田に鯉を放す。鯉を飼うことによって、虫を食べてもらい、根に空気をやり、しかも泳ぐことで土を耕してもくれる。水も淀ませない。とても素晴らしい知恵をもっていた。今、アイガモ農法が注目されていますが、過去の知恵の見直しなんですね。

 海外からも評価されていたんですよ。江戸時代にヨーロッパから来た東アジア調査団が、日本の農業を見て「素晴らしい共生社会、循環社会を作っている」と報告書に書いているんです。当時ヨーロッパでは、南米からグアノという肥料を輸入して連作障害を防いでいた。それが日本に来てみたら、そんな高価な肥料を使わず連作傷害なく、米作をしている。人間が排泄したものを鋤き込んで、とれたイネを干して絨毯にして、これは畳ですね。それからレインコートにする、これは蓑ですね。履物にもする、わらぐつです。作物を食物としてだけでなく、すべて活用して、さらに古くなって利用できなくなると動物のベッドにする。最後にはまた田んぼに返してやる。ヨーロッパからきた調査団は、その循環型の社会システムに感嘆しているわけです。

板生|なるほど、すごい循環社会ですね。ところがいまの日本は、農業人口が五パーセントで、農薬を使うことが非常に多い。過去に培ってきた知恵はなくなってしまったという感すらある。植物をうまく暮らしにとりいれて、無駄なく循環社会を作って行く知恵のあった日本人が、知恵をどこかに置き去りにしてしまった。

須磨|そうなんです。とはいってもまた、みんなで農業をやりましょうといっても無理ですから、園芸をおすすめしたいんです。農業も園芸も「植物」とのつきあい方は同じ。枯葉をためて腐葉土にして、土に鋤き込めばよいという知恵を素人ガーデナーでももっています。

 それに、植物を育てていると、優しくなれるんですよ。水遣りも水道の水をそのままではやらずに、室温と同じにぬるませて与えるんです。植物が風邪をひくから。「命」を大切にして、「命」を守るためにやさしくケアする。それが園芸の、植物を育てる極意なんです。植物はものをいわないから、こちらが慮って「急にやったら冷たいよね、環境の変化はストレスになるよね」と……。

板生|なるほど、そのような思い、ハートをもって育てているんですね。ものはいわないけれど、植物にもひとつの人格のようなものがあると。ネイチャーインタフェイスも、そんなハートを大事に思いながらつくっていきたいと考えているんです。

須磨|そうですね。環境を守るハートづくり、そのハートの裏に技術を活用していただけるといいなと思います。

 電話にしろファックスにしろインターネットにしろ、その裏の技術は専門家に任せて、使う人は、使い勝手のよいところだけ見て便利だねといっている。その裏にあるのは技術です。でも一方でまだ技術が裏に回りきっていないという側面もあり、つい技術が前面に出て重要視されてしまう。環境ということを考えるなら、これまでの反省も含めて技術の方は上手に隠し、豊かさを前面に出すということが大事ではないでしょうか。

板生|私も同感です。私は三十年来の情報機器屋なんですが、ユーザーが楽しむためにとか、ビジネスの役に立つといった視点からマシンやシステムを開発してきました。プリンタ記憶装置、光ディスクなどさまざまですが、目的は楽しむためとか、ビジネスのため。究極は人間が豊かになるための技術開発なんです。

 そこで私は、一九九〇年ぐらいから少し考えが変わってきた。結論から先にいうと、ヒューマンインタフェイスは、人間の楽しみのために情報技術を使う。それをネイチャーに置き換えて、自然環境や人間の身体の観察に情報技術を活用できないかと。たとえば先ほど農業の話が出ましたが、農場の土壌や空気がどういう状態なのか観察して、そのデータを送信しようと。

須磨|そんなことができるんですか。

板生|水質センサなど各種のセンサの活用です。農業の現場からデータを送って、水質はどうか、土や温度はどうか、空気はどうか。最近は匂いなども通信するような時代に入っています。

 すでに(農場などに)存在するアナログ的な量をデジタルデータに変換して、情報の整理をする。こうしてITの用途を、自然を観察したり、人間の身体の状態を観察したりすることを主体にしていきたいと。

須磨|ネイチャーインタフェイスの考え方は、技術と自然の共生といったことなのでしょうか。園芸にもうまく活用できるといいですね。

板生|技術がサポートすることで、さらに快適な環境をつくろうということです。

須磨|花を育てていて困るのは、うまく育たない時にその原因がつかめないことなんです。その原因を土の中にさしたセンサで水不足とか、肥料不足とか教えてくれたら嬉しいですね。まあ、あくまで育てることへの補助なんですが。例えば、日照不足を電気の光でカバーするとしても太陽にはかなわないですものね。

板生|人間は生き物ですから、自然にかえるということにしたいのですが、すでに得た便利さも失いたくない。その矛盾を解決するところに、科学技術の考えるべきところがありますね。

須磨|よく田舎の家を訪ねていいますよね。「いいよね、ああいうところに住みたいよね」。でも、汲み取りトイレはいやなんです。水洗がいい。電気がないのもいや。その、よいところだけを享受したいという人のわがままな心は、もう戻れない。

板生|そこを相両立させるのがITなどの技術ですね。農業の方ではすでに、一つのプロジェクトが進んでいます。それは、トマトやキュウリ、イチゴといった野菜や果実などの栽培をITを使って、自動的にやってしまおうというものです。

須磨|IT先行でもなく、原始に戻れでもなく。自然主義者はよく「森はそのままに」などといいますが、人と共存する自然は、昔から里山といって人が手を入れてこそ元気になる自然なんです。ほどよく間引きして下草を刈って、人は自然の恵みをいただきつつ、守っていく。その里山の思想が見直されてきています。人間と仲良くする自然というのは、人間もほどほどに手を入れてやる自然なんです。

板生|最近よくいわれるライフサイクルアセスメントというのが、里山に活かされてきたということでしょう。

 本日はどうもありがとうございました。

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