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[特集] GPSを使って渡り鳥を追跡する -- 福田 明



special feature...03

GPSを使って渡り鳥を追跡する

FUKUDA Akira

福田明

鳥用GPSロガー開発チームの誕生

通信工学者・野生動物学者・電子技術者からなる筆者らのチームは、数年前から「GPSを用いた渡り鳥の長期自動位置情報収集システム」の開発に取り組み、本年六月には試作機によるガラパゴスアホウドリの営巣地(イスパニョーラ島)から南米ペルー沿岸への往復採食旅行経路の観測に成功した。

 発端は、筆者と野生動物学者鈴木牧夫氏(東海大学海洋学部非常勤講師)との雑談であった。氏によると、渡り鳥の渡り経路の観察には現在主に衛星追跡(アルゴスシステム)が用いられているが、使用料が高額で精度も十分でないなどの欠点があるとのことであった。考えてみると、知りたいのは渡りの経路であって、時々刻々リアルタイムに位置が知りたい場合は多くはないと思われる。そこで、鳥への装着機器はGPS受信機とメモリーのみとする全く受動的なシステムの開発を思い立ったのである。

 この考えの妥当性につき、樋口広芳教授(東京大学大学院農学生命科学研究科)に相談したところ、積極的な賛成が得られ、早速開発すべき装置への要望・実験に適した鳥種の選定などにつき、貴重なご意見を頂いた。そこで、(株)光電製作所の三輪勝二氏に技術的な協力を求め、ここに開発チームの骨格が出来上がったのである。これに、樋口研究室の森下英美子研究員、光電製作所の前田久昭氏、(株)トリックスの高見沢均氏らが加わりチームが完成した。今からちょうど三年前のことである。

 その後開発チームは、渡り鳥の習性・GPS機器の性能・ソフトウェア・通信方式など、各方面からの意見をぶつけ合う検討会を頻繁に開き、試作機の設計・製作・改良を経て、本年春に一応の完成に至ったのである。

原理と機器の構成

本システムの鳥装着部分は、GPS受信機モジュール、GPSアンテナ、タイマー、メモリー、電池、筐体からなる。受信機は、事前に設定されたスケジュールに従って位置測定を行い、結果をメモリーに記録する。試作機は汎用のリチウム電池を電源とし、重量約一〇〇gである。約六キロバイトの記録用メモリーを持ち、緯度・経度を秒単位まで記録する。電池容量によって制限される測定可能回数は約五〇〇回である。電池の節約のため、測定開始五〇秒後に測定値が得られていれば完了し、そうでない場合はその後三〇秒だけ受信の試みを延長する。一方、本年末に完成予定の新試作機は、重量約八〇gで、測定値の記録は1/1000分までとなっている。どちらの試作機も筐体は約三気圧の耐圧・防水性を持つ。試作機の外観を下[fig.01]に示す。

 本システムの特徴は、機器の回収によって位置データの収集を行うことである。これが機器の軽量化・電池寿命の長期化・低コストなどの長所につながっているが、再捕獲の困難な鳥種には使用できない。しかし、ある程度の確率で再捕獲の可能な鳥種なら、本システムによって従来の衛星追跡システムの数分の一ないし数十分の一の経費により一〇〜一〇〇倍の位置精度での経路調査が可能になる。

ガラパゴスアホウドリを追跡する

現在の試作機はかなりの重量があり、しかも再捕獲が必要なので、その有効性の実証に適した鳥種は限られたものとなる。そこで、ガラパゴスアホウドリの研究者Dave Anderson助教授(Wake Forest University,N.C.)との共同研究を行うこととした。

 これまでの二年間二回の現地実験は同助教授の研究チームによって実施された。初年度には簡単な予備実験が行われた。二年目には、機器のテスト・改良を繰り返した後、事前に筆者と樋口教授が同助教授の研究室を訪問し、直接取り扱いの説明を行って万全を期した。その結果、一台が測定(六回/日に設定)に成功したのである[fig.02]。この図から、筆者のような素人にも、アホウドリが子供の餌のために片道一六〇〇km以上の大旅行をする様子、一睡もせずに五二〇km/日で飛びつづける様子、現地で一〇日間ひたすら食べて、ある日決然と帰路につき、絶海の孤島にまっしぐらに帰る様子が想像され、アホウドリを阿呆呼ばわりしてはいけないと、つくづく思わされるのである。

今後の展望

次の繁殖期には、筆者らが自ら新試作機を持ち込み、Anderson助教授らとの共同作業により、数十羽の鳥の飛行経路を、より短いサンプリング間隔で観測する計画である。また、新々試作機には最低限の送信機能を付加したい。すなわち、調査の最終地点にあらかじめ受信機を設置しておき、鳥に装着されたGPSがその近傍に到着したと判断したら、残りの電池容量が尽きるまで、特定小電力送信機によりメモリー内容を送信する機能を付加したい。

 筆者らは今後、本システムの各種のバリエーションを開発し、応用によって使い分けることを考えている。例えば、1…耐圧・防水の簡易な軽量・小型のもの、2…哺乳類など用の電池容量の大きい大型のもの、3…ペンギンなど用の高耐圧型のもの、4…上記の送信機能を持つもの、5…適当な時期に自動脱落しビーコン電波を発するもの、6…オフラインDGPS方式による高精度のもの、などである。1…としては重量五〇gを当面の目標としている。

 本システムは、野生動物のみならず、海流や流氷など、その他の多くの自然環境の研究調査にも応用できる。また、貨車の移動経路の調査など技術・社会の分野にも応用が考えられ、読者のみなさんからの、あっと驚くような応用の提案を期待している。

福田明[ふくだ・あきら]

1944年岐阜県生まれ。1967年東京大学工学部電気工学科卒。

1972年同大学院工学系研究科電子工学専攻修了。工学博士。1972年より静岡大学に勤務。

現在同大工学部電子・電気工学科教授。この間主に、符号理論、深宇宙通信システム、待ち行列論、移動通信システム、などの理論的研究に従事。

その他、より実際的な研究として、流星バースト通信システムの開発、野生動物調査への通信技術の応用などを行っている。

著書に「流星バースト通信」(コロナ社)、「基礎通信工学」(森北出版)などがある。

登山、ランニング、クロスカントリースキー、創作(詩、随筆)などを趣味としている。

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