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[特集] ペンギンやアザラシはどうやって食物をとっているか -- 内藤 靖彦







シンポジウム『野生と技術のコミュニケーション』・地球環境財団主催より

special feature...04

ペンギンやアザラシはどうやって食物をとっているか

データロガーを利用した生態・行動情報の収集と解析

NAITO Yasuhiko

内藤靖彦

肺呼吸を行うアザラシやペンギンは、なぜ水中に潜り、そこでどのような行動をしているのだろうか? 過去20年ほどの調査で、水中での動物たちの生態が少しずつ明らかになってきている。

明らかになってきた海のなかの生態

ところで、彼らが多くの時間を過ごす水中はどのような世界だろうか。

 第一に、水には浮力があるため、水中では重力から解放され少ないエネルギーで移動できる。が同時に爬虫類、鳥類、哺乳類は肺を持っているので、肺に空気を吸い込んで潜ると浮かんでしまうため、潜るときは加速をつけて潜り、重力と浮力が釣り合う中立浮力の深さに早くたどり着こうとする。

 第二に、比熱(熱伝導率)が大きく体温を奪われやすい。このためアザラシやクジラは皮下脂肪が多いが、ペンギンのような小さな動物は、体温が下がっても活動できるのか、よく分かっていない。

 第三に水は比重が大きい(空気の八〇〇倍)。浮力によって重力からは解放されたが、逆に重たい水のなかで動くために大きなエネルギーが必要になる。このため水中では、速く泳ぐよりもコンスタントな速度で泳ぐことが効率的になる。

 こうした水中での動物の生態を調べるために考えられたのが、ペンギンやアザラシが繁殖のために陸上に戻ってくる性質を利用して記録器機(データロガー)を体に取り付ける方法である。これだと一度取り付けたものが戻ってくるのを待っていればよく、また彼らは季節ごとに毛が生え替わるので、器機の回収に失敗しても自然に脱落し動物にあまり負担をかけないで済む。

 この調査は、一九八〇年代に入って活発に行われるようになったが、当時の課題は記録計が大きすぎることであった。そのためレコード針、紙、気象器機メーカーなどの方たちに協力していただいて、やっと直径2.5センチ、長さ8センチくらいの大きさで3週間、時間と深度の記録ができる連続潜水記録計が完成した。

 図1は繁殖が終わって海に入り、陸に帰ってくるまでの2カ月半から3カ月の間の海の中でのアザラシの動きを記録したものである。この記録で驚いたのは、この間アザラシはほとんど休まずに泳いでいるということである。1回の潜水時間は、24〜28分、深さは平均400〜500メートル、最大1260メートルまで潜っている。潜水病にはかからないのか? いつ眠っているのか? どうやって餌を捕っているのか? 新たな疑問も生まれてきた。しかしよく記録を見ると、潜る深さは非常に安定していることが分かる。恐らくある深さに浮遊性の生き物が集まる場所があり、そこまで潜っているのである。また睡眠については、代謝を少なくしているため、潜水中のわずかの比重差を利用した自然潜降や浮上の間に限るだけで足りているのではと思われた。

 ゾウアザラシは一九世紀から二〇世紀の初頭にかけて、毛皮を目当てとした乱獲によって絶滅寸前に追い込まれたが、陸上での乱獲が止まると急速にその数を回復させた。それを可能にしたのは、彼らの餌場が環境の荒らされていない、こうした深い所にあったからではないだろうか。また以前、ゾウアザラシが海面を泳いでいる姿を見ないと言われていた。それもそのはずで、彼らは90パーセントの時間、海中に潜っているのである。

 コウテイペンギンでは543メートル・20分間、ミナミゾウアザラシにいたっては1500メートルという潜水記録があり、2時間くらい平気で潜っている。肺呼吸の動物としては驚くべき数字である。

トータルな生物の生態を知るために

こうした研究は90年代に入ってデジタル記録計の小型・多機能化でマイクロデジタルロガーが開発されると、さらに時間ごとの速度や水温の変化など多様なデータを得ることができるようになった。

 図2は、アデリーペンギンの潜水深度と速度、そしてフラッタリング(羽ばたき)の関係を示したものである。潜るときは羽ばたきを多くして加速をつけるが、一定の深さに潜ると毎秒1・5メートル以下のゆったりとした速度で泳ぐようになる。浮上する前に羽ばたきがなくなるが、にもかかわらず遊泳速度は上がっている。これは風船が水中から浮上する様子と似ていて、浮力に抗してつぶれていた肺が浮上とともに膨らんでくるためである。ただ、水面直前で速度を落とすが、この理由はまだ分かっていない。

 こうした情報に加えて、動物が水中で何をどれくらい食べているかも知りたい。そこで考案したのが、アザラシやペンギンの体に水中カメラを取り付けて彼らに水中の写真を撮ってきてもらう方法[写真1]であり、また胃の中に温度計を入れてデータを取る方法である。冷たい海の中にいるアザラシの餌は温度が低いので、餌を食べたときは胃の温度が下がる。また餌の量が少なければ早く温度が元に戻り、多ければゆっくりと戻ると考えられる。これを改善して喉の部分を通る食道の温度を測る方法もあり、こちらのほうが感度がよく小さな餌でも分かるようになった。

 このような調査を総合して分かったのは、ペンギンは潜降途中では餌を食べない。ある深さの所まで行ってから餌を捕り始めるが、エネルギーをロスするので速い速度で追跡はせず、巡り合わせた餌をポツポツ食べる。食べる時には泳ぎを留めることもあるが、すぐに元の速度の泳ぎに戻る。こうした動きを繰り返すことが分かってきた。

 このようにアザラシやペンギンは、南極や北極の海の中で環境的な制約をうまく利用しながら餌とマッチングした生態をもっていることが分かってきた。しかしペンギンは写真2のように群で生活している。なぜ群を必要としているのか、個々の個体と全体はどのような関係になっているのか、分からないことは多い。生物は集団で生きているので、生物を保護するには個体を守るだけでなく、個体と群との関係、環境との関係などを調べていくことが必要と思われる。

 今調査しているのは、200〜300の個体に同時に記録器を付けて、個体ごとの行動と群の行動を調べることである。寝ころぶ、立つ、滑る、歩くなどの行動が秒単位でどう変化するか記録できる[図3]が、こうしたデータによって、個体の論理とともに群内のお互いの関係、さらには周囲の環境との関連などを解明することにつながると考えている。

 単純な時間・深度記録から始まった研究は、20年を経て大きく進展し、さらに複雑なデータの多元的解析が必要になっている。今後は、情報科学の研究者を含めた多様な協力による研究への取り組みが求められているのである。

photo.01|母親の後ろをついて泳ぐアザラシの子供

(母親の体に付けられたカメラが写したもの)。

現在、この方法とデータロガーなどを組み合わせた

日本と米・仏・英の共同研究・DSL

(Deep Ses Look 海洋中深層域生態系研究計画)が、

南極およびカリフォルニアの海域で進行中である。

内藤靖彦[ないとう・やすひこ]

1941年、東京都生まれ。東京水大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。

農学博士。専攻は海洋動物学。東京水産大学助手、国立極地研究所を経て、現在、同研究所教授。

平成1年度、第31次南極観測隊長を務める。専攻は海洋動物学。

マイクロデータロガーの開発に携わり、データの集積により

大型の海洋生物の生態の行動、生態、生理について多元的研究を進める。

著書に『海のなか、動物は何してる』(絵:佐藤直行・岩波書店) 、

訳書にM.ロックリー『アザラシの自然誌』(共訳・平河出版社)ほかがある。

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