NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.06 の目次 > P33-37 [English]

[対談] 「緑の雇用事業」を起点に、環境経営という新しい概念を創造する -- 北川 正恭+赤池 学



[首長インタヴュー]

「緑の雇用事業」を起点に、

環境経営という新しい概念を創造する

北川正恭三重県知事

聞き手

赤池 学[ユニバーサルデザイン総合研究所長/エコリビング推進認証協議会理事長]

::::::::北川知事が登場なさって以来、三重県はさまざまな分野で画期的な試みがなされ、しかも大変な成果を挙げておられます。その北川知事がいまもっとも力を注いでおられるのはどの分野でしょうか?

北川:::じつは和歌山県知事と私とで、総理に「緑の雇用事業」という緊急アピールを出し、総理もぜひ話を聞きたいということでお会いする約束だったのです。しかしアメリカで同時多発テロが起こりましたので、今回はキャンセルになってしまいました。

 山や森林の持つ機能というのは、林野庁さんなどがずいぶんお育てになったのですが、ご承知のように、生産林だけではなかなかうまくいかないという状態です。したがって私どもは、山の持つ機能を、経済林としてだけでなく環境林としても捉え直し、その保全を図っていきたい。たとえば酸素を供給する、水を涵養する、あるいは人々を癒すといった、一説によると三九兆円とも七六兆円ともいわれる、公共財としての公益的な機能を守っていく。まさに日本の国の構造的な変化を実現しようということです。

 すでに三重県は環境創造事業として、環境林と生活・経済林を分け、一方は環境の公益的な機能だけを、もう一方は木材など経済的機能だけを、と分けています。両方やっていかないと、結局は極相化した生産林が山々を覆い尽くしてしまうでしょう。

 緑の雇用事業は、緊急雇用対策も含めて、思い切ってそちらの方へ転換しようという提言です。山をいまのうちに守っておかなければ、十年、二十年たって後継者がいなくなり、山が放っておかれれば、いまかりに十億円投資すれば直るものが、将来百億円投資しても直せなくなる。単に森林の業界のためだけでなく、我々の地域あるいは国土をどう守るかという問題でもあるわけです。

環境に配慮することこそ価値を生み出す

北川:::一九七〇年に公害国会が行われ、そのとき十四もの法律が通り、翌年の七一年に環境庁ができました。そのときは、ものを生産すれば必ず廃棄物が出るという前提で、公害に対応しました。ppmは一〇〇ppm以下に、あるいは排水は何十トン以下になどの総量規制ができました。それを環境対応といいます。

 ところが昨年二〇〇〇年に環境国会といわれた国会で、循環型社会を作る基本法ができました。関連した法律が六本成立し、生産活動をしても気をつければゼロエミッションになる、廃棄物は出ない。あるいは出た場合にも、小さくするとか、リユースやリサイクルをするということで、環境保全という概念に変わった。

 三重県は、環境対応から環境保全へ、さらにもう一歩進めて、環境経営にいきたいと思っています。いままでは環境と経営は対立軸で、環境に配慮していては商売はできないというのが、日本の文化、パラダイムだったと思います。しかし二十一世紀は、環境に配慮しない企業や団体は存続しえませんよ、環境に配慮した方が有利になりますよ、という国づくりをしていかなくてはいけない。

 三重県庁の建物で、ISO14001を導入して、徹底して省エネルギーなどをやりましたところ、三年間で一五億円の無駄づかいがなくなりました。今年も二回大きな災害に遭いましたが、山に保水力がなくなり、一気に山が抜けてしまうという状況でした。やはり普段から環境に配慮していた方が、より安くすむ。いわゆる環境経営というのが、我々自治体にも有利だと宣言しました。 

 「ネイチャーインタフェイス」という観点から、今日は森林を中心にお話ししますが、FSC(Forest Stuwardship Council)という、いわゆる山全体、木全体をISOしていこうという国際的な森林認証システムがあります。森と木のエコマークのようなもので、山を守っていくと、そこに付加価値がつく。

 三重県をこのFSCの先進県にしたい、そして良質な住宅や木質製品までを認証していきたい。こうしたとり組みの日本一を目指しております。 

 有名な大台ケ原の、大杉谷の真ん中を流れている川を宮川といいます。この宮川の清流を、なんとか日本一にしたいと頑張りましたところ、本年達成しました。

 森林というのはこれまで、川上において、どうやって山を作ろう、どうやって山を切ろうというのが、おもな発想ではなかったかという気がします。これからは川下の消費者の目から見て、川下から川上までの森林体系、あるいは木材の流通体系を含めて、生産を見つめなおそう。こんなことから、松阪に木材コンビナートをつくっていただきました。松阪ウッドピアといいますが、これは全国でも最大規模で、私ども県を挙げて、やはり川下の消費者に喜んでいただけるような流通形態を整え、経済的にも合致する体制を作り、山全体を変えていく。その結果として、エコリビングを実践していこう。安定した供給、安定した性質、あるいは安価な品物ということを、ウッドピア等を通じてやっていきたい、そう考えているところです。

 まさに成熟した社会は、二十一世紀に入り、量より質の充実が求められるようになって来た。山をつくったら、本当にアトピーが改善できたり癒しができたりする、そういう質の充実へと向って行かなければならないと考えています。三重県行政はそういう方向で環境先進県、もう少しいうならば環境経営先進県でやっていきたいのです。

 二十一世紀は、人々が安心して暮らせる、安心して食べられる、安心して動けるということをモットーにつくり直して行かなければ、今日いわれる閉塞感もどうにもならない。閉塞感は、単に経済原則だけではないですね。お互いに安心して住み暮らせるということこそ、実は閉塞感をとる最大のものではないか。行政もその方向へ思い切って向かっていこうとするならば、いままでつくり上げてきた文化、経済体制、さまざまな機構というものが抜本的に変わらねばならない。根こそぎゼロベースで、あえて発想を転換するということが、いま、とても重要ではないかと思っております。

経済的価値で計れないものをもう一度見つめなおす

::::::::先ほど北川知事からお話があった三重県の宮川の水系、その起点は大台ケ原ですが、河川がひとつの自治体の中に上から下までそろっているというのは、なかなか少ないですよね。特に私が宮川のとり組みで好きなのは、簡単な箱モノの博物館をつくるのではなく、水系のフィールドそのものをミュージアムにしていく、そうした構想でつくられているところです。

北川:::赤池さんと私の考えは非常に近いですね。いままでは、よい首長というのは、進学率を上げたとか、工場出荷額を上げたなどというのが多かったんですね。宮川の清流をどれだけ守ったかという、そういう評価はほとんど日本の行政、政治にはなかった。それをひっくり返したいと思っているんです。

 宮川は三重県で一番長い大きい川です。伊勢神宮に注いでいきますから、宮さんの川、宮川といいます。これは十四の市町村を通っていきます。十四の市町村は、管理をしやすいということで、川を勝手に十四にブツブツに切ってしまうわけです。本当は市町村の境とは別に、河川は川上から川下まで流域全体で、その生態系を回復してつくり上げていったほうがいい。そういう文化を持ち込んで、川上から川下まで一気に見ようという習慣が少しは出てきたかなと感じています。確かに経済的な価値は重要なことだと思いますが、もう一方で行政は、経済的価値で計れないものを、もう一回落ちついてつくり直していかないと、多分二十一世紀にも二十世紀と同じ間違いを犯してしまう。十七歳でぐれてしまったり、家族が崩壊といったことが繰り返されるのかなと思います。だから経済行為は経済行為として、落ち着いて山を本当に愛して、山からいろいろなものを学んで、自然と共に生きる。共生するということが、行政にはとても重要なことではないかと思っております。

 また、三重県庁では、ゴミ箱の話をずいぶん宣伝しているのですが、ゴミを一〇パーセント減らせというと、県庁の役人さんは真面目ですからすぐやるんですね。それで、ゴミをなくせといったんです。ゴミをゼロにする、ゼロエミッション。そのためにはゴミ箱を県庁からなくしたらどうか。三重県庁にお越しいただいたらわかりますが、ゴミ箱は一つもありません。ゴミ箱がないから、ゴミを捨てることがなくなる。で、八〇パーセントゴミがなくなった。それは、いままでポイとまとめて捨てていたのですが、混ぜればゴミですが、分ければ資源に変わる。それで全部分けはじめたから、それだけ変わった。いままでの日本の文化というのは、ゴミを少なくしようという積み重ねできたんですね。戦後もう五十六年、積み上げて積み上げて来て、ひっくり返ってしまって、いま株価が一万円を割ってしまった。閉塞感もある。だから積み上げるのではなく、一度ご破算に願いますで、ゴミはゼロにしたらという発想なんです。

 山についても、簡単にいえば、林野庁も生産林でやってきて倒産してしまったわけですね。だからそこをもう一度、公益的な機能に眼をやって、山を正しく、持続的に守り、酸素をどう出すか、あるいは水をどう涵養するかという発想に立つ。それでそこに道をつくったり、搬出をしやすくするというのは、まさに公共的な仕事ですから、公共財になって、緑の公共事業が生まれるのではないか。したがって生産林だけではなく、環境林として、簡単にいえば川下の町に住まれる人々もそこに予算を投入していただいたり、お金を入れていただく。そして皆が共通の財産として日本の国土を考えたときに、二十一世紀型の、緑にやさしい、ともに生きる、共生の地域や国土ができるのではないかと思います。

::::::::日本の伝統的な家とか漆器、陶磁器などは、本来は使って行くほどに価値が増えていく、グローイングなプロダクトだったんです。そういうものを私たち日本人は持っていたはずなんですね。もうひとつは、やはり価値を増大させるものづくり、あるいはもの選びということです。もともと日本には養生、丹精という言葉もある。メンテナンスをしていくことが重要だと思うんです。そういう意味で、いま私どもはエコリビング推進認証協議会というNPOをつくり、インターネットを活用した健康建材、あるいは意識の高い工務店の情報公開を開始しました。そこでは、建ち上がった家をどうやってメンテナンスすればいいのか、どのような素材で床や壁の手入れをすればよいのか。そういうメンテナンスについても積極的に情報公開していきたいと思っています。三重県のような山や木を大切にしている自治体や事業者に、ITによる情報公開で追い風を吹かせたいのです。

本当にいいものを作るためにこそ発想の転換を

北川:::県政用の建物とか、市町村の皆さんの学校、公民館などがありますよね。そこに木を使ってください、ということをお願いする。そうすると、それに値段をできるだけ安く合わせていこうとか、健康という付加価値がつくとか、あるいはバリアフリーがちゃんとしているとか、木材の販路が広がっていけば、そういった関係の皆さんも元気が出てくる。

 建物などもこれからは質の充実ということをすれば、木は必ず甦ってくると思うんです。山はいまは、補助金をくれ、金をくれ、という山になってしまっており、国も補助金を出すことが仕事のようになってしまった。だから、本当に川下から見て、確かに安い、確かに健康だ、すばらしい、と評価されるところにまで、関係の皆さんに努力してもらわなければいけません。これからの賢い生活者は、悪いものは絶対買いませんから。業者だって応援しませんよ。だから本当にいいものをつくっていく、そのために発想の転換が望まれている。

::::::::シュガーマツの松ぼっくりのエピソードを、友人のエコロジストであるジョン・ギャスライトさんから教えられました。それは世界で一番大きい松ぼっくりなんです。木もとても大きくて、六〇〜七〇メートルになる。なぜこの話をしたのかというと、世界で一番大きい松の木ですが、弱いところがあって、まわりに小さい木がないと生活できないんです。すぐ大きくなるものの、自分の根っこはあまり張らない木で、風が吹くと倒れやすい。そこでこの松は高いところに実を着け、風で飛んできたさまざまな植物の種を大きな笠でキャッチします。そうするとこれが落ちてくるとき、ほかの種と一緒に落ちてくる。自分の根元にほかの種を呼んでくるわけです。小さい木は、その根の上に根を張ってきます。風が吹いても、いろんな木の根っこに支えられるわけです。つまりその木は、他の木を呼び寄せながら、幹を大きくするんです。

 まさに三重県の行政は、松ぼっくり方式に似ているなと勝手に思いました。これは県外のいろいろな横断的な分野の行政マンたちを集めたり、県外の新しい知恵を呼び寄せ、さまざまな成果を上げてきている。

たとえば昆虫も資源であるという新しい視点を

::::::::私たちのエコリビング推進認証協議会も、風が吹けば倒れてしまうような松の木のような存在です。でも、この松ぼっくりが集めてきたさまざまなノウハウや技術の種が支えあい、生まれたばかりの私どものNPOもすくすくと育ってくれればいいなと思いました。

 良質な農業についても、つまるところ、森の栄養源が支えている森林由来の栄養塩は、また海に流れて、良質な水産資源に結びついていく。ここまでは私もわかったんですが、では栄養源は海にいって終わりなのか、再び山に戻らないのかという疑問があった。しかし山に戻る仕組みがあるんですね。鮭などが川をのぼってきて、川で死んでしまいますね。そうするとそこにたくさんの蛆がたかる。この蛆を鳥たちが食べて、森の中に帰ってフンを落とす。実はこうして、山と海は、蛆という虫を介在させることによってつながっているんだ、ということがわかってきたのです。すなわち、おじゃま虫と呼ばれている昆虫資源を含めて、再生可能な動植物資源をもう一度見直す必要がある。動植物資源とは、木であり、魚であり、虫たちであり、微生物です。昆虫はハチミツとシルクぐらいでしか使ってきませんでしたが、昆虫も資源ということを改めて見直していく、そしてそれを育んでいる山づくり、森づくり、土づくりを見直していく、そういうことをさまざまな知恵を集めて、これから進めていきたいと思っています。

 三重県はいろいろな意味で、チャレンジャブルな事業に助成支援をしてくださる素晴らしい自治体なので、またぜひ私どものNPOからもご提案を申しあげたいと思います。ぜひ行政や国も、研究開発型の科学技術NPOに対して支援をしてくれるような社会システムをつくっていただきたいと思います。

北川:::新しい時代を開いていくのは、いつも最初は異端者だと思います。しかし小さなことからはじめる勇気、その方向と目的が正しければ必ず大河になる。小さなことからはじめる勇気、それを大河にする根気。勇気・根気でこれからも三重県政を頑張っていきたいと思います。

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/12/12