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ユビキタス・コンピューティングの世界 -- 山田 茂樹


NIreport

ユビキタス・コンピューティングの世界

山田茂樹国立情報学研究所

山田茂樹[やまだ・しげき]

国立情報学研究所教授。1949年札幌市生まれ。北海道大学大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。

NTT研究所にてネットワークシステムの研究開発に従事した後、2000年より現職。

ユビキタス・コンピューティングが普及して、将来は愛犬ゴン(雑種、オス、7歳)と会話できるようになることを夢見ている。

ユビキタスとは「偏在する」ということ。everywhereであり、かつinvisible。

その意味するところは、、「コンピュータ」中心ではなく、「人間」中心の情報環境をつくりだすということ

ユビキタス・コンピューティングとは?

最近、コンピュータやネットワークに関してユビキタスという言葉がよく聞かれるようになってきました。ユビキタスとは、「遍在する、広くあまねく存在する」という意味で、ユビキタス・コンピューティングという概念は一九八八年に米国ゼロックス社のパロアルト研究センタのマーク・ワイザ氏によって、将来のコンピュータのあるべき姿として提案されたものです。

ユビキタス・コンピューティングはいくつかの重要な概念を含んでいますが、その中心的な考え方はeverywhere(どこにでもあること)とinvisible(見えないこと)です。everywhereは、現在と桁違いの数のコンピュータが人間、機器、物体に装着され、これらが分散協調処理を行うことによって人間のあらゆる活動を支援するという概念です。一方、invisibleとは不可視性、すなわち、コンピュータがどう使われているかユーザから見えないという考え方です。ここで「見えない」とは、コンピュータが物理的に見えないという意味でなく、論理的に見えない、すなわち、コンピュータが裏で働くことによって、それらの存在を人間に意識させないことを意味しています。

従来の考え方は、コンピュータに何か仕事をやらせるために人間がお膳立てをするというもので、コンピュータのやり方に合わせて人間がコンピュータにアクセスする「コンピュータ中心の情報環境」といえます。マーク・ワイザ氏は、これと逆に、コンピュータから人間にアクセスして情報提供する「人間中心の情報環境」に転換すべきことを唱えた点で、コンピュータの研究者達に大きなインパクトを与えました。

ユビキタス・コンピューティングで世の中はどう変わる?

このようなユビキタス・コンピューティングがもたらす世界を、ビジネスマンである山田君のシナリオを例に説明しましょう。

1――山田君が職場でデスクトップパソコンを使って仕事をしていましたが、パリへの出張の時刻が迫ってきたため、慌てて空港に向かいました。山田君は無事、飛行機に搭乗でき、ほっとして眠りに入ります。

2――その時、職場の山田君の電話機に上司から電話がかかってきました。すると山田君の所在位置(飛行機内)と行動状態(睡眠中)に関する情報がシステムによって自動的に集められ、その結果として、上司からの電話の音声がボイスメールとして一旦蓄積されます。そして山田君が目を覚ますと、それが自動的に検出され、座席の前の電話機にボイスメールが転送されます。

3――パリでの打ち合わせでは、会議室に壁掛け大画面とビデオデッキが存在することがシステムによって自動認識され、それらの操作画面が山田君の携帯型パソコンに自動的に表示されます。その結果、山田君は席を立たずに自分のパソコン上の操作で大画面とビデオを使ったプレゼンテーションを行うことができます。

4――仕事も無事終了したので、パリの観光に出かけます。歩きながら、音声で行き先(エッフェル塔)をウェアラブルコンピュータに伝えると、現在位置からエッフェル塔までの道のりと交通機関について、フェースマウントディスプレイとイヤフォンを通してガイドが行われます。エッフェル塔の近くで塔を指差すと、その歴史や観光案内情報がディスプレイとイヤフォンに流れてきます。

5――ホテルに戻ってテレビを見ていたらフランス語のニュースが流れてきたので、近くのパソコンに音声で「翻訳」を指示すると、パソコンがフランス語を自動認識して、リアルタイムで日本語の音声と文字に自動翻訳してくれます。

6――出張から帰宅し、山田君はワンちゃんと散歩に出かけます。散歩中にウェアラブルコンピュータがワンちゃんの言葉(鳴き声)を人間の言葉に、山田君の言葉はワンちゃんの鳴き声に変換します。こうしてワンちゃんとのリアルタイムの会話を楽しみます。

なお、山田君と違って、ここまでコンピュータのお世話になりたくないというユーザもいらっしゃるでしょう。このようなユーザのために、個人個人の要求に合わせて必要なサービスだけを自由に取捨選択することができます。

ユビキタス・コンピューティングはどうやって実現する?

ユビキタス・コンピューティングの実現技術として、(1)コンピュータがユーザや対象物のコンテクスト(ユーザや物の活動状況や周囲環境)情報を自動的に取得し、それによってコンテクストを認識するコンテクスト・アウェアネス機能と、(2)コンテクスト情報やユーザのメディア情報(音声、動画等)を高速かつ経済的に配送するコンピューティングネットワークが必要です。

コンテクスト・アウェアネスを行うにはユーザの状況を知覚するための多様なセンサと、センサからの情報を総合的に判断してコンテクストを認識するコンピュータが必要で、センサを内蔵したウェアラブルコンピュータが大きな役割を果たします。

コンピューティングネットワークは、インターネットのように、コンテクスト情報、メディア情報も含めたすべての情報をIP(インターネットプロトコル)パケットで転送します。その際、ネットワークに接続されるコンピュータの数が今までと比較にならないほど膨大になるので、現在、主流の32ビットのコンピュータアドレス(IPアドレス)を持つIPv4ではアドレスの数が将来的に不足するため、128ビットのIPアドレスを持つIPv6の技術が将来的に有効と考えられています。第3世代移動通信システムの標準化団体で、世界的にも大きな影響力を持つ3GPP(Third Generation Partnership Project)もIPv6の採用を決定したので大いに注目されています。

どんな研究が行われているのか?

ユビキタス・コンピューティング実現に向けた多様な研究が世界中で精力的に行われていますが、ここではコンテクスト・アウェアネスの研究例としてイギリスのAT&T研究所のセンティエント・コンピューティング(知覚能力のあるコンピューティング)を、コンピューティングネットワークの研究例として私たちが研究中の環境適応型個人通信方式をご紹介します。

●センティエント・コンピューティング

センティエント・コンピューティングでは、各ユーザが、各々異なるIDを持った小さな超音波送信機(Bat)を持ち歩きます。Batからの超音波はビルの天井の複数の超音波受信機が受信し、各受信機での遅延時間の差等からユーザの位置や向きを求めます。

センティエント・コンピューティングの応用例として、図1に示すように職場で各人が外出中か、電話中か、面談中かなどの状態をリアルタイムで表示することにより、上司への相談、電話をかける前の在席チェックに、あるいはユーザがビル内の別な場所に移動している場合、自席に着信した電話を移動先の近辺の電話機に自動的に転送するサービス等、さまざまな応用が考えられています。

●環境適応型個人通信方式

通信ユーザが一般に抱える問題点として、(1)通信の到達性の悪さ:たとえば電話で相手に連絡したいとき、相手の状態(電車のなかなので電話を受けられない等)がわからないため、電話をかけても通じない可能性があること、(2)人手操作の煩雑さ:ユーザが外出時に、職場で受けた電子メールを自宅へ転送するためにコンピュータや通信端末に対して煩雑な事前、事後の人手操作が必要となることから、通信ユーザに大きな負担を強いています。

環境適応型個人通信方式は、このような問題点を解決するために、受信ユーザのコンテクスト情報(ロケーション、使用可能端末、使用可能サービスの情報)をネットワークが自動的に取得し、それをもとに最適な通信端末(パソコン、携帯電話機等)や通信サービス(電話、電子メール等)、通信メディア(音声、テキスト等)を選択し、それらに合わせて送信側のメディアやサービスを変換する方式です。たとえば送信者や受信者の余計な手操作なしに、送信者の電話の声を電子メールのテキストに自動的に変換して受信者の電子メール端末に送り届けることができます。

環境適応型個人通信方式は、将来のネットワークへの導入を行いやすくするために、3GPPが規定するオールIPネットワークと呼ばれる構造をもとに、ユーザコンテクスト情報を記憶するデータベースや、メディア/サービス変換法を決めるサーバなどを付け加えることによって実現します。

マーク・ワイザ氏は残念ながら亡くなってしまいましたが、ワイザ氏の描いたユビキタス・コンピューティングの世界は提案後十数年たった現在、ようやく現実化しようとしているのです。

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