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DNAチップ ― 生命を探る新たなNature Interface -- 清水 信義





NIreport

生命を探る新たなNature Interface――DNAチップ

慶応義塾大学教授清水信義氏に聞く

取材|浅川直輝(科学ジャーナリスト)

慶応義塾大学の新キャンパス

「新川崎Kスクエアタウンキャンパス」で、

「スポッター」という機械が快調に動いている。

微小な針が並ぶ“剣山”にDNA溶液を付着させ、

小さなガラス板の上に押しつける。

それを何回も何回も繰り返して、

数千種類にも及ぶDNAが精密にスポットされていく。

「DNAチップ」と呼ばれる実験器具の製作過程である。

慶應義塾大学の清水信義教授は、日立ソフトと協力して

3年がかりでこのスポッターを開発・改良している。

 遺伝子研究の効率を飛躍的にあげた

といわれる「DNAチップ」、

それはどのようなものなのか。

いま働いている遺伝子が明らかになる

細胞のなかにある遺伝子は、そのすべてがいつも発現して(働いて)いるわけではない。発現している遺伝子は、自分のコピーの一種である「mRNA」を作る。つまり、mRNAを調べれば、細胞内でどの遺伝子が働いているのかがわかる。

 遺伝子DNAと、それに対応するmRNAは、お互い結合する性質がある。その性質を用いれば、発現している遺伝子を特定することができる。そのために、さまざまな手法が開発されてきた。ノーザンブロット法やRT・PCR法では一度に一個の遺伝子しか調べられない。扱える検体も一度に一〇個程度である。これでは明らかに効率が悪い。一つの研究をするにも、数年にわたりこのような作業にかかりきりになってしまう。

 そこに現れたのが、DNAチップである。DNAチップを使えば、数千から数万にわたる遺伝子が一度に調べられる。文字通り、ケタ違いの効率だ。

DNAチップとは、小さなガラス板に、数百〜数万種類のDNA断片を高密度に並べたものである。「スポット」と呼ばれる微少なスペースに、同じ配列を持つDNA断片が固定されており、その「スポット」がガラス板に数万個並んでいるのだ。このようなDNAチップには、遺伝子ごとに望みの塩基配列を人工合成したオリゴヌクレオチドをガラス板に貼るものと、細胞からとりだしたDNAを断片化してガラス板に貼るものの二種類がある。

 前者のDNAチップは主に遺伝子の発現を調べるために用いられる。

 調べたい細胞から取り出したmRNAの溶液をチップに振りかけると、対応するDNAがあるスポットにのみ、mRNAが結合する。あらかじめmRNAを蛍光で標識しておけば、そのスポットだけが蛍光を発する。この光をスキャナーでとらえることで、細胞中のmRNAがどの遺伝子に対応しているのか、つまりどの遺伝子が細胞内で発現しているかがわかるのである。例えば、環境ホルモンの被曝によって細胞内の遺伝子発現にどんな変化がおこるか、ということも調べられる。

ガン遺伝子を解析する

また、細胞由来のDNAを使うチップによって、「どの遺伝子がどれだけ存在するか」を調べることができる。ガン細胞と正常細胞を比べて、どの遺伝子がどれだけ増えているのか、または減少しているのか、昔ならば気の遠くなるような労力が必要だったこの研究に、DNAチップによって新たな成果が生まれつつある。

 清水教授らによる研究のターゲットの一つも、ここにある。清水教授が使うDNAチップには、遺伝子一つがまるまる入っている長いDNA断片が貼り付けてある。先のガン細胞の例でいえば、細胞のガン化と関連があると思われる遺伝子のDNAを、何百種類もガラス板に貼り付けることになる。

 ガン細胞から取り出したDNAと、正常細胞のDNAをDNAチップに振りかけ、そのスポットのシグナルを見比べると、ガン細胞における遺伝子の増減がわかる。

DNAチップがこのような研究に使えるようになったのは、つい最近のことだという。今までのDNAチップを使った実験は、再現性が悪く、信頼のあるデータを出すのがむずかしかった。というのは、ガラス板上にDNAを固定させても、実験中、例えば温度を上下させているうちに、DNAがガラス表面から遊離してしまうことが多かったからだ。清水教授のグループはさまざまな工夫をこらしてこの問題を克服した。

 夏は実験がうまくいくが冬はうまくいかない、という不具合にも悩まされた。いろいろ原因を探るうちに、スポッターの針先についたDNA溶液が、ガラス板に触れる前に乾いてしまっていることに気がついた。日本の冬は、夏に比べ空気が乾燥している。スポッター内に加湿器をとりつけることで、解決した。

「チップ製作の技術はほぼ確立し、あとは『どの遺伝子に注目して調べるか?』のアイデア勝負。ここ一、二年で、新しい研究成果が次々に出てくるはず」、と清水教授は語る。遺伝子研究のスピードを飛躍的に高めたDNAチップ。それはガン治療、ゲノム創薬など、医学に画期的な発展をもたらしてくれるポテンシャルを秘めている。

DNAチップ(上)と

それをつくりだす“スポッター”(中)。

チップ上のスポットを見やすくするために、

一部を赤色に着色してある。

Kスクエア清水信義研究室にて。

DNAチップによる

ガン遺伝子の解析例(下)。

右がガン細胞

(赤のスポットの遺伝子が発現)、

左が正常の細胞

(緑が発現している遺伝子のあるスポット)。

中央が両者の比較。

赤が強いスポットと緑が強いスポット、

両者が均衡した黄色のスポットがみえる。

慶應義塾大学医学部

分子生物学教室

村山裕治氏提供

清水信義[しみず・のぶよし]

1941年大阪市生まれ。慶應義塾大学医学部教授。

ヒトの染色体でもっとも早くDNA解読を完了した

22番染色体解析のリーダーとしても知られる。

新川崎駅前に川崎市と慶応義塾大学が共同で開設した

“創造のもりKスクエアタウンキャンパス”の研究室にて。

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