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[巻頭対談] 情報技術が創造する新しい価値観 -- 青木 利晴+板生 清



(P6-9 巻頭対談)

情報技術が創造する

新しい価値観

聞き手 板生清

[本誌監修]

青木利晴

[株式会社NTTデータ社長]

巻頭対談

青木利晴×板生清

Toshiharu AOKI × Kiyoshi ITAO

青木利晴(あおき・としはる)

1939年東京生まれ。東京大学工学部電気工学科卒。東京大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程修了。工学博士。67年電電公社(現・日本電信電話株式会社)に入社。以来、同研究所で符号化理論の研究、PCM-FDMシステム、デジタル交換方式などの研究実用化に従事。87年、交換方式研究部長、89年理事、90年通信網総合研究所所長、92年取締役、96年常務、97年6月副社長。99年6月 NTTデータ社長に就任。共著に『インターネット&情報スーパーハイウェイ―マルチメディア発展へのシナリオ』、『マルチメディアネットワーク』などがある。

板生――青木社長は、NTTの研究所で符号化理論やPCM│FDMシステム、デジタル変換方式などの研究に従事され、NTT副社長などを経た後、一九九九年にNTTデータの社長に就任されたということで、研究畑からビジネスの世界に変わられたわけですが、大きな違いはありますか?

青木――いいえ、NTT時代の後半は、マネジメントや技術戦略をやっていましたから、あまり違和感はありません。

板生――どの辺が似ているのですか。

青木――いま環境が激変する中で、経営者の立場にとって、もっとも重要なポイントは「先を読む」ということなんです。それは、ビジネスも研究も同じです。もちろん、ビジネスの場合は必ずしも論理的にはいきませんが、ビジネス戦略を立て、世の中の変化をフィードバックさせながら、つねに戦略を見直し、企業の進む方向を適確につくりあげて行く、つまり「先を読む」ことにつきます。

板生――では、経営者という立場を楽しんでおられるわけですね。

青木――いやいや、楽しいとか楽しくないとかじゃないです。いつもカッカして、胃が痛い思いをしながら仕事していますよ(笑)。

インターネットの普及により実現される三つのパーフェクト

青木――いま、経営として考えなければならないのは、インターネットが普及して、世の中がどういうふうに変わってきているのか、ということを見極めることでしょうね。すでに日本ではiモードを含めると七○○○万人の人がインターネットを使っています。つまり、大人のほとんどが使っているということになる。いま現在は、IT不況ということで、パソコンも携帯も売れなくなったと騒がれていますが、それは裏を返せば皆さんに情報端末が行き渡った証拠といえるでしょう。そうしたなかで我々がなすべきことは、社会の変化が進む中で、ITがどのような役割を果たしていくのか、ということを予測することだと

思っています。

板生――確かに、インターネットの普及によって、世の中の在り方も変わりつつありますね。今では情報発信の側から、さまざまなサービスの提供が始まっています。

青木――そうですね。私は、インターネットの普及によって、三つのパーフェクト、@パーフェクト・マーケット、Aパーフェクト・コミュニティ、Bパーフェクト・バリューが実現されると考えています。

 @のパーフェクト・マーケットとは、マーケットにおいて、売り手と買い手が情報を対等に得ることができるようになるということ。つまり、買い手は、インターネット上で世界中の情報を集め、その中から取捨選択して一番安いものを買うことができるということです。従来の資本主義の経済原理に基づく大量生産・大量消費の時代においては、オートクチュールを手に入れようとすれば高くつきましたが、インターネットが普及したいまでは、売り手と買い手がともに情報を知り合うことができるようになり、たとえオートクチュールであっても、売り手が一方的に高く売りつけるということができなくなりました。これまで手に入りにくかった洋書なども、かつては売り手の言い値で買わざるを得なかったけれど、インターネットを使えば、世界中からいつでも安いものを買うことができます。つまり、インターネットの普及は、市場の値段を適正に落ち着かせる役目を持っているというわけです。

 Aのパーフェクト・コミュニティというのは、距離や時間に縛られないコミュニティがつくられる、ということ。インターネットを使えば、相手がどこにいようが、時差があろうが、いつだってコミュニケーションをとることが可能です。たとえば、囲碁好きな人の場合、かつては近所の碁会所でしか碁を打つことができなかったけれど、今やインターネットを通じて、デンマークに住む人とだって毎日打つことができます。つまり、共通のインタレストを持つ人が地理的、時間的な制約に縛られずにインターネット上で集うことができるようになってきているのです。

 しかも、それはマスではない、小さなインタレストでも十分に集えるんですね。たとえば私どもでは、サンリオと一緒になって「マグネット」というサイトを立ち上げていますけれど、これは、お子さんをもった家族向けのネットワークを広げるためのサイトなんです。三十六万人の会員で構成されていますが、時間と距離を超越した、勝手知ったる人たちの集まりです。共通のインタレストを持ってさえいれば、誰でもどこにいてもネットワークを形成することができるというのは、これまでのコミュニティの在り方とは大きく異なっています。「Linux」というOSがインターネットを通じてボランティアたちによってつくられていったように、これまでの会社のような既成の組織とはまったく違ったやり方でコミュニティが形成されていく。非常に興味深いことだといえます。

そして、Bのパーフェクト・バリューというのは、大量生産・大量消費の終焉を意味すると同時に、個々人がそれぞれの価値観を持ち得ることを意味しています。流行歌の例でいえば、かつてはテレビからもラジオからも常時、同じ流行歌が流れていたものですが、いまでは、流行歌というもの自体存在しなくなってきています。ウォークマンの出現で個人が好きなときに好きな音楽を楽しむようになり、今ではインターネットで世界中の音楽の配信サービスを受けられるようになって、もはや誰もが聴くという流行歌は存在し得なくなりました。つまり、たくさんの人がよいというものが、必ずしも自分にとってよいとは限らない、というふうに価値観が変化してきているわけですね。

もちろんモノもそうです。私の知人でガラス細工をつくっている人がいるのですが、以前はまったく売れなかったのに、ホームページに作品を載せたとたん、外国から買いたいという注文があったといいます。個人の価値観が多様化している中では、少量のものでも商売に結びつけることが可能なんですね。インターネットの普及は、まさに個と他者の差を浮き彫りにして、個の確立を促すといってもいいでしょう。

コモディティになったインターネットをとりまく課題

板生――インターネットが個を確立するというのは、面白い考え方ですね。テレビの普及によって、日本国中で同一の映像が流されるようになり、地方の個性が失われてしまったといわれるけれど、逆にインターネットというのは個の多様性を養うものになるのかもしれません。

青木――ええ。しかし一方で、インターネットはこれまで以上にマスに訴えかけることもできます。一千万枚も売れるCDと数万枚しか売れないCDが、同じ値段で売られているのも事実。いまはそういうことが許される時代でもありますね。いずれにしても、インターネットはすでにコモディティ、つまり必需品になりつつあります。そして、インターネットがコモディティになったことによるさまざまな問題も出始めています。たとえば、プライバシーの侵害や知的所有権の侵害といった問題です。急激な変化にトラブルはつきものですが、ITに関わる技術者や関係者たちは、これから起こり得る問題を予測し、前もって議論を重ねてルールづくりを進めていく必要があるでしょう。水道や電気、ガスといった社会インフラの整備に伴ってルールづくりが必要だったように、インターネットもコモディティとなった以上は規範を必要としています。

板生――一番の問題はやはりセキュリティでしょうね。

青木――いままでなかったものが世の中に出てきたわけですから、当然そうした問題が起きてきますね。自己規制をかけながらいかにITのコモディティ化を進めていくかが鍵といえます。我々としてはできる限り、技術で解決できることは対応していかなければいけないと思っています。一方で、自己規制ができなければ、法制化を進めるなど社会としてのルールづくりも必要になってくるでしょう。そうしないと、行き戻りが激しくなってしまいますからね。

板生――行き戻りの一つの現象が、ITバブルの崩壊というわけですね。

青木――そうです。ドット・コムビジネスの崩壊は、最初につくったビジネスモデルを時代に合わせて修正できなかったことで起こってしまったんです。質的にも量的にも時代に合わせて変わっていく必要があるのに、そこを修正しきれなかった。いま生き残っているものは、価値観の変化にきちんとフォローできたものだけです。また今後は、電話の時代と違って、個人個人のコミュニケーションのしかたが多様化し、その上を流通するコンテンツについても、ますます多様化していくでしょうね。昔はお金をかけてコンテンツをつくり、より多くの人に見てもらうことに価値があったわけですが、これからは、自然や風景などの素材がそのままコンテンツになり得ると思います。たとえば、一ヶ月一○○円で、沼津からの富士山の風景を見てみたいと思う人が一○○○人いれば、それだけでビジネスになってしまう。私どもが協賛するNature Network2001でも、「オルカライブ・プロジェクト」といって、カナダ・ハンソン島の海中からシャチの映像を衛星で世界中に配信する試みをしていますが、一ヶ月に六百万人ものアクセスがあり驚いています。自然そのものが価値のあるコンテンツになるというのは、インターネットならではでしょう。これまではコンテンツの数が限られていたから、皆、それを黙って享受してきたわけですが、今後は少ない集団に対応したコンテンツが無数に出てくると思います。

板生――ITというのは、手段であって目的ではありませんからね。ITが社会にどのように必要とされているのかを考えていく必要がありますね。環境問題や高齢化問題に対して、ITを手段としていかに使っていくかが、今後の課題といえるでしょう。

青木――そう思います。これまでのITは、効率化を推し進める役割をもっていたわけですが、今後は新しいサービスやビジネスをクリエイトする方向に向かっていくでしょう。ITが果たす役割を認識しながら、社会全体がコンセンサスをもってITのコモディティ化を推し進めていかなければ発展はあり得ません。

 いまや、医療も介護も環境IT抜きでは考えられない時代が到来しつつあります。政府も自治体も企業も個人も、社会インフラとしてITをどう使っていくべきなのか、より一層の議論が必要だと思います。

板生――私は、これまで目に見えなかったことを、目に見える形にできるのが、ITの役割だと思っています。無限の可能性を秘めているだけに、ITを社会全体としてどう育てていくのか、しっかり考えていかなければなりませんね。

 本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました。

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