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(P18-21) 未来予測アグリビジネス最前線 02
農牧場の情報化と 環境保全型農業
山田一郎 (NTT生活環境研究所 所長) 加藤忠 (同 主幹研究員)
IT化の難しい農業分野
二一世紀における人類危急の課題は、環境、エネルギーとならんで食糧であるといわれている。日本でも、食糧自給率の低迷、農業従事者の高齢化や後継者不足、農産物の市場開放など、農業が抱える問題が叫ばれて久しい。さらに最近では、病原性大腸菌O157や狂牛病問題、有機・無農薬栽培をはじめとする食の安全性に対する消費者の関心も高まっており、生産性の向上のみならず、環境に優しい農業の実現、消費者への食の安全に関する情報提供といった観点からも、農産物の生産・加工・流通・消費の各段階におけるIT活用がますます重要になる。 しかし、農業分野の情報化は他産業分野に比べて難しいといわれている。なぜかというと、農業は天候などの自然環境に大きく左右され、農作物も個体差があるからである。さらに、農作物の品質が、味や香りなど人間の感性に大きく依存することも理由の一つだろう。農業分野の情報化の成否は、このような特殊性を克服し、機能的・コスト的に実用性の高いシステムを提供できるか否かにかかっている。 NTT生活環境研究所[*1]では、このような観点から農業関係者とも積極的に連携して、農業の情報化に向けた研究開発を進めている。北海道大学農学研究科と進めている共同実験[*2][*3]を中心に、その概要を紹介しよう。
農業用ネットワークの利用モデルと そのキーテクノロジー
農業の情報化といっても、その範囲は生産から加工、流通、消費にいたるまで、きわめて広範囲である。NTT生活環境研究所が考えている情報化のイメージは、図1のように、生産現場である農牧場(農場、牧場)のみならず、JA、農業試験場・獣医、加工・流通業者、スーパー・小売店、消費者などがネットワークによって相互に、かつ有機的に接続され、生産履歴や市況情報など、それぞれの立場で必要とするさまざまな情報を容易に入手できる――ということを理想としたものである。 農牧場の情報化について考えると、農牧場に光ファイバーなどの有線ネットワークを敷設することは、コスト面から難しいと思われる。また、広大な農牧場の環境情報を収集するにはネットワーク構築の柔軟性が重要であり、その意味でアクセス系としては無線ネットワークが適していると考えられる。特に無線LANは半径数一〇メートル―数キロメートルの到達距離があり、国際的にも規格が統一されている。フィールドで使う場合にはいかにしてその消費電力を下げるかという課題もあるが、無線LANを中心にしたネットワークが農牧場情報化のキーテクノロジーの一つなのである。
農牧場の情報化とは
NTT生活環境研究所と北海道大学農学研究科は、農業の生産現場である農牧場を中心に据えた農業の情報化を進めるために、北大附属農場・牧場を実験フィールドとする「農業用無線ネットワーク利用共同研究」を進めている。それは、以下のような研究である。
農業用無線ネットワーク 実験システム 農業用無線ネットワークの全体構成を図2に示す。無線LAN(周波数二・四ギガヘルツ帯、伝送距離最大五キロメートル、SS│DS〈スペクトラム直接拡散〉方式)は札幌市の北大附属農場と静内町の附属牧場に敷設され、公衆回線を介して、北大札幌キャンパス内のLAN、東京都武蔵野市および神奈川県厚木市にあるNTT生活環境研究所LANに接続されている。これらの無線LANには、図に示すように、農牧場内の環境(気象、土壌、水質、映像など)をモニターするための各種センサやカメラが接続され、リアルタイムで各種情報が収集される。 北大附属農場では、農学部の校舎内基地局(図3│(1))を基点に、中継基地局を介して、三ヶ所の固定観測点と一ヶ所の移動観測点(トラクター)が無線でネットワーク化されている。各観測点では、気象センサ、放射収支計、土壌センサ、日射センサ、カメラなどが、環境情報ハブを介して無線LANに接続され、リアルタイムで各種情報が収集され、校舎内基地局にあるデータベースに蓄積される。環境情報ハブは、RS│232C、PCMCIA、Ethernetなどのインタフェイスを持ち、センサ類を制御して情報を収集するだけでなく、Webサーバやmail機能により情報や警報の配信を行うことができる。 静内町の附属牧場に設置した無線LANもほぼ同様な構成で、物質循環の情報をモニターするための地下水センサ、pF(土壌水分吸引圧)センサ、TDR(土壌水分含量)センサ、降水量センサ、水位センサ、EC(電気伝導度)センサなどが接続されているが、太陽電池(風力発電も併設)による自立給電システム(図3│(3))を利用しているのが特徴である。 この農業用無線ネットワークを利用して進められているのは、次のような研究テーマである。
作物生育マップ(図4) 農場の中で、どの場所の生育がよくて、どの場所の生育が悪いのか。それを表すマップをつくるための作物生育量の非破壊計測法と、マップ化手法の開発を進めている。トラクターにビデオカメラを搭載し、畦間を約五〇センチメートル/秒の速度で走りながら作物列を真上から撮影する。そしてその画像を、無線LANで画像解析用コンピュータに送る。コンピュータでは画像に含まれる重複部分を特定して画像を連結し、得られた画像上での作物の画素占有率と乾物重、草丈などの生育量との関係から、作物生育マップを作成する。この生育マップにより、生育ムラや場所ごとの生育速度が分かるので、栽培管理作業に役立てることができ、さらには肥料や農薬の低減も期待できるのである。
育苗ハウス遠隔制御(図5) 稲作においては、「苗半作」という言葉があるように、育苗管理技術が移植後の生育と収量に大きな影響をおよぼす。しかし現在は、経営規模の拡大や後継者不足・高齢化といった問題が背景にあるため、育苗ハウス管理の省力化が求められている。 この課題に答えるために、育苗ハウス内の環境情報のリアルタイムモニタリング、さらには遠隔からの生育管理の自動化をめざしている。 現在は無線LANにより、気温、地温、土壌水分、日射量等の育苗ハウス内環境を一〇分ごとに遠隔監視し、ハウス内環境変化の基礎データを収集・解析している。今後は、これらのデータに基づくハウス側面ビニールの開閉や、灌水などの自動化のためのプログラムの作成、および端末による遠隔操作システムの検証を進めていく。
牧場における物質循環解析(図6、図7) 環境保全の観点から、農地、作物、家畜、人間という系を物質が循環する中で、人間や家畜、農牧地からの廃棄物、あるいは栄養塩類の溶脱などが、いま、非常に大きな問題になっている。農地からの栄養塩類などの物質の流出は、降雨や融雪などの非定常の現象によるところが大きいため、いつ、どこで、どれだけ流出するかといったメカニズムの解明には、リアルタイムモニタリングが不可欠である。 附属牧場では、その中央をケバウ川が流れており、牧場内の森林湧水や農地浸透水、暗渠排水は、沢や明渠水路を通してケバウ川に流入し、牧場外へ流出する。この河川を通しての窒素流出量を、下流部(Kout地点)と上流部(Kin地点)での窒素負荷量の差として求めることで、物質流出のメカニズムを解明できると考えられる。それによって、流出予測モデルを構築し、環境に優しい営農方法を確立することをめざしている。 上記以外にも、害虫発生情報、作物環境ストレス情報、ロボットトラクタの群管理など、さまざまな農業用無線ネットワークを利用する研究が進められているが、それらの詳細は共同研究ホームページ[2]を参照されたい。
環境保全型農業に向けて││ 酪農のLCA
農耕地からは、水田や家畜によるメタンや、施肥窒素や糞尿に由来する亜酸化窒素が排出される。また、硝酸性窒素やリンなどによる水質の汚染、肥料や資材に由来する重金属など、農業活動による環境へのさまざまな影響も指摘されている。 一方、企業が製品を製造し、それが消費される過程で、環境に対してどの程度の影響をおよぼしているかを把握する手法の一つに、ライフサイクルアセスメント(LCA)がある。このLCAの考えを農業にも導入することが、環境保全型農業を行っていく上で必要になってくる。 図8は、酪農、その中でも特に今後問題が顕在化するであろう糞尿に注目した、有機性資源の循環サイクルモデルである。最終的には、このような循環サイクル全体のLCAを行うことが望ましいが、第一段階としては図9に示すように、牛の糞尿を出発点、牧草の育成可能な土地を終点とするLCAが考えられる。ここでは、野積み、堆肥工場での堆肥化、焼却、メタンガス発電の四種類の糞尿処理方法について、牧場無線LANを活用した環境モニタリングネットワークシステムや、人手によって収集した温暖化ガス、窒素・リンの水への溶け込み、土壌への蓄積などをフォアグランドデータとして、LCA手法に基づく環境影響評価を進めている。 さらに次のステップでは、牛への投入飼料や牧草のデータも加えてLCAの範囲を拡大し、有機性廃棄物の循環サイクルの最適化を図っていく。 また、このようなLCAで用いるフォアグランドデータは、GIS(Geographical Information System)と組み合わせることで土壌・水・大気の現状を認識したり、窒素・リンの循環現象を理解したり、さらには精密施肥などの環境保全策を考える上で、より有効に活用できると期待されている。そのため、図10に示すような酪農LCAへのGISの適用法についても研究を進めている。
高齢化や後継者不足、経営規模の拡大・分業化といった、日本の農業が抱える問題や将来動向を考えたときに、ITが農業分野で果たすべき役割はきわめて大きい。現実に最近の農業現場を見ると、インターネットの普及もあり、行政、農協、農家など、さまざまなレベルでの情報化が急速に進んでいる。しかし、農牧場と農家の間の情報伝達はやはり農家の目・耳・手に頼っており、さらに農家と加工・流通業者の間、農家と消費者の間の情報伝達はほとんどないというのが現状である。 ここで紹介したような農業用ネットワークが、コスト的にも生産現場に受け入れられるようにすること。それが目下の急務であろう。
[参考文献] [*1]NTT生活環境研究所 ホームページ http://kankyo.lelab.ecl.ntt.co.jp [*2]北海道大学・NTT共同研究 ホームページ http://ecodb.agr.hokudai.ac.jp/www/ [*3]端、山田:”農業用無線ネットワークの利用“、haming2000、Vol.10、北 海道農業情報研究会、pp.64-69(2001)
(P18 写真キャプション) 図1 農業用ネットワークの利用モデル 図2 農業用無線ネットワーク実験システムの全体構成
(P19 写真キャプション) 図3 無線LANの設置状況 図4 作物生育マップ(北大:端俊一教授)
(P20 写真キャプション) 図5 育苗ハウス制御(北大:由田宏一助教授) 図6 牧場における物質循環解析(北大:波多野隆介教授) 図7 窒素フローと河川への流出可能窒素量の見積もり (北大:波多野隆介教授)
(P21 写真キャプション) 図8 酪農における有機性資源循環サイクルのモデル 図9 酪農LCAの第1ステップ 図10 データ収集法とGISへの適用
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