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[特集] ITを利用したゼロエミッション型の農業生産システム -- 大塚 秀光














(P22-25)

未来予測アグリビジネス最前線

03

ITを活用したゼロエミッション型の

農業生産システム

大塚 秀光

(株式会社荏原製作所 総合事業統括 事業推進室)

不毛な土地や海水を農業に利用

現在の日本では、あらゆるものが豊富に出まわっており、およそ食料不足などということは考えられないが、世界的に見ると、アフガニスタンの悲惨な状況のように、食料不足にあえいでいる人々がたくさんいる。したがって、食料の基本である農業生産を増やすことは緊急の課題である。

農業生産の基本は、耕地であり、水である。そして食料不足が起こる原因は、世界の人口を賄うだけの耕地も水も不足しているためである。耕地については増やすことはできないが、不毛な土地はあり、また、水については、真水はないが海水は無尽蔵にある。

この現状を鑑みると、世界中どこでも栽培でき、かつ環境事業を生かしたゼロエミッション型の農業生産システムを構築できれば、問題解決の一助になると考えられる。

 たとえば荏原製作所の場合、海水や塩水を太陽エネルギーだけで淡水化し、その水で節水型の農業生産を行うというコンセプトを構築した(図1)。そこで開発したのが太陽エネルギー利用淡水化装置(商品名:「SOLAQUA」)と、節水型の養液栽培システム(商品名:「エコベジタブルシステム」)である。この淡水化装置および節水型養液栽培システムの開発にあたっては、それぞれ慶應義塾大学工学部および琉球大学農学部の協力を得た。現在、淡水化装置と、この装置でできた水で野菜を養液栽培するシステムの実証プラントを琉球大学附属農場に設置し、試験を続けている(図2)。この結果、淡水化装置は所定の性能を発揮し、節水養液栽培システムは、生産された作物の品質が大変よいので、高品位野菜生産システムとしての位置を築きつつある。

太陽エネルギーだけで

塩水から真水をつくる

この装置の原理は、海水や塩水を蒸発させて蒸留水をつくるもので、蒸発に必要な熱は太陽熱である。太陽熱は集熱パネルによって集められ、蒸発缶に供給される。しかし太陽熱では、大気圧下で100。C以上にはならないため、蒸発効率が落ちる。そこで蒸発缶内を負圧にして蒸発温度を下げるわけだが、負圧にするためには、真空ポンプが必要で、真空ポンプを駆動するためには電気が必要ということになる。そこでこのために必要な電気は太陽電池で賄うこととし、結果的に淡水化に必要なエネルギーはすべて太陽エネルギーだけで賄う自立型の装置となっている。蒸発缶は、熱の有効利用を図るために、八重効用缶を採用している。この装置はユニット型(長さ九×幅三・四×高さ二・六メートル)になっており、一つのユニットでの造水量は、一日あたり三〇〇リットルである(図3および図4)。現在までに、パレスチナのガザと中国の唐山で稼動しており、唐山ではこの淡水化装置でできた水を利用して節水型養液栽培の試験を行っている。

必要最小限の水で野菜を養液栽培

現在、養液栽培システムは多くの種類が販売されているが、ロックウール型やたん液型が多く普及している。ロックウール型は、土のかわりにロックウール(岩綿)を用いて作物を栽培するシステムであるが、使用済みのロックウールが産業廃棄物になることが課題である。また、たん液型は培地を使用せず培養液(肥料液)だけで栽培するシステムであるが、植物は必要とする酸素を根から吸収するので、大量の培養液をつねに循環する必要があり、設備費やポンプ駆動電力等の運転経費が高く、さらに、栽培し終わった培養液(廃水)の処理が必要であるという課題がある。

これに対して、先述した養液栽培システム(図5)は、培地(土の代替品)として、径が数ミリメートルの無機多孔質培地を栽培ベッド(またはポット)に充填し、ここに作物を植える。培養液は別途タンクで調整し、ポンプで汲み上げて、かん水チューブで点滴する。培養液は植物が必要とする量だけを点滴するので廃水は出ない。ほかの養液栽培システムの多くは、培養液を栽培ベッドに供給したあと下から抜いて循環利用するのに対して、本システムは培養液を循環させないで使いきってしまう点が大きく異なっている。培養液を循環利用すると、培養液中の肥料成分構成が変化してアンバランスとなり、最後は廃水として捨てなければならない。

培地の水分は、新たに開発した特殊センサを培地中に埋め込み、リアルタイムで水分検知し、つねに培地中の水分を所定の量にコントロールする。すなわち、生育段階や気象条件によって水分量を自動的に増減する。たとえば、晴天時は植物や培地からの蒸発散量が多いので、培地への水分供給量は多くなるが曇天時は少なくなる。

本システムの大きな特長のひとつは、多孔質培地(図6)を利用していることだ。通常、作物は根から酸素を吸収することで生体が成長できる。酸素の吸収量が多ければ生育は良好だが、少なければ生育は不良になる。畑で土を耕すのは、土に空気を与えて作物の根に酸素を供給しやすくするためである。養液栽培の型式は、根に酸素を供給する方式の違いで決まっているといっても過言ではない。

 その点、このシステムで採用する多孔質培地は、粒子間の空隙や粒子内の細孔に十分な空気が保持されるので作物の生育がよい。また、同時に水分や肥料の保持性もよい。さらに、このシステムでは、なぜか連作障害が起こらない。理由は現在解明中であるが、多孔質に起因する好気性微生物の作用によるものと解釈されている。

図7にサラダナの栽培の手順を示すが、まず、四センチメートルくらいの小さな桝目に多孔質培地を入れ、種を播種して散水する。すると、二週間くらいで七センチメートル程度の苗ができる。この苗をつまんで栽培ベッドに定植をする。あとは自動点滴で二五日から三〇日程度で収穫できる大きさになる。したがって、一年間に一一―一二作の栽培ができる。これはサラダナの例であるが、定植までの作業は果菜類も同様である。

対象作物は、葉物野菜、トマト、キュウリ等の果菜、パインアップル等の果実、花卉と、非常に適用範囲は広いが、大根、ゴボウのような長い根菜類の栽培には適していない。

トマト、パインアップルの糖度が増加

このシステムでミニトマトを栽培したときの糖度の比較を図8に示そう。同じ温室でたん液型による栽培に比較して糖度が二・五程度高い結果を得た。

また、沖縄でのパインアップルの栽培では、図9に示すように、土耕に比較して糖度がきわめて高くなるし、土耕では通常二年間かかるパインアップルの生育期間が、一年間に短縮されるのだ。さらに栽植密度は土耕栽培の二倍程度をとることができるので、面積あたり土耕の約四倍の収穫量を上げることができる。現在、沖縄でのパインアップル栽培は北部の赤土酸性土壌で栽培されているが、この赤土が海に流出して海洋汚染を起こしている。そのため、このシステムのように土を使わない栽培の普及が期待される。

ITで生産者と消費者を近づける

このシステムで栽培した葉物野菜は、さらに葉にしっかり感があり、しおれにくいため流通過程での評価も高い。しかし上述のように高品位であるにかかわらず、この野菜を一般の市場に出してしまうと、その評価はあまりされないことになる。

 たとえばトマトを例にとってみると、生産者が市場に出すときの出荷基準があり、トマトの大きさと、出荷時期によってトマトの最適な色が指定される。寒い時期であれば赤くなったトマトで出荷されるが、暑い時期では赤くなったトマトは流通過程で過熟してしまうため、ほのかに赤くなって青みが残っている段階で出荷される。すなわち、消費者の好むトマトではなくて、流通のために都合のよいトマトが評価されるのである。今日のように大量かつ長距離の流通を行う社会ではいたし方ないことではある。昔に比べて生産者と消費者が遠くなってしまったからである。

しかしながら、消費者の中には本当においしい野菜や安全な野菜を求める層が確実に存在し、かつ増えてきている。この消費者のニーズに答えるためには、生産している現場をいつも見てもらい、どんな管理をしているか、どんな状態で収穫するのかなど、自分の目で見てもらえばよいのである。しかし、実際には都市生活者がこのようなことはできない。これを実現できるのは、ITである。

図10に示すように、生産者と消費者がインターネットを中心とするITで連結されれば、生産者と消費者を近づけることができる。たとえば、生産現場では、どんな農薬をいつ、どのくらい使ったか、野菜がどのくらい育っているか、糖度はどのくらいか、養分はどのくらいか等々、生産者から消費者への情報の供給ができるわけだ。消費者としても、直接農家へ情報付きの素性の知れた野菜を購入依頼することができる。つまり大量流通ではなく、ITを通じた個別流通である。すでに沖縄では本養液栽培システムでパインアップルを栽培し、インターネットを介して個別販売をしている農家もある。

近年、中国をはじめとする外国からの価格の安い野菜が市場に出まわっており、日本の農家経営を脅かすようになっているが、市場の原理からいうと、これもある程度いたし方ないことだろう。日本の農家が強くなるためには、外国産の安い野菜と価格で張り合うだけでなく、このようなIT活用の情報付き野菜を特定顧客に個別流通させることで活路が見出せるかもしれない。さらにいえば、農業という産業を単に農産物の生産基地と考えるのではなく、農業のもつ癒しの効果やレクリエーションの機能など、多面的、総合的産業と位置づけることで新たな産業振興が可能ではないかと考えている。これを支えるのが実はITなのだと思う。

この養液栽培システムはまだ立ち上がったばかりではあるが、高品位野菜ができるということをベースに、ITの活用を介して農業・農村の復権に役立つのではないかと考えている。

(P22写真キャプション)

図1

図2

(P23写真キャプション)

図3 太陽エネルギーで真水をつくる装置

図4 装置の仕組み

図5 エコベジタブルシステムの基本構成

(P24写真キャプション)

図6 多孔質培地

播種/発芽

育苗

定植

育成

図7 サラダナ栽培の手順

(P25写真キャプション)

図8 ミニトマトの糖度比較

図9 パイナップルの糖度比較

図10 ITによる生産者と消費者の結びつき

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