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[特集] 計測・制御技術に基づく農業ITへの取組み -- 河内 淳






(P26-30)

未来予測アグリビジネス最前線

04

計測・制御技術に基づく

農業ITへのとり組み

 河内 淳

株式会社山武 プロダクト事業 管掌 取締役

聞き手:梅田和昇

中央大学理工学部精密機械工学科助教授

農業ITへのとり組み

――ビル空調やプラント制御などのトータルな制御から要素技術まで、広い範囲にわたって制御全般に強い御社ですが、農業ITにとり組まれているのはどうしてなのでしょうか。新分野として、農業が魅力的だということなのでしょうか。

河内――何かを制御する場合、いわゆるからくりを知っているものは制御しやすく、農業のように、そのからくりがわからない、技術というよりも技能でやっているような部分はなかなか制御できませんね。しかし、これを実際にうまく制御できるようになると、大変品質のよいものができるわけで、そのような点に可能性を感じています。

 篤農家は非常に技能的に優れたものを持っている。適切な時期に適切な肥料や水を与えるなど、いろいろなことをしていくと、よそでは少ししかならない作物がたくさんなるとか、あるいは質のよいもの、おいしいものができるとか。食べ物というのは、工業製品と違っておいしいということが要求されます。そういう観点から、農業も我々の制御技術を適用すれば、質の高いものを均質につくれる可能性があると考えています。食は、人間の欲望に一番近いところですから、需要はあるのではないでしょうか。(図1)

――そうですね、同じ食べるのなら、おいしいものが食べたいですからね。

河内――しかし、だからといって、これから篤農家がどんどん世の中に生まれてくるかというと、これは難しいですよね。彼らは結局、ものすごい才能と経験を積むことによってノウハウとして持っているのですから。しかし、農業が少しでも自動化されて彼らのノウハウに近づけたら、それほど高価ではなく、おいしいものをみんなが食べられるようになるのではないでしょうか。

農業における対象のモデル化

――ということは、篤農家の技能をどれだけうまくモデル化できるかが、本質的な問題になるわけですね。

河内――そうですね、制御という点から、からくりを知りたい対象はなにか。それは篤農家です。生物には自分で生きていく力があり、基本的には、アウトラインを外れない限りは放っておいても育ちます。ただそうすると、まずいものができたり、実のなり方が少なかったりと、いろいろな問題が出てきます。何もしない状態と篤農家の状態の間には、ものすごく隔たりがあるわけですね。これに技術を入れていくことで、どこまでよい状態がつくれるか、ということです。

 一体篤農家は、何を見て何を判断しているのか。センサとしての人間の機能はものすごい複雑なんですね。まず目で見ている、肌で感じている、音で聞く。それで、ある状態を把握するわけです。そして、こういう状況が出てきたらどうすればよいか、判断ができる。けれども、どこで判断されているかといっても、非常にわかりにくい。我々が今まで工業で扱ってきた状態量は、すぐわかるものばかりです。しかし人間の五感でとらえる情報は、そう簡単にはデータに置き換えられないですね。篤農家の感じている能力というものは、本人自身も意外とわかっていないのです。

――そういったものを実際にセンシングするときには、どのようにされるのですか。人間の五感的なセンシングを用いて情報を計測するわけですか。

河内――いや、それはなかなか難しいと思います。五感的なものを代替させるには、まず、どういうセンサで情報をとり出すかという問題があります。そして次に、代替センサで計測したものと篤農家の判断したものとを、どのポイントで一致させていくか。そうしていかないと、おそらく農業の自動化は難しいと思います。

――そうですね、私もそう思います。

河内――そのときに、そういう発想はソフトセンサ(図2)として使えるのではないか。当社では「TCBM」と呼んでいるのですが、こういう考え方をうまく使うと、農業の自動化に貢献できるのではないかと思っています。篤農家が何をどう判断しているかをつぶさに聞き出し、その代替センサとしてどういうものを準備すればよいか。そういうことを考えていくと、おそらく自動化ができてくるのではないでしょうか。

農業ITに利用可能な制御技術:TCBM

――TCBMとはどういうものなのですか。

河内――これは「Topological Case-Based Modelling」を略した言葉です。対象が簡単なものでしたら、PIDという技術で制御できます。しかし、たとえばプラント制御やビルの空調において、できるだけ省エネしながら、部屋の中にいる人全体が快適と感じる温度にしたいというような場合、これは単なるPIDでは制御しきれないわけです。非線形で、よくわからない対象をモデリングしなければならない。そういうものを制御するために開発したのがTCBMなのです。(図3)

――これは一般に使われている用語なのですか。

河内――当社オリジナルですね。要するに、入力に対する出力を予測するモデリングを行う技術なのですが、複雑な問題では、予測したい目的(出力=たとえば植物の生長度合い)は解っていても、その要因となるもの(入力=たとえば植物の成長要因)が解らない。そういうとき、データから、入力が何かを見つけ出しモデリングを行う。そういう作業に適したものです。また、モデルをつくろうとしてうまくできなかったとき、それがデータ情報の問題なのか、選定した要因の問題なのかを評価できる特別な評価指標も持っています。

 それから、つくったモデルを使うとき、ニューラルネットワークや多変量解析での多重回帰だと、採集したデータが偏っている場合もあります。そういう場合、データが多い部分はわりと精度よくできるけれども、まばらなところはあまりあてになりません。そのように信頼性が予測できないことがある。それを何とか解決しつつモデリングしようということで発想した手法なのです。

 要は、事例のあるところをベースに、過去の事例に基づいて新しい入力に対する値を予測していこうというもので、発想としては比較的単純ですね。たまたま次の入力がサンプルのあるところに来ればそのままその値を出せばよいし、ないところに来れば近傍の平均値を出せばよい。そしてその信頼度は、サンプルとの距離で予測できる。そのような考え方です。

――不確かさをきちんと出力してくれるというわけですね。

河内――そうです。これを、数年前から開発してきました。いまは空調の負荷予測や、都市災害につながる下水処理場への流入量の予測などに用いているわけですが、これを、複雑な因果関係がある農業にも使えないかと思っているのです。農業の場合、数式モデルをつくって表すのは難しい。そこで、こういう事象が起こった場合、どれくらい先にどういうことが起こる、といったデータをどんどん集めていくわけです。いつ、どのように太陽が照り、どういうときに水をどうやると、あと何日先に植物はどうなるか。こういうデータをいろいろ採っていくと、いま何をやると将来どうなりそうだと、ある意味で、からくりはわからないながら、先が予測できるようになっていくんです。しかも、どれくらいの不確かさでそれが起こるだろう、ということもわかる。まさに、篤農家の頭の中の動きと同じことができてくるわけです。

具体的なとり組み――

小松菜の収量予測など

――農業ITへのとり組みの具体例を教えていただけますか。

河内――小松菜の収量の予測を、神奈川県農業総合研究所と一緒にやった例があります。気候によって収量が変動すると、どっと出た時には小松菜の値段が下がってしまうわけです。そこでまずは、いつ頃どれぐらいの収量になるか予測できないか、さらに予測ができたら、ハウスの環境をうまくコントロールすることによって収量を制御できないか、という発想で始めました。これは比較的単純な例ですが、気温と日射量と日格差、これくらいの情報をTCBMへの入力としています。これは比較的うまくいきました。ハウスの環境条件と、気象庁による気象予測ですね。そこから、それまでの事例をもとに、二週間後にはどれくらいの伸長量かを計算して出すというわけです。さらに、ハウスの中の温度を何度にしたら、いつどれくらい伸びるかをシュミレーションして調整する、ということもしています。(図4)

――これは実用化のめどはついているのですか。

河内――今の時点では、やや難しいところがあると思います。小松菜の時期的な予測については非常に効果があったのですが、実際に農家にそれを持っていった場合、トータルとして利益が出せるところまでは、まだ確認できておりません。農家がいろいろと他の作物を植えたりなど、もっと複雑なことになってくると、これがこのまま役に立つかどうかは、まだわからない段階です。

 もう一つ、東海大学の星岳彦先生と、ミニトマトについての共同研究をしており、これも収量予測は比較的成果を出しているのですが、ひとつ重要な点があります。それは、収穫のしかたが次の収量に反映してしまうということです。すなわち、人間の要素がかなり入ってくるようなのです。本当に実用化していくには、そのような部分をどうとり込んでいくかが課題になると思います。この場合も、作業時間を数値として後から入力しています。

 農業には、自然、ハウスの環境、あるいは人間の作業など、さまざまな要因がからんでいるわけです。その中でどういう要因をとり込んで、データとして活用したらよいか。そういう点が、この場合にはかなり重要なようです。単にデータを持ってくればなにか出てくるというような、それだけの世界ではないことが、一番難しいところですね。

 ですから、篤農家の方々や、植物の生長メカニズムを専門に研究しておられる大学の先生方と一緒に、生長メカニズムをある程度想定しながらデータ処理をしていく、そのような仕組みづくりがこれから重要になってくるでしょう。

ビジネスへの展開

河内――実用化を考えた場合、もっとも重要な点は安定性ですね。工業でもそうなのですが、何かを使って失敗したとき、全部枯れてしまうのではダメなんです。農業も一つのビジネスに持っていこうとすると、そういう観点からきちんと見ていかないといけないんですね。多少収量は落ちても収穫できるのならよいのですが、うまくすると収量があがるけれども下手すると枯れてしまう、などというのでは困るわけです。

 また、ここでの内容はどちらかというと、将来的にどういうところで使えそうかという発想ですが、現実のビジネスはあくまでビジネスですから。IT農業でとり扱う内容と、いま実際にどういうところでビジネスになるかという点に、かなりずれはあると思います。

――現段階でのビジネスとしては、どのような状況ですか。

河内――制御機器や計測機器を農業的にモディフィケーションし、データをとったりしているという段階です。あとは先ほどの例のような温室の環境の制御ですが、それはビルの空調制御の延長で、農業の農作物の生長の制御というよりは、まだ環境を制御しているというレベルですね。

――農業IT用のセンサとしては、いま、具体的にどういうものを使っているのですか。

河内――グリーンハウスなどの環境制御では、温度、湿度、CO2、あと、土のpHなどのセンサがあります。農業ではCO2センサの需要が大きいようですね。つまり植物は光合成をするので、CO2の量で生長が左右されるわけです。(図5)

今後の農業IT

河内――誤解のないように申し上げておきますと、我々は農業の専門家ではありません。農業のノウハウはないですから、結局、制御技術、計測技術という観点からどう農業に貢献できるか、という問題になります。

 IT時代になり、これだけ計算機が強くなって、情報がいろいろネットワークで集められる。そのときにTCBMのような受け皿があれば、いろいろなことができるのではないか。特に農業はからくりがわかりにくいですから、データからどう将来を予測できるか、そういう部分では役に立てるのではないか、ということです。従来の制御と違うのはそこなんですね。情報をベースにからくりを推定していき、からくりそのものはわからないけれども、結果を出せる。そのためには、よい情報と、その情報をうまく処理する仕組みがあればよいわけですね。情報を提供してくれる方がいないと、情報処理能力があっても何も進まないわけです。ですから外の人達とどう協力して、どう一緒にTCBMを使っていくか、どうソフトセンサを使い込んでいくかが重要なのです。そういうところで、我々はお役に立てるのではないかと考えています。

――本日はどうもありがとうございました。

(P26写真キャプション)

図1 制御技術の農業への展開

(P27写真キャプション)

図2 ソフトセンサの例

図3 TCBMの概念図

(P28写真キャプション)

図4 小松菜の栽培予測システム

(P29写真キャプション)

図5 農業用の各種センサ

(右から農業用温湿度センサ、赤外線NDIR式CO2センサ、固体電解質式CO2センサ)

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