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[特集] アグリビジネスの可能性と実践 -- 川村 邦明+篠崎 聡










(P31-34)

未来予測アグリビジネス最前線

05

アグリビジネスの可能性と実践

 川村邦明

(株)前川製作所技術研究所所長

篠崎聡

同技術総研機構

はじめに

 いま、日本のアグリビジネスが大きく変わろうとしている。科学技術がこれまでの農業の形態に新風を巻き起こしているのだ。

 前川製作所では、環境対応をめざして熱と自動機械と総合エンジニアリングを進めている。環境面では、温暖化係数0、オゾン破壊係数0の自然冷媒アンモニアを駆使した冷凍機ユニットを開発し、これは長野オリンピックで氷上競技を支えた。また、炭酸ガス空調システムを実用化する一方、飲料製造分野での省エネ型冷却システムを開発、納入しており、食品自動機械分野では、鶏肉の自動脱骨ロボットを開発し国内最大のシェアを得ている。ほかにも温度差発電システムや凍結濃縮システムなどを開発し、環境問題に大きく貢献するなど、現在、自然冷媒、リサイクル、熱回収、食品加工自動機械、安心安全な食品加工などの分野で顧客や地元と密着した研究開発を進めている。

 今後の課題として食、農のハイテク化=新産業創出、雇用の拡大を志向しているが、ここでは前川製作所が検討しているアグリビジネスへのシナリオとその可能性、そして実際に進めているテーマについて紹介しよう。

アグリビジネスへのシナリオ

 昨年九月二一日、東京大学で第一回フロンティアサイエンスフォーラムが開催された。ここで前川製作所の代表取締役会長・前川正雄は、以下のような講演をした。 これまでの大量生産大量消費社会から、循環型社会へ転換するには、地域の志の高い住民と、産官学による新しいコミュニティの構築が不可欠であり、これには、環境・産業・行政・教育・生活が一体となった解決が要求される。これまではそれぞれの部分的な最適化を求めていたが、部分の最適化の組み合わせが必ずしも全体の最適ではないため、トータルな視点での解決が必要となる。総合的なシナリオとしては、現在消滅しつつある地場産業に先端技術を導入することによって、再生し、連続的な産業創出を実現することを目指している。特に、多くの地域の抱える課題は、農・食分野が中心であり、これらの分野をターゲットとすることが重要である。残念ながら、日本の農や食品産業は国際的な競争力が弱く、工業分野の先端技術が活かされていない。したがって、地域の共通基盤である「農と食」の分野に先端技術を導入することによってハイテク化し、新産業の創出、雇用の増大に貢献することが期待されている。この分野では、技術の導入効果が著しいのみならず、技術や産業創出がスパイラルアップされていくだろう。そのためには、産官学と地域住民が一体となり、トータルな視点で課題を抽出して、解決にあたることが必要である。特に、産業界からは日本の製造業を支える資本財産業の参画が必須である。

 現在、「農」の分野の技術は、いわゆる篤農家と呼ばれる匠の高度な技能の世界である。農業では、土壌と気候と植物の複雑な相互作用で成り立っており、再現性が低く、農業者のカンに頼ることが基盤となっている。ここにサイエンスのメスを入れることが必要である。

 また、農業従事者は、高齢化が顕著であるうえ、労働力の絶対的な不足や後継者の不足など多くの課題を抱えている。さらに、輸入農産物の急激な増加による国産農産物の競争力の低下が、現実の課題として顕在化してきている。このように技術的な側面のみならず、社会システム面からのアプローチも重要であり、部分ではなく全体で課題をとらえることが必要である。

 また、農業分野は食品産業と大きなかかわりをもっており、食品から農業を見ること、さらには消費者から農業をとらえることが重要となっている。地産地消を含めて、農業を生産から消費までのトータルな視点でとらえることが望まれているのである。

 現在、食品の安全安心は、大きな社会問題になってきている。履歴が不透明な農産物、食品が流通し、消費者の不安を招いているのである。生産者団体は、顔の見える農産物などの手法で消費者とのコンタクトをとってはいるが、それはまだほんの一部に過ぎない。農・食・消費が分断された現在、このような現象は顕在化してくるものと予想される。また、海外の輸入農産物の攻勢を受けて、国産農産物、食品の安全性、機能性、優位性などの差別化が重要な課題となっているが、この解決策として、消費から見た農業、情報付農産物などの重要性が見えてくる。

アグリビジネスの可能性

 アグリビジネスの分野は、新規の企業が参入して農業を実施するケースや、従来の農家が法人化や大規模化を図り、農業をビジネスに変えるケースなど多種多様である。農業のどこの領域をビジネスにするか、ビジネスのシナリオ構築が課題である。

 優れた農産物を生産する上で不可欠なのは、大規模化、作業の効率化、ノウハウの技術化、およびこのような作業を自動化することである。食品や農産物は不定形で軟弱物体なので、従来の自動化システムでは対応ができない。特に、一つ一つ形状が異なること、つまり規格化されていないことは、自動化を大きく阻んでいる。

 また、対象が生き物である場合はさらにとり扱いが難しくなり、次世代の農業用機械、ロボットでは、複雑な環境で自己制御でき、規格化されていない対象物を扱えることが要求されることになる。ロボット産業は、日本の誇る技術の一つであり、これを生かした次世代型ロボットが農と食の分野を支える基盤となる。

前川製作所では、食品自動機械として、鶏肉の自動脱骨ロボット「トリダス」を開発した経緯がある。これは、鶏肉という不定形で軟弱なものの脱骨が要求されるものだが、これを解決するには計測制御が基盤となる。また、食品は安全衛生を必要とする分野なので、微生物の増殖を防止するために低温条件での作業が必要で、作業者の労働環境は劣悪であった。だから、この作業を自動化できれば、作業の効率化のみならず、衛生環境の確保、品質の向上など非常に多くのメリットがあるわけである。この開発技術は、農業分野に大きく貢献するはずである。

 また、農業の分野では、環境保全が叫ばれ、農薬や肥料の散布を抑えた農産物の生産が必要となっている。さらに、消費者からはこれらの環境情報を添付した情報付農産物が注目されており、安全安心な農産物を生産するためのツールとして、精密農業が注目されている。これは、農業の圃場を単位として圃場マップを作成し、施肥や防除などの作業を一元管理して、これらの情報を蓄積する一方、最適な施肥、防除を実現することが目的である。この手法によって環境保全が実現する一方、これまでのカンによる農作業がデータ化されることになる。また、この圃場で生産された農産物の栽培履歴がデータベース化されて添付され、情報付農産物を消費者に届けることが可能になる。

 また、ハウスなどによる農産物の栽培に関しては、温度、湿度、日照、肥料、散水、空気組成、土壌、ミネラルなどの制御が必須であり、日本のような四季のある高温多湿な環境では従来の制御方式の適用が困難である。もちろん、完全に制御できる閉鎖系温室では技術的には可能であるが、エネルギーなどのコストが課題となり、安価な農産物としては実用化が難しい。しかし、現在、野菜の多くは施設園芸によって生産されており、流通している品種も施設型のものにシフトしてきている。今後、施設園芸による農産物の効率的な生産は、重要になるであろう。

 前川製作所での植物栽培分野での自動化の事例を紹介しよう。当社では、きのこ、もやしなどの栽培施設の開発を手がけているが、このノウハウを農の分野に適応できると考えられる。とくに、きのこのマイタケ(舞茸)の栽培における環境制御の実績、ノウハウがあり、これがもやしの栽培施設の開発のベースとなっている。では、もやし栽培施設をどう開発したか示してみよう。

もやし栽培の実例

 もやしは、種子を発芽させた植物であるが、主に豆類が利用されている。最も一般的なものが緑豆もやしである。もやしは、笂イと呼ばれる白い茎の部分が、太く、長く、白いものの評価が高い(図‐7参照)。もやしは、種子の中に保存されている物質が発芽によって分解して、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などの物質が豊富に含まれており、また、一週間程度の栽培で商品になるために、光の照射など栽培に関する投入コストを低下させることができる。一方、もやしの胚軸を太くするには、温度湿度の制御のみならず、空気組成の制御が重要となる。特に重要なのはエチレンガスの制御で、これが生産物の良し悪しを決定する。また、種子に付着している微生物の除去も大きな課題である。図‐4にもやしの栽培技術のノウハウを示した。

 また、緑豆もやしの生産工程を図‐5に示した。購入した種子は、低温で貯蔵されて、洗浄後に栽培容器に移される。栽培は、暗黒条件で、一定温度、一定湿度で制御され、もやしが生長する。生長したもやしは、洗浄や根の切断工程を経て、袋詰めされて製品として出荷される。図‐6に従来の栽培技術の課題を挙げたが、もやし栽培での課題は、微生物の増殖による腐敗と品質のばらつきを克服することである。これを解決するための制御因子を、図‐7に示した。つまり、温度、湿度、酸素濃度、炭酸ガス濃度、散水、栽培方法、エチレン濃度などである。これらの因子を解明するために、環境制御装置を作成し、図‐8に制御因子の測定装置を示した。また、図‐9にその詳細を示した。ガスセンサに利用したのは、炭酸ガスには赤外線吸収方式、酸素にはジルコニア方式のセンサ、エチレンにはガスクロマトグラフである。これらで計測した温度などのデータをフィードバックして、環境を制御しているのである。これらの制御の結果、低温条件で、雑菌の増殖を防止でき、品質が揃ったもやしを栽培できる条件が整備されてきている。この装置は、ガスを含めた環境制御が可能なことから、多様な植物の栽培条件の制御に活用することができる。

今後の展開

 これまでの自動化技術や計測制御技術を踏まえて、農業分野での展開を模索している弊社では、静岡県で屋上緑化用のセダムという植物や芝草の生産をha規模で実際に行なっており、現在、生産のノウハウが蓄積されつつある。また、実際に農業者との交流を実践する一方、実験的に農産物の栽培を行なっている。

 農業分野では、まず環境情報、栽培作業、履歴などの情報を一元管理し、これを蓄積することが必要となる。また、携帯端末などを利用して、農作業のデータをサーバーに蓄積すること、またこれに対応する作業を携帯に送信することが望まれる。つまり農業分野でのITの活用である。圃場でおきている現象を把握して、作業を行なうこと、これが篤農家の技能をデータ化する第一段階になると考えられる。

 さらには、消費から見た農業生産の実現に向けて、情報付農産物の流通、生産者と消費者との双方向のコミュニケーションなどの構築が期待される。今後、前川製作所では、農業の現場を通じて、研究開発を実践していく予定である。

(P31写真キャプション)

図1

(P33写真キャプション)

図4

図5

図6

(P34写真キャプション)

図7

図8

図9

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