NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.07 の目次 > P39-42 [English]

[特集] アグリビジネスの創造に向けて -- 大澤 信一


(P39-42)

未来予測アグリビジネス最前線

07

アグリビジネスの創造に向けて

大澤信一

(株式会社日本総合研究所研究事業本部 ニュービジネスクラスタークラスター長)

今なぜアグリビジネスなのか

 現在、わが国は巨大な「時代の曲がり角」の真っただ中を進んでいます。九〇年代初めにバブル経済が崩壊して「平成不況」といわれ出してから、はや一〇年が経過しようとしていますが、新しい時代の方向性は未だ混沌としています。

 ここでの問題は、わが国にはきわめて競争力の強い製造業等の一部産業と、一方規制に守られて強い競争力を持ち得ないでいる農林水産業、流通業、金融業などが混在していて、国全体としての競争力を落としていることだといってもよいでしょう。図表1はわが国の穀物自給率を主要先進国と比較して示したものですが、わが国の数字がいかに突出して低いかがよく理解できます。

 また、図表2には「農産物の流通段階別経費の日米比較」を示しましたが、日本の農産物価格が割高であること、また農業分野においては生産だけでなく流通分野の生産性向上も大きな課題であることが理解できます。

 東西冷戦が終焉しグローバルマーケットが成立してみると、従来、国境や関税などに守られていた競争力のない産業分野もグローバル競争の真っただ中に放り出されました。これらの分野では従来のビジネスが成立しなくなり、雇用は失われ、慢性的な有効需要の不足に悩まされるというわけです。

 このような問題意識の下でアグリビジネスを見ると、ここに多数の力強いニュービジネスを生み出していくことが、結果として平成大不況脱出へ繋がることがわかってきます。

 ここでアグリビジネスとは、農業と流通・加工業、あるいは観光業などが融合した新しい「農」関連ビジネスをイメージしています。新しいアグリビジネス創造は、ここに国際競争力を持ったビジネスを多数生み出していこうとする試みであり、日本経済全体でいえば弱点の補強作業ということができます。

ネイチャーインタフェイスがアグリビジネスを飛躍させる

 また、注目すべきは、これらの新しいアグリビジネス創造のためには、IT技術やバイオテクノロジー等、二一世紀に大きな花を咲かせる新技術がふんだんに盛り込まれている必要があるという点です。従来、アグリビジネスは自然を相手にして成立しているために、エレクトロニクス、石油化学、機械工学といった諸技術の恩恵を十分享受できませんでした。なぜなら、これらの技術群は、工場等の閉鎖系でしか十分な力を発揮できないことが多かったからです。

 一次産業の生産力が製造業に比べて大きく見劣りする原因の一つは、この点にあったといってよいと思います。

 ところが、最近の技術進歩によって「ネイチャーインタフェイス」や「ユビキタス・コンピューティング(どこでもコンピュータ)」といった概念が現実のものとなり始めました。いままで複雑な自然環境の下で技術進歩の外におかれてきたように見える農業分野にも、その恩恵が容易に導入される可能性が見え始めてきたのです。

アグリビジネス創造へ向けた三つの視点

 では、新しいアグリビジネス創造のためにはどのような施策が必要となるのでしょうか。マクロ的には規制緩和等が大きなポイントとなると考えられます。図表3には、筆者がマクロ的に重要と考えるポイントを幾つか示しました。

 しかしここでは、もう少しミクロなアグリビジネスの創造戦略を考えてみたいと思います。

 この分野で筆者がとりわけ重要と考えるのは、@地域の個性を全面に打ち出した事業戦略、AIT農業の推進と定着、B新しいビジネスシステム構築の三点です。

@ 地域の個性を

全面に打ち出した事業戦略

 第一のポイントである地域個性の重視という問題は、現在の日本農業がおかれている国際的競争状況から導かれる条件です。たとえば、最近多くの農産物をわが国に輸出している中国と日本農業を比較してみましょう。

 周知の通り、中国の人件費はわが国の二〇―三〇分の一といわれています。単に、ネギ、シイタケといった農産品それ自体を生産し販売するビジネスでは、わが国の農業は中国などの途上国にとうてい太刀打ちできません。

 しかし、地域の風土や個性に裏打ちされた農産物、たとえば下仁田ネギ(注1)や京野菜等の地場野菜(注2)の領域では、同じ農産品といっても、良質な国産品と輸入品の間には「本家・家元」と「模造品」くらいの価値の差が出てきます。ブランド品のバックやビンテージワインを見るまでもなく、きわめて文化的要素が強い「食」の領域では、この格差は非常に大きなものがあります。わが国のような先進国農業では、地域個性を農産品に組み込んでいく戦略は生き残りのための必須の条件になります。

A IT農業の推進と定着

 第二は、IT農業推進と定着という戦略軸ですが、これは最近のIT関連技術の飛躍的進歩が可能としてくれた視点です。たとえば、前述した地域の個性的野菜や、最近注目されることの多い有機農産物などについては、誰が、どこで、どのように生産し、それが消費者の手元までどんなルートで配送されたかが重要なポイントになります。現在はこの条件を満たすため、信用力がある著名百貨店等が、地域の篤農家を指名して契約栽培で農産物を生産してもらい店舗販売したり、有機農産物では厳格な栽培基準を国が法律で定めて、独立の認証団体が有機野菜であることを認証したりして流通させています。

 しかし、これらの仕組みには大変な手間とコストがかかりますし、また、消費者自らが自分で生産や流通の状況を確認することもできません。つまりこのままでは、農業の生産流通の大宗に変革を持ち込むことはできません。ところがここに最新のIT技術を導入して、農産物にシリアルナンバーをつけ、その農産物の栽培履歴をネット上で公開するような仕組みを想定すれば、そこにはまったく新しい世界が開けてきます。

 ここでは消費者が、手元にある農産物について、それがいつ誰によって播種され、どんな肥培管理で栽培・収穫されたか、またどんなルートで消費者の手元まで届けられたのかについて、簡単に追跡し確認することができます。

 二一世紀の消費者は、自分が購入した野菜を、これらの作物にまつわる諸種の情報(ものがたり)と一緒に楽しむことができるわけです。このことは農産物の生産流通に革命的な変化をもたらす可能性があります(このような試みは既に農林水産省などで実証試験として進められています)。

B 新しいビジネスシステム構築

 さて、第三のポイントである新しいビジネスシステムの構築という点は、すでに前の二つのポイントを注意深く読んでくださった読者には自明のことかもしれません。つまり、個性的な農産物を消費者に届けるビジネスと、従来の農産物の生産流通ビジネスは、まったく別なビジネスになります。新しいアグリビジネス創造には新しいビジネスモデルが不可欠だという点です。

 たとえば、前の事例にあげた個性的な農産物の販売ビジネスを考えてみましょう。

 図表4は、従来の一般的な青果物の生産流通の仕組みです。ここでは、消費者は手元にある農産物についてそれがどのように栽培され、流通してきたか等のさまざまな情報やエピソードを知ることはできません。

 これに対して、図表5は、このようなビジネスを行う、ある宅配企業の流通経路を示したものです。当社は首都圏を中心に五万人の消費者会員と約二五〇〇人の生産者会員を抱えていますが、最近その商品情報の伝達と受発注にインターネットを導入しました。ここでは消費者会員は手元に届いた野菜が、いつ誰によって栽培され、どんなルートで届けられたか、また届いた野菜にまつわるさまざまなエピソード等を、手軽にしかもアップ・トゥ・デートに知ることができます。

 いい換えると、従来のビジネスでは野菜は、一定の栄養素を供給する物理的な植物として流通していますが、新しいビジネスでは、野菜はそれにまつわる各種の情報とともに消費者の手元に届けられるので、消費者は、単に物理的な植物としての野菜に代金を払うだけでなく、それを生み出した農村の状況(栽培時の天候がどうであったか、またその天候が栽培方法にどんな影響を与えたか等)、またそうした状況で育ったこの野菜は、どんな料理方法で食べるとよりおいしいのかといった料理方法等のさまざまな情報・ソフトに対しても代金を支払っていることになります。

 つまり、後者は単に農産物流通業というより、「農」に関する情報産業、あるいは新しい農業エンターテインメント業ということができるかもしれません。

 このように、新しいアグリビジネス創造はネイチャーインタフェイス、ユビキタス、パーベイシブといった二一世紀の新技術概念の具現化作業であるとともに、地域個性や新時代の消費者ニーズの発掘、掘り起こし作業、地域ニュービジネス創造作業でもあります。

 新しいアグリビジネス創造は、二一世紀の我々の社会再生活動にほかならないといってよいと思います。

(注1) 群馬県甘楽郡下仁田町特産の一本ネギ(注2)京都は海から遠く新鮮な魚介類が入手困難であったことや、寺社が多く精進料理が発達したことなどから独自の野菜を育成してきた。代表的な京野菜としては聖護院カブ、壬生菜、賀茂ナス等がある。京野菜のように、明治以来の食生活の変化で市場から消えていった在来種の地場野菜は栄養成分に優れたモノが多く、最近見直しが進んでいる。

(P39表組み)

図表1:主要先進国の穀物自給率の推移 (単位:%)

70年 75年 80年 85年 88年

オーストラリア 232 344 259 447 297

カナダ 132 171 181 202 147

フランス 141 152 178 204 222

(旧)西ドイツ 70 80 91 95 106

イタリア 72 74 75 80 80

イギリス 59 64 96 114 105

アメリカ 111 174 157 173 109

スイス 30 35 36 46 53

日本 46 40 33 31 30

(資料)農林水産省「食料需給表」(注)穀物自給率は

食用穀物および飼料用穀物の自給率

図表2 農産物の流通段階別経費の日米比較

生産者 流通経費 小売店

受取額 中間経費 小売経費 合計 店頭価格

レタス 日本 (円/kg) 153 65 226 291 444 

(%) 34.5 14.6 50.9 65.5 100

米国 (円/kg) 35 47 87 134 169 

(%) 20.7 27.8 51.5 79.3 100

トマト 日本 (円/kg) 253 114 239 353 606 

(%) 41.7 18.8 39.4 58.3 100

米国 (円/kg) 66 75 150 225 291 

(%) 22.7 25.8 51.5 77.3 100

タマネギ 日本 (円/kg) 68 39 106 145 213 

(%) 31.9 18.3 49.8 68.1 100

米国 (円/kg) 26 36 48 84 110 

(%) 23.6 32.7 43.6 76.4 100

りんご 日本 (円/kg) 226 98 152 250 476 

(%) 47.5 20.6 31.9 52.5 100

米国 (円/kg) 48 75 88 163 211 

(%) 22.7 35.5 41.7 77.3 100

みかん 日本 (円/kg) 216 85 287 372 588 

(%) 36.7 14.5 48.8 63.3 100

オレンジ 米国 (円/kg) 31 48 71 119 150 

(%) 20.7 32 47.3 79.3 100

資料:食品産業センター「日米流通マージン比較調査」(平成12年3月)

注:米国のデータ(1995―1997年平均)の円換算は、

3ヵ年の単純平均の為替レート

(1ドル=107.90円、インターバンク月央平均)による。

(P40表組み)

図表3:わが国農業を再建するための4方策

(1) わが国の農業を市場原理で律すべき部分と

その他の部分に区分けし、

農業問題に対する具体的な

検討可能性を高めるべきである 。

(2) わが国の農業再建を担う

新しいアグリビジネスは少なくとも、

― 農業生産と流通・加工が融合した事業形態

― 地域に根差しその特性を生かした事業戦略

― 自由な企業活動の保障と自己責任の原則

の3点の特徴を備えるべきである。

(3) 株式会社の農地所有可否の問題は

現行農地法を改正したうえで、

各地域(市町村)が権限と責任を持って、

個別的に結論を出すべきである。

(4) 青果物流通については流通チャネル多様化に

向けて規制緩和を進めるべきである。

資料:大澤信一

「新しいアグリビジネスが先導するわが国の農業改革」

( Japan Research Review 97年5月号より)

(P41 図)

図表4 一般的な青果物の生産・流通ルート

生産→出荷団体→卸売り市場→小売店→消費者

(P42 図)

図表5:インターネットを活用した青果物宅配の生産・流通ルート  資料:筆者作成

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/06/23