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[NI最先端インタビュー] マイクロマシンの先駆けとなった医療用センサの開発 -- 江刺 正喜








(P49-52)

Interview│最先端インタヴュー

マイクロマシニングの先駆けとなった

医療用センサの開発

江刺正喜(えさし・まさよし)

東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授

聞き手:板生 清(本誌監修)

マイクロマシンの先駆けとなった医療用センサの開発

板生――江刺先生は、独自の半導体デバイス製造装置、マイクロマシニング装置の開発もされながら、主に医療用のマイクロセンサやセンサ・回路・アクチュエータの集積化システムといった新しい研究分野の研究を手がけてこられました。マイクロマシンの草分けであり、エレクトロニクスと化学を繋ぐ、数少ない研究者のお一人でもありますが、最初はどういった研究から始められたのですか?

江刺――一九七○年代中頃、大学院生時代に半導体イオンセンサISFETの開発を手がけたのが最初です。これは、カテーテルの先端にセンサをつけて、血管内に挿入し、血液の水素イオン濃度や溶存炭酸ガス分圧などをリアルタイムで測るマシンです。一〇年ほど前に製品化され、医療現場でも利用されました。

板生――マイクロマシニングの先駆けとなった研究ですね。

江刺――そうですね。私が医療用のマイクロマシンにこだわってきたのは、生体への「侵襲」を最小限にとどめたいと思ってきたからです。「侵襲」というのは、外科手術や検査などで生体にメスを入れることによるダメージのことですね。マシンが小さくなれば、患者さんの負担は大幅に軽減されます。

 医療用マイクロセンサの小型化を進めるにあたっては、センサの実装(パッケージング)に半導体微細加工技術を適用する必要があります。体の中に入れるセンサの場合、うまく装着できなければ使えるものになりませんからね。そこで、シリコンチップ自体をセンサ容器に使うというパッケージング技術を開発したんです。この技術は、集積回路を内蔵した新しい集積化センサを可能にするもので、センサの小型化と低コスト化を実現しました。ISFET(半導体電極)を応用したものには、胃がんの原因だといわれているピロリ菌の検出器(図)や魚を飼育する水槽の水質などをチェックするpH計などがあります(図)。アメリカなどの土地が広い農園では、作物をどこの場所から収穫するか見極めるのが難しいのですが、こうした測定器を実際に作物に刺して酸を検出することで収穫時期を知ることもできます。新電元から出ているpH計KS701という商品などは、小さくて廉価なこともあって月に三○○○セットも売れていると聞いています。

板生――江刺先生のすごいところは、開発されたものがちゃんと商品となって利用されているところですね。まさに、産学協同の元祖といってもいいでしょう。

江刺――それは、「実学」を重んじる東北大学の伝統でもあるんですよ。最初から応用をめざして、必要に迫られて基礎にさかのぼれば無駄がないでしょう。とくに私は、日本で初めて半導体の研究にとり組まれた東北大学の前総長・西澤潤一先生の近くにいましたので、先生のところへ行けばいろいろ教えてもらえる環境にありました。半導体の技術を医療用センサに応用するということは、ほかの大学ではなかなかできなかったと思います。もちろん、私自身にも具体的に役立つことをしたいという気持ちがずっとありました。メディカルの分野では、病気が治って喜ばれたり、手術の成功率を高めることができたりと、人の生死にかかわることだけに、エンジニアとしては非常にやりがいがあります。

失敗こそが成功の鍵を握る

板生――MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を中心とした研究で、実用化されている技術にはどういうものがあるのでしょうか?

江刺――豊田工機で製品化された集積化容量型圧力センサや大亜真空による真空センサ、日本信号と一緒に開発してきた二方向の光スキャナなどがあります。

板生――江刺先生の研究は、医療だけでなく、本当にさまざまな分野で活かされていますよね。

江刺――まあ、なりゆきでそうなったんですけどね。世間のニーズに応えて研究してきただけです。一時、大学でLSIをつくらないかといわれてとり組んだこともあるんですよ。当時、アメリカではヒューレットパッカードとかゼロックスといった企業がバックアップして、大学で開発したチップを実際に試作して次世代コンピュータを開発していたのですが、日本ではハードウェアの研究は遅れていたんですね。

 そこで、CADで設計したり、CMOSのプロセスを立ち上げたりして、コンピュータのアーキテクチャーの勉強をして画像処理のプロセッサをつくったりしていました。当時、たくさんのトランジスタが入っていたLSIを大学でつくるのはすごく大変なことで、メーカーの一○○分の一くらいの規模でしかつくれなかったため、結局、この研究は長くは続かなかったのですが、その後、以前研究していたセンサやアクチュエータとつなげることで、集積化センサの開発に役立てることができました。

板生――いろんなことを手がけることで、俯瞰的に物事を見られ、ユニークな開発をされてこられたわけですね。先生は仕事がきたら、断りきれないで何でも引き受けてしまう性質なんじゃないですか?

江刺――まったくその通りです(笑)。

板生――私と一緒ですね。何でも引き受けてしまう。

江刺――だから、いろいろ手がけていますが、失敗も多いですよ。でも、学生に失敗の話をすると、意外に喜んでもらえる。チャレンジする意欲が湧くというのです。私自身、まとまった論文になっていない研究も多いのですが、学生には、ダメで失敗に終わっても、きちんとまとめることが大事だといっています。

板生――私も、NTTの研究所にいた当時、一○くらいプロジェクトを起こしましたが、成功したのは五つくらいです。東大名誉教授で現・工学院大学教授の畑村洋太郎先生も、『失敗学のすすめ』で失敗こそが成功の源だとおっしゃっていますね。

江刺――ジャンクション・トランジスタを発明してノーベル賞を受賞したウィリアム・ショックレーも「創造的失敗」という言葉を使っています。大事なのは、何かをやろうとするときに、最初から最終イメージをつかみながらとり組んでいくということでしょうね。それでもダメなら、なぜダメだったかを、ちゃんと知ることが重要です。

産学協同を実現させるために

板生――いま、とり組んでおられる研究にはどんなものがあるのですか?

江刺――「能動カテーテル」といってヘビのように動いて血管内に入っていける道具とか、電池に代わる小さな発電機、多数のナノプローブを用いた高密度データ記録装置(図はナノプローブアレイと相変化記録媒体に記録したもの(2μm角))といったものがあります。いまやナノの領域にまで踏み込みつつありますね。この分野の技術でつくられた製品に、米国のテキサス・インスツルメンツ社で作られたビデオプロジェクターがあります。これは、デジタル・マイクロミラー・デバイスといって、デジタル制御された百万個の極小の鏡が動いてディスプレイするしくみになっています。このような小形で複雑なシステムにも興味があります。

板生――産学協同ということでいうと、「東北大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー」にもとり組んでおられますね。

江刺――ええ。この建物では一階に大きなクリーンルームがあって、高度なLSIを入れたマイクロマシンをつくれるようにしたいと思っています(図)。トランジスタが何百万個も入った本格的なものをつくれる場所はないので、ぜひ試作品をつくれる場所にしたいですね。試作品が一つでもできれば、製品化に向けてメーカーは設備投資したり、人材を投じたりできるでしょう。また、メーカーでは、研究に関する世界的な動向や的確な情報を得にくいので、オープンにして、そういう情報をできるだけ供給していきたいと思っています。さらに、ベンチャー・ラボというからには、ベンチャー企業の立ち上げにも使ってもらいたいですね。いずれにしても、研究レベルを上げないと産学連携などはできないと思っています。

板生――そもそも、現在のハイテク産業の問題は、大量生産を前提に置いていることにあると思います。少量生産しようとしたら、値段が非常に高くなってしまって売れない。研究開発のあり方にも問題があるのでしょうね。

江刺――台湾では、日本以上にハイテク産業の空洞化が深刻な問題になっています。人件費の安い中国に工場をどんどん移しているからなのですが、今後は、研究開発型に構造を変換していかないとダメだということで、設備を共有して研究開発や少量生産を効率的に行うことを積極的に進めているんですよ。まさに、多品種少量生産に向けて動き出したところです。これまで、大量生産が必須だったからこそ、ごみ問題や貿易摩擦という問題が生まれてきたわけでしょう? 日本は、台湾のやりかたを真似た方がいいと思いますよ。

板生――なるほど。先生の研究領域は、エネルギーや環境問題にまで広がりつつあるわけですね。

江刺――僕の専門は、省エネルギー・省資源工学といっているくらいです(笑)。

たとえば、機械のシステムが複雑になってくるとメンテナンスが難しくなってきて、少し具合が悪くなっただけで廃棄しなければならくなりますよね。でも、それを分解せずに、マイクロマシンのような小さな道具を挿入してその部分だけとり替えることができれば、廃棄する必要がありません。「能動カテーテル」なども、そういう使い方ができるんじゃないかと思っています。

 余談ですが、僕は車もプリウスに乗っているし、家だってパッシブソーラーを使った省エネ住宅に住んでいるんですよ。これは壁が三重になっていて、冬は南で温まった空気を北に下ろし、夏は太陽熱を遮断するという家で、エアコンもいらないし、冬だってストーブ一台ですんでしまう。じつに快適な家なんです。住宅性能の研究室の実験にも使われているくらいです。

板生――それは、建築学科の先生に頼んでつくってもらったんですか?

江刺――いやいや。大学の先生の設計は、ダメでしょう(笑)。

板生――確かに、実社会で活躍している大学の先生といえば、医療の現場に携わっている医学部の先生くらいですよ。工学部の先生も、本来なら工場を持たないとダメなんでしょうね。

江刺――おっしゃる通りです。それと、もう一つ問題なのは、大学院の学生が給料をもらっていないことです。世の中のニーズに関係ある研究をしている学生が多くいてもよいのではと思います。大学院に進めばお金がもらえる。その代わり、優秀で、なおかつ世の中の役に立つ人材でなければならない、としたら、リーダーも育つだろうし、研究のレベルはもっと上がりますよ。

板生――それは、大学の先生も同じでしょうね。兼業が許される代わりに、その分、大学の給料を差し引く形にすればいい。海外では当たり前のことですよね。そうすれば、産学協同はもっと進むはずです。

江刺――永く勤め退職金をたくさんもらう日本のシステム自体が、このような動きと合わなくなっているのでしょうね。こういう話はこれまであまり議論されてこなかったけれど、実は産学協同を進める上で、じつに重要な問題だと思います。

板生――同感です。本日はマイクロマシンの先端技術から産学協同まで、幅広いお話ができて大変有意義でした。お忙しいところ、誠にありがとうございました。

(P49写真キャプション)

1949年宮城県生まれ。半導体センサやマイクロマシニングによる集積化システムの研究に従事。積極的に産学共同研究にとり組み、1996年に開設された東北大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー長に就任。ベンチャー・ラボ内に「センサ・マイクロマシン博物館」を設立。主な著書に、『半導体集積回路設計の基礎』が、共著に『マイクロマシーニングとマイクロメカトロニクス』『マイクロマシン―賢く働く微小機械』などがある。

マイクロマシニング Micromachining

光でマスクのパターンを転写する  フォトファブリケーションとエッチングや接合で微細加工を行う

(P50写真キャプション)

ピロリ菌検出器

水質をチェックするpH計

(P51写真キャプション)

ナノプローブアレイ

相変化記録媒体に記録したもの

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