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[開発最前線] 球面半導体無線温度センサ -- 山武




(P58-59)

球面半導体無線温度センサ

レポート:山内規義

(NTTサービスインテグレーション基礎研究所)

株式会社山武

常識をくつがえす新技術、球状LSI

 いまから四〇年以上前の一九六〇年頃に生まれた半導体集積回路(LSI)。これは、平らなシリコン結晶を材料とし、その上形成した多数のトランジスタを電気的に接続することによってつくられます。そしてこれまで、微細なトランジスタを精度よく形成するためには、シリコン結晶の表面が平らであることが必須条件だと考えられてきました。

 ところが、この常識をくつがえす、ボール・セミコンダクタと呼ばれる新技術が生まれ、注目を集めています。一九九六年に設立されたボール・セミコンダクタ社(米国、テキサス州、社長:石川明氏)が、直径一mmの球状のシリコン結晶をつくる技術、そして、なんとその球の表面にLSIをつくる基本技術を開発したのです。

 図1に、ボール・セミコンダクタを配線基板の上に一個から四個まで積み重ね、それぞれを電気的に接続した構造の写真を示します。この写真を見て、専門家たちが目を疑ったことはいうまでもありません。そもそも、球状のシリコン結晶を再現性よくつくれること自体、にわかには信じられないことでした。

 このシリコン球は、粒状のシリコン材料を空中で溶かし、溶けたシリコンを、液滴が自重で落下する途中で結晶化させてつくります。従来のLSIの製造では、シリコンの表面に薄膜を形成し、その薄膜を、フォトリソグラフィと呼ばれる写真技術を応用した方法で微細に加工することを繰り返します。ボール・セミコンダクタ社は、このようなLSIを作るための製造技術をシリコン球用に開発し、ボール・セミコンダクタの表面に集積回路をつくることに成功しました。

 ボール・セミコンダクタは球状であることから、集積回路として利用できる面積が多くとれるという特長があります。また、直径一mmの球を生産の単位とできることから、小型の製造設備を使って、多品種・少量の生産を行うのに適すると考えられています。また、球という形状を利用し、さまざまなセンサに応用することも期待されます。

 各種のセンサおよび制御システムのトップメーカーである株式会社山武は、独自に開発した温度センサ技術とボール・セミコンダクタ技術と組み合わせて、直径一mmの球状の無線温度センサを開発するプロジェクトをボール・セミコダクタ社と共同で進めています(株式会社山武については、本誌64―65ページ「ヒューマン・インタヴュー」を参照ください)。図2は、研究開発が進められている無線温度センサ試作品の外観写真です。球の周囲に金の薄膜によるコイルがつくられていますが、このコイルをアンテナとして使い、離れた位置にある検出装置との電波による信号のやりとりを行います。回路の動作に必要なエネルギーも、電波を使ってこのコイルに送られ、電力に変換されます。このため、温度センサ側にバッテリーは不要であり、地球環境にも配慮されたシステムになっています。球面上に巻かれたコイルでは、平面につくられたコイルに比べ、約五倍の送受信効率が得られるということです。

 図3に、集積回路の部分を拡大した写真を示します。銀色のコイルの下に、トランジスタ回路が形成されているのが見えます。

 株式会社山武では、センサ機能の検証を目指した第一フェーズと、量産を視野に入れた第二フェーズの二段階で研究開発を進めています。第一フェーズでは、測定温度範囲は0―50Coとし、センサ一個と検出装置1台が通信するシステムを想定しています。第二フェーズでは、│55―125Coの範囲を測定し、一台の検出装置で多数のセンサと信号のやりとりを行うことを目標としています。さらに、高機能化をはかるため、複数のボール・セミコンダクタを図1のように接続し、それぞれの球に集積化された機能を融合するという構想も練られています。

 この無線温度センサが実用化されれば、いままでとは違った、多数の微小センサを分布させた環境計測システムを実現できると期待されます。たとえば、多数の温度センサを室内の壁に埋め込んで温度分布を測定し、そのデータをもとにキメ細かい室内温度調節を行うことができるようになります。物流の分野では、バナナや魚のような食品に温度センサを埋め込み、輸送途中の温度履歴を全て記録する、というような用途にも使えそうです。直径が一mm、重さ約一○○○分の一 gという小型軽量のセンサですから、洋服の布地に埋め込んでも全く気になりません。すなわち、ウェアラブル化が容易であるという特長もあります。まさにネイチャーインタフェイサの機能を持っているといえるでしょう。

 読者の皆さんは、ユビキタス(ubiquitous)という言葉を聞かれたことはありますか? この言葉は、英語で、「いつでも、どこでも」という意味の形容詞です。ユビキタスな環境を提供することが、情報通信の分野での近未来の目標になっていることから、最近、よく使われるようになりました。株式会社山武とボール・セミコンダクタ社の技術者たちが情熱を傾けて開発している無線温度センサシステムは、まず、環境計測の分野で「ユビキタス」を実現するかもしれません。地球のような不思議なボール・セミコンダクタの写真を見ていると、そんな期待が湧いてきます。

(P59写真キャプション)

図1 ボール・セミコンダクタ

LSIチップ上

4個  3個  2個  1個

図2 無線温度センサ試作品の外観

   直径1mm

図3 無線温度センサ試作品の集積回路部分

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