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マイクロメカトロニクスと光通信 -- 片桐 祥雅











(P73-74)

NI report

マイクロオプトメカトロニクスと光通信

片桐祥雅

(日本電信電話株式会社 NTT通信エネルギー研究所)

現在、低損失の石英ファイバと光を直接増幅する技術により数千キロメートルを超える長距離光伝送技術が確立し、さらに光の短パルス性を利用した一秒間に一〇〇億ビット(一〇ギガビット/秒)のデータを送信する大容量通信が実現している。

このような光通信技術に基づくネットワークは、今日のインターネットサービスの基盤となっている。

NTT通信エネルギー研究所では、光通信技術のさらなる革新をねらいに、マイクロオプトメカトロニクスに基づくネットワーク装置の研究開発にとり組んでいる。

ここでは、次世代の波長多重光通信方式への適用を目的とした、ディスク形波長可変光フィルタを紹介したい。

光通信を加速する波長多重方式

 光とは電磁波の一種で、波長により性質が特徴づけられる。γ線、X線、紫外、可視、赤外、ミリ波、マイクロ波はそれぞれ全く異なる性質を持っているが、すべて同じ電磁波だ。光通信では、石英ファイバの吸収損失が最小となる一・五マイクロメートル前後の、近赤外帯の光を中心に使用している。

 通常、光と光との間では相互作用がないので、多数の異なる波長を重ねた後、分離してもとの状態に戻すことができる。このような光の性質を利用し、異なる波長にデータを重畳した光信号を重ね合わせて一括伝送した後、多重化された光信号を波長ごとに分離して、各々独立に信号処理してデータを復調するのが、「波長多重方式」と呼ばれている(図1)。

 この方式の特徴は、いまの電子回路技術で光通信の大容量化ができるところにある。現状の光通信の速度(一〇ギガビット/秒)をさらに一〇倍上げようとすると、光信号処理に必要な電子回路の応答速度は一〇ピコ秒(光が三ミリメートル進む時間)となるが、この速度の電子回路を実現するには、いくつかの課題を解決しなければならない。ここに、単に波長数を増やすこと(図2)によって容易に大容量化が可能となる「波長多重方式」の魅力がある。利用可能な波長帯に制限があるので、無限に容量を増大することはできないが、それでも毎秒一〇〇億ビットの一〇〇倍ものデータ伝送が、一本の石英ファイバで可能であることが、すでに実験で検証されている。これは一ギガバイトの光ディスクを一秒間に百枚強送る転送レートに相当する。

 波長多重方式自体の検討は十数年前から行われていたが、その際、多品種少量生産による装置コストの上昇が実用化を阻害すると考えられていた。しかし、当初懸念されていた装置コストも、多くのベンダーが参入することにより大幅に低減され、ネットワークの需要が増大している北米を中心に波長多重方式の導入が進んだ。

光フィルタの原理

 多重化された多数の信号の中から特定の波長の光を抽出するのがバンドパス型の光フィルタ(OBPF)だ。OBPFは、周期構造における光の干渉効果を利用しており、この周期構造とは、利用波長帯域の中心波長に対して二分の一波長の厚みを持つ共振器層の両側を、屈折率の異なる四分の一波長膜のペアを積層した高反射コーティング(HRC)によりサンドイッチした構造。HRCでは周期構造のために光の存在確率が零となり、外部から入射した光は全反射する。しかし、中央に周期の位相を変える共振器層があると、共鳴する波長の光のみが局在し、この波長の光が透過することができるようになり、このようにしてOBPFが実現されるのだ(図3)。

 透過波長帯域はHRCの実効反射率が高いほど狭くなる。信号速度により占有する波長帯域幅が異なるので、通信用のOBPFでは信号速度に応じた透過帯域幅の最適設計をしている。

波長可変機構

 多数の波長を扱う波長多重方式では、任意の波長を抽出できるような可変のOBPFがあると便利だ。OBPFの透過中心波長は、共振器層の光学長、すなわち半波長を屈折率で割った値に一致する。したがって光学長を制御することにより、中心波長の制御が可能となる。この光学長制御法には、共振器層の厚みを変えることによる直接制御法と、屈折率を変えることによる間接制御法がある。間接制御法は、たとえば、屈折率の温度依存性を利用することにより実現できる。この制御法は可動部がないので機械的擾乱に耐性があるという特徴があるが、材料物性による制御範囲の制限が問題となる。一方、直接制御法ではなんらの制限要因がないので、広い波長帯域で波長制御が可能となるわけだ。

 直接制御法では、厚みの精密制御が課題だった。共振器層の厚み自体が〇・五マイクロメートル程度だから、波長制御ではそのさらに数千分の一以下、すなわちオングストロームの精度が要求される。この課題を解決するため、ウエッジ形の共振器層構造を導入した。この制御法は、平行光ビームが通過する場所により厚みを実効的に制御する。ビームの直径は傾斜に対して十分小さいので、ビーム断面での厚みの変化は無視でき、ウエッジの傾斜を十分ゆるやかにすれば、精密な厚みの制御が可能となる。たとえば一○センチメートルで1 mの傾斜であれば、ビームの位置決め精度が10 mでも厚みの制御精度は一オングストロームとなる。このような制御法により、透過中心波長を数ピコメートルの精度で制御できるようになった。

 フィルタの共振器自体は、直接機械的に変動しないので機械的擾乱を受けにくく、また、層に対してつねに垂直に光を入射させて波長を制御することから、偏光依存性がきわめて小さいという特徴も出てきた。

ディスク形波長可変光フィルタ

 フィルタ基板にディスクを採用し、光ビーム透過位置を制御するのに回転機構を用いたのが、ディスク形波長可変光フィルタ(ディスクフィルタ)だ(図4)。OBPFの共振器層はディスクの円周に沿って螺旋状のウエッジとなっている。ディスク形とすることにより、コンパクトな構成で実効的に可変領域を長くとれ、さらに高速掃引が可能となる等の特徴が出てくる。ディスクの外周部にはマークが描画されていて、回転時にセンサでそれらを読みとり、ビーム位置を検出する。マークには基準点も含まれるので、ディスク内で光ビームの絶対位置制御が可能となる。図5は直径三〇ミリメートルのディスクを用いて構成したモジュールの例だが、ディスクを回転させるモータには小型の超音波モータを用いている。

絶対波長制御

 波長多重方式に波長可変光フィルタを適用させるためには、任意に指定された波長にフィルタの透過中心波長を設定する必要がある。設定波長には、精度とともに確度が重要だ。確度とは、測定機器によらず一定の絶対波長基準(フランスに設置されているメートル原器のような基準)に対する精度のこと。広い地域で個別のネットワーク装置を運用する通信システムでは、波長確度を高める必要があるわけだ。

 ディスクフィルタでは、あらかじめ位置と透過中心波長を校正テーブルとして取得しており、波長が指定されるとそのテーブルをもとに目標位置を算出し、位置決め制御を行っている。このような波長制御法の波長確度は高く、さらに温度による補償との併用により、任意の指定波長に対して約一〇ピコメートルの波長確度を達成した。

 このように、機械的な精密位置決め技術、オングストロームを実効的に制御可能とするマイクロ制御機構技術、および校正テーブル等を用いてインテリジェントに波長に結びつけて制御する技術との融合技術は、マイクロオプトメカトロニクスと呼ばれている。

光フィルタの原理

 ディスクフィルタを通信システムへ適用するため、通信機能を備えたモジュールおよび多数のモジュールを、ひとつのオペレーティングシステムで制御するサブシステムの検討を進めている。図10は、コンパクトPCIという規格の通信インタフェイスを備えたボードにディスクフィルタを搭載したモジュールで、校正テーブルを記憶したROMと制御シーケンスを蓄積したPLDとCPUによって、コマンドにより指定された波長を再現するように自分自身で位置制御している。このような自律型のモジュールは、部品点数がきわめて多い波長多重方式で特に重要となるだろう。

今後の展望

 インターネットサービスを発展させるため、パス切替など、フレキシブルなネットワークの構築が望まれるようになった。このため、波長制御技術を利用したネットワーキング法の検討が進められている。波長制御技術は波長多重方式で発展した技術で、波長可変機能は、このために必要な要素技術のひとつだ。

 このパス切替では、SDH(通信の規格)で定められている制限時間(五〇ミリ秒)以内に切替を完了しなければならない。現状のディスクフィルタでは波長設定時間は数百ミリ秒なので、この条件を満足するためには、速度を一桁上げる必要がある。NTT通信エネルギー研究所では、機械制御機構の洗練により、ディスクフィルタの高確度波長制御性能を損なうことのない高速波長制御法の開発を進めている。

(P73図キャプション)

図1 波長多重方式の概念

多数の異なる波長の光を集めた白色光はプリズムにより各波長成分に分離し、またその逆に合波することもできる(a)。波長多重方式もプリズムと同様の光学的な合分波素子を用いて信号を多重・分離する。多重化された信号を光増幅器を介して中継し長距離大容量光通信が実現されている(b)。

図2 波長多重光信号の例

(P74図キャプション)

図3 OBPFのスペクトル波形

透過はローレンツ形曲線となる。反射はそれを反転させたものであるが、中心波長では残留反射により消光比は15デシベル程度である。

図4 ディスクフィルタの原理図

図5 ディスクフィルタモジュール構成例

図6 モジュール実装例

ディスクの直径は50mm。光学系はダンパーを介してボード搭載されている。

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