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「コーヒー豆の搾りかす」から高性能のリチウムイオン電池を開発 -- 大木 裕/山田 心一郎






(P76-78)

NI report

「コーヒー豆の搾りかす」から、

高性能のリチウムイオン電池を開発

ソニー株式会社

大木裕

(テクニカルソリューションセンター解析技術部 総括部長)

山田心一郎

(社会環境部環境技術開発室 係長)

一九九七年、廃コーヒー豆からリチウムイオン電池の負極素材であるハードカーボンをつくることが可能だという研究結果が、ソニーによって発表された。そして二〇〇一年一二月、その後の研究により環境に負荷を与えない形で量産化プロセスの開発に目処がたったとして、ビックサイトで開催された「エコプロダクツ展2001」で、初めてその成果が一般に公表された。

そもそも、繰り返し使うことができることから、環境負荷が少ないリチウムイオン電池だが、廃コーヒー豆という、いわば「ゴミ」を、しかも、クリーンなエネルギーで再利用させることができれば、一石三鳥の「エコロジー商品」といえる。

その開発に携わったお二方に、その経緯をうかがう。

 リチウムイオン電池とは、一九九〇年代に入って商品化された3V系の高容量二次電池だ。正極には、コバルト、ニッケル、マンガンなどの酸化合物を、負極には炭素系の層状物質を使用しており、負極に用いられる炭素質材料には黒鉛(グラファイト)と難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)の二種類がある。そのうち難黒鉛化性炭素は、黒鉛系に比べて単位重量あたりの容量が多く、約一〇〇〇回ものサイクル寿命を持つという特性があり、主に携帯電話やデジタルカメラ、ノート型パソコンなどで使用されている。

 まず、ハードカーボン系のリチウムイオン電池のメカニズムを簡単に説明すると、負極に、数層の微小な結晶子がランダムに配置され、さらに結晶子自体にも、蜂の巣のようなたくさんの隙間がある炭素質材料を用いることで、リチウムイオンがそれらの隙間に出入りしながら、充電・放電が繰り返されるというもの。従って、層の隙間や結晶子の隙間が広く、リチウムイオンの出入りによって構造が変化しにくいものが、多くの容量を持ち、安定した品質を長く保つ、高品質の電池ということができる。

 そして廃コーヒー豆は、優れた負極特性を持つ素材であることが、ソニー独自の研究によって発見されたのだ。

化石燃料を一切使わないプロセスを開発

 従来のハードカーボン製造行程は、まず石油由来樹脂を前駆体とし、化学処理した上で五〇〇―六〇〇度で焼いて炭化、その後粉砕・分級し、一二〇〇度で焼成させる、というもの。廃コーヒー豆は、この「前駆体」にあたる。

 「前駆体となる素材には、セルロースと若干のミネラルがバランスよく組み合わされているものが適しているのですが、この点からいえば、植物性素材で樹脂焼性炭をつくることが可能だと考え、新しい素材を探していたんです。そこで最初は、松や杉、葦など、いろいろな素材を炭化して調べてみました。そういった経緯の中で、コーヒー豆と竹が、従来の前駆体よりも優れた負極特性を持つことを発見できた。さらにコーヒー豆に関しては、焙煎して飲料を抽出した後のいわゆる“搾りかす”の方が、ミネラルや油脂分が適宜溶け出しているために、前駆体としてより優れていることもわかりました」

 現在日本の缶コーヒー製造廃棄量は、二七万トン(一九九八年現在業界統計)にもおよぶ。ちなみに、日本のコーヒー豆輸入量は年々増加傾向にあり、二〇〇〇年現在の日本のコーヒー豆輸入量は三八万トンで、アメリカ、ドイツに次いで世界第三位の量である。このことを考えれば、今後は廃棄量もさらに増加していくだろう。しかも廃コーヒー豆は、現状では全体の約一パーセントが土壌改良剤や建築用吸着剤として利用されているものの、大半は汚泥と混合して堆肥に利用されるか(本来は約七五パーセントがこれにあてられているはずだが、不明な点がある)、ゴミとして焼却、あるいは埋め立てられている。一方缶コーヒーメーカー側も、廃棄は悩みの種だっただけに、再利用に対して高い関心を示しているという。原料の供給面での心配はない。

 しかし、廃コーヒー豆は約八〇パーセントもの水分を含んだ状態で廃棄されるため、保管時に腐敗の心配があるほか、輸送や乾燥のために多大なエネルギーが必要になってしまう。また、豆の品種によって含有油脂分が異なり、品質が安定しない。さらに、溶存ミネラル分が加熱溶解するために炉の連続性が妨げられるなど、実用にあたってはいくつかの問題点があった。

「これらの問題を解決したのは、バクテリアのバイオ処理による発酵熱で自然乾燥させるという方法です。廃コーヒー豆に残っている油脂分をバクテリアが分解することによって、豆の品種ごとに異なる油脂分を均一にとり除くことができました。また、その際に生じるおよそ八〇度の熱によって豆が乾燥するので、この段階で水分含有量を五%まで減量させることができます。しかもこのプロセスには、化石資源によるエネルギーはまったく必要ありません」

 この後豆を炭化させる際にも、「自燃式キルン炉」を使った新しい焼成方法を用いることによって、最初に着火するためにマッチ一本程度の火種を使うだけで、炭化品を製造することができる。ミネラル分の加熱溶解による問題も、この炉を使うことで解決した。さらに、バイオ処理の段階で油脂が十分に分解されているために、炭化時に発生するガスも規制値より相当に低い数値が測定されている。

 また、ここで精製された炭化品は、土壌改良剤や建築材料として活用することが可能だ。土壌改良剤としてはすでに利用されており、大きな実績をあげているという。このように、農業・工業兼用の材料として、多岐の用途に利用することができることも、新時代の素材として大きな期待が寄せられそうだ。

コーヒー一〇杯でリチウムイオン電池一本分

 さて肝心の性能だが、そもそも「負極に優れた前駆体を探す」ことから始まっているだけに、この点では、世界最高レベルの容量を実現させることができた。

 炭化品はその後焼成され、初めてハードカーボンとなるのだが、この焼成温度の違いによって充放電容量も異なる。廃コーヒー豆による炭化品を一二五〇度で焼成した場合、放電が540mAh/g、充電が六二〇mAh/gで、容量ロスは80mAh/g。つまり、八七・一パーセントの効率をもつ。また、一三〇〇度で焼成させると、放電が四七五mAh/g、充電が540mAh/gと容量は下がるが、容量ロスは六五mAh/gで効率は八八%と高くなる。それぞれの特性は、使用される製品によって使い分けをすることが可能だ。

「たとえば、コーヒー一杯分あたりの豆の使用料は五グラムで、18650リチウムイオン電池*一本あたりの負極炭素使用量も五グラムです。そして廃コーヒー豆から負極炭素材料への収率は一〇パーセントなので、単純に考えると、コーヒー一〇杯でリチウムイオン電池一本が製造可能だという計算になります。ソニーの電池として年間一〇〇万本を廃コーヒー豆からつくれば、五〇トンの再利用が可能です」

 五〇トンというと、年間に排出される廃コーヒー豆の量から比べたらごくわずかでしかないが、需要や製造能力の面から考えると、現在のところ、一〇〇万本という数字が最も現実的だという。

 それにしても、廃コーヒー豆という、植物が炭酸ガスを固定した「バイオマス」を有効に生かすだけでなく、製造過程で化石燃料を一切使用しないという新しいプロセスを開発した意義は、環境面からみれば極めて大きい。

 一消費者としてみれば、ノート型パソコンやデジタルカメラなど、将来的にはさらに増えるであろう最先端技術を集結したポータブル機器の駆動用電源として、私たちが日常的に飲んでいるコーヒー豆の「かす」が役立っていると思うのは心情的に悪くない。量産品として商品化されれば低コストも実現できるというが、リチウムイオン電池生産において、国内トップレベルのソニーという企業が開発したという点も、社会的な意味が大きいだろう。

*18650リチウムイオン電池=直径18mm、高さ65mmサイズの電池

(P78写真キャプション)

バイオ コーヒー カーボン

(左)1次炭化処理後と(右)焼成後の負極用カーボン粉

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