NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.07 の目次 > P79-81 [English]

スーパーカミオカンデ 事故原因究明から再建へ -- 東京大学宇宙線研究所






(P79-81)

NI report

スーパーカミオカンデ

事故原因究明から再建へ

“We will rebuild the detector. There is no question.”

(Director, Kamioka Observatory Yoji Totsuka)

取材協力:東京大学宇宙線研究所 

取材・文:横山広美サイエンスライター

昨二○○一年一一月一二日午前一一時一分三〇秒。

ゴゴーンゴゴーンという鈍い音が岐阜県の神岡鉱山内に響いた。

東京大学宇宙線研究所が誇る検出器、スーパーカミオカンデ(岐阜県神岡鉱山地下)のセンサが連続爆縮する事故が発生したのだ。

音は次第に高くなり、揺れを伴った轟音となって五秒以上続いた。

この事故で直径二〇インチのガラス球面をもつセンサ一一一四六本のうち、約六〇%にあたる六七七七本が破壊された。

事故はなぜ起こったのか。

現場の研究者自らによる厳しい原因究明が行われ、その全貌が明らかになりつつある。

事故はなぜおこったのか

 スーパーカミオカンデ(以下、SK)は宇宙から到来する素粒子ニュートリノと、いまだに未発見である陽子が崩壊する現象をとらえるための検出器である。鉱山の地下一〇〇〇メートルに巨大な水槽を建設して素粒子をとらえよう。小柴昌俊東京大学名誉教授の構想は、一九八三年にSKの前身であるカミオカンデで実現した。SKはその経験をもとに建設されて一九九六年から観測が始まった。以来、世界最先端の結果を出し続けている。なお、カミオカンデの跡地には新しいニュートリノ検出装置「カムランド」が建設されて、実験が始まっている。

 さて、SKのもっとも注目すべき実績は、一九九八年にニュートリノ物理の国際会議「neu-trinoユ98」で発表された大気ニュートリノ(注)の観測データであろう。ニュートリノに質量はあるのか、ないのか。五〇年来のナゾであったこの問題に、決着をつけるクリアな結果を出して世界を驚かせたのだ。ニュートリノには質量があったと。

 SKは純水を貯めた高さ四一メートル、直径三九メートルの巨大な円筒形検出器である。その内壁には二〇インチの球面をもったセンサの光電子増倍管(以下、球)一一一四六本がびっしりと配置されていた。

 事故当時は注水中で、タンクの底から三一・七メートルまで水が達したところだった。というのは、昨年の七月から九月にかけて水を抜き、観測開始から五年の間に使用不可能となった球をとり替える作業を行ったのだ。球を交換する作業が終了して、注水をしながら観測が再開されていたその最中、事故は起こった。

球は内部が真空であるから、ガラスにひびが入って水圧によって爆縮すれば衝撃波が生じる。轟音は数秒間にわたって聞こえた。つまり、発生した衝撃波のために球が連続的に爆縮したことは容易に想像できる。

 しかし最初の一本はなぜ爆縮したのか。事故当時、球にかかっていた圧力は大気圧一、水圧三で合計約四気圧にしかならない。通常の観測時は水が満タンになっていて、タンク底面の球には五気圧がかかる。球は耐圧性に余裕をもたせ、六気圧でも十分に使えるように設計されていた。最初に爆縮した球はどれか。そしてその一本にはなんらかの異常があったのだろうか。事故直後から日本中の関係者、つまり現場研究員、各大学、研究機関、さらに民間業者の関係者が総力をあげて原因究明にとり組んだ。

明らかになった事故原因

 調査は素早く、かつ厳しく行われている。昼間は二〇―三〇人が現場で調査をして、夜にはその結果をもちより、各大学、研究機関を結んだテレビミーティングで徹底的な議論が重ねられた。一〇日後の一一月二二日には「スーパーカミオカンデ(SK)事故等報告」が公表され、事故の概要が報告されるとともに、原因に考えられるすべての事項があげられている(表を参照)。これら事項については引き続き詳細な調査が行われ、年が明けた一月五日付けの「報告書その2」にまとめられた。

 これらの調査結果を検討することによって、最初に爆縮したと思われる球はタンク底面に設置された二本に絞られた。一本は交換作業で付け替えた球であり、事故当時の観測データから判断すると、この球が最初に縛縮した可能性が高い。もう一本はこの球のすぐ脇に配置されていて、五年前から使用されている球である。事故一ヵ月前から弱いノイズが観測されていたために、最初に縛縮した可能性を否定できない。

 五年間使用した球に劣化は見られるのだろうか。この確認のため、先のとり替え作業で交換したすべての球が目視で確認された。その結果、電極部にわずかながらひびの入った球が一本見つかった。この球のチューブには何かにぶつけた痕があり、ひびはその際にできたものと考えられた。つまり劣化ではなく、とり付け作業中にこの球が撃力を受けていたようなのだ。もともとひびがあれば、圧力によってひびが徐々に大きくなって、最後には爆縮する可能性がある。最初に爆縮した一本も、作業時に強い撃力を受けてひびができていたのかもしれない。今回、とり替えたばかりの球が原因ならば、この可能性が高い。

 また、排除できない原因にタンク底面での作業方法が挙げられる。球をとり替えるための底面での作業は、大きな発泡スチロールのボードを数本の球の上にわたらせて、その上に作業者が上がって行われた。作業者はゆっくり歩くことを心がけ、その体重は数本の球に分散されていた。

 この底面作業は本当に安全だったのか。安全性を追試験するために、底面作業で球にかかる力を一二本の交換球それぞれに八倍の時間加えて、これによってひびができたか確認する圧力試験(六・五気圧、二四時間)をしたところ、一二本中一本が破断した。試験では八倍長く力をかけたとはいえ、実際の底面作業で球に小さなひびができて、その後かかった水圧で爆縮した可能性は否定できない。長い間使っていた球の破断が連続爆縮の引き金だとすれば、その原因は五年前のとり付け作業時にできたひびよりも、最近の底面作業と考える方が自然であろう。

とり付け作業中に受けた撃力、もしくは底面作業。最初の球が爆縮した原因はこのどちらかに絞られた。

スーパーカミオカンデ 再建への道

 事故翌日の一一月一三日、SK代表の戸塚洋二東京大学教授から共同研究者へ向けてメッセージが送られた。我々はSKを再建する、と(見出し横の英文)。再建が認められれば、まずは残った球に連続爆縮を防ぐアクリルの覆いをつけ、SK内に均一に分散配置、早い時期に実験を再開する。つくばで生成した人工ニュートリノを二五〇キロメートルとばし、SKでとらえる実験「つくば│神岡間 長基線ニュートリノ振動実験」はアメリカ、ヨーロッパに六年の差をつけて一九九九年に開始した。この実験は二〇〇四年度までの予算で行われていて、SKの一刻も早い再建を必要としている。球の数が約半分に減ることによって、エネルギーの低い太陽ニュートリノの観測は難しくなるが、長基線実験、大気ニュートリノ、超新星ニュートリノの観測のための最低限の性能は確保できる。

 研究を根底で支える市民と共同研究者に、被害を出してしまったことを深く謝罪するとともに、再開される研究によって世界に誇る成果を出すという決意には、最先端のニュートリノ物理を切り開いてきた現場研究者の自負がうかがえる。また、素早くかつ、報告書公開や記者会見によってオープンに進めた原因究明調査にも、「モラール(志気)とモラル(道徳)」の高さがうかがえ、再起復活への確かな手ごたえが感じられる。SK再建にエールを送りたい。

(注1)大気ニュートリノ=宇宙線として地球に到来する陽子やヘリウムの原子核が、大気分子と相互作用することによって生成されたニュートリノ。

SKのホームページ:http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/

(P80写真キャプション)

事故後のSK内壁。

多数の光電子増倍管が割れているのが確認できる。

事故前のSK

写真提供:東京大学宇宙線研究所

SKでとらえられたニュートリノイベント。

ニュートリノの相互作用で生成された粒子が、リング状の弱い光を放ち、光電子増倍管がそれをとらえている。

http://neutrino.kek.jp/Images/Figures/ より。

(P81図キャプション)

図1:20インチ光電子増倍管(文中、球)。

素粒子の相互作用で生成される電荷を持った粒子が、ある条件を満たすと弱い光を放射する。その光をとらえて、増幅するのが光電子増倍管である(東京大学宇宙線研究所提供資料に基づく)。

事故原因と考えられるすべての要因が挙げられ、それぞれについて詳しい調査、シュミレーションが行われた(東京大学宇宙線研究所提供資料に基づく)。

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2017/05/01