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ワールド・ウオッチ ― レスター・ブラウン「地球白書」第1章より -- レスター・ブラウン(訳:織田 創樹)

(P90-91)

world watch

ワールド・ウォッチ

レスター・ブラウン『地球白書』第一章より

訳:織田創樹

一刻もはやく持続可能な社会へシフトするために何をなすべきか――。

ワールド・ウォッチ研究所を設立し、理事長を務めるレスター・ブラウンは、

世界の環境問題を分析し、その対策を示しつづけてきた。

レスター・ブラウンの代表的著作『地球白書』では、どのような提言がなされているのであろうか。

冒頭部分を紹介しよう。

経済と地球についてのコペルニクス的転回

 一五四三年、ポーランドの天文学者コペルニクスは著書『天体の回転について』を出版した。そのなかで彼は、太陽が地球の周りを回っているという説に疑問を呈し、地球が太陽の周りを回っていると論じた。この新しい太陽中心宇宙説をめぐり、彼は科学者や神学者など多くの人々とのあいだで広範な論争を繰り広げた。地球が宇宙の中心にあるとする従来のプトレマイオス説に代わる彼の概念は、思考の大転回を引き起こし、新しい世界観を導いたのだ。 

 今日、われわれは、それと同じような世界観の大転換を必要としている。つまり、地球と経済の関係についての考え方を根本的に考える必要があるのだ。現在直面している問題は、どちらの天体が他の天体の周りを回っているかではなく、環境が経済の一部なのか、それとも経済が環境の一部なのかということである。経済学者は環境を経済の従属物と考える。他方、生態学者は経済を環境の従属物と考える。プトレマイオスの天動説のように、経済学者の考え方は現代世界を理解しようとする努力を混乱させる。この考え方は、それ自身が依存する生態系と調和しないタイプの経済を創出してきた。

 経済理論と経済指標は、経済が地球の自然システムをどう攪乱し、破壊しているかを説明しない。経済理論は、なぜ北極海の氷が溶け始めているのかを説明しない。なぜ中国北西部で草地の砂漠化が進んでいるのか、なぜ南太平洋でサンゴ礁が死滅しかかっているのか、なぜニューファンドランド島〔カナダ東部の島〕沖のタラ漁場が崩壊してしまったのかを説明しない。なぜ地球上の動植物種がいま、六五〇〇万年前の恐竜絶滅以来の大量絶滅の初期段階にあるのかも説明しない。それでも、経済学は過剰消費の社会がこうむるコストを計量するのに不可欠である。

 経済が地球の自然システムと衝突していることを示す証拠は、漁場の崩壊、森林減少、土壌浸食、放牧地の劣化、砂漠化、二酸化炭素濃度の上昇、地下水位の低下、気温上昇、より破壊的な暴風雨、氷河の溶解、海面上昇、サンゴ礁の死滅、生物種の消失などに関する日々のニュース報道に見ることができる。経済と地球生態系のあいだの関係にますます強いストレスが加わっていることを示すこれらの動向は、結果的に膨大な経済的損失を引き起こしており、この損失は増加の一途をたどっている。ある時点で、この損失は世界の発展要因を圧倒して、経済の衰退を導きかねない。私たち同時代人の課題は、多くの古代文明が経験したように環境劣化が長期的な経済衰退を導く前に、これらの動向を反転させることである。

 次第に顕在化しているこれらの動向は、もしサブシステム―つまり経済―の活動がより大きなシステム―つまり地球の生態系―の営みと調和しなければ、究極的には両方が損なわれることを示唆している。経済が生態系に比して相対的に大きくなればなるほど、そして経済が地球の自然の限界を圧迫すればするほど、この不調和な関係はますます破壊的になるだろう。

エコ経済の実現のために

 環境的に持続可能な経済―エコ経済―を実現するには、経済政策形成の枠組みに生態学の法則を取り入れることと、経済学者と生態学者が協力して新しい経済を設計することが必要である。生態学者は、すべての経済活動、ひいてはすべての人間生活が、地球の生態系―共生し互いに作用する個々の生物種の複合体と、それらの物理的生息地―に依存していることを理解している。これらの無数の生物種は、食物連鎖、栄養循環、水文循環、気候システムによって互いに織り合わされた、複雑で微妙なバランスのうえに存在している。

 他方、経済学者は、目標を政策に移す方法を知っている。経済学者と生態学者が一緒にとり組めば、持続的な発展を可能にする新しいエコ経済を設計し、構築することができる。地球は太陽系の中心ではないという認識が天文学、物理学、その他の関連科学の進歩の基礎になったのとちょうど同じように、経済は世界の中心ではないという認識は、経済発展を維持し、人間生活を改善するための基礎を創出するだろう。

 コペルニクスが地動説を提唱してから、人々のあいだに二つの非常に異なる世界観が存在した。プトレマイオス説を固持する人々と、コペルニクス説を受け入れた人々だ。両者はそれぞれ、まったく異なる目で世界を見た。これは、今日の経済学者と生態学者の世界観の相違になぞらえられる。生態学と経済学のあいだには世界観の根本的な違いがある。たとえば、生態学者は限界を心配するが、経済学者はそうしたいかなる制約も認めない傾向がある。生態学者は自然から学び、ものごとを閉じた円形の概念でとらえるが、経済学者は直線または曲線の概念でとらえる傾向がある。経済学者は市場に強い信頼をおくが、生態学者は市場に不信感をもっていることが多い。

 新世紀が始まったとき、経済学者と生態学者の世界観のギャップは、これ以上広がらないところにまできていた。経済学者は、世界経済と貿易と国際投資の未曽有の成長を目の当たりにし、これまで以上に明るい将来を期待した。彼らは、財貨・サービスの世界の生産額が一九五〇年の六兆ドルから二〇〇〇年には四三兆ドルに増加、つまり世界経済がおよそ七倍に拡大し、生活水準がかつて想像もつかなかったほどのレベルに向上したことを、誇らしげに指摘する。生態学者は、この経済成長は意図的に価格を安く抑えられた化石燃料を大量に燃やすことによって実現されたものであり、こうした生産活動が気候を攪乱し始めていると考える。彼らは、将来、より厳しい熱波やより破壊的な暴風雨が発生しやすくなり、極氷が溶け、海面が上昇し、その結果、人口増加が続くこの世界で陸地面積が縮小してしまうと予測する。経済学者は上昇する経済指標を注視するが、生態学者は、経済が気候変動を引き起こしており、今後予測のつかない影響が現れるだろうと指摘する。

 新世紀が進むにつれ、経済学者は穀物市場に目を向け、穀物価格が過去二〇年間で最低の水準にあることを知る。これは、生産能力が有効需要を上回り、予見可能な将来に向けて、供給面の制約が問題になりにくいことの確かなサインと彼らは考える。他方、生態学者は主要な食料生産国で地下水位が低下していることに注目し、六一億人の世界人口うち四億八〇〇〇万人が地下水の過剰な揚水によって生産される穀物で養われていることを知る。彼らは、来るべき帯水層の枯渇が食料生産に与える影響を懸念する。

 経済学者は、決定を行うときの指針として市場に頼る。彼らが市場を尊重するのは、市場が、計画経済体制の中枢では決して太刀打ちできないような高い効率をもって、資源を配分することができるからだ。一方、生態学者は市場にそれほど敬意を払わない。なぜなら、彼らの見るところ、市場は真実を伝えないからだ。たとえば、一ガロンのガソリンを買う消費者は事実上、石油を地中から採掘し、ガソリンに精製し、地元のガソリンスタンドに輸送するためのコストを払う。しかし、彼らが払う価格には、大気汚染による呼吸器系疾患を治療するための医療コストや気候を攪乱するコストは含まれていない。

 生態学者はここ数十年の記録的な経済成長の事実を認めながらも、同時に、この経済がそれを支える自然システムを圧迫し、地球の自然資本を急速に消耗させていると指摘する。その結果、世界経済は、不可避的に経済衰退を導く環境劣化の道を歩み出している。彼らは、経済が生態系と調和するように、経済を抜本的に再構築する必要があると考える。経済発展を維持するためには、経済と地球の生態系のあいだの安定した関係が不可欠であることを、彼らは知っている。

必要なのは新しい世界経済観

 私たちは経済発展を維持できないタイプの経済、つまり、私たちの望む将来を実現することのできない経済をつくり上げてしまった。コペルニクスが数十年におよぶ天体観測と数学的計算を経て、ついに新しい天文学的世界観を打ち立てたのと同じように、私たちも数十年間の環境の観測と分析に基づく、新たな世界経済観を確立しなくてはならない。

 経済学を生態学と統合する必要があるという考えは、多くの人にとって過激に思われるかもしれないが、それが現実を反映する唯一のアプローチであることを示す証拠が次々に明らかになっている。観測された事実がもはや従来の学説では説明できなかったら、そのときには学説を変更しなくてはならない。パラダイム・シフトが必要なのである。もし、本書で私が主張する通り、経済が地球の生態系の従属物であるなら、成功し得る唯一の経済政策の構造は、生態学の法則にのっとったものであるはずだ。

 勇気づけられるニュースは、経済学者たちが生態学への関心を強め、地球の生態系に対する経済の本質的依存を認識し始めていることである。たとえば、約二五〇〇人の経済学者―ノーベル賞受賞者八人を含む―が気候を安定化するための炭素税の導入を提唱している。経済学者のあいだで、市場に生態学的真実を反映させるための方法を模索する動きが広がっている。こうした意識の高まりを裏づけるのは国際生態経済学協会の急速な拡大である。この組織はオーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、カナダ、インド、ロシア、中国、そしてヨーロッパ各地に一二〇〇人の会員と支部をもつ。同協会の目標は、生態学者と経済学者の思考を持続可能な世界の構築をめざす学際的研究(transdiscipline)に統合することである。

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