NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.08 の目次 > P005 [English]

[コラム] 行為のデザイン 1) 「身体の拡張を」をめぐる翻訳と学習 -- 桂 英史


(P005)

NATURE INTERFACE Column

行為のデザイン#1

「身体の拡張」をめぐる翻訳と学習

桂英史 東京藝術大学美術学部先端芸術表現科助教授

 アルフレッド・ヒッチコックの『ダイアルMを回せ』という映画がある。ヒッチコック映画の多くがそうであるように、この映画もサスペンス映画としては非常に秀逸である。ただ、ここで僕が問題にしたいのは、このヒッチコックの映画の内容についてではない。この映画のタイトルである。この「ダイアルMを回せ」というタイトルのダイアルは、電話のダイアルのことである。電話番号を電話機に伝えるインタフェイスがダイアルと呼ばれ、たいていの電話にダイアルがパルス信号を伝えるためのインタフェイスとして用意されていた時代には何の違和感もなかったわけである。ところが、あらゆる電話機がトーン信号を伝えるプッシュ式に変わってしまって「ダイアルMを回せ」というタイトルは、かなりレトロなものになってしまった感がある。

 電話と同様のことが起こっているのが、テレビのチャンネルである。昔のテレビには回転式のチャンネルというものが付いていて、グリグリ回しながらチャンネルを変えていたわけだ。チャンネルを変えることを「チャンネルを回す」と言ってしまう人は、そのグリグリ感が記憶のどこかに残っている人で、年が知れてしまうことになる。チャンネルをグリグリ回すことは、リモコンのボタンを押すこととチャンネルを選択することでは変わりがない。ところが、身体的な運動もそこからもたらされる感覚もまったく違っている。とりあえず、回転式のチャンネルの場合は物理的にチャンネルを表示するためのパネルでチャンネルを示していたので、ひと目でわかったものである。

 ところが、リモコン型チャンネルになると、見ている画面が何チャンネルかということを知るためには、リモコンに「画面表示」とか「チャンネル表示」というボタンを押して何チャンネルを見ているかという情報を画面の一角に表示させなければならない(老婆心ながら、この表示は短時間にしておくようにしよう。ブラウン管の特性上、同じ色で同じ明るさを長時間表示し続けると、その部分が焼けて色がおかしくなってしまうぞ)。さて、回して機械に意志を伝えようとすることと、ボタンを押して伝えようとすることには、ちょっとしたズレがある。もっとも大きな違いは、先に述べたグリグリといった触覚的なイベントであろう。放送電波の周波数をチューニングするために触覚的なインタフェイスを用意することは、なかなかのインタラクティヴ(対話)だったと思う。

 一方、チューニングや電源のオン/オフなどは、僕たちの意志を別の周波数(赤外線の周波数)で翻訳していることになる。グリグリ感は赤外線の周波数に翻訳しているわけだ。リモコンは確かに便利なものであるが、その便利さは翻訳によってもたらされたものである。目にすることもなく、触ることもできない信号を触覚的にするというインタフェイスのデザインにあって、プッシュ式の電話もリモコン操作も一応の進化を遂げたことになるのかもしれない。

 この進化は僕たちにひとつのテーマを与えている。それは、テクノロジーが進化しているのか、それとも僕たちがインタフェイスを通じて学習して進化しているのか、という問題である。

 しばしば問題になることとして、テクノロジーが進化することによって、身体の拡張がもたらされて、その結果として僕たちの身体感覚を鈍いものにしている、という指摘である。たとえば、交通のネットワークが発達することによって、運動不足や生活習慣病がはびこってしまうという直接的な因果関係として把握されるといった具合である。確かにそういったこともあるが、あらゆるテクノロジーをそのような単純な因果関係に還元してしまうのは、テクノロジーにとって、あるいは人間の英知にとってとても不幸なことだと僕は思う。インタフェイスのデザインにあって、重要なことは、サイエンスフィクションに過ぎなかった「豊かさ」がきわめてリアルに実感できることにある。もっとわかりやすく言えば、僕たちの意志や言語といった観念的なことが一挙に触覚的になって実現することである。つまり、僕たちの身体の深みに淀んでいる言語や意志が、ある伝達経路に乗ることによって、学習の機会となることである。つまり、インタフェイスとは、僕たちにとって、翻訳装置であると同時に、より人間の身体や言語を知る学習装置なのだ。

 あたらしいテクノロジーにワクワクする。それはなぜか。この心理にはいろいろなものが働くのだろうが、たいていの場合、それによって豊かな気分にさせてくれるからなのだろうと思う。この豊かさということに「使いやすさ」ということの秘密が隠されているのだろうと思う。

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/06/23