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[ケーススタディ4] 自然生態系保全のためのGIS解析 タンチョウの営巣地調査について -- 平田 更一





(P036-039)

特集 包括的環境モニタリング

自然生態系保全のためのGISの解析

タンチョウの営巣地調査について

平田更一

株式会社パスコGIS総合研究所

(ひらた・こういち)

北海道大学理学部生物学科卒業後、リモートセンシングの研究、業務に従事してきた。1980年頃デジタルマッピングの世界に入り、90年代からGISの研究と応用システムの開発をてがけてきた。現在は、地理情報の国際標準作成の専門家会議(ISO/TC211 Geographic Information / Geomatics)へ、Expertとして参加、国内では、GISを用いた景観生態学(Landscape Ecology)の研究を目指したいと考えている。

 自然生態系保全という言葉は、豊富な自然度の維持、希少種の保全、種多様性の維持等の意味をもっている。最近、リモートセンシングデータの利用、GIS(地理情報システム)を用いた空間解析等により、生態系保全の研究事例の報告が多くなった。希少種であるタンチョウの営巣地環境の解析をおこない、営巣地の拡大から種の維持、個体数の増加への対応検討の資料を作成した事例を紹介しよう。

タンチョウのライフサイクル

北海道東部に生息するタンチョウは、江戸時代、関東地方にも生息していたという報告があるように広く分布していたが、開発による湿原の減少、羽を求めての乱獲等により、一時は絶滅も伝えられた。その後、釧路湿原周辺に住む人たちの手厚い給餌、保護によって平成一四年一月のセンサス結果によると七八一羽までに復活した。しかしながら、最近その個体の増加は鈍化する傾向にあり、その要因は営巣地環境の悪化にあるのではないかといわれている。

 タンチョウは、三月―五月にかけて湿原に集まり卵を産み、八月から九月頃まで雛を育てる。その後は湿原を離れ、翌年の春まで子育てをしながら湿原周辺で生活している。最近、北方四島との間を行き来している報告もあるように、行動範囲は広い。一度番(つがい)を形成したペアは、一生変わらぬといわれているように夫婦愛が強い動物である。

GISの空間解析

国内でのGISは、地方自治体における紙に印刷した地図を数値化して多目的に利用するマッピングシステムが盛んであったが、自然環境分野でのオーバレイ(ある地図レイヤーに別の地図情報を重ね合わせて、新たな地図レイヤーを作成すること)やバッファリング(地図レイヤー上のある点・面からの距離が一定以内のデータを抽出する機能)の空間解析機能を使った報告も多くなってきた。

 ここで使用した考え方は、Rule Based GIS(GISを用いて、空間現象に規則性を見出す手法)である。最近流行している、空間統計学の分野に近いといえよう。

営巣地選択を仮定する

 釧路湿原におけるタンチョウが営巣地を選択する条件について、次のような仮定を設けた。

@地形条件=標高、傾斜、斜面方位

A誘致条件=湿原、水系、開発規制

B阻害条件=道路、建物、土地被覆変化

 タンチョウ研究の専門家である正富宏之専修大学北海道短大教授からタンチョウ営巣地を地形図にプロットしたデータをいただき、数値化した。この営巣地点データと二万五○○○○分の一の地形図をデジタル化した数値地図データ、ランドサッドデータを重ねて地形条件、誘致条件、阻害条件を計測した。営巣地点からバッファリングをおこない九○パーセントの営巣地が該当する距離をもって選択の条件とした。

解析の結果

 選択の条件として有意な関係を見出せなかったのは、地形条件、開発規制、土地被覆変化である。対象地域全体が平坦な湿原において、地形条件全体が必須であったといえよう。人為的な国立公園内の開発規制枠と土地被覆の変化は、タンチョウの選択条件に入っていないようで、有意な関係はなかった(図1参照)。

 営巣地選択の条件をモデル化すると、次のような条件が抽出できた。

@湿原であること

A道路から一○○メートル以上離れていること

B建物から三六○メートル以上離れていること

C水系から二六○メートル以内であること

等の場所が、選択条件となっていた。餌場としての水系、身を隠す場としての湿原などは想定していたが、意外と道路近くが選択されていた。

 さらに大きく影響した要素にホームレンジがあった。タンチョウは育雛期に一ホームレンジを維持して、同じ巣を守るペア同士にストレスが発生しない距離を維持する。これを一時的な意味でホームレンジといい、七○○メートル以上の広さをホームレンジとしていた。言い換えると巣と巣の間には一・四キロメートル以上の距離が必要となる(図2参照)。

 これらのモデルを用いて、釧路湿原に残された営巣可能地を抽出した。湿原の乾燥化、人為的な開発等により年々湿原の面積は狭まってきており、タンチョウの営巣地は道路、建物により近い場所が選択されるような状況を裏付けたものとなった(図3、表1参照)。

タンチョウの営巣地を守るために

 その後さらに北海道東側に位置する風連湖周辺にても同様の解析をおこなった。道立公園である風連湖を取り巻くようにタンチョウの営巣地が分布するこの地域は、一面の湿原からなる釧路湿原とは異なり、住宅地、畑の周辺に小規模な湿原が分布している。この小規模な湿原やその周辺部に集中するように、タンチョウは営巣地を構えていた。必須な条件として湿原ではないが、しかし、湿原の近くに営巣地を選択していたことに変わりはなかった。

新しく十勝川の河原にできた営巣地は、数年間雛が孵らないという。タンチョウは、その優美な姿、愛情あふれる求愛ダンス、あるいは雛を守る家庭愛などなどカメラマンの絶好な被写体である。しかし、営巣時期にカメラでねらいをつけると、その巣を放棄する例が多いという。

遺伝学的に、種の維持に必要な個体数は一○○○羽あるいは二○○○羽ともいわれている。生息地を確保して、タンチョウが子育てに専念できる環境を保全したいと願っているのは筆者だけではないと思う。

参考文献

(1) 正富宏之:『タンチョウ│そのすべて』北海

道新聞社、2000

(2) 平田更一、村上広史: GISによるタンチョウの潜在営巣可能地抽出と営巣環境変遷解析,日本写真測量学会平成八年度年次学術講演会発表論文集、社団法人日本写真測量学会、pp.169-172,1996

(3) Hiroshi Murakami, Koichi Hirata: Potential Site Analysis of Red-cranes using GIS, International Archives of Photogrammetry and Remote Sensing. Vol.XXXI, Part B4, Vienna, 1996

(037図キャプション)

図1 土地被覆変化と営巣地点

(038図キャプション)

図2 ホームレンジの大きさ

(039図キャプション)

図3 釧路湿原と潜在営巣可能地

表1 選択要素の相関係数表

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