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ネイチャーインタフェイス・フロンティア 環境情報自動収集端末と環境情報統合N次元マップ -- 佐々木 健














(P041-046)

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環境情報自動収集端末と

環境情報統合N次元マップ

佐々木健

[東京大学大学院 新領域創成科学研究科 助教授]

ささき・けん

東京大学新領域創成科学研究科環境学専攻助教授。工学博士。専門はメカトロニクス、信号処理。1980年、東京大学工学部精密機械工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻修士課程修了後、1982年、日本電気に入社し、産業用ロボットのソフトウェア開発に従事する。東京大学工学部精密機械工学科助手、東京大学工学部精密機械工学科助教授を経て現職。空中用超音波センサ、触覚センサ、多指ハンドの制御、環境情報計測システム等の研究開発を手がける。

環境情報観測の問題点

 我々を取り巻く環境には、地球温暖化に代表される地球規模の問題をはじめ、酸性雨、大気汚染、水質汚染、土壌汚染など地域性の問題、さらに住宅のシックハウス症候群のように狭い空間における問題にいたるまで、複雑で多様な問題が存在している。これらの問題の解決に必要なのは、まず環境を正確に把握することである。

 ここでは、東京大学新領域創成科学研究科・環境学専攻・環境情報学研究室において開発を進めている環境情報自動収集端末を用いたSPM採取・分析システムと、多様な環境情報を有機的に統合した「環境情報統合N次元マップ」というデータベースについて概説したい。

 広い地域の環境情報を測定し、その情報を公開している既存システムとしては、環境省が運営している「そらまめ君」という大気汚染物質の監視システムがあり、全国の大気汚染状況について、二四時間、インターネット上で情報公開している。測定項目は、二酸化硫黄、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、光化学オキシダント、非メタン炭化水素、浮遊粒子状物質、風向・風速である。これらは全国二一一九の測定局(平成一二年度末現在、一般環境大気測定局一七○三局及び自動車排出ガス測定局四一六局)における常時観測のデータに基づいている。

測定項目の中の浮遊粒子状物質(SPM: Suspended Particulate Matter)は大気中に漂う数μm以下の粒子の総称であり、とくに二μm以下の粒子をfine particleと呼び、それによる健康被害が懸念されている。粒径が小さいほど空中に漂っている時間が長く、人間が息を吸い込んだとき、肺の奥まで到達し沈着する。また粒子状物質はガス状物質と異なり容易に除去されないので、呼吸器内部に長期間留まって影響を及ぼす。

 定点観測をベースにした前述のような観測システムは広域の環境情報を確実に得るためには有効であるが、実際に一人一人の人間が生活する環境におけるきめ細かな環境情報を得るには観測点の数が十分ではない。SPMの発生源である自動車や工場などは偏って分布しており、微粒子の移動・拡散は地形や風向・風速に依存する。したがって微粒子の移動・拡散をより正確に把握するためには観測点を増やすことが必要であるが、据え置き型の定点観測機を増やすことはコスト的に不利である。局地的な環境情報を正確に得るためには、携帯型の機器によって数多くの場所において現場での測定やサンプルの採取をおこない、定点観測データを補う必要がある。

携帯端末で大気に漂う粒子を採取、分析する

 環境情報学研究室においては図1と図2に示すようなPDAをベースにした環境情報自動収集端末と、SPMの成分分析法として時間分解型レーザ誘起ブレイクダウン分光法(以下レーザブレイクダウン法と略す)を採用したSPMのサンプル採取・分析システムの開発を進めている。このシステムは、人間が持ち歩く携帯端末でSPMのサンプルを採取するとともに気象データを計測し、サンプルを持ち帰って分析機にかけるというもの。現在は図3に示すようにノートパソコンに市販のGPSモジュールや気象センサ類を接続し、それら一式をバッグに入れて背負い、開発する携帯端末の機能評価を進めている。図4は端末の外観イメージである。

 システムの概要と特徴は次のようになる。

@ 携帯型の環境情報自動収集端末(以下、携帯端末と略す)に内蔵されたマイクロポンプにより大気を吸引して大気中の微粒子を濾紙上に採取する。

A 採取位置および気象データ(気温、湿度、気圧、風向・風速など)は、端末に内蔵あるいは接続されたGPSおよび各種センサにより、SPM採取と同時に計測する。

B 位置と気象データは濾紙に内蔵されたRFIDに書き込まれる。

C 濾紙を持ち帰りレーザブレイクダウン法により成分分析をおこなう。そのとき、採取位置と気象データはRFIDから読み出される。

D 分析結果はデータベースに加えられ、ネットワーク上で情報が公開される。

 気象データを同時計測するのは、微粒子の成分分析の結果を用いて発生源の特定や分布・拡散の状況を解析するために気象データが必要とされているからである。通常は気象庁が公開しているデータベースから気温、湿度、気圧、風向・風速などの気象情報を取得して微粒子の分析結果とあわせて解析するが、そのデータの基になっている観測地点と、携帯端末によるサンプルの採取地点とが一致しているわけではない。

 GPSによって位置を計測するのは人間が持ち歩く携帯端末には不要とも考えられるが、データベースに採取地点を入力する際の位置情報として人間がわかりやすいのは住所、交差点名、近くの建物や河川の名前など、さまざまであり統一することが難しく、GPSで測定した緯度経度を用いる方がはるかに容易である。GPSによる位置計測精度は二○―三○メートルであるので、採取位置の記録には十分である。

RFID(Radio Frequency Identification)とは、非接触でデータの書き込みと読み出しができる小型のICチップのことで、最近では鉄道の定期券や身分証明書に利用されている。チップ自身は電源をもたず、外から電波を受信してその電波の電気エネルギーで回路を駆動し、データの送受信およびデータの書き込みと読み出しをおこなう。応用分野の拡大が今後期待されている素子である。

 開発中のシステムで採用している分析法は、「時間分解型レーザ誘起ブレイクダウン分光法」と呼ばれるもので、一般的な分析機器において不可欠な前処理が不要という大きな特徴をもつ。前処理とは、たとえばサンプルを溶媒に溶かしたり濃縮したりするような処理である。

 レーザブレイクダウン法の原理を図5に示す。レーザ照射チャンバ内に置いた試料に、非常に短いレーザ光(パルスレーザ)をレンズで集光して照射し、試料を元素に分解しプラズマ化させる。その後、プラズマ状態から基底状態に緩和する際に放射される発光スペクトルと強度の時間変化を分析することにより、元素の構成比と微粒子の粒径が測定できるという優れた分析法である。現在は東京大学新領域創成科学研究科・環境学専攻の長崎晋也助教授が研究開発を進めているシステム(図6)を利用している。実験システムのパルス周波数は二○Hzであり、濾紙上に採取したSPMのサンプルをまんべんなく分析するために、濾紙をモータで回転させながらレーザ光を照射する。一回の分析時間は数分である。

 図7は交差点付近で市販の小型ポンプを用いて約五時間吸引してサンプルしたSPMの分析例である。現在は計測システム全体の諸条件が整えられていないので数時間の吸引が必要であるが、濾紙の種類と大きさ、ポンプの吸引能力、レーザブレイクダウン法の分析条件などを最適化することにより、環境基準値付近の濃度であれば数分の吸引で済むことが試算されている。

 現システムでは採取分析対象をSPMとしているが、採取装置やセンサを交換すれば、たとえば水質や土壌に関する環境情報収集端末に組み替えることも可能である。位置や気象データは共通するデータとして利用することができる。

 このような携帯型の環境情報収集端末の開発により、環境情報の収集が容易におこなえるようになると、情報の量と品質が向上するだけではなく、専門家以外の人々が計測活動に参加できるようになる。市民参加型の環境計測ネットワークの構築は、環境問題に対する教育と啓蒙に大きく貢献することが期待される。

環境情報をいかにデータベース化するか

 次に環境情報をデータベース化して利用するシステムについて説明する。環境情報の解析と利用にはGIS (Geographical Information System)と呼ばれる地理情報システムを活用するのが一般的である。当研究室においてはGISをベースとして、さまざまな環境情報を統合して活用する「環境情報統合N次元マップ」というシステムの開発を進めている。これは、空間の三次元と時間の一次元にさまざまな環境情報の属性を座標軸として加えた多次元空間を構成することから板生教授が命名したシステムである。実際にN次元を図示することは困難であるが、イメージとしては図8に示すように、環境情報の各属性について地図と属性データを組み合わせた構造があり、それらが何枚も積み重ねられたようなものと考えればよい。

 図8のなかで、右上には環境情報自動収集端末で採取したSPMの分析結果を表示したイメージが示されており、右下と左下には当研究室で開発を進めている画像情報をベースとした他の環境モニタリング端末が描かれている。左下は高山植物の観察など、人間が長期間立ち寄ることができない環境の画像モニタリングシステムであり、エネルギを太陽光で賄う自律型システムである。右下は画像の取り込みを対象が発する音で起動するシステムである。音声認識機能により特定の音を認識した場合にのみ画像を取得し、サーバへ送信するしくみになっている。主たる情報である画像以外に気象データや音なども同時に記録する点は、先に説明したSPM採取用の携帯端末の設計思想と共通である。

 図9はN次元マップを構築する手法を概説した図である。左端の列にさまざまなセンサ端末によって収集される環境情報、右端の列にそれらをN次元マップ上で利用するユーザがあり、右から二列目が既存のGISシステムである。開発すべき部分は、赤い点線で囲った部分であり、センサ情報を入力するインタフェイス、N次元マップのデータベース、およびユーザインタフェイスである。

 以上に述べてきたような環境情報を収集する端末と、環境情報データベースとしてのN次元マップの開発により、環境情報をより豊富に正確に、かつ有機的に利用できるシステムが構築できると考えている。                

(042図キャプション)

図1 SPMの採取から分析までの処理の流れ

図2

時間分解型レーザ

誘起ブレイクダウン

分光分析機の外観

(長崎助教授提供)

(043図キャプション)

図3 左・ウェアラブルサンプリングユニットの実験風景

   右(上下)サンプリングユニット構成デバイス

図4 環境情報自動収集端末の外観イメージ

(044図キャプション)

図5 時間分解型レーザ誘起ブレイクダウン分光システムの原理

図6 環境情報測定ネットワークのシステム概要

SPM採取と同時に位置・記章データを計測し,計測の自動化と解析精度の向上を図る

(045図キャプション)

図7 交差点でサンプリングしたSPMの分析結果

交差点にサンプラーを固定し5時間サンプリング

図8 N次元マップに統合された、環境情報収集システム

(046図キャプション)

図9 環境情報統合N次元マップを構築する方法

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