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[連載] Techno-climatology 1) 日本で始めて逆サイフォンを採用 金沢・辰巳用水


(P078-079)

1 Techno-climatology 技術のある風景

日本で初めて

逆サイフォンを採用

金沢・辰巳用水

田井中麻都佳

 中国・宋代の詩人・李格非が唱えた名園の六条件「広大・幽邃、人力・蒼古、水泉・眺望」をすべて兼ね備えることから、その名がついた金沢は兼六園。一○万平方メートルもの広さを誇るこの回遊林泉式庭園を歩けば、冬の風物詩である唐崎松の雪吊りや、蓬莱島を浮かべる霞ケ池、老樹に囲まれる瓢池、趣きのある数々の橋、噴水、茶室、梅林など、風雅な風景が次々と立ち現れる。加賀藩の藩主たちがトータルでじつに一六○年あまりもかけて築いたというその庭は、確かに名園と呼ぶのにふさわしい。

 しかし、この庭を歩いていて、ふと不思議に思うことがある。確か兼六園の入り口に到着するまでに、けっこう長く急な坂を登ってきたはずだ。つまりこの庭は高台にある。その証拠に、霞ケ池のほとりから金沢の市街地が一望できた。それなのに、なぜ、これほどまでに豊かで清らかな水が、あたりまえのように流れているのだろう。

 じつは、兼六園に豊富な水をもたらしているのは、辰巳用水である。建設されたのは一六三二年(寛永九)。金沢の南を流れる犀川から取水して、小立野台と呼ばれる台地を貫き、兼六園を経て金沢城内へと至る、全長一○キロメートルほどの水路だ。玉川上水、箱根用水とともに、江戸期の三代用水の一つに数えられているが、その理由は土木技術の水準の高さにあるのだという。

 一つは、小立野台を貫通するトンネルの存在。トンネルは、水路の三分の一にあたる三・三キロメートルにおよび、平均勾配は八五一分の一と緩やかだ。当時は、トンネルを掘るだけでも大工事なのに、緩やかな勾配の水路を築くのは至難の業だったろう。しかし、この難工事は、のべ一四万人の人足たちによって、わずか一年たらずで成し遂げられたという。

 この難工事を可能にしたのが、多数の横穴と「水盛の法」と呼ばれる測量技術、「寸甫切」と呼ばれる掘削技術である。三○メートル間隔で掘られた横穴は、掘削した土砂の搬出や、採光、換気に役立てられただけでなく、岩質を調べたり、勾配を一定に保つ際に利用された。水盛の法というのは、細長い材に溝を彫って水を入れ、これを土台面などに載せて水平を定める方法。寸甫切は、方位を定めて掘削する方法だが、その頃の金銀鉱山の掘削技術を生かしたものだ。 

 もう一つ、辰巳用水で誇るべき土木技術が、わが国で初めて採用された「伏越の理」と呼ばれる逆サイフォンである。これは、兼六園と金沢城の間に横たわる百間掘の下に水路をくぐらせ、城内に引水するために用いられた技術。コーヒーメーカーでおなじみのサイフォン式といえば、液体をいったん高所へ引き上げて低所へと移すものだが、逆サイフォンは、高低差(圧力差)を利用して水を移動させるというもの。兼六園の霞ケ池から石川橋までの落差を利用して、ここから城中の南御門の堀へと水を揚げ、さらに一六三四年には、二の丸の藩主居室の前庭の泉水まで導水し、霞ケ池から一一・四メートル下がって八メートル上がるという、延長六四○メートルもの逆サイフォンの管路が築かれたのである。

 当時、加賀藩は江戸幕府最大の藩であり、何かと幕府から目をつけられることが多かったため、堀に水を蓄え、城内に飲料水をもたらす辰巳用水の建設は急務であった。そうした理由のせいなのか、この辰巳用水を建設した板屋兵四郎という人物については、あまり多くの資料が残されていない。「伏越の理」の秘密を守るために、工事の後に殺されたという説さえ残る。今となっては真相は闇のなかだ。

 現在、逆サイフォンこそ失われてしまったが、辰巳用水は健在で、かつてその水の流れが軍事目的でつくられたことなど嘘のように、兼六園を、そして金沢のまちを清らかな水音を立てながら流れ続けている。

(079写真キャプション)

Photography by Eiji Ina

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