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NI Book Review





(P084-085)

実践知から生まれた

革新的経営手法「分社」

『分社・ある経営感覚』

著者 酒井邦恭

朝日文庫/定価 四○○円

 「象にダイヤモンドが磨けますか」という名文句を残した著者の実践的経営哲学論。

 実業家酒井邦恭は、現在エレクトロニクスを中心に、プレス板金、電子部品、自動機器製造、デザイン、建築など、異業種三九社(二○○○年現在)からなる太陽工業分社グループの社主である。グループ総資本二二億円、総従業員数三九社で三○○○名、事業規模からみるかぎり、いわゆる大企業に一歩も引けを取らない。スケールメリットを活かすならば、大企業として単独で事業展開する方がはるかにメリットがありそうなものなのだが、著者の考えはまったく反対。「会社は小さければ、小さいほどいい」のだそうだ。

 「大企業は大きくみえて、かっこうがいい。だが、じつは死にかかっている。確実に大企業は滅びる道をたどっている。企業が大きくなるとなぜよくないかということの一つの理由は、そこに働いている人間が、企業の肥大化に反比例して小さくなっていくということである」

 会社とは何をするところか。仕事をするところだ。ならば、楽しく、元気いっぱい、面白く働けて、働きに見合った報酬が得られることが最高の状態であろう。経営者の役割は、社員がそうした条件の中で一○○パーセントの力を発揮できる環境をつくることではないか。その答えが分社という方法だったと著者は言う。

 しかし、分社という決定解を手に入れるまでの道は、並大抵ではなかった。実験と失敗を繰り返した末の結果であった。その波乱万丈の様子は一遍の小説を読むようで本書の魅力でもあるのだが、ともかく、一本の老木にしがみつくより、もう一度若木となって成長することの方が企業としては生き延びられるという著者の確信は、実践から生まれた知恵でもある。少数精鋭で高業績を上げる組織づくり。その成功のかぎをにぎるものは、経営者のリスクを恐れない度胸と実践的手腕いかんにかかっているともいえそうだ。

モバイルコンピューティング、

モバイル社会の将来像を描く

『モバイルコンピューティング』

著者 塚本昌彦

岩波科学ライブラリー

一○○○円┼税

 日常生活の中でつねに移動し続けているという意味で、我々は、「ホモ・モビリス(Homo mobilis)」であると名付けた社会学者がいた。六○年代のことだ。世はスピード時代。クルマは空を飛び、音速で走る鉄道やロケットが人間たちをさまざまな場所へ連れ出す。そんな未来予想図が少年雑誌のグラビアを賑わせていた頃のことだが、なぜかコンピュータ(電子頭脳ともよばれていた)はというと、とてつもなくでかい図体をビルの一室に横たえていた。コンピュータが人間といっしょに移動するものになるなどとは想像もつかなかったのだろう。そして、四○年がたった。我々はいつでもどこでもコンピュータが利用できる環境に生きていることを、もはやあたりまえのことと感じている。こうした感性は、やがてコンピュータという存在そのものも希薄化させていくにちがいない。

 動き回るユーザーをコンピュータがどのようにサポートしていくか、それこそモバイルコンピューティングの本質であると著者は言う。それは、コンピュータがこれまでの概念や形態を大きく逸脱していくことを意味しているともいえる。「持ち歩く」究極のコンピュータとしてのウェアラブルと、「持ち歩かない」究極のコンピュータとしてのユビキタス。来たるべきモバイル社会の将来像をこの図式から描こうというのが本書のねらいである。「持ち歩く」は、やがて「着る(ウェア)」コンピュータに、「持ち歩かない」は、やがて「いたるところ(ユビキタス)」コンピュータに、取って代わられるという。そして、一見両極端を目指しているかに見えるこの二つのモバイルコンピューティングは、将来的にはむしろ統合するような形で発展するのではないかと示唆する。また、そうした環境では、拡張現実感(augmented reality)が重要な役割を担うことが考えられるという。仮想物体や仮想人間(透明人間)たちが現実空間上に表現される世界。そうした仮想と現実が交錯するモバイル社会の出現は、われわれの精神やものの考え方までも大きく変えていくことになりそうだ。倫理面での問題解決が早急な課題となるだろうと著者は指摘している。

免疫学の最前線から、

現代医療の矛盾を批判する

『医療が病をつくる』

著者 安保徹 

岩波書店  

一八○○円┼税

 著者の企図は、書名にすべて表れている。すなわち、「治療の中にいくつかの根本的な間違いがあって、熱心に治療するほど病気を悪くしている現実が」あり、「せっかく医者が良心的に活動しても結果は裏目に出てしまうことになる。医学は進歩し続けているが、未熟な点もかなりある。そしていくつかのこれらの問題点には科学的に解決可能なものがある」

 今日の免疫学は著しい進歩を遂げている。分子や遺伝子の解析を中心とする分析的な科学からさらに踏み込んで、血液学や内分泌学、自律神経学などを総合した新しい免疫学を目指そうとしている。新しい免疫学とは、わかりやすく言い直せば、「心とからだをつなぐ免疫学」だという。人の心とからだは、白血球の自律神経支配を媒介として密接につながっている。そこで、白血球の働きをしっかり認識し、自律神経との相互作用を理解できれば、病気の謎およびその本質を探り出せる可能性があるというわけだ。白血球には顆粒球とリンパ球があり、蔟粒球はおもに交感神経支配を受けて活性化し、逆にリンパ球は副交感神経支配を受けて活性化する。交感神経と副交感神経、蔟粒球とリンパ球の拮抗関係がわかれば、病態をある程度把握することができるという。

 では、病気の原因には何があるのだろうか。その八割は広い意味でのストレスや薬剤の使用法の間違いからおこると著者は考えている。ストレスの持続は自律神経の一つである交感神経を緊張状態にする。交感神経緊張状態は、蔟粒球増多を招き、病気を発症させる引き金となる。したがって、まずストレスを取り除くことが治療の第一歩になる。それには、蔟粒球とリンパ球の拮抗関係、そのメカニズムを理解したうえで、個体のもつ組織修復能をうまく導き出すことにあるという。

 著者が注目する心とからだをつなぐ免疫機能は、生体のエネルギー系と連動している。東洋医学の安直な借用ではなく、民間医療の礼賛でもない。オルタナティヴな医療技術の可能性を拓く手がかりは、じつはこのエネルギー系に隠されているのだ。

IT時代の情報とコミュニティを

つなぐネットワーキング論

『人間交際術』

著者 桂英史 

平凡社新書 

 七二○円┼税

 仙台市に昨年オープンした伊東豊雄設計の「せんだいメディアテーク」は、世界の建築関係者を唸らせた。七層のスラブをアモルフな複数のチューブが貫き、ガラスの外壁で構成された圧倒的なデザイン。日本の建築は、安藤忠雄だけではないということを強烈にアピールした。しかしながら、「せんだいメディアテーク」の本当のすごさは、じつは建築ではない。むしろ、施設の構成やシステム、いやもっと正確にいえば、「せんだいメディアテーク」それ自体にある。過去にどこにもない、そしておそらく今後しばらくは生まれないだろう全く新しいかたちの「場」、メディアそのものとしての空間が「せんだいメディアテーク」だ。

 「せんだいメディアテーク」のプロジェクトに深く関わって、そのコンセプトづくりに尽力したのが桂英史である。図書館、ギャラリー、映像メディアセンター、視聴覚障害者のための情報提供機能をもつ複合施設を、新たなコミュニティのモデルとして捉え直す。その実験的プロジェクトこそ「せんだいメディアテーク」だったのである。

 桂はコンセプトメイキングにあたって三つの柱を立てた。@最先端のサービスを提供する。Aターミナルではなくノードである。Bあらゆるバリアから自由である。このたった三つのコンセプトを貫き通すことが現状ではいかに困難であるか、逆に、それが実行されるととんでもない空間ができあがってしまうことを、桂はまさに「せんだいメディアテーク」を通して知ることになる。この三つの柱こそ、じつは、現代の情報を考える際に欠かすことのできない要件であり、またメディアを成立させる道具だてでもあるのだ。

 本書は、「せんだいメディアテーク」のプロジェクトに関わることで、明らかになった情報メディアと場の生成、「コミュニティ」デザインについての分析である。運営主体の明確化、人材・財源の確保といういわばインフラの整備と自律が今後もっとも重要な課題になってくるという。そして、その解決策を、桂は家政と互酬性に基づくNPO活動に見出そうとしている。

 ちなみに、書名の人間交際とは、福沢諭吉がsocietyにあてた訳語。社会、情報、メディアのプロトコルの必要性を予見した福沢へのオマージュと筆者は理解したが、あたりかな?

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