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[ケーススタディ2] 人体を情報伝達経路として利用する人体内通信デバイスの開発 -- 蜂須賀 啓介/中田 杏里







(P20-22)

ケーススタディ 2

特集 

生体情報──ヘルスケアの未来

人体を情報伝達路として利用する

人体内通信デバイスの開発

東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻修士課程

蜂須賀啓介

東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻(現、本田技研工業株式会社)

中田杏里

ウェアラブルに最適な通信技術

 情報機器の開発分野において、実装技術・超LSI技術・微細加工技術などの急速な進歩により、部品や装置の小型軽量化・記憶密度の向上・演算速度の高速化などが実現されてきている。そのおかげで、機器は「持ち運びできる(ポータブル)」から「身につけられる(ウェアラブル)」まで小さく進化し、ウェアラブル情報機器が次々に開発されている。また、携帯電話やPHSなどの普及に伴い、情報技術を使ったサービスも多様化している。近い将来、さまざまな情報を個人専用にカスタマイズし、複数のウェアラブル情報機器を身につけて生活するようになると予想され、個人内でのネットワークを構築するという観点から、「パーソナル・エリア・ネットワーク(Personal

Area Network、以下PAN)」の構築が求められている。

 PANを構築すれば、ウェアラブル情報機器で情報を集中的に管理したり、機能を分散してリソースを節約したりすることが可能になる。しかし仮に、PANを有線でネットワーク構築をおこなおうとすると、コードが絡まって動作の妨げになる場合があるため、日常生活での利用には適さない。そこで注目されるのが、PANを無線で構築する技術である。

 代表的な近距離無線技術としては、電波を利用するBluetoothや赤外線を利用するIrDAなどがある。Bluetoothは小型情報機器向けに開発された規格であり、消費電力が小さく通信距離も長いという利点を有している。しかし、通信プロトコル処理のオーバーヘッドが比較的大きく、デバイスが複雑になる、という問題点がある。一方、IrDAは伝送速度が速く、指向性が高いため干渉が起きにくく秘匿性に優れているという利点はあるものの、消費電力が大きく、光軸のずれや障害物の存在により通信不能になってしまう。つまり、衣服によって通信が妨げられてしまう可能性があるのだ。

 ここで、新しい通信方式として注目されつつあるのが、人体を信号伝送路とみなす「人体内通信」である。人体内通信はまだ研究開発段階にあるため、伝送速度や消費電力などに関しては未知の部分も多い。しかし、人体の中を信号が通るため、電磁波ノイズや人体の近くにある障害物などの影響を受けにくく、外部への漏れ量が少ないため、他の方式に対して秘匿性の面で優位性をもつことなどから、効果が期待できると考えられる。

人体内通信とは何か

 人体内通信とは、皮膚上の電極を介して通信端末やセンサから送信されたデータを体内に流入させるというものだ。伝達方法は三種類に分類でき、我々はそれを回路型・静電結合型・導波管型と呼んでいる(図1)。回路型は、人体を導線として扱い、外部回路と合わせて閉回路を構成する方法で、体脂肪計や心電計などの生体計測機器に実用化されている。しかし、通信に使うには体外にも導線が必要となるため、PANの構築には不向きである。静電結合型は、回路型と同様に人体を一本の導線として用いるが、地面などの周囲環境と人体との静電結合を用いて外部回路を構成するため、外部に導線を必要としない。この方式は人体外部の機器へ人体を通じて情報を伝える(例えば指先で触れた機器へデータを送るなど)のに適しているが、PANには適さない。一方、導波管型は、人体を導波管とみなし、体内に微弱な電磁波を発生させることによって、入力側から出力側へと情報を伝送する方法である。導波管型による通信では、外部回路を必要としないため周囲の環境変化の影響を受けにくい、という利点がある。

 以上をもとに、我々は、人体内通信の中でも導波管型を利用して、ウェアラブル情報機器間でのPANの構築を試みた。通信に必要な基本特性として、人体の信号伝送特性を調べるとともに、電極材質や面積による接触インピーダンスの影響、個人差や電極配置による人体インピーダンスの影響などを調べた。その結果から、人体内通信に適した通信方法を決定し、試作機の製作および評価をおこなった。

伝送媒体としての人体の特性と

通信装置の仕様

 導波管型による通信の基本特性を知るため、人体に正弦波を入力した場合の入出力ゲイン特性を調べ、人体を使わずに空中を伝播させた場合と比較した(図2)。被験者は二○代健常男性である。二MHz〜二○MHzでは空気中伝播より人体内伝播のほうが優位であることがわかり、とくに五MHz付近でゲインが最大となったことから、五MHzの搬送周波数を用いれば最小のエネルギー消費でデータ伝送をおこなうことができると考えられる。また、個人差・線形性・電極の配置・電極の材質などによる影響を調べたが、ゲインに与える影響は少ないことも確認できた。

 この結果をもとに、導波管型を用いたウェアラブル通信装置の製作を試みた。今回は音声やセンサからのアナログ信号(数Hz〜数kHz)の伝送をおこなうことにしたが、人体内通信が有効であるのは数MHz帯であるため、データの変復調をおこなう必要がある。そこで、安価なICが市販されているFM変調方式を採用した。

 装置試作の前に、FMによる人体内通信が可能であるかを心拍データ伝送によって確認することにした。心拍信号は、心尖部に置いた加速度センサにより取得、搬送周波数は、伝送効率のもっとも良い五MHzを選択した。その結果、入出力波形が同一のものであることから、FMでの人体内通信の有効性が確認できた(図3)。

 さて、いよいよデバイスの試作に入るわけだが、回路の簡便化と小型化を考えて、搬送周波数をラジオの中間周波数である一○・七MHzとした。この周波数は、実際に通信で使われることは少ないためノイズの発生量も少なく、安定した情報伝送ができる。また、人体に対する安全性を考慮して、電流・電力・電流密度などの仕様を決定した。さらに、チップ部品を用いて表面実装をおこなったところ、サイズは送受信機ともに三○ミリ×三○ミリ(五○○円玉サイズ)、重量は送信機四・三グラム、受信機五・四グラム(電池を除く)、電源電圧は三Vとなり、小型・軽量・省電力のウェアラブル人体内通信装置の試作機が完成した(図4)。

 この試作機を用いて四四○Hzの正弦波(“ラ”の音)を導波管型人体内通信により伝送した場合と、電極を人体から離して人体を介さず空気中に拡散させた場合でS/N比を比較したところ、人体内通信をおこなった場合がS/N≒20dBであるのに対し、空気中伝播をおこなった場合がS/N≒3.2dBと計算された(図5)。これは、人体内通信装置を用いることにより、空気中への電波の漏れが少ない情報伝送がおこなえることを示している。

 また、屋外での実験として、電車内で音声信号を伝送するという実験をおこない、日常的な活動をしながらもウェアラブル機器間の通信が可能であることも確認できた。

音楽配信や医療現場への応用に期待

 実験の結果から、ウェアラブル情報機器間の情報伝送方式として、人体を伝送路とするPANの構築を目的とし、人体の信号伝達特性を解明することができた。また、測定した特性に基づいてウェアラブル人体内通信装置の製作(三○ミリ×三○ミリ、五グラム前後、DC3V駆動)および情報伝送実験をおこない、実際に情報伝送が可能であることを確認した。

 人体内通信の試みはまだ始まったばかりだが、今後は、複数の情報機器間での接続やデジタルデータ伝送を可能にするためのデバイスの開発、生体計測システムとしてのヘルスケア分野現場への応用、人体内通信を利用した音楽配信サービスなど、日常生活で利用できる人体内通信システムの高度な応用をおこなっていきたい(図6)。これらの実験を重ね、人体内通信が一般的になれば、やがては、指と指が触れ合うだけでコミュニケーションが取れる時代がやってくるかもしれない。そうした新たな時代に向けて、より利用価値の高い技術を開発していきたいと考えている。

(P21図キャプション)

図1. 人体内通信の3つの分類

図2. 導波管型における人体の信号伝達特性

図3. 心拍データのリアルタイム伝送

図4. 人体内通信用の送受信機(右)と、実際に装置したところ(左)

(P22図キャプション)

図5. 人体内伝播(左)と空気伝播(右)の信号波形比較

図6. 人体内通信の応用例(生体情報モニタリングシステムへの応用)

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