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[NIヒューマンインタビュー] デンソー -- 原 邦彦



(P56-59)

NI Human Interview

NIヒューマン・インタヴュー

株式会社デンソー

原邦彦氏

取締役 基礎研究所所長(工学博士)

はら・くにひこ

1947年生まれ。

1969年、名古屋大学工学部卒業後、

同年日本電装株式会社(現デンソー)に入社。

研究開発本部主席部員、基礎研究所主席研究員、

基礎研究所部長を経て、1998年より現職。

集積回路、半導体、先端技術の開発等に携わる。

金沢工業大学高度材料研究開発センターの

客員教授も務める。趣味はパステル画

ヒーターから半導体へ――

進取の気鋭が発展を生んだ

――デンソーといえば、関連企業を含めて連結で売上げが二兆円を超える巨大企業ですね。しかしながら、デンソー・カーエアコンのイメージはあるにせよ、どのような事業を展開されている企業か、いま一つ知られていないように思うのですが……。

原――おっしゃる通りです(笑)。もともとトヨタ自動車の刈谷工場だったのですが、昭和二四年に分離独立して生まれたのがデンソーです。当時は、トヨタの関連企業としてだけでなく、日本一の会社になるんだという思いから「日本電装」という名前をつけたのですが、一九九六年、「日本だけじゃ狭い」ということで「日本」をとって「デンソー」になりました。一昨年、創業からちょうど、満五○歳を迎えたところです。

 経緯からもおわかりのように、最初は車の中のキー・コンポーネンツをつくる会社としてスタートしました。たとえば、スタータやダイナモなど、走る・止まる・曲がるという車の三つの主要機能を支える基本的な部品をつくっていたわけです。そのうち、冬寒く、夏暑いという車内環境を快適にしたいという思いから、一九四九年からヒーターに、一九五七年からカークーラーに取り組むようになりました。冬場のヒーター、夏場のカークーラーですね。これが第一期の歴史です。

 そうこうするうちに、排気ガスによる公害が社会的な問題となり、アメリカの有名な消費者運動家ラルフ・ネイダーの問題提起に端を発して、いかに排ガスをクリーンにするか、ということが研究されるようになりました。そのためにはエレクトロニクスの力が必要だということで、以後、デンソーもメカからエレクトロニクスを扱うようになってきたわけです。一九六○年代の半ば頃の話です。

 このような背景から一九六八年に発足したのが、世界の自動車メーカー初の試みとなったIC研究室です。つまり、自分たちのつくった半導体で車を動かそうと考えた。今から考えれば大変無謀な挑戦だったと思います。しかし、三○年経ってみると、その選択は正しかったといえるでしょう。今、車のボンネットを開ければ、ほとんど全部の車といっていいくらいエレクトロニクスが詰まっています。車のボンネットの中というのは、夏場は一○○度近くになりますし、冬、モスクワの郊外に駐車すればマイナス五○〜六○度にもなります。そんな劣悪環境下で動く半導体なんてありませんでしたからね。それを自らつくろうとがんばった結果、今日のエレクトロニクスが誕生した。その歴史を引っ張ってきたのがデンソーなのです。

 現在、ITS(インテリジェント・トランスポート・システム)が注目されていますが、今後は、道路と車、車と車が情報をやり取りできる、安全で快適な社会が実現されるでしょう。そうしたことを考えあわせますと、この五○年のデンソーの歴史は、まあ正しい道を歩んできたな、という感じがします。

――それにしても、車の部品だけでなく、携帯電話や浄水器まで、幅広い分野の製品をつくられていますね。

原――携帯電話はともかくとしても、浄水器は皆さん驚かれるところです。なぜ、浄水器に取り組むことになったかといえば、もとはエアコンとフィルタ技術にあります。長時間使っていなかったエアコンをつけると、変な臭いがすることがありますよね。原因はカビです。そのため、優れたエアコンに欠かせないのが、防菌・防カビの技術なんです。もう一つ、自動車はエンジンの中に空気を吸い込む仕組みになっていますが、この時、砂ぼこりや錆粉などを一緒に吸い込まないようにするのに役立つのがフィルターです。このフィルタリングの技術と防菌・防カビの組み合わせると、汚い水を浄化することができます。そこでできたのが、「Ms.純子(ミズ ジュンコ)」という浄水器というわけです。

エレクトロニクスの発展とともに歩んだ三○年

――なるほど、この不況下にあって業績が安定している理由は、確かな技術力にあるのですね。原さんご自身は具体的にどのような研究をされてこられたのですか。

原――ちょうどIC研究室ができたばかりの一九六九年に入社したので、ここの第一期生になるのです。そんなわけで、車のエレクトロニクスの歴史とともに私自身の企業人としての歴史があるといえます。

 その間、一○年ごとに三つの大きな転機がありました。まず、入社から一○年間はIC研究室において、車に載せることができる丈夫な半導体をつくることに努力しました。昭和五五年から平成元年までの一○年間は、物性研究のレベルから自動車部品を基礎的に開発するということで、研究部門を発足させました。具体的には、半導体の材料、発光電子材料のほかに、フィルターやCO2センサなどに使用するためのセラミックスなどの材料を手がけました。最初は、机一つと電話機一つでのスタートでした。

 最後の一○年は基礎研究所に移り、二一世紀に向かって会社が永続的に発展するための基礎的な研究をする、という非常に大きなテーマに取り組んでまいりました。基礎研究所をつくるにあたって最初に、アメリカの最先端の研究所が集まるシリコンバレーに行って見学でもしてこようということになったのですが、こちらは相手にギブできる手土産も何もなくて、一部の研究所では中まで入れてもらえずに、ただ研究所の外観だけをパチパチ写真に撮って帰ってくるという、スタートでした(笑)。一○年を経て、今では管理部門を含めて七つの研究室を構える所帯になりましたけれど。

――基礎研究所では、具体的にはどんな研究をされているのですか?

原――ヒューマン・マシン・インタフェイスといいまして、車とドライバーとの間で情報のやり取りをする場合に、ドライバーにとって負担のないインタフェイスというものを研究しています。たとえば、すでに商品になっているものだと、音声認識のソフトウェアなどがあります。現在のトヨタ車はすべて当社の基礎研究所で開発された音声認識人工知能を積んでいます。また、次世代の移動体通信技術やパワーエレクトロニクスの研究もおこなっています。

安全で、環境に負荷をかけない、

楽しい車づくり

――自動車というのは非常に便利なものですが、一方で交通事故や環境問題など、非常にシビアな問題を抱えている乗り物でもありますね。こうした問題に対する技術というのも、いろいろ開発されているようですが。

原――ええ。今、車を取り巻く社会的なニーズというのは、大きくいうと三つあるんですね。一つは、いかに安全な車であるか。二つ目はいかに地球環境を汚さない車であるか。そして、最後がいかに楽しい車であるか、です。ご存知のように、安全性の技術というとエアバックに代表されますが、これもよくよく考えてみると奇妙なものですよね。エアバックをどんどん進化させれば、確かに乗っている人の命は助かるけれど、ぶつかられた人は死んでしまう。それが本当に安全か、というとそうではないでしょう。本来、安全な車とは、ドライバーにダメージを与えないと同時に、歩行者にもダメージを与えないものでなければならない。裏を返していえば、予防安全、すなわち衝突してからの安全ではなくて、衝突しない車をつくる必要があるわけです。まさにエレクトロニクスの出番です。

 そうした中、最近、トヨタ自動車との共同開発によってできた、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)という非常にエポックメイキングな商品がトヨタ自動車に搭載されました。これは、前の車との車間距離をつねに読むシステムで、前の車が急に減速しても追突を回避してくれます。たとえば携帯電話が鳴って気をとられ、うっかりブレーキを踏み遅れてヒヤッとしたなんてことがあると思いますが、そういうときに有効です。今後の安全の追求は、より予防安全の方向へと進化していくと思われますが、わが社ではこうした開発を一手に引き受けて取り組んでおります。

 二番目のいかに地球を汚さない車であるか、という点では、現在、プリウスのように低燃費で走る車の開発が進んでいます。燃費がよい、ということはすなわち排気ガスが少ないということですからね。もっとも燃焼効率のいい状態をコンピュータが弾き出している、という点では、ここにもエレクトロニクスの制御が大いに働いています。私が入社した当時、車の中に積まれている半導体なんて、ラジオの一部と、交流発電機から直流を取り出すためのダイオードの二つくらいしかありませんでしたが、今や車は半導体の塊といえます。

――半導体の塊となると、どこか回路がおかしくなるとほとんど修理できそうにないですね。壊れてしまった部品はゴミになってしまうように思うのですが……。

原――ええ、リサイクル問題というは、非常に重要な課題です。現在、デンソーでは、製造過程でゴミを出さないという試み、いわゆるゼロエミッションに取り組むと同時に、部品の設計段階からリサイクルしやすい工夫を徹底的にやっています。また、ゼロエミッションに関しては、まったくゴミを出さない一○○パーセント完全なゼロエミッションの工場というのもすでに稼動しています。

 現在、日本における車の台数は七○○○万台、つまり一・九人に一台の割合で普及しています。アメリカでは一・三人に一台くらい。ところが日本をのぞくアジアとなると、三一・八億人に対して七○○○万台の割合です。いずれ、アジアの人たちが日本と同じくらいの割合で車を所有するようになれば、大変な公害問題になるでしょう。そう考えると、まだまだ地球環境に負荷をかけない技術開発をしていく必要がありますね。

――なるほど、自動車産業は日本だけでなく世界を支える大きな産業だけに、その責任も重大ですね。

原――確かに、自動車産業というのは、非常に裾野の広い産業といえます。車一台とっても、鉄鋼、ガラス、半導体、ゴム、といろんな材料の組み合わせによってできていることがわかります。これほどいろんな産業が組み合わさっている商品というのは、他では見当たらないでしょう。しかも、自動車産業は全製造業の一○パーセントの雇用を確保しています。逆にいうと、自動車およびその関連産業が衰退するということは、国力が落ちるということに他なりません。そうした意味では、社会的な責任を背負って発展していかなければならないと思います。

 ただ、わが社の取り組みとしては、安全で、地球環境に負荷をかけない、乗って楽しい車づくりに貢献をしていくという大きな柱は今後も変わらないだろうと思っています。このテーマをより深化させ、より高い次元のものをつくりあげていくことに尽きるでしょう。

 一方で、今後、車社会はインターネットITSの登場で大きく変わると思います。たとえば、車がワイパーを動かしていれば、その車のいる場所に雨が降っていることがわかります。車の場所はカーナビによってわかりますから、その車の情報を情報センターと結ぶことができれば、丸の内の何丁目の交差点で雨が降っているとか、ワイパーが早く動いているか、ゆっくり動いているかで、雨量さえもわかる。すなわち車全体がセンサーになり得るということですね。この技術は天気情報だけでなく、さまざまに応用できるのではないかと思います。まさに車が一つのネイチャーインタフェイサとして機能することになるわけです。

 さらに、VICS(ヴィークル・インフォメーション&コミュニケーション・システム)によって、車と道路の関係がインタラクティブになると、渋滞情報を無線で入手し、自動的に渋滞個所を避けて、最短のルートを自動的に検索する、ということも当たり前になってくるでしょう。 

 一方で、ドライバーのメンタルな部分にもっと焦点をあてていかなければならないとも思います。真に快適で楽しい車づくりを目指すとき、車自身がドライバーのメンタル面のセンシングをおこなうような、センサとしての役割をもつことになるかもしれない。そう考えると、車はまさに人と、そして道路環境(自然)とのインタフェイスそのものとしての役割をはたす重要な機械になってくるでしょうね。

(P58図キャプション)

事故を防止するための、新しいドライビング・サポートシステム

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